新生活
私の、花屋での初日は、「フラワーショップ 浅井」での研修から始まった
三ヶ月間、ここで学んで、正式に「勿忘草」の店員になれるらしい。
みんなココから始まったから…との事で、私も同じ道を進む事になった
変わりに結香さんが、「勿忘草」を手伝う事になった。
伊奈さんと二人っきりか…
ちょっと、羨ましいな。
なんてね、二人が夫婦じゃ無いのなら、私はとりあえず安心。
結香さんと夫婦なら、どうしようもなく、私じゃ勝ち目ないよ…
って、不倫目当て?私、なに考えてんの?
伊奈さんが、結香さんと夫婦なら…諦めるよ。
はぁーっと、大きなため息をついた
「高野さん、どうかしたの?」
「あっ、いえ、何でもありません」
「そう?ふふっ、初日だから緊張してたのかしら?大丈夫?」
「あっ、はい、大丈夫です」
「高野さん、ここはね、緊張はいらないわよ?家族でやってるでしょ?隆世くんも、結香も、みんな、私たちの家族だと思って接してるの、それで、もしも嫌じゃなかったら、高野さんの事、彩ちゃんと呼んで良いかしら?」
「あっ…はい」
「じゃ、よろしくね?彩ちゃん!あっ、私の事はお母さんって呼んで?みんなそう呼ぶから。」
「はい。よろしくお願いします…お母さん」
私は、少し戸惑いを感じたけど、確かにここは、浅井さんと呼べば、四人が振り向く。
私も、どう呼べば良いのか考えていた。
結果、名前を呼ぶしかないと、思っていたけど…お母さんか、なんか、変な感じだけど、悪くは無いかな。
私の最初の仕事は、良美さん…こと、お母さんにくっついて、仕事を覚える事。
他人をお母さんと呼ぶには、少し抵抗はあるものの、お母さんはあんまり気にしてない…といった感じだった。
「見た目は楽に感じる仕事でも、実際やってみると、すごく難しかったりするのよね?私もそうだったわー。お父さんと結婚してね、この店立ち上げた時、お父さんの実家は花屋だったんだけど、私は全く花に興味なくってねー。一から覚えるのに、大変だったわー。」
「彩ちゃん、そこのチューリップなんだけど…」
「彩ちゃん、休憩の時間だから、母ちゃんの話し相手になってくれないか?」
私は一気に浅井家の一員になってしまったように、浅井さん家族に話しかけられ、あっちに返事、こっちに返事を返しているうちに、一日が終わろうとしていた。
あっという間に時間が過ぎ、私はヘロヘロになりながら、帰り支度をしていると、「彩ちゃん」と私を呼ぶ華やかな声が耳に届いた
「あっ、えっと…」
「私よ、お疲れ様、お義母さんにこき使われて、疲れたでしょ?」
「結香さん、お疲れ様です。そんな、こき使われた…なんて、思ってませんよ。とっても楽しかったです。」
「良かったー。気になってたのよ、お義母さん息子一人しかいないから、私が来るまで話し相手いなかったから、つまんなかったんですって、だから、娘が出来たみたいだわーなんて言われて、いっぱい話しかけられなかった?」
「あっ、お母さんと呼んでくれ。って言われました」
「やっぱりね、もう、彩ちゃんが来るって決まった時から、すごかったのよ。名前で呼ぶとか、お母さんと呼ばせるとかもそうなんだけど、娘として接するって言ってて、私に「妹だと思って可愛がってねー」って言ってたんだから。」
「そうなんですか?」
「そうよ、なだめるの大変だったんだから。でも、そういうのが好きな家族って分かってたから、私もそんなに強く、反対しなかったんだけどね。でも、ホント、お疲れ様。私も最初、すごく疲れたのよ。でも楽しかったからね。結婚してよかったって、思ってたの。懐かしいなー。」
結香さんは笑顔で話をしてくれた。
私の初日は忙しく、今日あった事は、今はまだ夢のようだけど、いつかは私も、結香さんみたいに、今日あった事が懐かしいと思える日が来るのかな?