花屋「勿忘草」
私が高校を卒業して、三年と言う月日が過ぎていた。
彼氏と別れ、泣いていた私はもう、過去の自分
今は新しい世界で、新しい一歩を踏み出した
私は二十歳の誕生日を向かえ、今日は街に一人で買い物…
友達がいない訳じゃない、ただ、友達は忙しくてなかなか会えないだけ。
と思いたいけど、正直、卒業前は、別々の道になっても友達でいようね?なんて言ってたけど、実際はホントにバラバラの生活を送ると、予定を合わせる事が出来ず、そのまま忙しくて連絡も出来ないまま、途絶えた。
私は高校の時の友達…というより、職場で出会った人と仲良くしている。
大人になるって寂しい事だらけだな…って考えていた。
二十歳になるまで、職場を何回か変え、今は恥ずかしいけど、私は無職。
友達…というより、会社で仲良かった、同じ年の子と、会社を辞めた今でも続いてるけど、その友達は平日は休みにはならない。
そんなわけで、私は一人街を歩く寂しい人…
私は、一人、懐かしい道を歩いていた
ここは私の通っていた高校へ続く通学路だ。
だからなのか、余計な事を思い出してしまった。
この道、よく大和と一緒に歩いたっけ、朝、何気ない事を話して、帰りは学校であった事を話して…
学校の制服を着たまま、街を歩いて制服デート。
すべてがキラキラ輝いていた毎日
たまにケンカもしたけど、すぐに謝ってきて…
全く…大和のバカ。
ほんと、バカな男…
大和…
「こんにちは、お姉さん、なんか悲しい事でもあった?」
「えっ、あっ、あの!」
私は思い出に浸りすぎて、周りが見えていなかった。
気が付けば、通学路にある花屋の前まで来ていて、花屋で働くお兄さんに話しかけられ、我に返った。
きっと、お兄さんからしたら、間抜けそうな顔してたんだろうな…
「お姉さん、その涙を止める方法知ってる?」
「あっ、これは別に…」
お兄さんは、にっこりと微笑み私を見つめている
当たり前か、いきなり店の前で泣き出したら、誰だってびっくりするか。
そう、私は三年前の過去に、散々泣いたにもかかわらず、今、また昔を思い出して、涙が私の頬を伝ったのだ。
「もしなら、店に寄ってってよ、花屋特製のハーブティーもあるよ」
「いえ、あの、急いでるので…」
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私の目に、その文字が映った瞬間、私は首を傾げた
「花屋…の後、なんて読むんですか?」
「あぁ、“わすれなぐさ”だよ」
「わすれなぐさ…」
「聞いたこと無い花の名前かな?」
「すみません、花には詳しくなくて…」
「大丈夫だよ?そうだな、勿忘草か…。この花の花言葉は、私を忘れないで。この花は、恋人の為に花を摘もうとした青年が河へ落ち、花を恋人に投げて「私を忘れないで」と言った言葉が、そのまま、この花の花言葉になったんだって。僕も本を読んで知ったんだけど、悲しい話だよね。」
“勿忘草、私を忘れないで。”
「私、三年前の失恋思い出しちゃって…へこんでたんです。でも、なんか元気出てきました。あっ、勿忘草って、いつ咲く花なんですか?」
「ちょうど、今の時期だよ。」
そう言われ、私は店内を見渡す…
「ずいぶんと、可愛い店内ですね?」
「ん?そう?」
「はい、なんか、ちょっと、花屋さんのイメージというより、花がいっぱいあるカフェみたい。」
「そうかな?初めて言われたけど…」
「お兄さん、センス良いですね?私、こういう場所好きですよ!」
「ありがとう、気に入ってくれると嬉しいよ。そうだ、ちょうど満開の勿忘草があるんだ、持ってくるよ」
そう言って、お兄さんは満面の笑みを浮かべ、店内に入っていく…
数分もしないうちに、紫の花が咲く鉢植えを手に持ち、お兄さんは戻ってきた
「これが勿忘草だよ」
お兄さんが見せてくれた花は、可愛らしい花が沢山集まっていた
「小さくて可愛らしい花ですね」
私はその愛らしさに、すっかり魅了され、その花が欲しくなった。
「あの、勿忘草…私、買います」
「えっ、あっ、お買い上げですか?分かりました。ちゃんとしたのを用意しますよ?」
私は店内で、勿忘草を育てる注意点などを聞きながら、お兄さんに付いて歩いた。勿忘草を育てるのに必要なものは、お兄さんが揃えてくれた。
さすがに無職には、お金の心配もあったけど、お財布に余分に入っていた事もあり、私は勿忘草と鉢などを買って、その日は帰路についた…
その日、自宅についた後、早速、勿忘草の手入れをすると、私は、お兄さんと店内の様子を思い出していた
あの店内は、人を幸福にする力がある。
そのくらい、素敵な店内だった
そして、なにより、お兄さんの人柄こそ、幸せいっぱいで、素敵なお兄さんだった。
私はいつの間にか、その文字を思い出しては、一人ニヤリと笑ってしまった…
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