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夢解 2  作者:
8/16

どうせここで・・・

 その日、淑の事務所に珍しい客が来ていた。

「久しぶりだな、群青」

「お元気そうで何よりです。淑さま、ミウミさま」

 美男子の群青の登場に、ミウミの目は輝いていた。

 今日の紅茶がやけに美味いのは、群青が来てくれたお陰だ。

「群青さんが来るって分かってたら、美味しいケーキを買っておいたのに・・」

 沈むミウミ。

 別に群青が来なくても、ケーキくらい買っておいてほしいものだ。

「お気遣いなく。それにしてもミウミさん、また一段と綺麗になりましたね」

 群青の悩殺スマイルが、ミウミの心臓辺りにヒットする。

「い、嫌だ!!何言ってるんですか、群青さん!!!」

 淑の呆れ果てた表情に、ミウミは気づきそうもない。

「で?用は何だよ?」

 空気が変わる。

「実は、このナイフの件で伺いました」

 取り出したのは、黒いダイヤが刻まれたナイフ。

 群青は、今回の出来事を話し出した。



「なるほどな、そいつぁ十中八九、烏関係の仕業だな」

「烏本人の仕業の可能性は?」

 淑は首を振った。

「それはない。烏が使う凶器には、黒のハートが刻まれている」

 仲間がいる可能性があることは、夢解の調べでも予想されていたが、実際にいると分かるとため息が漏れる。

「ところで、お前の主はどうした?」

「主は、今回のことでかなり落ち込んでおられると思うので、このことは内密に・・」

 淑が苦笑する。

「お前さ、早いとこ夢職になれよ。いつまでアイツのパートナーやってるつもりだよ。オファーは来てるんだろ?」

 群青の曖昧な返事に、少々腹が立つ。

「俺には、群青の考えがよく分からねぇよ」

 ずっと一人だった淑に、ずっと一緒の二人の気持ちは理解しがたいものだ。

「ミウミさんは、夢職になられるご予定はないんですか?」

「こいつはまだヒヨっこだから、無理だよ」

 ミウミが答える前に、あっさりと淑が払いのけてしまった。 

 彼女の殺気が増す。

「淑さま・・このナイフ、私が預かっていてもよろしいでしょうか?」

「あぁ。芥川の野郎よりお前の方がいい。が、気をつけろよ、狙われている可能性がある」

 群青は深く頷いた。

「心得ております」

「俺も、野辺の野郎のところに行って、色々聞いてくる。また情報入れるから、待っててくれよな」

「承知いたしました」

 話がまとまり、やっと一息入れようとした瞬間、事務所のドアが思い切り開いた。

「愛しのミウミちゃん!!!」

 飛び込んできたのは、なぜかタキシード姿の芥川。

 一同、目が点になる。

「会いたかったよ!僕のマドンナ!!!」

 ・・・落ち込んでるんじゃなかったのかよ!!!

「さぁ、愛がこもった花束を、どうか受け取ってください!!」

 愛じゃなくて、執念がこもってるよ。確実に。

「は・・はぁ・・」

 絶句のミウミが、一応バラの花束を受け取る。

「そんなもん受け取ったら、バカが移るぞ!」

 淑の冷めた声にもめげず、芥川の目は輝きを増す。

「ミウミちゃん、僕はキミの気持ちが知りたいんだ!僕と、結婚してくれますか?」

「無理です」一刀両断。

「じゃ、せめて恋人に・・」

「無理です」間髪入れず・・

 こんな主じゃ、群青がパートナーから解放されるのは、程遠い。

 自分のパートナーが、音も立てずに消えたことに、肝心の主は気づいてないようだった。



 やれやれ、主の登場には参った。神出鬼没とは、彼のような人のことを言うのだな・・

 群青は凶器のナイフを見つめる。

 旦那さまは死ぬ間際、主のことを頼むと私に言ってきた。そして私は、主を一生お守りすると誓った。だから、この件に主を巻き込み、危険な目に遭わせるわけにはいかない。

 主にもしものことがあったら、私は旦那さまに顔向けできない。

 邪悪に光るナイフの刃。まるで持ち主に、自分の居場所を教えているようだ。

 その時だった。背後から、まがまがしい殺気が襲ってきた。

「誰ですか!!」

 暗闇に、群青の声が響く。

 殺気は徐々に近づいてくる。

「みぃつけた・・」

 そこに現れたのは、黒いワンピースを着た、小学生くらいの女の子。

「・・このナイフを探しに?」

「えぇ。返してくれない?ソレ、あたしのなの」

 声の抑揚が全くない喋り方。まるで、血の通っていないアンドロイドのようだ。

「黙って返すわけにはいきません。コレは、いろんなことを知る手がかりになりますからね?」

「何が知りたいわけ?」

 少女が一歩近づくと、群青は一歩引く。

「烏の仲間ですか?」

 少女は頷いた。

「奴は今どこに?」

「ねぇ、そんなこと知ってどうするの?」

 少女はにんまりと笑った。

「どうせここで死ぬのに・・・」

 周りの景色が一気に変わる。見たこともない、殺伐とした地に、群青は立っていた。

   

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