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夢解 2  作者:
6/16

動けなかった夢職

 久々の仕事だった。やる気はあったし、自信もあった。けれども、予想だにしなかった展開に、芥川の気持ちは揺れ動いていた。



「よく切れるよ。ホラッ」

 まどかが自分の指にナイフをあてると、彼女の指から真っ赤な血が滴り落ちた。

「そのナイフ、どっから手に入れた?!」

「だからぁ神様がくれたんだってぇ!」

 神様・・違う。あの模様に、見覚えがある。

 夢の中で使用可能な武器を作れるのは、ヤツしかいない・・。

「敦、こっちに来てよ・・また、まどかの元に戻ってきて。お願いだから」

 彼女の瞳が潤みだす。

「い、嫌だよ・・誰が行くかよ・・」

 敦の目は、完全にまどかに怯えていた。

「敦・・」

「そうだよ。こいつはな、お前のことストーカーって言ってビビッてんだよ。もう一度好きになってもらえると、本当に思ってんのか?」

 言いすぎです・・群青の目が、芥川に訴える。

「敦の目に映るお前は、もうストーカーでしかないんだよ!」

「主!」

「何だよ群青?本当のことだろ?!」

「敦は好きって言ってくれた!!!!」

 流れ落ちる涙。震える体。

「なぁ・・何で敦にこだわるんだよ。自分のこと、こんなに恐がっている奴のことなんて忘れて、もっとお前自身を好きになってくれる奴を探せよ。僕は、あんたが哀れでなんないよ」

 まどかは首を振った。

「友達もいないまどかに、初めて声を掛けてくれたのは敦だったの。その時、運命の人だって思った。まどかにとって、そんな人は二度と現れない・・だから取り戻したいの」

 流れた血が、暗闇の世界に飲み込まれる。

 そうかこの闇は、まどかがいた暗闇なんだ。自分がいた闇を、敦にも分かってもらいたかったんだ。

「まどかさん、きっといますよ。大丈夫。人は、星の数ほどいるんですから」

 群青の笑顔に、まどかのナイフを握る力が緩む。

「そんなもん捨てな。僕なんかね、何年彼女がいないと思ってんの!!一度もいないわけ!悲しすぎるぜ?」

 ・・主・・・

「だから大丈夫だって!」

 主・・悲しすぎますし、理由になってません。

「・・まどかは・・」

 本当に捨てていいのか?あんなに手に入れたかったものが、目の前にある。なのに、それをみすみす逃していいのか・・?

 そうだ・・敦が好きなんだ。

「駄目。やっぱり駄目!来てくれないなら死ぬわ!!」

 ナイフの先が、まどかの喉に向く。

「バカ野郎!!!」

「ねぇ夢職さん、夢で死んだらどうなるの?」

 引きつったまどかの目が、芥川を見る。

 あのナイフは、夢で使用可能なもの・・現実にいるまどかは・・。

「お前、本当に死ぬぞ」

「どっちみち、敦が戻ってきてくれないなら・・・まどか生きてる意味ないし」

「主!何してるんですか!早く、ナイフを取り上げて!」

 生きてる意味がない・・僕も、そう思ってた。誰からも必要とされなくて、むしろ生まれてきたことを後悔されていた。

 意味がない人生を、歩むほどバカじゃない。だから、死ぬことも考えた。

 けれども、この世界に入って初めて言われた言葉・・

『キミがいてくれて本当によかった・・』

 そう言われた瞬間、救われたんだ。

 生きている意味がないなんてこと、絶対にないんだ。

「来ないで!」

 芥川が動こうとした時、まどかはナイフを自分に突きつけた。

「夢職さん・・もう少し、早く会いたかったなぁ・・」

 駄目だ・・そんなことしちゃ!

「主!」

 動け体!動け自分!!

 救わなければいけない・・僕は夢職だ。




 薄暗い空の隙間から、冷たい雨が降ってきた。それはまるで、まどかの涙だ。

「主・・」

 振り返ると、沈んだ表情の群青が立っていた。

「まどかは?」

 助けることが出来なかったまどか・・

「駄目でした・・」

 重たい言葉が、芥川をひざまずかせた。

「・・クソォ・・・」

 動けなかった。一瞬、救えなかったらどうなるのか考えてしまった。自分にまどかが救えるのか、迷いがあったんだ。それが動きを遅らせた。

 ナイフが刺さったまどかが、今も脳裏に焼きついている。

「くそ・・くそ!くそぉ!!!僕は、僕は・・」

 頭を抱え込んだ。

「主・・」

 そんな芥川を、群青の優しい手が包んだ。

「僕は、自惚れていたんだ、この力に。救えないものなんて、何もないって思ってた・・自惚れていたんだ」

 自分に、できないわけないと・・

「主、やり直しましょう。この経験を忘れずに、また歩きましょう・・二度と、まどかさんのような方を出さないと誓いましょう」

「あぁ・・」

 流れる涙・・群青の温かさ・・そうだ、僕は生きている。生きている限り、進まなければいけない・・。

 まどかのことを胸に刻んで。

「群青・・今なら、淑の気持ちが分かるよ・・」

「・・えぇ」


 淑、お前は、こんな重たい後悔を、もう何年も背負って生きていたんだな。

 それでも前を向いて、ずっと歩いていたんだな。

 僕も、歩み続けるよ・・・。 

    

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