紅まどか
翌日の午後、喫茶店に現れたのはダボダボのセーターを着た女子高生、それが、紅まどかだった。彼女の美貌と容姿に、芥川はすっかり釘付け。すっきりとした目鼻立ちに、透き通るような白い肌。潤った唇が、男心をくすぐる。
・・芥川だけかもしれないが。
「初めまして」
彼女の態度は、堂々としたものだった。それに、何故自分が呼び出されたのかも、悟っている様子だ。
「お忙しいところ、お呼びたてしてすみません」
群青の丁寧な態度を見て、彼女は鼻で笑った。
「大丈夫。いつも暇だから」
手鏡で、身だしなみをチェックするまどか。完璧な姿に、一体どこをチェックする必要があるというのだろうか・・。
「ねぇ、夢解って本当に人の夢に入れるの?」
まどかが身を乗り出す。
「まぁ・・一応」二人とも、答え方が曖昧だ。
「まぢで?!凄いんだけどっ!超面白そう!」
そんなに笑顔になれるほど、この仕事は楽しくはない。
「で、まどかに何か聞きたいことでも?」
彼女は頼んだジンジャエールを一口飲むと、本題に入った。
この目に、群青はつけ入るスキがないと感じた。
「スリーサイズいくつ?」
群青の殺気が、くだらない質問をした芥川に向く。
「・・・じゃなくてぇ、あのさ、真鍋敦の奴が、あんたからストーカーされてるって言ってたんだけど」
随分、単刀直入に聞く人だと、まどかとそして群青も思った。
「ストーカー?!あたしが?まさかっ!」
目を丸くするまどか。
「そりゃ、別れて間もない頃は、メールとか電話はしてたけど・・今は全くしてないわ」
キッパリとした口調と、意外な返答は、芥川と群青を動揺させた。
「本当、してないの?」
「しつこいわねぇ!してないわよ!」
この目に、嘘はないと思う。
「敦くんのことは、キッパリ忘れたってことですか?」群青の問いに、彼女は目を逸らした。
「・・忘れてない。って言うか、今も好き」
沈黙する。
「モテないわけじゃないけど、自分から人を好きになったのは彼が初めてだったから・・」
まどかは少し笑った。
「凄く優しい人で、まどかのこといつも考えてくれる人なの・・けど、気づいちゃったの、その優しさを彼は、みんなに振りまいてるんだって。他の女にもね」
まどかの目が、虚ろになる。
「独り占めしたかったの。だって彼は、まどかのものだったから・・勇気出して告白した、まどかのもの。ま、その思いが強くなればなるほど、彼は遠ざかっていったけど・・」
芥川の目に映るまどかは、純粋に人を好きになった女の子だった。この子の想いを、ストーカーの一言で片付けようとした自分が、許せなかった。
「自業自得みたい、別れを言われたのは・・こういう女は、重いって忌み嫌われるのよ」
彼女が立ち上がる。
「とにかく、まどかは一切ストーカー行為はしてませんのでっ!じゃね」
颯爽と歩き去るまどかを、二人は止めることができなかった。
人は何故、誰かの優しさを独り占めしたくなるのだろう。自分だけに与えてほしくて、力ずくでも手に入れたくなる。
キミの優しさは、自分だけのものだと・・・