親バカ
警察署と聞いて、大きな建物だと信じて疑わなかった芥川は着いた瞬間、帰りたくなっていた。
これは警察署ではなく、駐在所である。
「ねぇね、群青・・群青は知ってた?」
「はい。と言いますか、私にとって警察署とは、小さい頃からここですよ」
群青が本当に秀才なのか、疑った。
「まぁいいや。警察には変わりないし」
やや不満を残しながらも、芥川は駐在所に入って行った。
「すみません、夢職の芥川と申しますが・・」
「あ!夢解の方ですか!?いやいや、わざわざ来てもらって光栄です!」
出てきたのは、申し訳ないが警察と呼ぶには程遠い、中年太りの男だ。
こんな体格じゃ、痴漢一人まともに逮捕できないだろう。
「どうぞ、どうぞ!」
真鍋という名のお巡りが、二人にお茶を出す。ただそれだけなのに、彼の額はすでに汗が密集している。
「いやいや、夢解というところは噂に聞いていたんですが、本当にあるんですね!感激感激!」
何故、二度繰り返す?
「あの、早速ですが依頼内容を詳しく聞かせてもらえますか?」
「はいはい!あのですね、実は息子のことなんですよ」
息子?!
随分、規模の小さい依頼に、芥川の顔が引きつった。
「うちの息子、敦って言うんですけどね、これが頭がよくて優しい奴でしてねぇ・・誰に似たんだろうって、いつも妻と話してるんですよ!」
・・聞いてねぇよ!
延々続く真鍋の息子自慢に、子どもの芥川は飽き飽きしたのか、そっぽを向いていた。
真面目な群青は、引きつりながらも笑顔で相づちを打っているのに・・。
「そんな敦が、最近ストーカーされてるんですよ!ストーカー!」
芥川の視線が、群青に訴えかける。
─もう、帰っていい?─
「警察の私としましても、放っておくわけにはいかないんですが・・敦が言うには夢にまで出てくるらしくて、悩んでいるんですよ!可哀相に・・」
真鍋は汗を拭った。
しかし肝心の芥川は、またも視線で群青に訴えかける。
─断っていいかな?この依頼・・─
群青は咳払いした。
「あの、ストーカーに心当たりあるんですか?」
「ありますとも、ありますとも!」
だから、何故二度言う?!
「前の彼女です。モトカノ、モトカノッ!」
真鍋は眉をひそめた。
「敦はちゃんと別れたって言ってるんですけど、どうも相手は納得していないようでして・・女ってやつぁ、恐いですからねぇ」
その顔と容姿で、女を語ってほしくない。
「では、息子さんを夢から解放すのが・・今回の依頼でよろしいんですか?」
「お願いします」真鍋は深く頭を下げた。
群青が、分かりましたと承諾し芥川を横目で見ると、爆睡していた。
「主!本当にやる気あるんですか?!」
珍しく、群青は顔を赤くして怒っている。
「だってぇ!親バカお巡りの話し、つまんないんだもん!」
こいつは・・精神年齢五歳だな!
「お言葉ですが主、最近じゃ烏の連中も動き出していると噂されています。生半可な覚悟で夢に入るなら、私は維持でも止めますよ!」
明後日の方向く、芥川。
「主!!」
「分かってるよ!ちゃんとやるから、そんな怒るなよぉ!!」
不安が拭えないのか、群青の目つきは変わらない。
「よぉし!まずは自慢の息子とやらに、会いに行きましょうか!」
芥川の笑顔を見ても、群青は笑えなかった。
生半可な覚悟で夢に入るつもりはない。ただ、敦とやらが羨ましかったんだ。あんなに息子自慢してくれる親父がいる敦が・・。