終結
「芥川!!」
「おぉ!氷壁!!」
二人が再会したのは、階段の踊り場。お互いボロボロの姿に、思わず笑みが零れた。
「お前、ボロボロじゃん」
淑が苦笑する。
「お前が言うな」
芥川も笑った。
無事で何より。二人の目はそう言っていた。
「じゃ、本命倒しに行くか?」芥川が上の階を見つめた。
「あぁ・・早いとこ倒して、ゆっくり眠りたいよ」
二人が階段を進んだ。
廊下に出ると、そこは真っ暗闇。けれど二人を呼ぶ、殺気が漂っている。
「この部屋だな・・」
芥川がドアノブに手をかける。
「狩る気満々ってオーラが、流れ出してるぜ」
二人は呼吸を合わせて、扉を開いた。
そこにいた、ソファーに腰掛ける二人組み・・
「烏・・・」
呟いた淑の声は、震えていた。
「やぁ、ご苦労様。ここまで大変だったでしょ?」
あくまで笑う烏に、二人の目つきが変わった。
「こいつ・・よくもしゃあしゃあと・・」
前に出ようとする芥川を、淑が止めた。
「むやみに動くな。どこに罠があるかわかんねぇんだからな!」
「罠?!バカにしないでよ。俺がそんなセコイことすると思う?」
鋭い目つきが、淑を捕らえる。
「さぁてと・・弔い合戦もここで終わりかな?」
立ち上がる烏に、二人は間合いを取る。不気味な空気に、冷や汗が流れた。
「二人ともさぁ〜何で夢職なんてやってんの?国に魂売って、楽しい?それより自由に行動した方がずっと楽しくない?」
戦闘態勢になる芥川を見て、烏は笑った。
「無駄無駄・・はっきり言って、君なんて眼中にないから。俺の目的は、淑だけ・・」
「っんだと!!」
怒りに身を任せた芥川が飛び出す。
「バカ!!!」淑の声は、届かない。
「無駄って言ってんじゃん・・」
芥川の拳を軽くよけ、逆にその腕を掴み取る。
物凄い音がした。
「ぐわぁぁぁ!!!!」
折れた。
「ねぇ淑。こんな奴と行動するくらいならさぁ〜俺のところに戻っておいでよ?また二人で、楽しくやろうよ」
「俺はお前を殺しに来たんだ」
烏はため息をつく。
「俺がこれほどまでに誘っているのに、君は冷たい態度のまま・・やっぱり、国に洗脳されちゃった人間は、つまらないね・・」
後ろにいた男が、烏の隣に立った。
「楼・・君の力を借りるよ」
「・・あぁ」
そう言うと、烏は両手を合わせる。その瞬間、物凄いエネルギーが楼から放出された。
「淑、君は俺には勝てない・・」
楼の姿は消え、代わりに烏の顔や腕を放出されたエネルギーが包み込む。
「そうか・・そいつは、お前が作り出した人間か・・」
「その通り。ま、君たちが倒した二人は違うけど・・楼だけは、俺が俺の為に、俺の力で作り出した人間。いつでも俺の力に戻る」
この空気・・立っているだけでも逃げたくなる。
「俺だけのものになってくれる人間が、欲しかったんだよ・・淑の代わりにね・・」
「悲しい人間だな、烏・・」
「俺を哀れむってか?・・ふざけるな!!!」
烏の拳が、淑の右頬にヒットした。そのスピードに、体がついていかない。
吹っ飛ばされた淑は、壁に激突する。
「っつ・・・」
頬だけ殴られたのに、全身に激痛が走る。なんて、力だ・・
「俺は、俺の力は、完璧だ!誰も俺に楯突くことなんてできない!いずれは国でさえ、俺に跪く!淑、お前もな!!」
烏の手を、紫色の炎が包み込む。
「淑、俺と組もう。また夢解の連中をビビらせてやろうぜ?」
差し出された手・・
「・・・組むわけねぇだろ・・」
ふらつきながら、淑が立ち上がった。
「お前は、俺の大切な人を殺した。あの日から、俺はお前を殺すことだけを考えて生きてきた・・烏、お前と俺が組むことは絶対にない・・」
烏の瞳孔が開く。
「・・そうか・・じゃ、死ね・・俺のものにならないものなんて、死んでしまえばいい!!」
烏が飛び出した。
迎え撃つ淑。
「終わりだよ!!」
烏の拳が、淑の体を破壊する。その手ごたえに、ニヤついた。
「さよなら、淑・・残念だよ・・」
しかし、ニヤついていたのは淑も一緒。
「何だ・・」
周りの景色が一変する。暗闇は一瞬で真っ白に変わり、強い光りが烏を襲った。
「まさか、貴様・・」
烏が目を伏せる。
「お前の負けだよ。俺がここに来た瞬間から、お前は俺の夢の中にいた・・」
「一体、いつ・・」
「こうなったら俺の勝ちだ。俺にばっか気をとられていたお前が、俺の仕掛けた罠に気づくことはんかった・・」
罠・・
「ククク・・罠ねぇ・・セコイ奴だ」
「お前を殺すためなら、手段なんか選らばねーよ」
烏の体を、淑の針金が縛る。
「・・淑・・俺を殺すんだな?」
「・・お前になんか、出会わなきゃよかったよ・・」
淑が針金を引っ張った時、烏の体は裂け、血を吹き出した。
「さよ・・なら・・・・しゅ・・く・・」
最期まで笑った烏。
その烏を見つめる淑の目は、冷たい色をしていた・・。