表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢解 2  作者:
14/16

誰かの為に・・

 現れた少女はリリー。しかし、彼女のことを知らない芥川の目は点になった。

「えぇっと・・・こんにちわ」

「こんにちわ」

 リリーは少しだけスカートを持ち上げ、膝を曲げた。

 礼儀正しい子どもは好きだ。芥川は笑顔になった。

「もしかして、ここで遊んでいた子かな?迷子になっちゃった?」

「・・そうでもない」

 リリーは首を傾げる。

「もう暗いからさぁ、お家に帰った方がいいと思うよ。お母さん心配するでしょ?」

「お母さんって何?」

 その問いに、言葉が詰まった。なんて言えばいいのだろう・・

「お母さんって・・だからぁ・・自分を生んでくれた人」

 しどろもどろの芥川。

「それなら死んだ」

 淡々としたリリーに、年上の芥川が引いてしまう。

「・・あぁ、そう」

 何て言ったらいいのか分からない芥川は、この居ずらい空気を変えようと必死だったが、こんな廃墟には明るい話題になりそうなものはないだろう。

 その時だった、リリーは両手を広げた。

「闇の世界へ、ようこそ・・」

 目の前に広がる世界が、真っ白になった。上下左右、色がないため、思わず立ち眩みがした。

「何だこりゃ・・」

「あたしの世界」

 リリーはニッコリと笑う。

 状況を把握できていない芥川にも、この子が相当ヤバい子だということは分かる。この子から漂う殺気は、普通の子どもではない。

「あんたを痛めつける・・ナイフが必要だね」

 笑ったリリーの手の中に、真っ黒なナイフが姿を出す。

「完全なSだね、君」芥川も思わず苦笑いした。

「楽しませてよ?あたし、つまんない戦い方する人間が一番嫌いなんだから」 

 ナイフが、不気味に光った。

「おぉ恐い。じゃ、僕もやられないように気をつけないと・・」

 芥川の手の中から現れたのは、アイスピックだ。

「何それ?」眉間にシワを寄せるリリー

「氷とかを砕く、アイスピックだよ!知らないの?」

 首を縦に振った。

「じゃ、これが刺さったらどれだけ痛いか、教えてあげるよ」

「・・あんたもSじゃん」

 二人が同時に、地面を蹴った。



 ナイフで傷つけられた皮膚から、止めどなく流れる血。あまりの多さに、痛みはない。芥川は一番傷が深い右腕に、破いたシャツで止血した。

「アイスピックって、痛いんだね」

 リリーの体も、血だらけだ。

 二人の地面は真っ赤。

「お互い、こんなところで戦ってないで、早いとこ病院に直行した方がいいと思わない?」

 苦笑する芥川。

「病院って、何?」淡々としたその口調で、リリーが返す。

「・・君の知識って、レベル低すぎでしょ」

 リリーの目は、知識って何?と言っていた。

「あんた死ぬよ」

「君も死ぬでしょ?」

 二人の攻防は続く。

 リリーのナイフが芥川の頬を切れば、芥川のアイスピックがリリーの右腕を突き刺した。リリーは、自分に怯むことなく向かってくる芥川の動きを見て、数日前の戦いに似たものを感じていた。

「あんたの片割れって、あんたに似てるんだね?それとも、あんたが片割れに似たのかな?」

「片割れ?」動きを止める芥川。

「うん。前に、あんたの片割れと戦ったの。結構面白い奴だったよ・・」

 ・・・・群青。

 芥川の中にあった様々な破片が、リリーの言葉によって一つになる。

 こいつが、群青を傷つけた。

「テメェか・・テメェが群青を!!!!」

「あれ?スイッチ入っちゃった?」

 殺気が増した芥川からは、これまでの力とは全く違うものを感じる。それが何なのか、リリーには分からない。

「まぢ、殺す。群青の仇は、俺が討つ」

「流行んないよ、そういうの」

 リリーのナイフは、その形状を変え、長い釜になった。

「もう飽きてきたから、あんたとの戦いはおしまいにする。とっとと死にな」

 走り出したリリー。動かない芥川。

 これで、本当におしまい・・・


「なっ!!!」

 リリーが振り上げた大きな鋭い釜は、芥川の頭上で全く動かなくなった。釜を止めたのは、群青が振り上げた、たった一本の細いアイスピック。

「バカな!こんなもので・・」

 リリーの目が血走る。

「お前の言った通り・・スイッチ入ったんだよ」

 ゆっくりと顔を起こす芥川に、リリーは生まれて初めての恐怖を感じた。

 彼の周りに流れる空気に、そのオーラに、彼の存在に・・

「貴様・・」

 うろたえたリリーは、思わず後ろに引き下がった。

 この男を強くしたもの・・それは何?

「あんたがあたしを倒すことは絶対にない!だってあんたがいるのは、あんたの夢の中だもの!あたしはね、他人の夢に入れるのよ!!!この夢壊せば、あんただってあの片割れのように再起不能になるわ!!」

 釜の歯を、リリーは地面に振り落とそうとした・・が、しかし・・

「予想外の展開に、体がスキだらけだぜ?お譲ちゃん」

 突風のごとくリリーの前に移動しが芥川が、アイスピックで彼女の心臓を突き抜いた。

「バカな・・」

 負けるわけがない。自分は、自分が負けるなんて絶対にありえない。

 この力は無敵で、完璧で・・

「嫌だ・・」

 リリーが真っ白な地面に倒れた。

 彼女の血は、その地面を赤に染めていく。冷たい血、心が通っていない血だ。

「誰かの為なら、人って強くなんだぜ?」

 芥川はアイスピックを消し、リリーの釜を蹴飛ばした。

「・・・流行んないわよ・・・そういうの・・」

 リリーはゆっくりと目を閉じ、静かにその鼓動を止めた。

 二人がいた真っ白な世界には、鏡が割れたように亀裂が入り、そこは廃墟へと元に戻る。

 小さな少女は、その姿を徐々に消していった。


    

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ