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夢解 2  作者:
13/16

駒か、仲間か

「案外、やるね。あんた」

 聡明の額に、汗が見える。誰かと対峙して、彼が汗を流すなんてことは初めてだろう。

「お前、何で烏の仲間になった?」

「気になる?もしかして、少なからずジェラシーとか感じとる?」

 この、べたつくような笑い方がムカつく。

「俺が?何で?」

 あっさり交わされたことで、聡明の笑みは消えた。

「あんたってスッゲー冷めたい野郎やな・・絶対、友達になれんわ」

 一息つくかのごとく、聡明は煙草に火を点けた。煙草から目を離すと、淑の冷たい視線と目が合った

「俺な、殺されかけてたんや。そんとき、烏が俺の前に現れた・・そんで、俺を殺そうとしとった奴を、逆に殺してくれたんや」

 灰が、ゆっくりと地面に落下する。

「殺されかけてたって、お前、誰かに狙われてたのか?」

 淑の質問を、聡明は笑い飛ばした。

「狙われていたかねぇ・・せやな、もしかしたら、生まれたときから狙われとったのかもしれんなぁ」

 聡明の話が見えない淑は、眉間にシワを寄せた。

「母親や・・俺を殺そうとしとったのは・・」

 闇が、その一言で冷たさを増した。聡明の青い瞳に、その言葉に少しばかり動揺する淑が映っていた。

「優しい女やったんやで?俺も大好きやった・・けどな、母親は機会を伺っとったのかもしれん」

 烏は上手い。憎しみに蝕まれる心を持つ者を、見つけ出すのが。

 聡明は煙草を地面に踏みつけ、薄らと笑みを浮かべた。

「烏な、俺にこう言ったんや・・」

─君は、俺にとって必要な人なんです。死なれては困ります・・一緒に来ますか?─

 躊躇することはなかった。どっちみち、こんな世界に用はなかったし、幸せな人間を壊してやりたいとさえ思った。

 自分だけがこんな目に遭うなんて、おかしいんだ・・

 そんな考えが心を黒に染め、聡明は生まれ変わった。他人の幸せを、この手で壊してやると胸に秘め。

「俺にはな、烏は必要なんや。だから、あいつが俺を必要としているときは、どんなことしても行ってやるぜ?それが、仲間ってもんやろ?」

「烏の誘惑に勝てなかっただけだろ?」

「誘惑?」 

 聡明の目つきが鋭くなる。

「烏はお前のこと、仲間なんて思ってないぜ。ただ、使えそうな駒を見つけたから遊んでるだけだ。俺もそうだったから分かる。俺も、烏に遊ばれていた駒にすぎなかったんだ」

「あんたと一緒にするなよ・・裏切り者」

 聡明の青い瞳が、憎しみの光を帯びて、殺気は前以上に鋭さを増していた。

「俺は駒やない・・仲間や」

「いや、駒だね」

 聡明が地面を蹴った。

 淑の首を掴み、軽々と彼を持ち上げる。右手の爪は長く尖り、喉ぼとけに向いた。

「今、謝罪するなら、もっと楽な死に方にしてやるけど?」

「・・ご免・・だね」

「そうか、じゃ、痛みに苦しみ、死んじまいな」

 右手を引き、思いきり力を込めた爪が飛んでくる。

 痛そうだな・・こんな境遇に立たされているのに、淑は冷静な目で飛んでくる爪を見ていた。

 あぁ、こいつの目って、俺の昔の目じゃん・・。

 烏しか周りにいなくて、全て烏中心に物事が動いていた。あの頃の、俺だ・・。

「な・・に・・?」突然、聡明の右手が止まった。

 喉ぼとけスレスレ・・。

「元から・・お、まえ・・は、ゲーム・・オーバーなんだよ!」淑の蹴りが、聡明の下あごに直撃した。

「グハッ!!」

 聡明から解放される淑。少し咳払いして、痛みによろける彼を見つめた。

「俺は先手をうってある。このゲームの勝負はついてる」

「何や?!!」

 怒りにキレる聡明が、初めて自分の体を見つめた。

 糸だ・・いや、冷たい・・これは・・

「針金みたいなもん」

 淑を見つめる。

「俺の右腕に、いっつも巻きついてんの。現実世界で対決するとき用にね・・少し力を加えれば、俺の言うとおりに動くようになってる」

「俺にはそないなもん、見えんかった!」

「そりゃそうだよ・・だってお前、俺しか見てないじゃん」

 戦闘シーンを一から思い出す聡明。確かにそうだ。烏のお気に入りのこいつを殺したいために、俺は自分の体なんて気にせず、こいつに向かってばかりいた。

 こいつが怯んだもの、俺に何度もスキを見せたのも、全てはこいつの計画。この針金を、俺に気づかれないようにするため・・。

「針金は、一度相手の体に刺されば、後は俺の力の入れ具合で相手を縛る。あんたに見つかんないようにするために、今まで微量な力を注いでいただけだけど・・こうなったらこっちのもん」

 冷たい針金が、聡明の体に食い込む。

「うわぁぁぁ!!」

 痛みに、思わず声を上げる。

「痛いでしょ?俺も、想像しただけで痛いって思うもん」

 この勝負、冷静な淑の勝ちだ・・。

「いいさ・・・俺は・・どないになっても・・・烏のために死ねるんやった・・らな・・」

 哀れな奴・・。

 針金が、聡明の肉を切り、骨まで砕いた瞬間、彼は壊れた玩具のように地面に倒れた。

 だが実際は、彼の体には、何も巻きついていない。

 そう、全ては淑が聡明に見せた幻覚。夢だ。聡明が煙草に火を点け、目が合ったとき、淑は彼に夢を見せた。淑の力は、一瞬で相手を夢の世界にいざなうことができるのだ。しかし、たとえ夢でも、リアルな幻覚に痛みも感じれば、人を死に追いやることもできる・・。

 恐ろしい力なんだ。

 烏による犠牲者を、じっと見つめる。

「生まれ変わったら・・今度はお前のことを本当に大切に思う奴と、仲間になれよ・・」

 冷たくなっていく聡明に手を合わせ、淑が立ち上がった。


 さて、今度は芥川を助けに行かないと・・。

  

 

 

 

 

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