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夢解 2  作者:
12/16

奈緒へ・・

「初めまして!杉奈緒すぎなおです」

 アイツは、物凄い明るい奴だった。初めて会ったときから、太陽のように眩しい笑顔を絶やしたことはない。

 俺には奈緒は、眩しすぎる奴だった。

「氷壁・・淑さん・・なんか、凄い名前ですね!」

「は?」

 十三歳の若さで夢職になった日、野辺の野郎は俺に四つも年上のパートナーを紹介した。それが、奈緒。しっかり者で、要領がよくて、俺の尖った心の中にも平気で入ってくる。

 今思えば、奈緒は強い奴だったんだ。力とかじゃなくて、揺るがない信念を持っていた。

「だって、こんな漢字だったら、テストのときとか苦労するでしょ?あたしだったら、自分の名前漢字で書くのでいっぱいになりそう」

「バカバカしい・・」

 俺は、奈緒のテンションに合わせることはなかった。いつも冷たい目で、彼女をあしらっていた。

 それでも奈緒は、いつもハイテンション。一人で喋りまくって、一人で笑いまくって、何でも真っすぐに向かってくる。俺には真似できない。奈緒は、俺にないものを沢山持っていた。

 正確には、俺と、烏にはないものだ・・



「死んでもいいなんて、簡単に言うな!!!!」

 奈緒が俺を殴ったのは、俺が仕事で無茶したときだ。

 力を使いすぎて、意識が飛んだ。そんな俺を、奈緒は救った。けど俺は、大きなお世話だと言った。誰かに助けを求めるなんてご免だった。

「死んだって構わない・・」

 そう呟いた俺に、奈緒は怒鳴った。

「あんたに救いを求めている人間が、どれだけいると思ってんの?!あんたは、必要とされている人間なの!!!」

 必要とされている・・・

 こんな俺が?

「それにあたしだって、淑さんが死んだら嫌です!!」

 奈緒は、俺を強く抱きしめた。そのぬくもりは、今まで感じたことがないくらい温かくて、俺の尖った心を、いとも簡単に砕いた。

 初めてだった。こんなに真剣な目を向けられたのは・・。 

 真剣だった。そう、奈緒はいつも俺と真剣に向き合っていた。だから俺は最初、その目を直視することができなかったんだ。何かを見透かされているようで、陰の部分まで俺を見ているようだった。

 恐かったけど、奈緒になら俺自身をさらけ出せると思った。

 けれども、別れは早かった。いや、俺のせいだったんだ。

 全ては、俺のせい・・。

 

 

 奈緒は勝手に動いたんだ。上司である俺に無断で。俺がそれに気がついて、駆けつけたときは、もう手遅れだった。

 奈緒の前には、手を血で染めた烏が立っていた。

 目の前が真っ暗になり、何があったのか理解できなかった。ここに倒れているのは、俺のパートナーなのに、一瞬、恐怖で怯んでいた。

「大丈夫ですよ・・・」

 怯える俺に、奈緒は笑顔だった。信じられなかった、こんな目に遭ったのに、笑っていたんだ。

 強い奴・・

「そいつが悪いんだ・・」

 烏がそう呟いた。

 俺の目に映った烏は、何かに怯えていた。真っすぐな心を持つ女に、邪悪な力を持つ死神が、怯えていたんだ。

「・・この野郎!!!」

 烏に初めて立ち向かった。そんなことしたって無駄だって分かってるのに、初めて俺は牙をむいていた。

 呆気なく倒された俺の目から、涙が止まることなかった。息を引き取った奈緒に寄り添い、何度も謝罪を口にした。

 失ってから気づく。奈緒は、俺が初めて手に入れたいと思った人だったんだ。



 俺を守って、自分を犠牲にした奈緒へ・・

 俺は、きっとあの頃から何も変わっていないんだ。新しいパートナーができても、俺自身は何も変わっちゃいない。

 過去と立ち向かわない限り、変わることはないんだ。だから、お前の強さを見習おうと思う。お前が命をかけて守ってくれたから、俺も今度は命をかけて過去と戦おうと思う。

 だから、見ていてくれ。 

  

  

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