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夢解 2  作者:
11/16

アイツ

─こんなところで寝たら、風邪ひきますよ。氷壁さん─

 思えばアイツは、いつも俺の心配をしていた。俺がどれだけ夢職の仕事を成功させても、アイツはどこか不安定な俺のことを、分かっていたのかもしれない。白にも、黒にもなりえるグレーの心を持つ俺は、アイツにとっては目を離せない存在だったのかもしれない。

 ずっと一人だった俺に、アイツはずっと側にいると言った。

 それが嬉しかった。初めて誰かに寄り添ってみたかった・・。

 優しいアイツ。

 頼れるアイツ。

 俺が殺してしまった、アイツ・・・





「これが最後のところかぁ・・ここにもいなかったら、どうすんだよ?氷壁」

「一から探すに決まってんだろ」

 すでに二つの場所に行ったが、どちらもハズレ。二人の頭には、三つともハズレという最悪の結果がずっと過ぎっていた。

「・・氷壁よ、大丈夫か?」

 芥川の唐突な質問に、淑は鼻で笑った。

「大丈夫って、何が?」

「いや・・だからさ・・烏と会えたらお前さ、プッツンしちゃうんじゃないか?」

 淑が首を振る。

「それはない。一回烏に会ったが、俺は冷静だった」

かおるのことを言われても、冷静でいられるのか?」

 返事が返ってこない。沈黙は、随分長い間続いた。

 まずいことを聞いてしまったか・・芥川は、いつだって後悔することを言ってしまう。

「問題ない」

 小さいが、はっきりとそう聞こえた。

「ならいいけどさ・・」

 不安な空気が淀む中、二人は最後の場所にたどり着く。

 開発に失敗した街は、ちょっとしたゴーストタウンになっている。その中でも不気味にそびえ立つ、古びた建物があった。

 色あせ、わけの分からない植物が、建物の壁にへばり付くように咲いている。足を踏み入れるのもご免だ。

「まぢでここ?」

 芥川の顔に「入りたくありません」とはっきり書かれている。

「行くぞ」

「・・はいはい」

 年下の淑を先頭に、腰が引けてる芥川が後を行く。

 こいつ、よくビビらず入れるよなぁ・・・

「クソッここもハズレか?」

 ドアもない部屋を一つずつ確認するが、空だ。淑の機嫌が悪くなる。

「ハズレならそれでいいからさぁ・・早いトコ出ようぜ」

 あの時覚悟した、芥川の心は一体どこに行ってしまったのだろう。

「もう少し見るから、待ってろ」

 淑の顔に「足手まといだ」とはっきり書かれている。

「おい、待てよ」

 慌てて芥川が部屋に入ろうとした瞬間。ありもしないはずの扉が、淑が入った部屋を塞いだ。

「え・・??」

 芥川の目は点になり、淑の目は瞳孔が開いた。

「ど、どうなってんだ?!」

 芥川が叫ぶ。しかし、淑の声は聞こえない。

「おい、氷壁!!!」

 扉を叩くが、無意味だ。完全に塞がれてしまっている。

 芥川が辺りを見回す。すると、暗い廊下の向こうから、足音が近づいてくる。

 誰か来る・・。彼に緊張が走った。


「どうなってんだ?」

 あくまで冷静な淑は、突如現れた扉をじっくりと見た。

 幻覚ではなさそうだ。じゃ、何かの罠か?

「いらっしゃい・・地獄へ」

 暗くなった部屋の隅から、一人の男が現れた。

 青い目が、この暗闇でも不気味に光っている。

「誰だ?」

「オレ、聡明言うんや。あんた、淑やろ?」

 淑は黙って頷く。

「烏がえらい気に入っとった奴やから、一度会って見たかったんや」

「へぇ・・で?見た感想は?」

 聡明は苦笑いした。

「せやなぁ・・もっと強い奴かと思ったわ。拍子抜け」

「まだ戦ってもいないのに、分かるのか?」

「勘やけど」

 今度は淑が苦笑いした。

「勘か・・俺も拍子抜けだよ。烏の仲間名乗るんだから、もっと強い奴だと思った」

 二人の間に流れる殺気は、虫一匹寄せ付けないほど鋭い。

「じゃ、確かめてみるか?」聡明が構える。

「そうするよ」淑も同じく、戦闘態勢になった。

 



 アイツの目は、どんなときも穏やかだった。パートナーとして一緒に夢に入って、そこで大変な目に遭っても、その目はずっと穏やかだった。

 何でも笑い飛ばしてしまう。アイツは本当に強い奴だったんだ。

 俺にはなくてはならない存在。こんな奴に会えたのは、烏以来だった。だから、烏はアイツを狙った。烏にとってアイツは、きっと最も恐れる奴だったんだろう。

─大丈夫ですよ。氷壁さん─

 俺が駆けつけたときは、アイツの体からは大量の血が流れていた。それでも大丈夫と言った。しかも、笑顔で。

 動揺する俺の手を握り、喋るなと言っても喋り続けた。

─氷壁さんは、強い人です。その心は、絶対に染まらない。自信を持って─

 それが、俺が見たアイツの最期の笑顔。

 失ったものは大きすぎて、後悔となり、俺に課せられた十字架となった。

 アイツのことを思い出すと、自分の中にある怒りが甦る。

 

 アイツを殺した烏に対する怒りが・・

 アイツを守れなかった自分に対する怒りが・・

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