進む夢職達
真夜中の病院は、どこも一緒だ。
薄暗くて、不気味で、静まり返ったそこに行くと、地獄とはこういうところなのではないかと思う。
固く冷たいソファーに腰掛けた芥川は、顔面蒼白していた。
鳴り響いた電話、受話器の向こうから聞こえてきた声に、芥川の頭は真っ白になった。
群青が意識不明で病院に運ばれた。始めは、何かの冗談だと思った。しかし、病院で死んだように眠る群青を見て、心臓の鼓動が早くなった。不安に駆られ、誰に伝えればいいのかも分からなくて、無意識に電話をかけていたのは淑のところだった。
「芥川っ」
いつもは呼び捨てると、拳が飛んでくるはずだが、今回の芥川は脱力していた。
「何があった?」
淑も少しばかり動揺している。
「・・・ミウミちゃんは?」
質問に答えず、芥川が逆に聞く。
「・・事務所だよ。それより、何があった?!」
無意識に声を荒げる。しかし、淑の目に映る芥川に、状況を説明してもらうことは無理そうだった。彼自身も、何があったのかまだ理解できてないのだろう・・。
「分からない・・路上で倒れてるところを助けられたみたいで・・医者も原因不明だって」
「原因不明って・・何なんだよ」
壁に拳をぶつける淑。
無反応の芥川。
「氷壁、お前、群青から何か聞かなかったか?!」
芥川が初めて淑を見た。
「群青の腕に刻まれた文字があった・・封って字だ」
芥川の身体が震えだす。
「・・・烏だ・・」
呟いた淑から、目を離すことができなかった。
「正確に言うと、烏関連の奴の仕業だ。群青は、お前とやった仕事で拾ったナイフを所持していた。その持ち主は烏に関係している」
あの時のナイフか・・
芥川が立ち上がった。
「何で黙ってたんだ、群青は・・・お前も!!!」
声が響く、冷たい廊下。
「群青が黙ってろって言ったからだ。お前を巻き込みたくなかったんだろ?そんくらい分かれ。お前、何年群青と一緒にいんだよ」
「ふざけんな!!夢職は俺だぞ!」
「群青にはお前以上の頭脳と、力がある!分かってんだろっ!!」
淑の言葉は、芥川の心臓をえぐった。
分かっていたことをこんなにはっきり言われると、次に言う言葉は何もない。
「芥川、名誉挽回したいなら俺と一緒に来い」
「あ?」
淑を睨みつける。
「野辺に聞いた。夢解は、烏の居所をつきとめつつある・・候補は三つ。来る気があるか?」
面倒くさいことは嫌いだ。それに巻き込まれることも大嫌いだ。夢職になったが、そんなに凄い依頼を受けたいとも思ったことはない。ただ細々と、簡単な依頼だけをこなしていきたかった。でも群青は、わざわざ飛び込んだんだ。絶対にヤバイと思っただろう、それでも一人で進んだ。
主の自分がこんなんで、どうする?
「行くに決まってんだろ!」
死が待っているとしても進まなければ、群青に合わせる顔がない。
「よし・・俺もケリつけに行くぞ」
「氷壁、お前・・」
淑の目つきに、鳥肌が立った。
今まで逃げてきたんだ。けれども今回のことで、淑の中にあった闘志が目を覚ます。
進んだ先にあるものが、たとえ死だとしても、譲れない心がある。
前を向いた二人の夢職を、止める者は誰もいない・・・。