夢職 芥川清一
久々に依頼が来ました。しかし、私としては主には見せない方がよろしい、そう思ったのです。勝手かと思いましたが、私は今コレを破棄しようと、ゴミ箱の前に来たわけでございます。
「群青ぉぉ!」
しかしどういうわけか、いつも昼過ぎまで寝ていらっしゃる主が、何故かこの日は目覚めよく私の背中に飛びついてきたのです。
悪いことはできないものですね、主は猫のように大きな瞳を光らせ、私が握りしめた依頼書を見つけました。
「何だ、依頼来たんじゃない!」
「いえ、コレは・・」言葉が詰まる私をよそに、主は素早く依頼書を取り上げ、声を上げました。
「うぉぉ!何だこの依頼!」
主が声を上げるのも無理はありません。けれども私は、不安に駆られています。
木造の平屋に、夢解の事務所を構えているのは、芥川誠一という名の若者だ。芥川財閥の御曹司。見た目は若者かもしれないが、中身はお湯も沸かせないお子様である。もし彼に、夢職としての才能がなかったら、能無し人間になっていたに違いない。
そして、そんな芥川に付き添っているのが、幼なじみでパートナーの松風群青。頭脳明晰の美男子、能無し芥川が生きていけるのは百パーセント彼のお陰である。
出来の悪い芥川と、秀才の群青。正反対の二人が夢解の事務所を開いて五年が経つ。
「ちょっとちょっと!凄くない、群青!地元警察からの依頼だよぉ?!僕も捨てたもんじゃないって!」
芥川が、子どものようにソファーの上で飛び跳ねる。
訂正しよう、子どものようにではなく、子ども。
「お喜びのところ申し訳ないのですが、お受けになるのですか?」
群青が、心配そうな目を向ける。
「え、ダメなの?」
半年以上依頼のないオンボロ事務所に、やっと舞い込んだ依頼。しかし群青は、それを快く思ってはいないようだ。
「駄目というわけでは・・ただ、主はもう半年も夢職として働いていない身です。勘が鈍っているのでは?」
「そんなことあるかぃ!大体、世の中夢で苦しんでいるピープルが沢山いるってのに、家の都合で満足に宣伝活動もできなかったんだよ?!」
芥川財閥の御曹司である身、夢職として働くのを今でも反対され続けているのだ。
「家飛び出して、やぁっと自由の身になったんだ!何で活動しちゃいけないわけ?!」
「いえ・・いけないわけでは・・」群青が言葉を濁す。
「あんなヒヨっこ淑だって、今やベテラン夢職とか言われて人気なんだよ?!僕だって」
「淑さまは、元々才能がおありに・・」
そう言いかけて止めた。
芥川の目つきが、明らかに変わったからだ。
「では群青、僕には才能がないと?」
「誤解を生むような発言、謝ります」
深く頭を下げながら、群青はこの気まずくなった空気をどう変えようか考えていた。
答えは簡単。
認めればいいんだ・・
「群青、僕はキミに謝ってほしいんじゃないんだけど・・」
「分かっています主。この依頼、お受けいたしましょう」
苦笑いする群青を見て、芥川はまた、子どものようにソファーの上で飛び跳ねだした。
これまた失礼。訂正しよう、子どものようにではなく、子どもだ。