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大陸奇譚  作者: 和泉ナギ
1/7

セイレンの唄 1

これは、広大な大陸を中心に繰り広げられる

冒険と戦いの物語である。


……のかな?



 その昔、『女神リュミエール』がこの大陸を創り、すべての生きとし生けるものが争いもなく暮らしていた時代があった。

 しかし、その平和も一人の神の『欲望』のために崩れ去った。

 欲望と略奪、殺戮に狂ったその男は『魔王』と呼ばれ、『魔物』といった残虐な生き物を生みだし、大陸全土を恐怖のどん底につき落としていった。

 だが、そんな狂気も終わりを告げる事となる。

 『魔王』に立ち向かったのは、女神の三人の息子達だった。

 三人は力を併せ、長き戦いの末、『魔王』を封じた。

 自分達の指導者でもある『魔王』を封じられ、魔物たちは大陸中に散り、闇に身を潜め、ほとんどは世に害することはなくなった。

 ほんの一握りの高等魔以外は……。



 大陸で東に面した一番大きな港町、セルヴィール。

 気のいい人々が暮らす、粋な港町。

 この日、丘に面した町一番の教会では、朝も早くからミサが執り行われた。そして、教会は町始まって以来の人で溢れ返った。

「ねえねえ、ずいぶんお若かったわよね」

 教会から出て来た若い娘が、隣の娘に声をかけた。

「ホント、すてきだったわぁ。でも、明日までしかおいでになられないのでしょう?」

 頬を染め、ため息混じりに言った。

 普段この町は、大きい割に特別信仰の厚いものが多いわけではなかったのだが……、いや、人が多い方が逆に不信者が多いのかもしれない。

 この日は、大陸一の神殿から来た若い坊さんを一目見ようと集まった人々で、教会設立以来の一番の大入りだったのではないだろうか?

 まあ、どこの教会でも、坊さんのやることは変わらないのだが、これが若くて綺麗|(坊さんだから男なんだが……)だと噂を聞けば、ちょっとは覗いて見ようかなんてのはどこにでもある人の心情。

 噂の真偽は?

 と、聞かれれば、ミサを済ませた人々の反応を見れば一目瞭然だった。

 名残惜しそうに後ろを振り返りながら家路につく人々が多く目につく。

 その人達をすり抜けるように、教会へ駆けていく一人の少年がいた。

 少年は教会の戸を勢いよく開け、そのまま中へ入っていった。



「もう終わってしまいましたよ。どこまで行ってたんですか? アヴィ」

 祭壇の前で後始末をしていた僧衣姿の青年が、やさしく問いかけた。

 まるで光を集めたような長い黄金色の髪と、春の日差しに透ける木々の葉のような柔らかいグリーンの瞳を持つ青年を、僧衣を着て聖書を片手にしていなければ、坊さんだなんてとても思えなかった。こんな坊さんが勧誘して歩いてるんなら、若い娘さんが沢山信者になってくれるだろう。

「ゴメンナサイ、兄さん。オラージュ追っかけてたら遅くなっちゃった」

 一所懸命走ってきた割には、どこかおっとりとした物言いの子である。

 ちょっとねこっ毛の金茶の髪を掻きながら、大きな瞳をくりくりさせる。

 頭を掻く両手にはめているのは、肘も隠れるくらいの手袋。しかも、手のひらの部分は動物の顔をしていて、人形劇の人形の様に口をぱくぱくさせている。ちなみに犬……らしい……?

 これといって手袋をするほど寒い季節ではないのだが、本人はいたく気に入っているようなので、いいんだろうか?

「オラージュは?」

 青年は、小さな弟と視線を合わすようにしゃがみ込んで聞いた。

「町で見失ったの。きっとどこかで昼寝してるよ」

 町の方を指差しているのだろうが、両手にはめている手袋の犬の顔が、指の替りに町を向いている。

「……お腹が空けば帰ってくるでしょうけど、この町の滞在は明日まで。仕事の打ち合わせもありますから、捜しにいきますか」

 ため息をつきながら、椅子に掛けてあったマントを羽織り、弟を伴い教会を出た。

 アヴィは無邪気に手袋の人形で遊びながら、相も変わらずのんびりした表情でチョコチョコと後をついて行った。

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