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高齢者の虐待

 手紙を預かってから二週間が経った。

 初冬の空気はどんよりとして重苦しい。

 朝寝坊した日曜日、マフラーを首に巻き付け、少しはましな格好をしていつものレストランに向かった。

 テーブルに着きモーニングサービスを注文する。次に、脇に折り畳んである新聞を広げる。サラサラと目を通すうちに、小さな記事に目が止まった。「五十代の男が母親に暴力を振るった。介護疲れが原因か。逮捕、拘留されたが挙動不審なところがあり、脳病院に入院した」という記事である。

 高齢者の虐待は、調査を開始してから最悪の状態になった。

 虐待の種類は殴る蹴るなどの身体的虐待が最多となっており、加害者の内訳では息子が最多となっている。

 そして、被害者の多くが加害者と同居しており、介護保険施設に入居を希望しても空きが無いのが現状で、高齢者の多くが順番を待っている。

 息子は都会に出て就職したが、四十代でリストラに遭い会社を辞めた。その後再就職を模索するも希望どおりに行かず、故郷に帰り再び親と同居を始めた。そこでは定職に就けず、止むを得ずフリーターとして働いた。

 やがて父が亡くなり、母が受け取る遺族年金が家計を支えるようになった。母も高齢になり、介護せざるを得なくなった息子が、誰にも相談できずにストレスが溜まった挙句、おもわず暴力をふるってしまったという。

 これが犯罪であると非難されるには、あまりにも気の毒だ。むしろ社会整備の遅れを糾弾すべきではなかろうか。

 息子は暗い留置場で「大切な手紙をどこかへ置き忘れてきた。困った、とても困った」と泣いて訴えたという。

 私はこの記事を読み驚愕した。突き動かされるように飛んで家に帰り、例の手紙を握りしめて車に飛び乗った。病院までは四時間の距離であるが、道に迷い到着した時には辺りは暗くなっていた。

 係官は親切に応対してくれた。

 「その人は退院しましたよ。もちろん、検査しましたがね。正常でした」

 「母親から被害届も出ていませんしね。深夜大声が聞こえたという付近の住民通報だけではねー、これ以上拘留は無理でしょう」

 「手紙ですか? そんな話はありませんでしたよ、全く」

 私はこれ以上留まる事も出来ないので謝して車に戻った。アパートに帰った私は、読み直してみようと新聞を取り出し、例の記事を読んでみたが手紙のこと等どこにも載っていなかった。

 あの日、レストランで私の昼食をペロリとたいらげたあの男の消息は、ようとして知れない。

 私は悪い事とは知りつつもつい、封筒を覗いて中の手紙を取り出してしまった。


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