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パレット  作者: 小森奈々
3/5

candy 飴

「お腹すいたぁー」

三時間目の数学が終わった休み時間、千華がだらしない声を出しながら、

私の席までやってきた。

「お昼までまだ一時間あるよ?」

私が笑うと、千華は「そう」という形に口を動かし、ゆっくりと頷いた。


お腹が鳴りそうなのを抑えるためか、千華は両手でお腹のあたりを押さえ、

さらに体を少し前に折り曲げて、明らかに不自然な体勢になっている。

「…和美、なんかお菓子持ってない?」

その言葉を事前に予想していたため、

鞄の中のお菓子入れの中身は、既にチェック済みだ。


「飴しかないけど、食べる?」

ピンク色のポーチのチャックを開けながら聞いた。

「この際、なんでもいいから口に入れたい」

ポーチの中から手探りで取り出した飴を千華に渡した。

その飴は、イチゴの絵が描かれた包みに入っている、私が小さな頃からあるものだ。


千華は、さっそくそれを口の中に放り込んでから、むいた包み袋を眺め始めた。

「和美っていつもこれ持ってるよね。そんなに好き?」

確かに私は、常にこの飴を持っている。

しかし、イチゴ味が特別好きという訳ではない。

これには理由があった。



幼稚園の頃、お母さんと離れるのが嫌だった私は、

自転車で園まで送ってもらった後、毎朝のように泣いていた。

その度にお母さんや先生を困らせていたのだが、

ある日、同じさくら組だった女の子が、泣いている私に声を掛けてきた。

その時、「これあげる」と、彼女が通園に使っていたカバンから取り出したのが、

あのイチゴ味の飴だったのだ。


思い出の味として、私は今でもその飴が好きでいる。

そして、女の子はそれ以来、私の親友になった。

彼女は長いおさげが特徴的だった。



授業の始まりを告げるチャイムが鳴る。

教室の黒板の横に貼られた時間割を見ると、四時間目は英語となっていた。

英語では毎時間、音読練習がある。

「千華、早く食べ終えないと、先生にばれちゃうよ」

「うん、急ぐ!」

千華はふたつに結んだ髪を揺らしながら、自分の席へと戻って行った。




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