表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パレット  作者: 小森奈々
2/5

brother 弟

「お姉ちゃん、まだ?」

さっきから弟は、その言葉しか口にしていないような気がする。

「まだだよ」

私がそう答えると、彼は一瞬泣きそうな顔をして黙り込んだ。


弟は、もう何度もこの行為を繰り返している。

今は俯いて唇を噛んでいるが、しばらくすればまた、先程と同じことを私に聞くのだろう。

「…お姉ちゃん、お母さんまだ?」

ほら。


「まだだって!それに、お母さん、六時までには帰ってくるって言ってたでしょ?」

しつこい弟に対し、少しきつい言い方をしてしまう。

「じゃあ、あとどれくらいで六時なの?」

彼の指は、壁に掛けられた時計を指していた。

「…わかんない、けど…」


最近、学校で時計の読み方を習い始めたところだった。

しかし、窓の外がオレンジ色になってきたことから、

既に夕方になっているのはわかった。

お母さんが買い物に行ったのは、お昼ご飯を食べてすぐのことだ。



「銀行と郵便局に行って、そのあとスーパーで買い物をしてくるからね」

お母さんはお店のチラシを見て、買うものに丸を付けながら言った。

「ちょっと遅くなるかもしれないけど、六時までには帰ってくるから」



弟と私の二人だけで留守番をするのは、初めてだった。

休みの日に、お母さんが買い物に行くとき、お父さんと三人で家で待っていたことはある。

だけど、今日はお父さんは仕事があって、家にはいない。

まだ幼稚園に入ったばかりの弟と、二人きりなのだ。


「お母さん、ちゃんと帰ってきてくれるのかなあ?」

弟は、今にも泣きだしそうな表情と声をしていた。

つられて私も泣きそうになる。

「ぼくのこと置いて、どっか行っちゃったんじゃないのかなあ…」


遠くの方から消防車のサイレンが響いてきて、一気に私の心は不安で一杯になった。

張りつめていたものが、もっと引き伸ばされて、あと少しでプツンと切れそうだった。


怖くて、寂しくて、悲しくて、早くお母さん、早く、

早く帰ってきて。



私の目の前にいる弟が滲んで見えた時、玄関の方で待ちわびた音が聞こえた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ