19 CULDESAC - 01 -
アキの後を追い部屋に入った時、アレックスは自分の目を疑った。
だが彼はすぐさま深刻な事態を収拾すべく行動を起こした。
スタッフに指示を飛ばし、事態を大きくすることを防いだ。
警官が到着しアレックスとアキは事情聴取を受けたが、アキの精神的ダメージが大きく言葉を発するのも困難な状態であった。
アキは賢人に引き渡され、自宅へと帰された。
ジーンは救急搬送された。
運よく肋骨をかすめ重篤な状態では無かったものの、最短でも二週間ほどの治療が必要となった。
アキは幾日かアレックスと共に聴取を受け、これまでの出来事を詳らかにした。
あの時自分がサンドラの名を呼ばなければ、ジーンに隙は出来なかった。
サンドラにしてもそうだ。彼女を凶行に走らせる事もなかった筈だ。
アキはそう自分を責め続けた。
さらに気を失っていた間に見た京也の夢が重くのしかかった。
一体何を意味するのかと思い煩わされた。
十一月二日。
ジーンの面会が可能になった。
それまでアキは身を切られるような思いに苛まれ、家から出る事もままなからなかった。
アキはアレックスに導かれ、白く清潔な通路を漂うように病室へと向かった。
ジーンの回復が嬉しい反面、依然として自責の念が渦巻くアキの表情は硬い。
「さあ、ここだ。二人で会うといい」
アレックスは柔らかな笑みを浮かべ、ドアを開く。
点滴がジーンの腕へ降り、頬は少しやつれていたが穏やかな面持ちで横たわり、アキを迎えた。
「ああ、ジーン……。すまない、俺が……」
「何言ってんだよ、アキ」
いつも通り口の端を片方だけ上げて笑うジーン。
アキは弱々しく微笑み、ジーンの傍らに立つ。
「泣くなよ? 俺は死なない」
今にも泣き出しそうなアキに苦笑する。
それから毎日ジーンの元へアキは足を運んだ。
日に日に顔色が良くなり、アキも徐々に落ち着きを取り戻していった。
ジーンはアキを責める事なく、むしろ宥め続けた。
サンドラについて何も語らないアキとアレックスだったが、二人揃って見舞いに訪れた際にジーンに言及され、答えざるを得なかった。
アレックスは言葉を選びながら言った。
「彼女は今、別の病院にいる」
「……? 後追いでもしようとしたか?」
「いいや、違う。大人しく逮捕されたが、心が……」
アレックスは旨い言葉が見付からず口を閉ざした。
「サンドラは……、自分の世界にしか生きていられなくなってしまったんだよ……」
目を伏せ、アキが続けた。
「何? どういう事?」
「お前が死んだと信じて疑っていない。どんなに警察で生きてると言っても。だからと言って会わせる訳にもいかんしな」
アレックスは大きくため息をつく。
「そうか……。憐れだな」
二人から目を逸らし、ジーンは呟く。
病室に沈黙が漂い、廊下を行き交う人々や遠くからのざわめきがその場を通り過ぎた。
「……アキ、もうじき日本に帰るんだろ? こんな目に遭わせて悪かった。ごめんな。警察には旅行者が巻き込まれただけって説明したよ。だから問題ないだろう」
「ジーン」
「……ほんとはさ、もう少しこっちにいて貰いたいんだけど、そうもいかないよな。アキにはやらなきゃならない事があるんだもんな。……それにしても、このザマじゃ、見送りにも行けないな」
ジーンがすねたように言う。
「……俺も回復するまでいたいよ。でも、ごめん」
「仕方ないよ。その代わり発つまで毎日来るよな? ここは退屈で堪らないよ」
点滴のされていない腕を振り、明るく笑った。
アキとアレックスは顔を見合わせ肩を竦めた。
十一月十五日。
昼食を採った後、睡魔に襲われアキは再び夢を見た。
階段を登り京也に呼ばれ振り返る。
青白い光の中、目を閉ざし京也は佇む。
血まみれの姿で。
「京也?」
京也は目を開き、手を挙げてアキを阻む。
「さよなら」
電話のベルが鳴る。
アキは夢から投げ出され、跳ね起きた。
動悸が激しい。
部屋の隅の電話機に目をやり、息を整え立ち上がる。
横からベラの手が伸び、アキに微笑みを投げかけながら受話器を取った。
アキはソファに戻り、動悸が収まるのを待つ。
京也の顔が思い出されて一向に落ち着く気配がない。
ベラが慌てた口調で話しているのが気になるが、ややあって受話器を置きアキの元へやって来た。
沈痛な面持ちで告げた。
「アキト。悲しい知らせよ。……キョウヤが亡くなったそうよ」




