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翁は飛びません、念のために



今は昔、竹取の翁という者ありけり。野山にまじりて竹を取りつつよろずの事に使いけり。






平安時代以前。


妖妖跋扈として、また、それを撃つ者ありき。それら陰陽師といわるる。






平安時代頃ときたら貴族だろう。


藤原氏が有名だ。


何の因果か昼間に(喧嘩して)妖怪をぼこってたら連れさられた。


この時代、稀に妖怪も昼間に出て来て、また、付喪神も増えて来ている。単に人が様々な道具を扱い、飽き、忘れられるからだ。




で、藤原屋敷に妖怪退治、陰陽師として居座る事になったが、なにぶん私は妖怪な為、陰陽師の武器である霊力の扱いには慣れていない。


なので同僚の陰陽師に色々と指南してもらっている。



この時の藤原氏は、まあ私の雇い主は藤原不比等(ふじわらのふひと)という人物でお転婆過ぎな、だからこその隠し子がいた。


隠し子の彼女と私は気が合った。


旅の話をすると目を輝かせる。


彼女は貴族という窮屈な環境は嫌いなようだ。


この時代、覗かれ、また覗くチラリズム的な状態が普通な世の中。簡単にいえば、美人にはストーカーがつくし、美人さんはストーカーがいるのを承知でドキドキしてるわけだ。


理解できない。


また、彼女も理解できないらしい。


貴族間ならまだしも平民間でしたらボコられる。



彼女の名前は藤原妹紅。


顔立ちは整っていて美少女だ。


ただし、今の世、私の美人と世の美人の感覚にはズレがある。


一重瞼に小さい目、腫れぼったい顔が美人だ。

私の考えとは180度違う。




妹紅の父親は、子供がありながら女を侍らせる世の中の男たちとは違い妹紅や妻を大事にしている。


「いい父親じゃん」


「とはいっても欝陶しいですよ」


「私は悲しいぞー」


「黙れ!変態父上!!」


そんな悶着が日課になりつつあった時、


「なんか竹細工作ってる爺さんのところに美人さんがいるらしい!!」


と、不比等さん。まあ、ここまではいつものことだ。


「求婚してくる!!」


「「は?」」


妹紅と妻Loveな人がこの言葉を発するとは思えなかったが……


「その爺さんの名前って『さぬきのみやつこ』?」


私が聞くと


「そうだ。私が忘れる訳なかろう」


まあ、不比等さんは帝(天皇)からも、一度見た物は忘れず聞いた物は全て言葉とできる聡明な者、と評判を受けているし、


「何故知っている?」


「さあね」


じゃあ美人さんはさしずめかぐや姫か。


「私もついていっていい?少し興味あるんだけど」


「父上を虜にした……一度、私も見てみたいです」


「ダメだ」


その日、彼は帰らなかった。






夜、かぐや姫を一目みようと忍び込んだ。


呆然と月を見ては泣いている。


「月の世界が恋しいの?」


私は後ろから歩み寄った。


「!?……貴女は?」


「陽奈」


「聞いた事ある気がするわ、その名前」


そうなのか……。


「月でどんな罪を犯したの?月の世界ってどんななの?」


「貴女に話す事ではないわ。得体の知れない地上の人間よ」


「私、妖怪なんだけどな……」


正体をぶっちゃけた。


「なっ……。まあ、いいわ陰陽師を呼べば……」


「もういるよ」


かぐや姫はキョロキョロと辺りを見回す。


その仕草で長い髪が揺れ、綺麗だと感じてしまう。


かぐや姫の外見は私基準でも綺麗に見える程に美しい。清らかなり。


「どこにいるのよ」


陰陽師が見つからないご様子で尋ねてきた。


「私だけど。藤原家の陰陽師の一人」


・・・。


「ふふっ、変わってるのね」


「まあね。人は呼ばないんだ」


「呼んでも意味ないでしょう?」


それもそうかもしれない。


「月の様子とか教えてくれない?昔、友達が月に行ったから」


「月に?まあ、貴女になら話しても問題ないでしょうね。月には“穢れ”、物が腐ったり寿命の原因となるものがないのよ」


「つまり……不老?」


えーりんも生きているのでは?


そう思ったが言うのを止めた。



私は姫と二人で月を見ては溜息をついていた。









「んっ……」


いつのまにか寝ていたのか……。


「あら、おはよう」


「うん、おはよう。何で身体が動かないのかな?」


理由は分かるよ。藤原家の陰陽師がみんな私に術をかけてるから。


「あんた、妖怪だったんだ……」


と、妹紅。何でいるのかは知らないが。


「まさか、妖怪で陰陽師がいるとは思えませんけどね」


と、凛々しい男の声。


「誰?」


私から見たら美男子。なんか弱そう。


「私は安倍清明と申します、陽奈さん」


めっちゃ強かった!!


やばい、抜けないと……。


私は妖力を最大まで開放して抜け出そうとする。


「ぬ、抜けられない……」


「うーん、予想以上ですね。私も封印出来るか分かりませんね……」


ちょっ……封印!?


「ちょっと待って!何でもするから許してよ!!私なんて無害だからさ」


「ほぅ……。なら、質問に答えて貰いましょう」


質問?


「いいよ」


「貴女は人を襲った事がありますか?」


「ない。……いや、あるかな?ただ、自分が殺されそうになった時以外は殺してない」


私は妖力を抑えた後に正直に答えた。


清明さんは妹紅を見る。すると、妹紅は頷いた。


「そうですか……。貴女の言った通りのようですね。はい、みんな、術は解いて〜」


パンパンと手を鳴らして術を解いてくれた。


「貴女への頼みはもう一つだけです。貴女の妖気は常軌を逸しています。これでは貴女の身近な人間や妖怪にも直に影響を及ぼすでしょう。ですから強力な封印札を後でお渡ししますのでそれを身体のどこかにつけていただきたいです」


「はあ……。うん」


「何か要望などは?」


「長めの布で作ってほしいな」


後に聞いたが陰陽師にも忙しくなってほしいと。小妖怪が最近あまり発生しなくなっているらしく、原因が私から漏れている妖気、もとい妖力らしい。


当然、妖怪の数も減り、陰陽師は名をあげられなくなり、立場に困る。


断る理由はなかった。







「姫さん、報告したのはあんたでしょ」


「そうよ」


呆れた。








さて、かぐや姫は妹紅の父親を含めた五人にそれぞれ難題を与える訳だ。


その難題は


・絶対に壊れないという『仏の御石の鉢』

・燕が時折産むという『燕の子安貝』

・荒々しい海流の宝『龍の頸の珠』

・決して燃えないという『焔鼠の皮衣』

・稀有な植物の『蓬莱の玉の枝』


不比等さんは一番最後。


ちなみに私は同行者その1。



かぐや姫は各々にヒントを与えている。


「では、最後に……」


「はい」


「あなたへの手ほどきは……ありません」


「はい?」


「あなたの側には長生きな方がいるでしょう?」


姫は私を一瞥する。


えっ?私?


「頼む、陽奈。特別に何かやるから教えてくれ」


「私の知識ならタダであげますよ」


その時、姫から僅かに不安を感じた。

もしかしたら知っているのでは、実在するのではないか。


それだけで作り出す材料と成り得るが、まずは不比等さんに教えよう。


「蓬莱の玉の枝。別名は憂曇華と呼ばれる植物。仏、まあ釈迦が持っているとされている(たしか)300年に一回花を咲かせるといわれている。姫の求めるような銀や金、瑠璃なんかない。というか実在しない」


「そう……なのか……」


目茶苦茶に落ち込んじゃったよ……。


「それで、姫の想像したのはこれ」


私は不安から恐怖へと昇華させ、蓬莱の玉の枝を具現する。


ちなみに場所は姫の目の前です。









その後、不比等さんはきっぱりと諦め、また姫は自分の生い立ち云々を手紙で帝へ。


次の満月の時に迎えが来るらしい。



明日ですね。




帝は多くの、また様々な戦力をかき集めた。


いや、勝てないだろ。相手は遥か昔に原爆に水爆、中性子爆弾まで作れたんだから。


いやー、原爆は痛かったな。衝突した衝撃が。



当然、私も駆り出された。しかも清明さんの推薦。


退治している(とはいっても雑談して逃がしているのがほとんどだが)数がそれなりに多いから、らしい。



私にとって陰陽術はそんなに難しいものではなかった。


パチェから教えてもらった魔法に似ていたからだ。


私がパチェから教えてもらったのは火水木金土の属性。日と月は特殊だから無理だった。


で、陰陽術は木火土金水。


陰陽術、魔法と、ともに陰と陽があり、属性が同じ。


違う点は魔法は攻撃や変化、陰陽術は防御や封印に特化している。


まあ、私は霊力は並よりはあるが少ない方なので専ら魔法を応用しているが。


けれど、月の人たちには効かないだろう。


姫の罪の重さは知らないが仮に下っ端であろうと太刀打ちは不可能だ。











時は満月。


そして、夜。


いきなり昼間の様に明るくなった。


月の使者が……


「姫、迎えに参りました」


銀髪に整った聡明な顔。


少し声がわりしているが忘れもしなかった声。


「えーりん……」







月からの他の使者が様々な事をしている間、私はえーりんを見つめていた。


えーりんが私からの視線に気付き、こちらを向く。


ふと、私に寄って来た。


「あなた……名前は?」


「陽奈。あなたの知っている妖怪の陽奈」


えーりんの顔が驚きを隠せない様子へと変わり、また、安堵の息をこぼした。


「陽奈……なの……?」


「そうだよ。何年ぶりだろうね」


「まあ、××億××××万××××年ぶりね」


「億?」


「億よ」


なんてこった。





「貴女がいて安心したわ。これで目的も果たせる」


えーりんが言うには、


姫は月に帰りたくない。

  ↓

他の使者を殺す。


と。


「手伝え、と?」


えーりんは頷く。


人間たちは抵抗心を無くしてしまっているが、うん、私は大丈夫だ。








まずは私が使者Aを突然殴る。


「な、なぜ!?」


人間から抵抗心を取り除こうとも妖怪まで考えなかったのは決して浅はかではない。

えーりんの計画だった。


初めはえーりんは私の敵(の演技)だった。


けれど途中で反旗を翻し、使者を一人、一撃で葬った。


「永琳、あなたは何故!?」


と使者B。


「それが姫の意思だからよ」


「おのれ、妖怪が……」


「私はえーりんの味方だから」


また一人、一人と使者を潰す。


たまに余波が人に当たるが死にはしないだろう。


その時、使者S(くらい)が放った一撃、まさかの近代兵器レーザーが一本、私の横を掠めていった。


えーりんは残り一人の使者S(仮)をすぐにこの世からさよならさせてから私の後ろを指差した。


私も振り返ると血まみれの不比等さんが。


「えーりん、薬は!?」


「ないわ……」


まさか、よりによって彼に当たるとは……。


「陽奈……」


不比等さんが私を呼んだ。


「はい」


「妹紅を……任せた……」











明くる日、私は妹紅と富士山の山中にいた。


これから帝の兵ご一行は蓬莱の薬、つまり不死の薬を焼きに行くらしい。




蓬莱の薬。

それは穢れを取り込む事により、本来魂が肉体に依るものという関係を逆転させる。

結果、魂を消されない限り不死という薬だ。


と、えーりんから聞いた。


蓬莱の薬は姫の能力を利用して、えーりんが作った薬。しかし、その薬には月にはあるはずのない穢れが含まれていた。


穢れを生み出したという大罪を犯したとして姫を殺そうとしたが『永遠と須臾を操る程度の能力』のためにすぐに本人として生まれる。

そのため、地上へと流刑された。


永遠とは勿論永く遠い時間、須臾とはほんの一瞬の事らしい。




何故、富士山にわざわざ赴いたかというと、妹紅のためだ。


いずれ来る事を予期し、月の民に父の復讐をしたいらしい。


まあ、その前に地上で逃げる事を選択した姫とえーりんを殺しに行きたいのだろうが。




地上に伝承される姫の話はえーりんが情報操作をしたものになっている。


主に私の存在と逃亡を隠す事。


えーりんは、かぐやひめは、ぶじに、つきへと、かえりました、と聡明な頭を使って操作した。




さて、薬を手にいれるために襲わなければならないが、殺しはしてはいけない。


したら、清明さんに封印されかねない。


そして、私のポリシーにも反する。


私はゆっくりと近付き一人ずつばれないように気絶させてゆく。


さてはて、十ばかり気絶させたところでさすがにばれた。


私は抽象的な恐怖を向け、精神的ショックで気絶させた。


初めからこうすればよかった……。


「終わったんですか?」


「うん。はい、薬。私は忠告はしたからね」


悠久の時を生きるという罪は一生償えるものでもなく、また、とても辛い事だ。


まあ、何億年も寝ていた自分が言える事ではないが。


妹紅は壷をゆっくりと傾け、壷の中身を飲み込んだ。


「ううぁぁぁぁああああ」


今、妹紅にのしかかるのは永遠という名の罪。それがどれほどの激痛であるかは予想できない。


ただ、分かるのは魂までも焼かれる痛みであろう事だけだ。


「はぁ……はぁ……」


「妹紅、髪の毛と目……」


その目は朱く、髪は白へと色が抜けていた。


私は妹紅に容姿の変化を話した。



「うわっ、絶対に淘汰されますよね」


「うーん。そうだよね……」


「でも、目は本気の陽奈と同じですね」


「私は黒く戻るけどね」


これからどうするかが最重要課題になった。









とりあえず私が妹紅を連れて清明さんのところへ。


「まずは陽奈さん、こちらを」


赤く、白い模様の入った長めの布だった。


「ちょっと注意しないとね」


私は、まず紫のリボンを外した。


途端に魔力が放出するのを精一杯抑え、赤と紫のリボンで左右それぞれを括り、ツインテールに。


「ふぅ……」


「すごいですね……。普通であれば大妖怪でも触るのが厳しい布を簡単に………」


あれ、そうだったの?


「陽奈はどこまで強いんですか……」




「さて、次は貴女ですね、妹紅さん」


ついでに妹紅の件についても相談する事にした。


「私はどうすれば……」


「陽奈さん、貴女はこれからどうするのですか?」


「もう少しここにいようかな、と」


私がそう言うと清明さんは、ある提案をした。









「私から離れないように。あと、声でばれないように口調は変える事」


「はい……じゃなくて、うん。ですが、何故私が妖怪扱いされなければなら……いけないんだ?」


清明さんとの取り決めは、私はそこそこ名が知れた陰陽師なのを利用し、妹紅を妖怪とし、監視する名目で私の側に常においておくというものだった。


立場上は私が人間で妹紅は妖怪、実際は逆という奇妙な二人組がここに出来た。








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