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綱渡り


どうしてこうなった。


現代の人で神と通じている人物を通してなんやかんやでテレビを通して国内に広げようというのだ。


私はこれは悪手だと思っている。メディアの力は大きい事なんて分かっているのだが、本来の形とは違う信仰だ。


だから私はこの用意された舞台を足場にして大きく動くべきだと思う。

初めは違う形でも私が直せばいいだけだ。






そんな訳で私はテレビスタジオにいる。


とりあえず幻想郷へと帰って、雛と姉妹を置いてきて、それからさらに紫に話をしてから準備をして再び赴いたのだ。


そして到着したら控室に通されたので、家から持って来た陰陽師時代の時に晴明さんの後継ぎに決定された際に一応賜った最上級の狩衣(貴族の男性の服みたいなやつ)に着替えた。


その後、しばらくしてから呼ばれて、今に至る。


それから収録内容の流れの確認。


どうやら数人の専門家から私が質問責めされるといった形が主らしい。


その前に私の自己紹介があるらしいが。


ちなみに番組名は『あの伝説を追え』というらしい。もしかしたら諏訪子も見るかもしれない。






収録が始まり、私の自己紹介となる。私の『設定』の解説は司会の人がしてくれた。


「私は、白嶺陽奈といいます。見ての通り外見は子供のままです。私はある意味呪われています。人を助けなければ前には進めませんし、その人の欲によっては悪化してしまうからです。不老不死の様なものです。一見良いことの様に思えますが、人間にしては永すぎる人生の中で何百年と孤独になり、またとても多くの別れも経験しました。私は……」


そこで私は涙ぐむ。


当然芝居だが、人間が齢何億歳の大妖怪の私の芝居を見破れる訳がない。念のため境界も弄ったが。


私はそのまま定位置に戻り、司会を自然に促した。




しばらくしてVTRを挟む為の編集点を取り、休憩後、質問タイムに移った。


「君が伝承通りの人物である証拠はあるのかい?」


比較的若めな男性からの質問。

いきなり厳しい質問である。


「どの程度の事をすれば信じて貰えるでしょうか……」


行動で示さなければ難しいだろう。

しかし、私にはそれは思い付かない。


今の時代、映像技術が発達しているのだ。並大抵の事でも真偽が判らない。

加えて生放送ならともかく、これは収録だ。幾らでも、加工して嘘でした、といえてしまう。


「使役していたという妖怪を呼ぶ、というのは?」


そんな中、一人がそう発言した。


使役していた……ぬえの事だろう。しかし、恐らく封印されてしまったであろうし、そもそも主従関係は結んでいないのだ。


「それは出来ません。妖怪の脅威を恐れた他の陰陽師に封印されてしまいました」


私は事実を隠しながらも正直に伝える。


恐らく彼らも判っているのだ。便利になってしまった世の中の大きな技術革新が鬱陶しく感じてしまうのだろう。

下手な行為をさせても映像技術と芝居という2つの単語でなかった事になってしまうのだ。

皮肉なものだ。


「それに、仮に呼んだとしても妖怪というものは人間に酷似した姿を取りますから妖怪とは分からないと思います」


「どういうことですか?」


1人が訝しげに私に聞いてきた。


「そもそも妖怪とは基本的には生物ではありません。なので定まった形を持つものはそう多くはありませんが、力の強い輩は何故か人の姿になるものが多いです」


それからしばらく専門家があーだこーだと話し合いをしていた。


どうやら実際に見ることは諦めたらしく、質問責めにされたのだが、それも設定に則って適当に返していった。




番組の終盤、私に特に大事な事は何か、という質問が投げ掛けられた。


「私の力はこの国の八百万の神々によって授かったものです。私だけでなく神々にも感謝の気持ちを忘れないでください。この様な人から外れた力は私1人だけの力では決してありませんから」


実際は私も(一応だが)神様の1柱で、しかもほとんどは私の力だが、これもみんなのためだ。私は本来妖怪で、信仰なんていらないのだから何も問題はない。

どうせ少しくらいは流れてくるだろうし。


「では貴女自身は何者なんです?」


難しい質問だ。この場合は種族的なものを聞いてる訳ではないのは当然といえる。私という人物を聞いているのだろう。


「私はただ少しばかり秀で、神に認められた……」


「聞きたいのはそういうことではないです」


1人が私の台詞を阻んだ。


じゃあ、どうしろと。


そう考えた時に私は空気に少し違和感を覚えた。


この場の空気が止まっている。


さっきから1人しか口を動かしていないのだ。そしてそれに違和感を覚えていない周囲。


これはおかしい。


「じゃあ、何だと思います?」


私はカマをかけてみた。


「それが分からないから聞いているのです」


「私は見ての通り人間ですよ。それとも人の皮を被った化け物とでも言いたいのですか?それこそ馬鹿馬鹿しいです。そんな化物、物語の産物でしかない」


「先程の言葉を自己否定するのですか?高度な妖怪は人の姿をとる、と」


「私を妖怪だとでも?」


そんなことわかるわけがない。


妖気は微塵も漏らしていない。昔の陰陽師たちであっても誤魔化せたこれに、さらに年月が重なり磨きがかかった今ならば看破は出来る訳がない。


「いいえ、ただ可能性もあるという話をしたまでです」


「まあ、どちらにせよ、私が神々の御力を借りているのは事実で、表だって不可解な事件が起きてない以上は私が妖怪であろうとなかろうと関係はないのではありませんか?」


「妖怪という存在がいれば、それだけで脅威でしょう?それは貴女が一番理解しているのではありませんか?」


たしかにそうだ。

妖怪とは悪であるという考えは強い。中には害を為さないのもいるが、それは稀少だ。


だからなんだ?私が妖怪か否かはここで示す必要があるのだろうか。


いや、目的が分かった。


「あなたは、いや、お前は誰だ。さっきから違和感はあったんだよ、話の軸がないし、そもそも私の存在にこだわりすぎてる」


私は既に周りの人たちが何も反応さえしなくなった事を確認してから、その不可解な存在に問いかけた。


「初めて、初めてなんですよ、私が正体を見破れなかった存在は」


狂った様に笑いながらも私に愉しそうに話し掛けてくる。


「私は小さい頃から霊的な力がありましてね、それを、目に見えたそれを食べるのが好きでした。そしてある時妖怪を……」


「黙れ」


コイツは狂ってる。


私よりも、何よりも。


こんなに科学が発展していても、似た様な奴はいつの時代でもいるのか。


いや、発展してるからか。


だからこそ、人は幻想に夢を見てしまう。


そして私という存在がそれを確固たるものにしてしまった。


別に悪いとは言わない。けれども……、妖怪よりも恐怖が渦巻いている存在を許す訳にはいかない。


「妖怪を食らう。その行為の意味を分かってるの?」


妖怪の地肉は究極の毒だ。


精神を狂わせ力を与える、甘美な毒だ。


「ええ、それも私の研究の一部ですから。そして、それの力を得るのは我が血筋の秘術ですから」


見逃していた訳ではない。

毒をもって毒を制す。そんな存在は当然いるはずだということに。


けれども、まさかこの時代まで残っているとは思わなかった。


私は出会った事はなかったけど、聞いた事はあった。妖怪を食らい、それで得た力を使い妖怪を殺める術があると。そんな外法な妖怪退治があった事を。


これは、ダメだ。


残しておいてはいけない。幻想郷にすら存在を許してはいけないものだ。


何故なら、妖怪を食らった精神汚染は伝染して、妖怪ならざる妖怪を生むからだ。


精神が侵され、強く、そして正体のない恐怖が生まれ、形のない妖怪が生まれてしまう。それは恐怖ではない恐怖から生まれた矛盾だ。


その矛盾は自らを維持しようと、見境なく蝕もうとする。妖怪よりも遥かに厄介で脅威となる。


「研究、ね。どうして私を求めるのか、是非知りたいよ。だけどね、だけど……、君は滅びるべきだ。私たち妖怪、人間、神々、全ての害悪になる種は潰すだけじゃ足りない。焼き尽くさないと」


ここまでしておいて今さらだけど、場所が悪い。だから仕方がない。


「いただきます」


所詮、妖怪紛いといえども、矛盾した存在だとしても『恐怖』だ。私の力の及ぶところにある。


「何をした?私の力が……」


「妖怪になりかけな貴方からそれを抜き取ったんだよ。純粋な妖怪ならいざ知らず、中途半端な存在ならそれくらい出来る」


実際には食べたのだけど。


それにしても、吐き気が止まらない。吐くものもないが、あらゆる味を適当に混ぜ込んだような恐怖を食らったのだから、吐き気も催すだろう。


妖力が拒否反応起こすかの様に、私の中で混ぜられている。だけど、今はダメだ。妖力も抑えないといけない。それにコイツもどうにかしないと……。


「あら、美味しそうな人間じゃない」


私があーだこーだ考えているうちに突如として空間が裂け、そこから伸びた手が奴を掴んで引っ張り込んだ。


突然の出来事で呆然としていたが、私は気を取り直した。


聞き覚えのあるあの声は間違うことはないだろう。彼女が神出鬼没なのはいつものことだけど、それでもこの場に出てくるとは。


「先程のは何ですか?」


ここで正気に戻ったらしい専門家の一人が質問してきた。

私は困った顔をしながらも、こう答える。


「奴は、昔からいる妖怪です。正体も特にわかりません。しかし、この様な人目が多い場所では襲わないとされています」


「女性の声が聞こえましたが」


司会の人が私に質問する。


「それは私にもわかりません。しかし、仮に女性だとして、彼女にはとある通り名みたいなものがあります」


一応、番組は続いているらしくて私にカメラが寄った。


「神隠しの主犯、そう彼女は呼ばれています。現代の世の中でも活動を続ける妖怪です。私にも詳しい事はわかりませんが、そう伝わっています」


「対策などはありますか?」


「……そうですね、神隠しとはいつ起きるか分かりませんが、ただ外で人気のない様な場所に真夜中に出歩くという事は避けた方がいいと思います。白昼堂々と人前で先程の様な事をしたには理由があると思いますから」






その後、不測の事態はあったもののどうしようもないので、いい具合にまとめられて収録が終わった。


それからが大変だった。


一応、巫女だった頃もあって方法は知っているものの、やったことのない神降ろしをして、紫が拉致していった奴を探す。


背後で紫がスキマ越しに見ているのは知っていたのだが、それでも体面というものがある。


当然、見つかる事はなく、私は首を振って、警察頼みになった。


だが、引き込まれた映像がそのまま残っている以上、それは解決案よりも打開案や解釈の方が必要となる。


全く、面倒な事をしてくれた。




それから、いろいろ後をつけてきた人をうまく撒いて、こちら側の博麗神社の境内まで来た。

私を詮索したいのだけれども、そうはいくものか。


「紫、そろそろ出てきてもいいんじゃない?」


「そうね」


スキマから出た紫は呆れていた。


「いつから見てた?」


「貴女が再び幻想郷から出てからずっと。まったく……」


「なにさ」


「一人で抱えすぎなのよ。だからあの時みたいに自分でどうすればいいか分からない時に何も出来なくなる」


紫はさらに深く息を吐いた。


「たしかに貴女は妖怪としては強いし経験も豊富、それでも貴女の頭は一つなのよ?」


「珍しいね、紫が説教だなんて」


「そうね。でも貴女を放っておけないのよ。純粋に幻想郷を脅かしかねない綱渡りをしている自覚はあるのでしょう?」


私は小さく頷いた。


私のやっている事は幻想郷の存在意義を曖昧にする様な行為だ。引き際を間違えれば一大事である。


「それでも、何もしないってのは嫌でしょ。私が出来る事はしなくちゃ」


「だから、それよ、それ。貴女は全部抱えようとする。関係ないからって打ち明けもしないで一人でやろうとする」


「いやに優しい紫も気持ち悪い」


「幻想郷の未来がかかっているもの、当然よ」


私は境内に座ってから紫を見上げてから買っておいた飴を口に含む。


「じゃあ紫、私はこれからが見えない。今からどうすればいいと思う?」


「何もしなければいいと思うわ。もちろん、貴女が掲げた人を救うっていうのはやるとして」


「えっと……、何もしなくていいの?」


「時には傍観も必要よ」


「それも、そうか……」



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