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信仰計画


私は出雲に行った事はない。前世においても修学旅行で京都までであり、それより西には行っていない。


しかし、場所は一般常識として知っていたので、どうにか行けるだろう。


駅とかにおいてある旅行ガイドとか、本屋に売っている観光ガイドやらを参考にすれば行き方も分かるだろうから問題はあまりない。


移動手段は電車だ。


飛行機だと乗った事のない私には勝手が分からないし、そもそも身元不明な私たちが乗れるかは私は分からない。


それに彼女らには久しぶりの場所だ。景色を眺めながらでもいいではないか。




さて、そんな大きな路線に行くまでも電車を使ったのだが、時間が悪かったのか時期が悪かったのか、痴漢にあった。


ぶっちゃけ幼女な私は紳士な方々の理念からしてノータッチである。

姉妹は半ば気が強そうで難しい。


だからおとなしそうである雛が狙われた。


ちなみに何故理由を知っているかというと、痴漢がばれて車内で公開処刑されたからである。


そもそも相手が悪かった。


雛は厄神であり、厄を溜め込んでいる。当然抑えているし、私も能力で彼女の厄についての恐怖を具現化して操り、厄を抑えていた。


だがしかし、彼女が痴漢にあった時に驚いて厄が漏れた。彼女はミニスカートをはいていて、その露になった太ももに直で痴漢は触った。


するとどうなるか。漏れた厄は最も距離が近い者に吸収される。その厄が公開処刑を導いたのだ。


その後、雛が神様らしく説教をして事が済んだ。






さて、とんだハプニングもあったのだが、無事に出雲大社最寄りの駅に着いた。バスもあったが徒歩で向かう事に。

どこ通るかは観光ガイド(結局買った)で分かるのだが、如何せん相手の場所が分からない。取り敢えずは本殿に向かうが。


「そういえば、私は初めてだから勝手が分からないんだけど」


そうなのだ。私は今回初めてお呼ばれされた身であって、勝手がさっぱり分からない。



「夜まで待っていれば分かるわ」


まだ昼だけどね。






日が暮れてからかなり経って、日の変わりそうな時間になった。


「さて、行くわよ」


「どこに?」


「「「空」」」


ああ、なるほど。人気がなくなってから夜に空で集まると。それなら確かにばれない。けど……、


「飛ぶのはいいけど、人目があるよ」


「そう……ね……」


「姿消しの術とか使えばいいんじゃない?」


「さすがお姉ちゃん!でも誰が使うの?」


どうやら名案はあっても誰も使えないようである。


「んじゃ、私が使うから」


私は少し呆れながらも認識阻害の結界の準備をする。


「消すのは姿だけだからね」






姿を消すだけでも十分に効力はあった様で、誰にも気付かれずに空へと向かうとたくさんの人影があった。


どれもこれもが神気を纏っている。


「あのー、すみませーん。幻想郷から来た者ですがー」


私は取り敢えず叫んでみた。もちろん地上には聞こえない様に結界やらを使ってだが。



すると、一人の女性が飛んで来た。


「遠くからの御足労感謝致します。わたくしは……」


「あー、もっとフランクでいいよ」


「はい、私は天照といいます。ここの本来の祭神は大国主大神様ですが、酒ばかり飲みやがりますので実質取り纏めをさせてもらっています」


「苦労してるね……」


「はい……」


しばらく会話が止まった。


「ところでそちらの方々は知っているのですが、貴女はどちら様でしょうか?気配からして人間?いや、妖怪?……妖怪!?」


「うん、そうだね」


「よ、妖怪め!な、何でこんな所にいるんだ!さては神々を根絶やしに来たのか。そうであろう?貴様はなんという事を考えているのだ。悪逆非道なるその……」


「落ち着いて話を聞かんか」


私は軽く彼女を小突いた。


「なっ、貴様!私に害を加えるとは……」


「うるさい!名前くらいは聞け!」


「むっ……」


少し黙ってくれた様だ。


「まず、私は白嶺陽奈。手紙で呼び出された訳なんだけど、その態度は仮に目上の神だとしてもいただけないね。呼び出しておきながら退治するとか、喧嘩売ってんの?」


「貴女ごときの力なら簡単には破れますとも」


「ほぅ……、いくら最高神の一柱だといってもそんな米粒程度で私に勝てるとでも?そんなの私がわざわざ妖力使う必要もないね。霊力だけで勝てるよ」


「そちらこそ、私の能力で消し炭にしてあげましょうか?」


「やってみなよ、ただの子供の戯れにしか感じないだろうけど」


「なっ……、私の歳で子供ならほとんどみんな子供なんですけどー!」


「数万も生きてなければ私から見たら子供だね。億は生きないと」


「だからって子供な見た目じゃ、説得力なんてないじゃない。このロリババア」


「うるさい、見た目もババア」


二人でへこんだ。






どうやら手紙は大国主大神が独断で出した様で、他の神には伝わらなかったらしい。一悶着起こる訳だ。


そして天照だけど、私の前で畳が擦りきれんばかりに土下座して赦しを請いていた。



ちなみになぜ畳があるかというと、集合場所は出雲大社だが、場所はどこかの旅館という訳だ。

まあ、宴会やるとか言ってたから何となくそんな気はしたけど。

そして、その大広間にて土下座されてる。


「どうか、どうか……」


年功序列な神様界隈では年上に喧嘩を売るなんて持っての他であるらしい。


それにしても他の神は飲めや歌えやの中、一柱だけ私に土下座とはシュールである。



「おや、やっぱり陽奈じゃないか」


思考が巡り巡って、この土下座神をどうしようか悩んでいたら声をかけられた。


「あ、神奈子」


「久しぶりだな」


「うん、久しぶり。諏訪子は?」


「留守番さ。とはいっても不本意だけどね。信仰がめっきり減ってね、どちらかしか離れられないんだ。それより陽奈、何で天照様が土下座してるんだ?」


「かくかくしかじか」


「まるまるうまうま、か」


通じちゃったよ。


「それにしても陽奈、幻想郷にいたんじゃなかったのかい?」


「手紙で呼び出されてね。そういえば、何で私が呼び出されたか分からないんだよね」



「説明しましょうか?」


私が軽く溜め息をつくと、いつの間にか天照が復帰していた。


「ああ、うん」


「まず、貴女は元々ここにいるべき存在だったのですが、信仰がなくて妖怪である貴女を再度引き込むには理由が必要でした。そんな時に人間たちが戦争をして、この国が負けましたが、その頃から貴女への信仰が増大し始めたのです」


「まさか爆弾撤去って見られてた?」


「ばっちりですね。それで様々な文献を改めて読むと出るわ出るわ、平安の封獣使いの陰陽師の童女に伊吹童子を退治した少女、さらに大陸からやって来た傾国の九尾の狐を退治した少女。その他にも各地で妖怪を退けたという伝承があります」


「あー、それで?」


「そして驚くべき事にその特徴は髪を赤と紫の布で結っている黒い髪の少し変わった服を着た少女と、一致しています。さらにはいくつかの文献には、名前は陽奈という、と記されています。明らかに貴女以外の誰でもありません」


「ああ、そうですね」


「それで人間がそれを発見してしまって、当時の人の証言と完全一致で、今ではドキュメンタリー番組が組まれる程です」


「……それってヤバくない?」


「ちょーべりーばっどです。ここまで神としての貴女が知られてしまった以上、呼ばない訳にはいきません。そこで頃合いをみて呼び出した、らしいです」


「頃合い?」


「ええ。昨年までは因幡のものが来ていましたが、今年は多忙で難しいと報告があったので……」


「因幡って兎の?」


「ご存知で?」


「聞いた事はあるけど会った事はないよ」


たしかワニを騙して皮を剥かれたとかだった気がする。


「というか幻想郷にいる事すら知らなかったよ」


「はい?」


「うん」






「ふーん、竹林か。今度見てみる」


どうやら因幡の彼女は竹林に居を構えているらしい。

あるのは知っていたが誰もいないかと思ってた。なんせ妖精の気配がほとんどないのだ。誰かいるとは思うまい。


もっとも何故か私は妖精に逃げられるから紅魔館の妖精以外はまともに面と向きあった事はないけど。


「それはともかくさ、これ、いいの?」


既に宴会場では混沌とした空気になっていた。私と天照と神奈子以外は酒に呑まれている。


「毎年こうですから」


「それはどうなの……?」


「昔はこうではなかったのですが、妖怪もいなくなって平和ぼけした神々が多いですから。昔と違って人間は神頼みはあまりしてくれなくなりましたし、ほとんどは科学でなんとかなってしまいます」


「とは言っても幻想郷の外で百鬼夜行だなんて無理だしねぇ」


「神の奇跡を大々的に知らしめる方法があれば何とかなるのですが……」


まあ、どうしようか。


「私の能力でこの国を恐怖に陥れる?」


「陽奈、それは国が傾くぞ」


「やだな、神奈子。私はそんな美人じゃないよ」


「誰も傾国の美女だなんて言ってないぞ……」


「ですよねー」


はいはい、茶番茶番。


「まともに考えてくださいっ!」


天照が涙目でキレた。


「とはいっても、今時信仰しろとか言っても新興宗教に勘違いされかねないし」


「だいたい奇跡を起こせる程の力なんて今の信仰具合からしていないからねぇ」


「そうですよね……」


私たちの周りの空気が重くなる。


「……いるよ」


私は呟いた。


「だ、誰ですか!?」


「私は何でここにいるの?」


「それは……、…………はっ!」


「私には分からないんだが」


「陽奈さんですよ!八坂さんはテレビ見ませんか!?」


「まあ、見るが……」


「先週のあの伝説を追えという番組は見ましたか?」


「あのシリーズは諏訪子がお気に入りでな。毎週見てるが」


そんな番組あるのか。というか神様もテレビ見るのか。


「先週のテーマは?」


「日本を救った謎の影、その存在は古代から存在していた!?、だったか?」


「それの正体が陽奈さんです」


「は?」


「えっ、私?」


「いやいや、陽奈な訳ないだろう?黒髪で髪を2つに束ねていて妖怪退治をしていて……あれ?陽奈、陰陽師は?」


「晴明さんの弟子みたいな立場だったよ」


「完全一致……だと……!?」


「じゃ、じゃあ力を貸してくれるのですか!?」


「……そりゃあ、私だってみんなを守りたいから協力はするよ。でも、私の正体を明かすのは出来ない。それが一番手っ取り早いのは分かるし、私個人としては賛成だよ」


「何故ダメなんです?」


「私は幻想郷の住人だからだよ。幻想郷の結界は“忘れられたもの”を内包する様に作ってあるの。外の忘れられたものは中では存在出来る、逆も然りってね。それは小さな存在なら限定的に破っても崩壊する程ではないけど、私の知名度が高くなるとどうなるかな?」


「貴女が幻想郷に戻れなくなる?」


「それも正解。だけど自分で言うのも難だけど私は幻想郷にとって大きな要因の一つ。幻想郷での私の事が矛盾の解消の為に消滅するまではいいけど、それによって起こる問題が大きすぎる」


そう、私がした事が結界の効果によって、私の外での存在が大きくなる程薄れる。それが何を意味するのか。


「それは……、博麗大結界の崩壊だよ。結果として幻想郷の妖怪の大半が消滅するか、その魑魅魍魎が外に跋扈してしまうか、それは分からない。博麗大結界は動かすのは博麗の血筋だけど、作ったのは私で、また、博麗の血筋は私の血筋でもある。私が幻想郷から忘れられれば、結界も、博麗もなくなる」


「じゃあ……どうしようもないじゃないですか!」


天照が泣き叫ぶ。そう、打つ手がない。


「いや、あるさ」


神奈子が呟いた。


「私たちみたいにすればいいの。表には神々をたてるが、実の所は陽奈を信仰する形にするのよ。私たちの時には諏訪子が先に力を失っていったが、それを逆に利用する。かつ陽奈を失わない様にする」


「それ、どーすんの?どっちか強ければどっちか弱くなるじゃん」


「神降ろしって分かるかい?陽奈の力を借りて神々が力を使う。つまり陽奈は神の使いになってもらう。適当に難癖をつけて神々の信仰を主軸にするのよ。例えば……、信仰していなければ降ろせないとか言ってね」


それから神奈子はさらに細かく説明してくれた。


私の素性は神の使いだが、同時に人間、つまり現人神(あらびとがみ)みたいな形にする。八百万の神を神降ろし出来るが、その代償として成長が極端に遅くなってしまった。神々の力を使えば代償は軽くなるが、一個人の欲の為ならば、それは逆に重くなる。

私は数千年に渡ってこの年齢で止まってしまっている。理由は欲深い人間が増えたから。今になって現れたのは、知名度が上がったので、今度こそ普通に暮らしたいから。


なんて感じの設定で世に放つらしい。

ついでに神降ろしの設定を強める為に、国から出たら神降ろしは出来ない、信仰と力は比例する、という事にもした。


「でもさ、これって国の神様がみんな私の庇護下に置かれない?」


「貴女様に逆らえる神はいませんよ。最も古く、最も強い神に、逆らうなんて畏れ多くてしようとも思いません」


「そんなものなの?」


「そうです」


ちなみに私は神降ろしをしたら、その神の力を増幅して使う、といった事しか出来ない設定も付け加えた。まとめると、神降ろしと、その神の力の増幅と行使しか出来ない。


「でもどうやって広めるの?」


「そこは任せてください」



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