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呼び出されて紅魔館


ある日、私が家に帰ると小悪魔が玄関で待っていた。


「お帰りさないませ、陽奈様。お待ちしておりました」


「ん、今度はどうしたの?」


「重傷者が出ました」


紅魔館で重傷者か……。

レミリアやフランはまずないだろうし、小悪魔の様子からしてパチェでもなさそうだ。だからといって美鈴がそんなけがをする訳でもないだろう。


「とりあえず黙って来てもらえると助かります」


「あ、そう」


私は黙って着いていく事にした。






「あのさ、どうやったらこんな風になるの?」


「妹様がやんちゃしてくれただけよ」


図書館……ではなく空き部屋で私は銀髪の少女の容態を診た。


どうやら私の知らない間にメンバーが増えたらしい。

美鈴とパチェの(らしい)が組手してたし。


「一応外傷は治したし、不十分ながら動く事は出来ているわ」


「そうみたいだけど人間なのによく生きていられるよね、これで」


酷いもので、両腕の骨はたぶんヒビがあるだろうし、内臓もぐちゃぐちゃだ。


「どうやらその娘、名前は咲夜というのだけれど、時間を操れるらしいのよ。それで痛みをどうのとか言っていたわ」


つまりはおそらくずっと能力を使っている訳か。

それじゃあ霊力もいずれ尽きてしまうだろう。


「でもさ、私だって専門家じゃないしたぶん治すのは……」


「出来ないの?」


「やればいいんでしょ、やれば」


私だってあんまり反則みたいな治療はしたくない。でもしなければ治らない。


まあ、あれだよ、神力で治せば一発だ。


「……ってあれ?」


「どうかしたのかしら?」


「神力が通りにくいんだけど」


人間には比較的通りやすいのに、妖怪並みに通りが悪い。


「彼女の能力のせいかも知れないわね」


そうなると解除は難しいのだろう。


痛覚を鈍らせているのであろうから解除はショック死に繋がる可能性が大だ。


私とて万能じゃない。死なせない様には出来るが死んでしまえば生き返らせる事は不可能だ。不死にしても戻せはしない。


しない……かな?


待てよ……、昔フランが私の不死性は壊せると言ったはずだ。


「パチェ、ちょっと待ってて」


だけど私は残念ながら概念の破壊なんてしたことはない。確実に出来るのはフランだけか。


そうなるとフランを呼ばないと。


「小悪魔、フラン呼んできて!」


「え、あ、はい?嫌ですよ!?」


「だってさ、パチェ」


「私も嫌よ。だいたいなんで?」


そういえばそうだ。


フラン=狂人が成り立っているから行きたくはないだろうし、逝きたくもないだろう。


「しょうがない、私が全部やるよ」


別にフランを呼ぶのもいいが、パチェとかいるから憚られる。


私が地道に頑張るしかないさ。


「分かったわ。どれくらいかかるのかしら?」


「半月くらい」


ぶっちゃけると咲夜の霊力を回復させながら治さないといけない。彼女の霊力もそんなにないのだから。


「どうにかならないかしら?長すぎるわ」


「いや、この娘を人外にすればすぐなんだけどね」


でもレミリアは望まないだろうし。


彼女がレミリアの従者になったのは聞いた。あのレミリアの事だ。人間だから従者にしたのだろう事は想像に易い。


その時だった。


「しちゃえばいいじゃない!」


フランが扉を蹴破って入ってきた。


「けが人がいるんだから静かにしようか」


私は扉を片手で受け止めて、とりあえず壁に立て掛けてからフランの頭を小突いた。


「あぅ……」


「妹様がどうして……?」


「そ、そうですよ!」


パチェが小悪魔と一緒に目を見開いていた。……仲いいよね。


「私が今度こそ壊さなきゃ♪」


フランが狂気を滲ませながら口を弾ませる。


「まあ、嘘はさておき、咲夜……だっけ?あいつにしてはまともな名前付けたけど……、私が約束したから。咲夜を死なせないって」


フランが真面目にパチェの目を見て言った。強い光が灯っているのがよく分かる。


「らしいからパチェは小悪魔と一緒にちょっと部屋から出て欲しいんだけど。どうやら私は必要みたいだし」


「うん、陽奈は必要だよ、私の考えた方法にはね」


「その考えってなに?」


「陽奈が咲夜を妖怪にしてから妖力とかで治してから私が妖怪である咲夜を破壊する」


その発想はなかったわけではないけど問題があるんだよなぁ……。


「妖怪と人間って根本的な構成が違うから成功するとは限らないし、それに妖怪の時に治してもそれを戻すなら意味ないよ?」


妖怪となって治されても、治った事までなかった事になってしまうだろう。それでは意味がない。


「だから壊すんだよ?」


「うん?」


「“妖怪”である咲夜を壊せば“人間である”事実が残るから人間に戻るけど、それは『戻す』とは違うんだよ。壊す事は過去に干渉出来なくもないけどそれは進行していく事で過去にもならない事だってあるんだよ。仮想的な過去の破壊は現在の結果には反映されないし、それらには未来に干渉は出来ないから」


「ごめん、フランの言葉が理解出来ない」


「つまりは“この少女は妖怪である”事実の破壊はしないで“十六夜咲夜は妖怪であった”事実を壊すから大丈夫って事」


「ごめん、まだ分からない」


まったく吸血鬼の頭はどうなってるんだろう。


「凄く分かりやすく言うと、“妖怪”な部分だけ壊して、“治った”事はなかった事にならない様にするの。超限定的な破壊作業だよ」


つまりはよく分からないけど大丈夫なんだろう。


「で、どうするの?」


「何が?」


「何の恐怖を使って妖怪にするのかだよ」


「もちろんあれだよ」


フランがとあるものを指さした。


「なるほど」






さて、無事に咲夜の治療が成功し何だかあったけど特に問題がなく事が進んだので、私は里に寄ってから帰る事にした。


「じゃあまたね、パチェ、フラン、小悪魔」


ちなみにパチェと小悪魔には事後説明はした。


「そうね、もう少し頻繁に来ても問題ないわよ?」


「まったねー」


「パチュリー様ったら正直に言えばいいのに……、って痛いですよ、本の角で殴らないでくださいよ」


私は門に向かいながらもその様子を聞きつつ手を振った。




「あ、陽奈さんお久しぶりです」


「美鈴久しぶり」


そういえば今まで見なかったな……。この人門番のはずなのに。


「なんですかその目は……。仕事はしてましたよ。少し庭の手入れを頼まれていたので……」


「あ、美鈴、その人は誰?」


美鈴が話している最中に紫色の髪をした少女が通りかかった。


「あ、メグさん、こちらは白嶺陽奈さんです」


「よろしく」


「よろしくねー。ふんふん、妖怪なんだねー。あ、私はマグノリア、姉さんから話は聞いてるよ」


「姉さん?」


はて、覚えはないが。


「彼女はパチュリー様の妹ですよ」


「いやいや、こんなにアクティブな訳ないでしょ」


「まあ、姉さんとは似てないってよく言われるからね」


まあ、特徴とかは似ている気がするけどパチェと違って身体はしっかりしている。


「ああ、名前は長いからメグでいいよ」


「私も陽奈でいいから」


私たちは握手した。


「ときに陽奈」


「ん?」


「手合わせしたいなーとか」


ああ、パチェと違って肉体派なのか。


「いやいや、殺しあいとかなら別にしてたぶん私は勝てないから」


「ふーん」


刹那、もの凄い速さの蹴りがとんできた。


私はそれを身体を引いて避ける。


「危なっ!?」


「どうやら実力はあるんじゃん」


咄嗟に避けたけどメグの目が好戦的になってる……。


「助けてめーりん!」


「私には無理です!」


「人でなしぃ!」


「妖怪ですから」


どうしてくれよう、この状況。

逃げてもいいけど面倒な事になるかもしれない。


「しょうがない、相手をするよ」


「ほんと?じゃあいっくよー」


もう面倒だし、あれでいいや。


「ますたーすぱーくー」


とてもやる気がないからマスパ一発で片付けよう。


「そんなもの効かないよ!」


「なっ!?」


その魔力の奔流の中を平気で進んで私のマスパを放った右手の手首を掴んで砕いた。


「……っ」


油断は出来ない。


マスパの中を平気でいるだなんてあり得ない。


「物騒な技使わないでよー」


「だからといって手首を砕くな」


「妖怪だから平気でしょ?」


「それでも痛いけどね」


のんびりと会話をしている様でそうではなく、メグのあらゆる攻撃を頑張って左手でさばいていたりする。


「よし、能力も使っちゃっていい?」


「あー、待って」


私は神力で手首を治した。


「ほぇ……、すごい」


「そう?」


「うん、だから本気でいくね」


「いや、訳分からないし」


私がツッコミをいれる瞬間、光に包まれて今までにない速さで彼女が向かってきた。


私は妖気を思い切り解放して受け止める。


「ただ者じゃないねー」


「当たり前でしょ」


「でも残念だね」


私の身体から力が抜けた。

そしてそのまま膝をついてしまう。


「あれ?」


解放した分の妖気が全てなくなっている。


「どうかしたの?」


メグが怪しい笑みで私を見下ろしている。


「何をしたの……?」


「さあ、なんでしょー」


私はもう一度妖気を少し解放したが、彼女が私に手を翳して、その手から溢れる光が触れた瞬間に消えてしまった。


「不思議でしょ?」


「いや、だいたい検討はついたよ」


これは破魔の力だ。魔力や妖気を同等量犠牲にすれば削れる神聖な力だ。

それだけならば絶対量が多ければ問題は少ないのだが、霊気や妖気、神気に魔力と違い枯渇しても使えなくなるだけで生命維持に支障はない。また、絶対量は精神に依存する点がある事だ。

……と本に書いてあった。

参考書「よくわかる神聖な力」

もちろん我が家の本である。


これが真実なら私は不利だ。

触られただけで妖気や魔力を削られるし、もちろんその類いでの攻撃も打ち消される。

私の基本戦法が近接攻撃と遠距離からの魔法な為、もちろん彼女の力に負けてしまうだろう。


さて、どうしようか。


「検討ついたとか言って考えてるけど何でかな?」


「どうせ破魔の力だろうから、そうなると私と相性良くないなー、って思ってね。ほら、私は妖怪だから」


「そうだねー。まあ、能力は使わないと妖怪相手には厳しいからねー」


「そうか……、どうしよう……」


妖気と魔力は消されるし、霊力を用いた攻撃もそう強くはない。というか妖怪じゃないからあまり効かない。

となると……アレしかないか。


「私は神になる!」


「何言ってるの?頭大丈夫?」


「ああ、うん。言いたかっただけ」


「とは言っても冗談ではないみたいですよ」


そこで美鈴が久しぶりに言葉を発した。


「まあ、その通り。私は大妖怪だけど、この国の古神でもあるからね。まあ、八百万の神に含まれるのかは知らないけど」


一応、寝ている間に神とされたり、最近信仰が復活したりする訳だ。


「私の力が効かないじゃん」


「まあ、頑張れ」


メグが先ほど同様の速さの拳をとばしてきた。


私はそれを受け流してから神力を込めた掌打を鳩尾に打ち込む。


「あれ?」


するともの凄い勢いで斜め45度にぶっ飛んだ。


「陽奈さん、やり過ぎです」


「……加減が分からない」


「それの一厘程度で十分ですよ。神気は霊気より強いんですから」


「あ、そうか」


ついつい同じ量でやってしまった。






「うん、もう戦いたくないねー」


「本当にごめん」


どうやらあの後メグは人里に墜落したらしい。しかも寺子屋に屋根から突っ込んでしまい、修理はともかく頭突きをされたらしいが……、まあ今も頭に響くそうだ。


「いいさ、私は美鈴と一緒に組み手してるから」


「私まで巻き込まないでくださいよ!?」


そう言いながらも少し嬉しそうな顔をしている。

一人で組み手は出来ないからね。たぶん、嬉しいんだろう。


「うんじゃ、私は帰るね」


「じゃねー」


「またいらしてください」


私は今度こそ門をくぐった。


そして突然私の身体が燃えた。


とりあえず火を妖気で吹き飛ばしてから、周りを見回す。


「誰?私に恨みでもあるの?」


「ああ、あるさ」


突然私は背後に気配を感じたので慌てて距離をとった。


「どちら様?……っていう訳じゃないよね」


「ああ」


彼は小さく頷いた。


私は彼を知っている。何故ならば彼を妖怪にしたのは私だからだ。


そして私に対しての恨みも大きかったはずだ。


「それにしても……、昔の標的の所に居候しているとはね」


さらに言うと、レミリアたちが彼らに狙われていた標的であったはずだ。


「皮肉なのか?俺はもう人ではなくなったのだ。そして彼女らを殺す理由もなくなった。お前には感謝している所もあるな。おかげでこうしてまた会えた」


「なに?愛の告白かなにか?残念ながらお断りだからね」


「貴様の様な餓鬼に欲情なんぞするものか」


あ、そうですか。


「貴様を倒す機会が得られたという意味だ」


「ふーん、今からやる?」


「いや、遠慮しておこう。妖怪になったから分かるが貴様には敵いそうもない。まだまだ弱小妖怪だからな」


「じゃあなんで私を燃やしたの?」


「それで死んでくれたりすれば行幸、といったところか。一度やってみたかっただけだ。まあ、無理だったが」


「ふーん、ならいいや。また勝負したかったら連絡ちょうだいよ。暇なら付き合うからさ」


「鬱陶しいとか思わないのか?」


「うーん、少し感じるけどね、妖怪にとって退屈しのぎに勝るものはなかなかないでしょ?」


妖怪は精神に依存する存在である為に、精神の死は実際の死に深く関わる。

本当に何もかもすることがなければ考えるのを止めてしまうだろう。それが精神的に危うい状態であり、妖怪には致命的だ。


「そうなのか?俺には分からないな。まあでも理由は分かった。連絡はどうすればいいのだ」


「美鈴に聞いて」


「うむ」




それからようやく私は帰路についた。



後で咲夜視点も書こうと思います。

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