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普通の少女


始まりは紫の一言からだった。


「陽奈、道具屋の子供が生まれるわ」


「あの霧雨さんち?」


「そうよ」


「でも珍しいね、紫が興味を持つなんて」


「ときに陽奈、奥さんを見た事あるかしら?」


「そういえばないね」


既婚者だったのも今知った気がするし。


「身体が弱いのよ。つまり……」


「危険ってこと?」


「そうよ」


「なら、助けようよ!」


「助けたいのはやまやまだけどダメよ。私たちは幻想なの。人間一人を救って幻想でなくなってしまえば……どうなるかしら?」


幻想の存在が危うくなる、ってことは分かってる。一つの因果から無視出来ないまでに広がってしまう。それは分かっている。


「でも見殺しには出来ないよ」


「じゃあどうすればいいのかしら?」


「私が要になる。本当に幻想なら外では語られないでしょ?でも例えば萃香、酒呑み童子とかは外でも語られてる」


「とはいっても現代に直接関わってはいないわ。貴女はそれを犯そうとしている。それくらい分かるでしょう?」


頑なに紫は拒む。

理由は分かるよ。分かるけど。


「つまりは外と幻想郷で共存するものを他にも作ればいいんだよね」


「ええ。でも支障がない様な場所があるのかしら?」


「一カ所あるよ」


「どこなのよ」


「博麗神社だよ」




博麗神社は博麗大結界の要であり、境界にある。その不安定な位置を安定させればいい。共存という形で。


「……というわけ」


「……もう好きにしなさい」








私は外に飛び出してから急いで霧雨家へ向かった。


着くと店は開いていた。


「いらっしゃい、……陽奈ちゃんか」


「久しぶり。紫から聞いたよ、子供が生まれるって」


「でもな……」


おじさんの顔が少し曇った。


「その奥さんを助けに来たんだよ」


「本当か!?」


「それで奥さんは?」


「……奥の部屋だ」


この時代、病院で出産が普通なのに珍しい。


「俺は行けないんだ……」


「何で?」


「男子禁制。男は立入禁止だ」


あ、さいですか。

でも考えれば分かるか。


私の前世(?)では旦那さんも一緒に手伝うスタイルもあったしなぁ。

まだないのか。


そういえば、もし同じ世界なら……、


「陽奈ちゃん、早く行ってくれ」


「うん、そうだね。出産って辛いから早めに行かないとね」


「なんか出産を知っている様に聞こえるんだが……」


「出産経験ありますから」


おじさんの口が塞がらないくらいに開いていたが気にせずに先に向かった。






「子供は帰りな!」


産婆さんと医者に追い出されてしまった。


奥さんの顔を見たが、あの症状は見た事があった。現在では未知の病なのだろうが過去になかった訳じゃない。

未知というよりは症例が全ては合併症に過ぎないだけだ。何故か治らないのではなく、治ってもすぐに罹ってしまうのだ。


顔とともに感じたもの、やはり霊気の極端な不足と循環が悪い事。身体が弱いのは霊気が十分に行き届いてない事に由来する。

免疫などは正常だが働きが弱かったりする。


現代科学では解明不可能だ。


「母体が危険なんだよ!」


私は再び侵入した。


「それ以上邪魔すると母体も……」


「うるさいヤブ医者!どうせ薬漬けにして体調をどうにかするしか出来ない癖に!」


「しょうがないでしょう。子供がどうこう出来る病では……」


医者が私を制そうとする。


「あー、もう。私が全部やるから」


「経験もないのにどうすんだい」


次に産婆が突っ込んだ。


「出来るから!」


「駄々こねるんじゃないよ!子供産んだ事ない子供に何が分かるのさ」


「さっきから子供子供って……、いいから出ていけ!」


私は二人を引っつかんで強制退場させ、扉を閉めて結界で遮断した。


「あの……、貴女は?」


奥さん(仮)が口を開いた。


「明夫さんに頼まれてね。私は白嶺陽奈。ところで陣痛は?」


「今は少し……うぅっ……」


「今治して、ついでに産んじゃおうか」


「え、は、はい」


私は彼女に手を触れる。


「いくよ」


私は倫理結界を展開した。


「イメージして。自分の中で絡まった糸が解けていく感じで……」


「むー」


目を一生懸命に閉じている。


私は倫理結界を維持するだけだ。この中なら痛みを考えなければ痛みはない。けがを負っているとそれを意識してしまうが今回はそうでもないし、痛みが退いている時だったから没頭してくれるだろう。


「はい、出来ました」


「じゃあ次に元気な子供を産もうね」






程なくして産まれた子供は女の子で魔理沙と名付けられた。


あの後、お詫びをしたり後を任せたりしたが、産婆さんに


「どこで教わったんだい?」


と、聞かれて困ってしまった。


「秘密だよ」


「生意気なガキだね」


「まあ、認めるよ」


でも、どうにかなった。






それから成り行きで魔理沙の教育係(ちなみに給与あり)にされて数年が経った。


魔理沙には俗にいうお嬢様教育をしているのだが、


「なぁ、陽奈ちゃん、どーすればいいんだ?」


口調がヘンテコになった。


「口調を慎ましくしなさい!」


「いーじゃねーか、どうすればよろしいのですか?、なんて私には似合わない。だいたいこの口調は陽奈ちゃんと親にしか使わない」


魔理沙は表と裏をはっきりとさせていたのだ。素の自分は身近にしか晒さない、とか言っていた。


なのに魔理沙はまだ五歳くらい。


なにこれこわい。







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