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ものはだいじに

異変です。なんだか長引いてしまってあと数話は続くかも。


世は流れ、万の物が跋扈せば数多なる物々打ち捨てらるる。然れば物々畏れに因りて妖きものになるなり。








私は外の世界で買い物を楽しんでいた。服装を見た目相応のものにしてみたら紫に笑われ、むかついたので紫も連行する事にして。


まず花屋へと赴き、幽香へのお土産に種をいくつか購入する。お金は紫の財布(何故か持っていた)から拝借した。


次にデパートで様々な文房具を購入した。これは寺子屋の為。紫も快くお金を出してくれた。


「外の世界も……変わったわね」


紫が唐突に呟いた。


「これからもっと変わるよ。今では考えられない様なものも出来る様になる」


「その根拠は?」


「長年の勘?」


「年寄り臭いわよ」


「そっちこそ胡散臭い」


私たちは笑い合った。








しばらく通りを歩いていると明らかに時代遅れ―いや、この時代なら時代遅れではないのかも知れない―なバンダナを巻いたり、変にスカーフとか付けてる奴らに声をかけられた。


「ねぇ、そこのお嬢ちゃんたち、ナウい俺らと……」


「お断りしますわ」


「同じく」


こういう輩はいつの時代でもいるのだ。


「そこの小さなお嬢ちゃんも固い事言わずにさ、ねぇ」


「君らって親子?姉妹?」


「友人ですわ。私たちを誘ってどうなさりやがるのですか?」


あ、鍍金が剥げて来た。よく見ると、微笑む紫のこめかみに青筋がうっすらと見える。


「私たちの年を考えてほしいよね……。ねぇ紫」


「君は紫っていう名前なんだ。可愛い名前だね」


更に紫の青筋がくっきりしたのが見えた。私ですら悪寒が走ったくらいだから紫には鳥肌ものだろう。


「君らって何歳なの?」


なんか失礼な奴もいる。


男は4人、こちらは2人。


「私は永遠の16歳よ!」


痛いよ、見てて痛いよ、紫さん。


「私はだいたい10くらいかな?」


ゼロを8つくらい鯖を読んでおく。


「俺は黒髪の方が好みだなぁ」


「俺は金髪のねーちゃんだ」


私たちはたじろいだ。


「あの……、私が好みって……、幼女性愛者(つまりロリコン)?紫は見た目よりは相当年くってるし」


「そうですわ。陽奈が言ってしまったのだけれども、私はもう貴方がたには相応しい年齢ではありませんわ」


ごめん、紫。お願いだから顔を引き攣らせないで。


「ですから、年若い陽奈を今のうちに手込めにするのはいかがかしら?」


え゛っ?


「そうだよな、割と大人しいし」


「状況を理解出来る頭もあるようだしな」


「そうですのよ。秀才な友を持つのは実に誇れますわ。ですから経験も積ませるべきだと思いますの」


おいおいおい、待った。何故紫の話を鵜呑みに……、境界を操られてますね、はい。

経験?何の経験だよ……。


「普段は清楚でも時にははしたない女性も浪漫じゃありません?小さいうちに仕込めば……」


・・・。


ナニの経験?


いやいやいやいや、私は今後誰とも寝る予定なんかないし、生涯界人だけと思ってるし。


「ただし、簡単に友人を渡す馬鹿ではないですわ。これから質問を一つしますわ。それの答えによっては私もお手伝い致しますわ」


「いいぜ!」


紫が口を少し吊り上げたのが見えた。何か企んでいる顔だ。


「貴方を食べていいかしら?」


「いいぜ、やってみろ。俺が食べてやるぜ」


彼の生涯は幕を閉じた様だ。


彼は性的に捉えた様だが、紫は比喩でもなく食べる事だ。


「ありがとう。さて貴方たち、私たちは妖怪、つまりは化け物なのよ。食べるというのは私のお腹に入って貰う事。騒いでも無駄よ。周りの人は私たちを認識出来ない」


境界を弄ったのだろうか。男たちが何をしようと影響も出ない。


「最後のチャンスをあげるわ。陽奈をこれから一分以内に捕まえられたら逃がしてあげる」


なんで私なのかなぁ……。まあ、逃げますか。




ぶっちゃけ飛んだら余裕でした。


男たちは敢え無くスキマへ。


「陽奈、スカートの中が見えてたわよ」


「ばっ、ばか!早く言ってよ」


ああ、恥ずかしい。








またしばらく紫に着いて歩いていた。


「どこに行くの?」


「じきに分かるわ」


紫は私に付き合う代わりに私をとある場所へ連れて行きたがっていたので従う事にした。






「ここは?」


「老舗の道具屋よ。ここの主人に頼まれ事があるの」


うん。道具がたくさん無造作かつ整頓されて置かれている。


「ごめんください、店主はいらっしゃるかしら」


「あ、はい。おられますので少々お待ちを」


紫は10代前半くらいの眼鏡を掛けた子供に事を伝えた。いや、果たして子供か。


「紫、さっきの子供ってさ……」


「ええ、半妖よ」


そう、妖気が微弱ながら感じられたのだ。


「まだ妖怪が残ってるってこと?」


「そうなるわね。それより、どうやら店主が来たみたいよ」


奥から大柄な男性が出て来た。

道具を運んでいるうちになったであろう逞しい肉体は思わず見取れてしまいそうになった。


「八雲さん、そのちっこい餓鬼は誰だい?」


存外失礼なおっさんである。


「友人ですわ」


「ではこいつも妖怪か?」


「そうですわ」


「ちょっと、紫、説明してよ。なんで妖怪やら何やらこの人は知ってるの?」


既に忘れられているはずなのに。


「それは彼が幻想に関わってしまっているからよ。道具というのは忘れられてゆくものもある。それを回収するのが私の役目。放っておくと妖怪になってしまうわ」


そういえば昔に唐傘お化けを見た覚えがある。


「それじゃあ幻想郷に持ち帰るはいいとして、どこにそれを置いておくの?」


「今までのは私の家の倉庫に入れてあるわ」


のは、って何だ、のは、って。


「そこで何か置き場所がないかしら?」


「家にはない」


「そうよね……」


どうやら紫の目的は妖怪を増やす事らしいから私の家ではダメだ。魔法の森の比較的奥地な為に魔力的な影響は計り知れない。当然、行く末は妖怪ではない何かになるであろう。


「まあ、後の事は後で考えろって。ほら、お嬢ちゃん方、あがりな」


おっさんに促され、私たちは店の奥の居住スペースへと足を進めた。






「そういえば嬢ちゃんの名前を聞いてないな」


お茶を出されてすぐに名を聞かれた。


「私は白嶺陽奈。こう見えても紫よりも長生き」


私は少し誇らしげに胸を張った。虚しいのは分かるけど……ね。そこ、小さいとか地平線とか言うな。


「嘘言うなって。近所の餓鬼といい勝負だろうが」


がはは、と彼が笑う。その気持ちは分かるが素直に受け止めたくはない。


「陽奈は嘘は言ってませんわ。言う必要もなく、意地も張りませんわ」


「いや、意地は張るけど。ああ、あれか、紫は胡散臭いから見た目より老けて見えるのかも知れないね。見た目は若いのに……」


「そうだよな。黙ってりゃ別嬪さんなのにな。勿体ないよな、ちびっ子」


彼はうんうんと頷きながら口に出す。


「勿体ないよね、やっぱり。あと、ちびっ子言うな」


私も彼同様に頷く。


「……話がそれていますわよ」


少し曇った声で不機嫌に呟いた。


逃げたか。


「そうだったな。陽奈ちゃん……でいいかい?どうして連れて来られたんだ?」


陽奈ちゃん……か……。このおっさん面倒臭そうだしな……。妥協するしかないか。


「あ、うぅ……、陽奈ちゃんでもういいや……。紫の目的は心を読んだりしない限り分からないから。どうして私を?」


私は紫に尋ねた。


「貴女の言動が気になっていたのよ。本気になる前に必ずといっていいくらい、周囲の小妖怪に気を配っているわよね。近くにいると消滅する、と」


「ああ……、確かにそうだね。弱い妖怪ってさ、恐怖そのものに近いから私が本気を出そうとすると周囲の恐怖と一緒に引き込んじゃって存在を危なくさせちゃうんだよね……」


昔、人間との戦争前に一回しちゃったおかげで戦力が減少した苦い経験がないことはない。欝陶しい雑魚を掃除するのにも使ったけど。


「詰まるところ、逆の事をして妖怪を増やせないかしら?」


「人間を妖怪にしたことはあるけど……、ものは分からないよ。でも、仮に出来てもしない。私がやると能力持ちになって幻想郷のバランスが崩れかねない」


能力持ちの存在がたくさんいるのはよろしい事ではない。能力持ちは種類にもよるが使えるカードを余計に持っていることになる。

そんな者たちが一つの集まりに増えれば、天秤の如く、一瞬でバランスが危うくなり、とちらかが危うくなる。ましてや、妖怪というピラミッドの上部を増やすわけでよいことではないのは明らかだ。


「それは……、陽奈が教育すればいいじゃないの」


「嫌だね」


私はお茶を啜りながら断固拒否した。


「能力持ち、と言ったわよね。弱い能力ではダメなのかしら?」


例えば、ラップ音を出すとか、と紫が付け加えた。


「そこまで紫が言うのも珍しいね。じゃあいくつかの道具はやってみようか」


「あら、ありがとう」


「ただし、報酬をいくらか貰うよ」


「現金ね、貴女」


紫には言われたくはない。


「で、話は済んだかい?」


そういえば、おっさんがいたな。


「はい、全て引き取らせていただきますわ」


「そりゃあよかった。ところで一つ見てほしいのがあるんだ」


私たちは促されて倉庫へ移動した。






「これだ、これ」


持ち出されたのは木製の箱だった。


「こいつは俺じゃ扱えねぇ。気を強く保たないと危なくなるくらいヤバイ雰囲気が滲み出てるんだ」


見る限りはただの箱だ。


「開けるぞ?」


箱が開かれるとその考えは吹き飛んだ。


溢れんばかりの狂気に禍々しい程に極上な恐怖が、そして妖怪に匹敵する程の妖気を持つ美しい刀があった。


おっさんの顔には玉の様な汗が浮かび始めた。紫ですら気を張っている様子だ。


「おじさん……?名前を聞いてなかったけど……、無理しないで蓋を一回閉めてくれない?」


蓋持ってるのは彼だから。


彼は無言で蓋を閉めてから大きく息を吐いた。


「俺は霧雨明夫(あきお)っていう。さっきみたいにおじさんとでも呼んでくれ。それよりも二人とも……、これをどうにか出来ないか?」


「私は無理ですわ。貴方ほどではないにしろ気を張らないと呑まれそうでしたわ」


紫があっさりと手を引いた。


「じゃあ……、私か」


「陽奈ちゃんは大丈夫だったのか?」


「びっくりしたけどね」


私は置かれた箱の蓋を再び開ける。ただし、結界を張ってだが。


「これってかなりの業物だよね?」


「村正とかいう奴らしい。坊主が言ったんだ、間違いねぇ」


村正って……まさかね。


「坊主って……さっきの子?」


「ああ、あの餓鬼は森近霖之助っていってな、見た道具の名前と用途が分かるっちゅう能力があるらしいんだ」


「ふーん、それは便利だね」


私は刀を改めて見る。


村正といえば妖刀として名が広く知られている。業物の中の業物で使い手は負ける事がなくなるという程に。けれど血を吸い過ぎたのか恐怖を孕み、いつしか持つ者が死を運ぶ様になったという代物だ。


狂気が私を侵そうと絡み付くが全然効かない。ぬるい。


そして染み付いた恐怖。……美味しそうだ。思わず舌なめずりをしてしまう。


「刀を相手に舌なめずりって……、陽奈ちゃん正気か?」


スルーしておこう。


「この刀って私が引き取るけどいいよね」


「引き取ってどうすんだ?」


「力をいただく?だって……美味しそうだもん……」


ああ……、待ち切れない。


「それで無害になるならいいけどな」


「なったら譲るし。私には勿体ない代物だからね」


都さんあたりにでもあげれば使いこなしてくれるに違いない。けれど狂気も取り除かなきゃいけない。


「さて……」


私は改めて箱と刀を見る。


お札で中がびっしりと埋め尽くされていて、まるで緩衝材のようだ。


「陽奈、まさか……。やめなさい!」


紫は気付いた様だが耳を傾けずに刀を手に取る。


・・・。


「結構やばい……。紫、結界張って……」


「無事……なのね」


「いいから張ってよ。これからリボン外すから」


「分かったわ」


ゆっくりと片手で赤いリボンを解き、片手では刀を握る。


紫が結界を張った様なので私は結界を自壊させる。


「ねぇ紫、私にはこれ長くて使える訳ないよね」


「え、えぇ……」


私の身長の八割はあるんじゃないだろうか。実際の刀って意外と長くて重い。加えて業物のこれだ。丈夫に作ってあるのか妖怪レベルに身体を強化しなければ私には持てない。


ちなみに私の地力は抑えると人間の八歳未満だった気がする。認めたくはないが。いつもは数割妖怪レベルだが外に来るからという理由から妖気を一厘ほどに抑えていたのだが、どうにも見た目相応より非力になってしまう。たぶん握力とか6kgくらいかも知れない。


余談はさておき、絶賛狂気に侵食されている。


「紫、ちょっと暴れるから」


「分かったわ。強度をあげればいいのね」




さて、狂気を飲み込みますか。






結界を強くしてから陽奈がしばらく黙ってしまった。私は不安でしょうがない。あの狂気は陽奈でも耐えられるかどうか分からないから。


「ふふっ……ふふふふふ。あはははははははははは」


陽奈の笑い声が響いた。

狂った様に笑いを止めずに濁った瞳で私を見つめた。


「ねぇ、紫。コイツ、私を操ろうとしてるよ。あはははははは、笑っちゃうよね」


結界越しでも感じられる狂気。それに呑まれない陽奈はいったい……。


「操れると思ってるの?やってみなよ。私にはただの刀に過ぎないからね。ふふふふふ……、あははははははははは」


……陽奈も狂ってないかしら?


「ひ、陽奈?大丈夫?」


「あー、うん。正気は保ってないけど無事だよ」


言ってる意味が分からない。


「狂気は狂気で飲み込むのがいいかなって、ね」


どうやらこの狂気は陽奈のものらしい。


「もういいよ。十分食べたしね」


陽奈が自らのスキマに刀を放り込んでしまった。


「陽奈ちゃん、何を食べたんだ?」


「んー?……恐怖♪」


陽奈の笑顔はとっても爽やかだった。






さっきは狂ってましたね、私。

私はフランと違って狂気をあんなに器用に操れない。狂気に慣れていないから少し狂ってしまう。自分から狂気を出すのは辛いものだ。


「じゃあ帰るわよ」


「え、ああ、うん」


「じゃあな、また来てくれよ。陽奈ちゃんみたいな子供なら大歓迎だ。もちろん、八雲さんもな」


「ええ、また」




私たちはその後に魚を大量に買ってから幻想郷へと帰った。


魚は何に使ったか?

もちろん全部六花の店に卸した。






そんなこんなで紫の家である。


「藍、茶はいいわ。手土産でも用意してあげなさい」


「紫様、そんなに時間の余裕がありません」


これは紫に藍を押し付けたのは失敗だったかもしれない。

おそらく全部任せっきりと見た。


「紫、自分の家の仕事くらいしなさい」


「なによ、幽々子だって……」


「幽々子は紫と違ってしっかり仕事はしているからね」


自由奔放な幽霊の管理は割と面倒臭いらしいし。しかも死人に口無し、相手の主張は明確には分からないから余計に大変だろう。


「そ、それよりも倉庫に案内するわ」






「ここよ」


倉庫よりは蔵が正しいだろう。


「妖怪になっても無害そうな扇子とかから頼もうかしら」


紫がどこからか取り出した鍵で南京錠を外しながら言う。


「たくさんあるから探すのも手伝ってちょうだい」


「はいはい」


程なくして倉庫の扉が開いた。というか鍵を付けすぎでは……。


「何よ、これ」


「どうかしたの?」


私が紫に続いて見ると倉庫が空っぽになっていた。







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