苦労人、魂魄妖夢
いや、妖夢が自機になるらしいので。
はい、書きました。
私の名前は魂魄妖夢。白玉楼の庭師にして剣士の半人半霊です。白玉楼の主である西行寺幽々子お嬢様に仕えています。
私の祖父である先代、魂魄妖忌が失踪して以来、私が一人でお世話をしております。
これから話すのは私の身に降り懸かった奇妙なお話です。
ある日、私は冷蔵庫の中身を見て絶望しました。
「空っぽですね……」
昨日買った食料が全てなくなっていました。幻想郷では珍しい海の魚もたくさんありましたのに。
ここ最近、冷蔵庫に限らず食べ物が忽然となくなるのです。
先代ならどうやって切り抜けるでしょうか……。
「とりあえず買いに行きましょう」
今なら朝市もやっているでしょう。
「いらっしゃーい。妖夢ちゃん、またお魚かな?」
「はい。また海の魚でお願いします」
私はいつも通り、生鮮食品店で魚を買います。このお店は冷凍して売ってくれるのでありがたいです。
「いつもボクの店を贔屓にしてくれてありがとねー」
「いえいえ、こちらこそ。ところで先日いただいた鮪という魚は切り身でしか売っていないんですか?」
幽々子様も絶賛していた魚です。何故、切り身でしか売ってくれないのでしょうか……。
「うーん、一応あるけど……、一匹250万くらいだね」
「な、なんなんですか!?」
余りにもぼったくりです。そんな魚一匹にしては高価過ぎます。
「君さ、鮪知らないでしょ」
「はい、お恥ずかしながら……」
「しょうがないな……、ちょっと待ってて」
六花さんが店の奥に姿を消してしまいました。
私がしばらく待っていると、抱えられない程大きな魚を六花さんは持って来ました。さすがは妖怪、力持ちです。
「これが鮪。捌くのには特殊な技術がいるんだよ」
……こんなに大きいのが鮪なんですか?
「これで普通の大きさだからねー。ちなみにあの切り身って陽奈が切ってくれたのだからね」
「そうなんですか……。では陽奈様に教えて貰う事は出来るでしょうか?」
「たぶん大丈夫じゃないかな?」
「じゃあ陽奈様の家に向かうので荷物預かって貰えますか?」
「いいよー。ちょうど切り身も少なくなって来たし、よろしくー」
私は六花さんに食べ物を預け、魔法の森へ向かいました。
魔法の森に着きましたが……、
「とっても危なそうです……」
噂に聞いた通り森からたくさんの奇声やら悲鳴の様な音がして、怖くて入れません……。
空から探す為に空へ飛びます。
「なかなか見つかりませんね……」
森が歪んでいますし……。あれ?森って歪むでしょうか……?
「はっ!」
いつの間にか気絶していた様です。それにしてもここはいったい……。
知らない天井ですね……。
「お礼を言わなければなりませんね……」
ガラッ
「あ、起きてた?」
「陽奈様!?」
「うん?そうだけど。妖夢が空から降って来てビックリしたよ。どこぞの烏天狗みたいだよ……」
ここって陽奈様の家なんですか……。
「そうだ!鮪の捌き方を教えてください!」
私は土下座しました。
「いいけどさ、どうしたの?唐突に」
「幽々子様に味わって貰いたく……」
「幽々子っていっぱい食べるもんね」
「そうですよ……って本当ですか?」
「えっ?知らなかったの?」
「はい。最近食べ物が忽然と消えたり……」
「うん、幽々子が原因だ」
まさか……でも……
「幽々子様がそんな事をするとは思えません!」
さすがに幽々子様でもそれはないはずです。
「それじゃあ覗いてみよっか」
陽奈様が空に手を滑らせて紫様の様にスキマを……
「スキマ!?」
「あー、私も開けるの。ほら、見てみなよ」
スキマの向こうに幽々子様が見えます。
「よぉーむぅー、どこー?お腹空いたわー」
私を探しながら台所を漁っている幽々子様がいました。
「妖忌はこれを防ぐ為に半霊で見張って料理してたし、食材も残らない様に大量に作ってたからね……。普段も屋敷への不審者と台所への不審者の気配を察知してたし」
せ、先代って……。
「じゃあとりあえず六花の所に行こっか。鮪ってそこにしかないし」
「あ、はい」
六花さんの所で鮪の解体(捌くよりこちらの方が適当です)を習い、私は鮪とともに白玉楼へ帰りました。
「幽々子様、帰りました!」
「よぉーむぅー、ごめんなさーい。ご飯作ってぇー」
「はいはい、今作りますから」
「ふう……たくさん作りすぎましたか……」
船盛に刺身にそれから炒め物に……。
「幽々子様、出来ましたが運べないのでこちらへ来てください」
「わかったわ〜」
ふよふよと幽々子様がいらっしゃった。
「「いただきます」」
「「ごちそうさまでした」」
私は食器などを片付けます。まさか船盛を食べ切るだなんて……。
「そういえば幽々子様、今まで食事が少なくすみませんでした」
「そぉーよー。今日くらいがいいわ〜」
「はい。朝昼晩に間食二回に夜食を付けますから。ただし……、漁ったりつまみ食いする毎に減らしていきますので」
私は皿洗いが終わって手を拭きながら忠告します。
「うっ……分かったわ。妖夢ごめんなさい……」
「ああ、ちなみに材料は減ったらすぐに分かりますからね」
これ以来、幽々子様のつまみ食いは少なくなりました。
そして食べ物もそんなに減らなくなりました。