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ある夏の昼下がり

遅くなりました。

プロットの時系列の矛盾解消に時間が掛かりました。

10年程ズレていましたね……。

しかも書いている途中に気が付いたので書き直し、置換を行っていた訳です。


以上で言い訳は終わります。




私は今、結界の外にいる。


そして世はまさに戦争ムードだ。


相手は大国アメリカ。そう、後に太平洋戦争と呼ばれる戦争。


それで何故、私が外にいるかといえば答えは簡単だ。


地球上使用された最凶兵器、大量殺戮兵器を阻止する為だ。あんな嫌悪の感じる恐怖は、もういらない。


私は恐怖を吸収するが、同時に多くの嘆きや悲しみも受け止めてしまう。やはり私の精神にも負担が大きい。

特に悲しみは、まるで怨念の様に私の中を木霊し続ける。


未だに私の中ではえーりんの時代の巻き込まれた人たち、さらには中性子爆弾の犠牲になった者たちの負の感情も渦巻いている。


つまり、原爆を叩き壊す。

被害をなくす。


それが目的だ。

日本が降伏しなくなるかも知れないが、そんな事は知らない。


しかし、問題が一つある。


私は放射線などは留められるが爆発は抑えられない。


出来るだけ秘密裏に行いたいので、魔法を大々的に使う事は出来ない。


威力を出来る限り下げる、という方法もあるがそれだけだと難しいだろう。


スキマに入れる、とすると、数年間はスキマの中にフォールアウトが発生するだろうし、大気汚染も計り知れない。

洒落にならない。

特に誰かを入れる予定はないが、被爆してしまう。


爆発させない様に受け止めて、宇宙でばらすか。……でも宇宙行って大丈夫かな?


妖怪でもさすがに生身は危ないよね……。


でも、そうするとどうしようか……。








数日経って、私は今、広島県産業奨励館付近上空にいる。私の記憶が正しければこの付近の病院上空で爆発するはずだ。

私が四方を目を凝らして見ると、一機の飛行機がミサイルの様なものを抱えているのが見えた。妖怪の視力に感心しつつも、私はそれが、かの有名な――いやこの世界では有名にならないかも知れない――爆撃機(B−29)エノラ・ゲイであると確信した。

投下前に止めるという手もあったが、それだと後々面倒事(投下失敗=原爆はどうなる?)になる気がしたので、私は別の方法、いや、数日考えた末の答えを実行する事にする。


そんな考えに浸っていると、遂にそれは機体を離れた。




私はすぐに移動し、そして爆撃機が急旋回した時、それをやんわりと受け止める。


このまま宇宙に放り投げようか。ふとそんな考えに陥ったが亜音速でないとダメだからその衝撃で爆発する。


という訳で当初の予定通りに運ぶ事にした。







そんなこんなで2日飛んで、太平洋のど真ん中だ。

ここなら捨ててもあまり問題はないだろうが、捨てたら捨てたで別の問題が発生しかねないので処分する。


方法は簡単だ。起爆すればいい。


私は周囲に頑丈な結界を張る。そして更に倫理結界で固める。


そして私はソレを起爆した。




強烈な光と音とともにメガトン級の力が私に襲い掛かる。


けれども水爆をくらった時よりは遥かに弱いと感じた。それでも目茶苦茶痛いが。それでも死ぬ気配のない妖怪ボディに万歳。


身体の露出部分がずたずたに焼かれ血が噴き出しているが、神力で回復………、って……


「神力が回復してる?」


とりあえず身体を(治すではなく)直し、放射線を霧散させた。




おかしい。


私への信仰は数千年前に消えたはずだ。


なのに何で信仰が流れて来るんだろう。


私は神様パワーを研究した事はないので、信仰は感じ取れるが、具体的には分からない。

諏訪子とか神奈子は信仰から願いを読み取っている様なそぶりもあったが、私は出来ないから分からない。






一仕事終えた私は帰る途中で酷く嫌な感じがした。


粘着質で離れない様なヘドロの様な感覚。


私はその正体を認めたくなかった。


すっかり時差やら何やらを忘れていた事に気付く。

さらにはもっと大事な事も。




長崎の原爆だ。


私は完全に忘れていた。


拒否したい恐怖と負の感情が私の中で嵐となり、そのまま暴れる事を止めようとしない。


経験した事はあっても、あの時よりも数が桁単位で違う。


私は耐え切れずに意識を闇に放り投げた。








暗い……。


ここはどこだろう。


いや、知ってる。


ここはどこでもあって、どこでもない。


暗闇の海へと落ちる堕ちる。


私に纏わり付くのは、なに?


受け入れたくもないのに私の身体に容赦もせずに入り込む。


その身に起こる事は怖い反面、歓喜している自分がいる。


やめて。


やめて。


いらない。


ほしい。


ちょうだい。


嫌だ。


沈む沈む闇の彼方へ。


私は誰?


私は私だ。


否、私は畏れ。


分からない……。






目が覚めると知らない天井が私を俯瞰していた。


寝間着に着替えさせられ、私は布団の中に寝かされていた。


ここ、どこ?


純日本家屋らしい。


それよりも気になるのは私の状態だ。


リボンはしっかり私の朱い髪を束ね、封印がかかっている。


封印が弱まったのだろうか。


いや、むしろ少し強いくらいだ。


それでも封印しきれていない。


そうだ、私は恐怖に呑まれて……。




しばらくすると襖が開いた。


「陽奈様、起きましたか……」


ふぅ……、と彼女が息を吐く。


「紫は?」


「紫様は疲労からお休みになられております」


彼女は八雲藍。紫の式だ。とするとここは紫の家なのだろう。


「疲労?」


「はい。貴女を抱えて来て、私に預けてからすぐに倒れる様にお休みに」


「紫がそんなに疲れるだなんて……」


「私も信じられませんでした……。いきなりスキマに身を投じ帰って来るとボロボロでしたから何かがあったのでしょうが……、妖気の残り香からして陽奈様としか思えないのです」


私が!?


「私は何にも覚えてないけど……」


「では、紫様がお目覚めになるまで待ちましょう。何かお持ちしますね」


そう告げると藍はどこかへ向かって行った。







しばらく待っていると藍が雑炊を持って来た。


「自分で食べられますか?」


「そもそもお腹空いてないけど」


「紫様から頼まれた訳ではありませんが、相当疲労されてるご様子ですので食べてください。式とは云え私も妖怪です。貴女の妖気の乱れは分かります」


私が疲れてるから乱れていると。


違う。


しかし私のお腹はきゅぅと鳴いた。やっぱりお腹は空いていたらしい。


「じゃあ、いただきます」


私は少し微笑む藍から受け取った。


それを口に運びながら尋ねた。


「私の服ってどこにある?」


「洗濯しました」


「紙袋が入ってなかった?」


「薬らしいですけど、使用期限が切れてましたから処分してしまいました」


なんてこったい。


八意印の薬が……。


「ちなみに使用期限が200年くらい前でした」


「マジで?」


「マジです」


私が驚愕していると藍からさらに疑問が飛んで来た。


「ところで陽奈様、あの薬はどのような効果があるのですか?一つ拝借して調べましたが今まで見た事のないものばかりが入っていました。少し舐めてみましたが目眩がしましたので気になったのですが……」


「私の暴走した妖気を一般妖怪程度に抑える薬だよ。たぶん成分は劇薬ばかりだと思う」


あのえーりんがまともな材料で作るとは思えない。


「そうなんですか……。薬師を教えてもらえませんか?」


「うん、それ無理」


どこで生きてるか分からないし。


「そうですか……。続けて悪いですが紫様が参りました」








「あれは貴女なの?」


紫はお茶を啜りながら私に問う。


「ごめん……、記憶にない。紫が大変だったのは分かるけど」


「そうよ。外の世界で何をして来たのかしら?貴女には関係ないでしょう?」


「あるよ。あの恐怖が博麗大結界ごときで防げると?さすがに無理だよ」


「あの恐怖…………、原子爆弾ね。何故貴女が知っていたかは聞かないけれど……、貴女でも受け入れたくない恐怖はあるのね」


紫が珍しい、と呟く。


「正気を失って、あんな状態になるのを知っているなら嫌がるに決まってるでしょ」


「あら、どんな状態になるのか分かっているのね。記憶がないんじゃなかったのかしら?」


まあ、確かにそうだね。


「直前の状態から推測くらい出来るよ」


「そう……」


「あの……、陽奈様はどの様に……」


藍には疑問だったらしく聞いて来た。


「今みたいに髪と目が朱くなって恐怖を辺りにばらまきながら狂い回る、といったところかしら?私も危なかったわ。世界が軋んでいたわよ。私みたいに自分の空間を持っている者たちが気が付いたから協力して止めたのよ」


アレ……?予想以上にヤバかった?


「私が境界を出来る限り操ってある程度無力化、魔界の神を筆頭に力技で押さえ込んで花の妖怪が完全に無力化したわ」


幽香と神綺に後で何か贈ろう。


「もう暴走しないでちょうだい」


「私もしたくないよ……。あの状態だと近くの小妖怪程度なら消し飛んじゃうし……」


紫と藍が思い切り私から引いた。


「二人なら大丈夫だよ」


「そうですか……」


「さらっと言わないでちょうだい……」








それからある程度回復した私は映姫さんの所へ向かった。


理由はたくさんあるのだが、困った時には閻魔頼みだろう。


「という訳なんです」


「省き過ぎです。一から説明してください。暴走の件以外で話があるのでしょう?」


さすが閻魔だ。よく分かってる。


「私の封印の件で来たんだ」


「そんな事ですか……」


そんな事とか言われてため息まで追加された。


「純粋に力が強くなっただけです。封印を強めれば良いだけではありませんか……」


「いや……、もう無理なんですけど」


現在、最大の封印掛けているにも関わらず髪が朱いとは、もうどうしろと。もちろん、それでいてしっかりと自分でも抑えている。


「そうですね……、そうならば何か策は……」


「妖術を使っとけばええやん。陽奈さん人間に化けるの好きやろ?」


「あー、好きって訳じゃないけど……。まあ、それもありか」


使い方は知っているが何億年と使っていない。最後に使ったのがえーりんの家に訪ねた時のはずだから。


私は変化の術(仮)を使ってみる。


「どう?」


「せやな……、変わっとらん。別の打開策探さんとダメやな」


こほん、とわざとらしく映姫さんが咳をした。


「では、私がどうにかしましょう。まず、処置をしやすいようにリボンを解いてください」


私は従ってリボンを外す。途端に抑え切れない妖気が溢れ出す。


「少しばかり職権を濫用していますが……、貴女を仮監査処分とします。その為の処置として無意識的に発する妖気のほぼ全てを封じ込めます」


やあ、と手に持った棒(?)が振るわれた途端に一気に妖気を失った感覚があった。


「貴女を罰した訳でなく、罪を犯すのを予防したまでです。……という事にしておきます。殆どを封じ込めたとは云え、それでも八雲紫、風見幽香、錦六花の妖力を足した程はありますので力の扱いには注意してください。あとは貴女が自前で封印をすれば元通りでしょう。それと、あくまでも無意識での放出を封じ込めただけです。意識的に出そうと思えば簡単に出せてしまいますので留意してください」


私は軽く頷いてから再度封印をかけた。


うん、大丈夫だ。髪も黒に戻った。


「ありがとう、映姫さん」


「いいえ、仕事ですから」







「生涯初の始末書ですね……はぁ……」


「閻魔ちゃん、手伝ったるから、な」


「すみません、ありがとうございます」









なんで殴って壊したか?結界で隔離して遠隔爆破すれば?と思ったでしょう。花火感覚なんでしょうね。それくらい丈夫なんですよ、たぶん。

いきなりそんな描写を……とか思ったのなら最初辺りを読み返してください。




さて、次は異変です。



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