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姉妹の繋がり


咲き誇っていた花がなくなってきて、少し寂しくなり、無事に異変が収束したのを感じた。


そんなある時、久しぶりに幽香と特訓して帰って来ると


「お帰り、陽奈」


パチェがいた。


「何でいるの?」


「それは……レミィからの頼みで妹様と久しぶりに遊んで欲しいらしいの」


「まあ、たまにはいいか」







館――紅魔館(こうまかん)というらしい――にたどり着くと美鈴が門の前にいた。


「あ、美鈴、久しぶり」


「陽奈さん、お久しぶりです。お嬢様から聞いておりますので。パチュリー様はお嬢様の所へ、陽奈さんは妹様の所へ行ってください」


「分かったわ」


パチェはふわふわと中へ入って行った。


「あれ?陽奈さん、どうかしたんですか」


「館の構造分からないんですけど」


館を運んだりはしたものの、向こうでは小屋の中で過ごしていた為に入ってはいない。


「そうでしたね」


美鈴が手を何度か叩いた。


するとメイドの妖精が数人飛んで来た。


「妹様の所に案内をしてください」


一様に首をフルフルと横に振った。


「こわい」

「こわいよ」

「半ば恐怖を感じるので断りたい」


「はぁ……、では私が案内しますから門番よろしくお願いしますね」


「わかった」

「わかったよ」

「了解した」


なんか、やけに賢そうなのがいた様な気がしたが突っ込まないでおこう。







「では、ごゆっくり」


美鈴が下がって行った。


相変わらず大きな扉だ。


私はゆっくりとその扉を開けた。


「誰?」


「久しぶりだね」


「陽奈!?本物だよね!?」


フランが飛び付いて来る。


私はしっかりと受け止めて抱きしめる。


「パチュリーがね、何回も何回も陽奈の家に行ったけど、いなかったって帰って来るんだよ?だから、陽奈に裏切られたんじゃないかな、って思っちゃってたんだよ……」


「私は理由もなしには裏切ったりしないよ」


私はフランを撫でながら言う。


「フラン、聞いて。これからもし私がフランを裏切る様な行動をしたとしたら、それは本当に裏切る訳じゃない、って覚えていて。たぶん、私は何か企んでいるはずだからね」


「うん、分かった」


「ありがと、フラン」


私はやや乱暴にフランを撫でた。




さて、フランと遊ぶと言われても簡単な事ではない。二人で出来る遊びなんか限られたもので、さらにはフランは頭の回転が速いので頭脳系はすぐに勝負がついてしまう。


運も強い為に勝負事は負け知らず。さすがは運命を操る吸血鬼の妹だと感心してしまう程に。(ゲームにおいて)決められた運命すら(たぶん能力を使ってはいないだろうが)たやすく破壊してしまう。


ポーカーやったら50連敗した。

じゃんけんしたら78連敗した。

コイン投げしたら17連敗した。


たぶん、無意識のうちに概念すら破壊してしまっているのかも知れない。


また、本をたくさん読んだせいか、知識量も半端ない。レミリアがいらないと言った本のおこぼれを貰ったり、パチェから本を持って来て貰ったりと、暇さえあれば本を読んでいたらしい。

更に後で聞いたが、紫が面白がって館の図書館に幻想郷の外からあらゆる本を贈呈(おしつけ)するが、それらをパチェがフランに横流しする為、余計に拍車をかけている。


陰でレミリアが格好付けて難しい言葉を間違って使うのを笑ったりはしているらしい。嫌な妹だ。


それでだ。何をするのかというと


「うーんと……こうかな?」


フランが手を握る。

すると私の手に集まっていた魔力が霧散する。


「うん、成功したね」


「やった!」


ぴょんぴょん跳びはねて喜ぶフラン。


何をしていたかというと、能力の研鑽だ。


今までフランは“物体”を破壊していた。

しかし、それ以外でも破壊出来るのではないか、と思った私は自らを被験者として能力の研鑽をさせる事にした。


先程フランが行ったのは魔力の“集約”という“現象”を破壊した。力を感じ取り、それを魔法として使えない様に破壊した訳だ。


「次は何を壊すの?」


状況によっては危ない言葉がフランの口から出る。


「そうだね……、難しいけど概念を壊してみようか」


「概念?」


小首を傾げるフラン。


「さっきと似た様な感じだけど、ちょっと難しいよ。今度は目に見えなかったり、感じたりとか出来ないのが対象だから」


「ふーん。どんなのがあるかな?」


その前に、と私は遮る。


「壊すものがどうなるかを考えなきゃダメだよ。たぶんだけど『壊れたという結果』は壊せないから壊れたとしても逃げ道があるものじゃないと。例えば『白嶺陽奈が妖怪である』って事を壊したら私はどうなる?」


「うーん……、分からない」


「じゃあ、『白嶺陽奈にレミリア・スカーレットの能力は有効』って事を壊したら?」


「あいつの能力が陽奈に効かなくなる」


「じゃあ、逆に『白嶺陽奈にはレミリアの能力は効かない』っていうのを壊すと?」


「また、効く様になる。つまり……、逆でも成り立つのを壊せばいいんだね」


「そうだね」


フランは賢い子だよね、うん。


私が妖怪ではない、というと、では何なのかという新たな事実が必要になる。

しかし、能力が有効かどうかなどは、“ある”か“なし”かのみだ。


私は生来、妖怪な為に『私が妖怪である』事実は壊す事は出来ないだろう。


あくまでフランの能力はONとOFFの切り替えを無理矢理行う事しか出来ない訳だ、悪魔だけに。


「でもさ……、見えないものからどうやって『目』を取り出すの?」


・・・。


「そ、それはさ、その、うん、イメージとか?」


「考えてなかったんだね」


「はい、その通りです」


うっかりしてたZE☆


「あ、たぶん出来た」


「何をしたの?」


「『陽奈はいずれ死ぬ』って事」


フランに不死にされちゃったZE☆


「って何やっちゃってくれちゃったりしちゃってるの!?」


「落ち着け」


私の右手の小指が弾け飛んだ。地味に痛い。


「陽奈は長生きしてるんだから不死でも問題ないよ」


「大有りだよ!」


私は指を神力で生やしながら叫んだ。


この世の法則は曲げちゃいけません。


「問題があったら『陽奈が不死』って事を自分で壊せばいいじゃん」


後で映姫さんに叱られたのは言うまでもない。






「さっきまではさ、私の能力を磨いてたけど陽奈は自分の能力でどこまで出来るの?」


一休みした後、フランから質問された。


暇さえ潰せればいいのか。


それにしても私の能力か……。


「考えた事もなかったな……」


「じゃあ、今度は陽奈の番だね!」


フランが楽しめるなら、いいか。


「でも、陽奈の能力を聞いてないよ?」


「私は『恐怖を操る程度の能力』を持ってるんだよ。人が怖いって感じたものを作り出したり使ったり出来る」


「うわっ、あいつのよりも酷いね……」


レミリアは所詮運命だしね……。


「話を進めるけど……、吸血鬼が苦手なものも全て再現出来るよ」


「……なんだっけ?」


「日光とかじゃない?」


「そういえばそうだね」


フラン、忘れちゃダメでしょ。


「そういえばさ、陽奈は吸血鬼ってどこまで知ってる?」


「世間一般的なレベルかな?物語とかの」


「ふーん、そうなんだ。陽奈って恐怖を操れるんだよね。吸血鬼に対する恐怖も当然持ってるよね?」


「あー、うん。自分に少し軽目に付与してみたらそこだけ吸血鬼になったけど」


そこまで言うとフランがニヤリと笑った。


「それを最高まで私にしてみて?」


意味があるか知らないけれど、言われた通りにやってみると、フランの威圧感がかなり上がった。


「うん、成功っぽいね。力を抑える練習しなきゃ」


「何があったか説明よろしく」


吸血鬼として強くはなったのだろうけど。


「陽奈の知らない吸血鬼の事を教えてあげるね。陽奈は始祖と真祖の吸血鬼って知ってる?」


「えっと……ブラド・ツェペシュ?」


「ブー、外れ!あれはただの人間だよ。ブラム三世っていう何千の人を串刺し刑、ツェペシュにした事で串刺し公、つまり、ブラド・ツェペシュって言われる様になっただけ。本当は誰かは分かってないんだ」


「ドラキュラ伯爵は?」


「あれはただの作り話。ブラム・ストーカーって人が書いた物語だよ。吸血鬼でも鏡には映るんだよ?」


「じゃあ、真祖とか始祖って?」


ますます分からない。


「始祖は初めて吸血鬼になった人で真祖っていうのは始祖と同じ力を持ってる人。始祖は普通の吸血鬼と違うんだって」


「例えば?」


「雨に当たっても平気だったりするんだよ。あと、間違ってなければ……」


「なければ?」


「陽奈、外に行こう!」


「今は昼だからダメだよ!」


止められなかったZE☆


吸血鬼って力が強いよね。







「ビバ、太陽!!」


フランがそう叫んで飛び出して行った。


あれ、おかしいな?フランが太陽の下ではしゃいでる。


「陽奈、ありがとう。陽奈の力で私は真祖になれたみたい!」


「まさか……、日光が平気?」


「そうだよ。……あー、でもこの事は隠してないとダメだよね」


「レミリアが五月蝿いだろうね」


まさか、フランがこんなにも賢いとは……。


「あ、陽奈さんじゃないですか。お帰りですか?…………ってあれ?妹様?」


美鈴に見付かりました。


「美鈴、この事は何があってもお姉様には内緒だよ」


「…………は、はい!」


美鈴が目を眩っていた。


「何やってるの?」


「え……、妹様の事ですし、何かあるかと……。お嬢様は貴女の事を癇癪持ちと言ってましたし」


「しないよ。だって、理由がないじゃん」


「え、あ、はい。ありがとうございます」


美鈴が少し困惑気味になっていた。


「陽奈さん、どういう事ですか?話がまるで違うじゃないですか」


私に小声で話し掛けて来た。


フランは庭を駆け回っている。


「レミリアの話のフラン態度は本人が言うには芝居らしいよ」


「し、芝居ですか!?」


「癇癪持ちだなんて嘘っぱち。下手するとレミリアより気は長いだろうね」


美鈴が驚くのは分かる。芝居には見えないし。


「凄すぎますね……」


「だよね……」


私たちは同時にため息をついた。






それから私はフランと部屋に戻り、また能力について考えていた。


「今度、パチェから本を持って来て貰おうよ。意外と他人のって参考になるかも知れないし」


もうフランがレミリアより大人に見える……。


「そーいえばお腹空いたなー」


フランがベッドに腰掛け、バタバタと脚を振りながら、そんな事を口にした。


「血……だったっけ?」


「最近はトマトだけどね……」


まあ、吸血鬼に喜んで血を差し出す人はいないよね、うん。


「だからさ、陽奈の血をちょうだい♪」


「私、妖怪だけど……」


「別に人の血じゃなくても問題ないよ」


「そうなんだ……」


「だから、……くれるよね?」


私に上目遣いで顔を紅潮させ目を少し潤ませて頼んで来た。その紅い瞳に吸い込まれそうだ。


私はそのお願いに頷いた。


その瞬間、私の首にフランが噛み付いた。


フランの鋭い犬歯が私の肌にプツリと刺さると、そこから全身に甘い痺れが駆け回る。


「何……この感覚……」


その甘美な刺激は私の理性を犯してゆく。


そう、アレの快楽に似た様なものだ。


性的快楽に。


「フラン、ストップ!」


「ふぇ?何で?」


「ヤバイって、これ!」


「ああ、ごめんね。吸血鬼に直接血を吸われてると性的な悦に陥る、とか本に載ってたのを忘れてたよ」


知っていてやったらしい。


「でも、陽奈の血がおいしくて……」


再度、上目遣いで私に訴えて来る。


「うっ……、そ、それでもダメ!」


「陽奈には魔眼は効かないか……」


「魔眼?」


「吸血鬼の力の一つで相手を虜に出来るの」


吸血鬼って、怖いね。


「もう、いいや。きゅっとしてドカーン!」


しかし、何も起こらない。


「何をしたの?」


「『陽奈が血を吸われると性的な悦に浸る』って事を壊したんだよ。だから……」


「あー、もう。そんなに飲みたいなら飲ませてあげるから!」


翌日から当分の間、食事を増血メニューにしたのは言うまでもない。








夜になるとパチェが呼びに来たので、フランと別れてレミリアの元へ向かう。


フランが色んな能力を持った人についての本を読みたがっていた事を伝え、レミリアの部屋の前でパチェと別れる。


ちなみに美鈴はご飯を作っているらしい。


「入りなさい」


扉の向こうからそう告げられ、私は部屋へと入った。


「フランの相手をありがとう。けれど、どうしてそこまでしてくれるか教えてくれないかしら?」


「それは……、楽しいから」


うん、特に理由はないんだけどね。


「フランといて……楽しい、って事よね?」


「それ以外に何があると?」


「本音を言いなさい」


「嘘はついてないよ。強いて言う事なら、脅されてる、って言え、とフランに言われたけど」


フランは他人を近付けずに傷付けない方法をとったのだ。それが正しいのかは分からないが、傷付けないのは確かだ。


「何を企んでいるのかしら?」


「何も?」


険悪な空気が流れ始める。


「ご飯ですよー」


その空気を美鈴がぶち壊した。







美鈴のせいで険悪なムードで食事が進む。


「あの……、どうしたんですか?」


「何でもないわよ」


不機嫌そうに声を発しながら口を進めるレミリア。


「何でもなくはないけどね。……あ、おいしい」


私はため息を吐きながらも舌鼓を打つ。


「まさか……妹様の事ですか?」


「…………ええ、そうよ」


「妹様は……もう出してもいいと思います」


美鈴がゆっくりと語る。


「貴女に何が分かるの?」


「私には分かりません……。ただ、陽奈さんはお嬢様より妹様を理解しています」


「フランの何が分かるのよ!陽奈は何の繋がりもない妖怪にしか過ぎないじゃないの!」


「繋がりは……あります。陽奈さんは妹様の大事な友達です。そして、妹様を受け入れた唯一の、いえ過去にもいたかも知れません……、しかし、妹様はお嬢様よりも陽奈さんに信頼を寄せています!お嬢様は妹様に向き合いましたか?」


「黙りなさい!!」


「いいえ、黙りません。お嬢様を正すのも私の仕事だからです」


美鈴が机を掌で叩く。


「「陽奈(さん)はどうなの!?」」


「えっ?私に振るの!?」


突然の事で少し驚いた。


「お嬢様と妹様についてどう思っているんですか?」


「それは……」


私も言葉に詰まる。


「もういいわ。陽奈は帰りなさい。美鈴はクビよ」


「クビ……ですか。私は構いません。けれども私は館からは離れる事は出来ません」


「何故?当主の私が命じたのよ」


「私は……、お嬢様には仕えていないからです。スカーレット家に仕えているからです。そう、貴女の父も祖父も私におっしゃりました。家族の総意なしでは私は解雇させない、と。私は妹様、いえ、フランドールお嬢様が出て行けと言わない限りは留まらせていただきます」


美鈴は言い放った。


「私は食事が済みましたので……、陽奈さんの食べ終えた食器も一緒にですが、この場を離れさせてもらいます」


美鈴が食器を慣れた手つきで片付けてゆく。


「ただしレミリアお嬢様、貴女は私を解雇したので貴女の世話は致しません。する義務だけでなく権利すら、もう私にはありませんから」


そう言い残して美鈴は食堂から去った。





食堂は美鈴の最後の言葉を響かせるかのように静まり返っていた。


「レミリア……」


「陽奈、貴女まで……」


「怖いんでしょ、この状態が」


私は確かにレミリアの周りに渦巻く恐怖が見えた。哀しく重い恐怖が。


「何を怖がるのよ……」


「それは……孤独だよ」


「孤独……?」


「寂しいし、苦しいし、怖いでしょ?それが孤独の与えるもの」


「それが……何なのよ……」


「フランがずっと感じていたものがソレだよ。あとは自分で考えれば、するべき事はすぐに分かるんじゃない?」


私もレミリアを残し、食堂から去った。







それから、フランの元へ戻ると美鈴もいた。


「むむむ……、妹様はお強いですね……」


「美鈴、早くしてよー」


二人で将棋をしていた。


状況を見ると美鈴がこれでもかとばかりに負けていた。


「むむ……、参りました」


「やったー、勝ったー!」


「まさか5分程で負けてしまうとは……、さすがですね……」


「陽奈に今日教えてもらったんだー。ねー、陽奈♪」


「あ、いたんですか」


「さっきね」


「お嬢様はどうなさっているでしょうか……」


美鈴が呟く。


「たぶん……、悩んでる」


美鈴が立ち上がった。


「やはり、私はお嬢様の元に戻ります。妹様、またお相手をお願いします!」


扉を閉める事もなく、美鈴は飛び出して行った。


「うん、じゃあねー。…………お姉様は頼んだよ」


最後の言葉が小さくて聞こえにくかったが、そんなに刺のない言葉ではあっただろう。









フラン強化してしまいました……orz


なんか美鈴がカッコイイ!とか感じました。このカリスマがいつまで続くやら。私は美鈴が案外好きなので残念なネタキャラにはさせません。


終わりが汚いですが紅魔館はひとまずですが一応終わりです。


次回は閑話にしないつもりですとも。




早く魔理沙出したい……。

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