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文明とは波である



あれから数年経った。


妖怪からの人への被害も年々増加し、また、妖怪も力のないものは消されていった。


妖怪も篩にかけるように強いものが残り、対して人は戦略兵器を次々と開発。

えーりんは治療薬の精製と多忙になった。


「妖怪は何でいなくならないのかしら」


ふと、えーりんが愚痴を零す。


「んー、妖怪って人がいる限り発生し続けるから。妖怪の力の源と根源は生物の負の感情だし、全ての生き物を絶滅させないと……」


「そうなの?」


えーりんが手を止める。


「そうそう。現に私だってさ……、ここの人たちの恐怖を糧にしてるし」


「あなた、妖怪だったの?」




……しまった。


えーりんは妖怪には特別な嫌悪感はないものの悪いものとしては見ている。


「てっきり人間かと思ってたわ」


そう一瞥して作業に戻る。


「通報とかしないの?」


「陽奈は害がない妖怪だもの」


「ありがとう。……あ、それ手伝うよ」










私は今日は森にいる。


たまに私から訪れるのだが妖怪が集まり、人間対策部、といったかんじの組織を作り、会議や指示をしている。




「なー、陽奈さん」


「なに?」


話しかけてきたのは『あらゆる武器を扱う程度の能力』を持った、(みやこ)さん。


ちなみに彼女の能力は武器がないと使えない、あしからず。


「陽奈さんの力でどーにかなるんかと思ってなー。不安やら恐怖やら操って防御に専念させられへんの?」


周りも頷く。


妖怪は人間を全滅させるとこちらも危ういのが分かっているので基本は守りだ。稀に食事に行く奴もいるけど。


人間って美味しいのかな……?


まあ、いいや。


「で、不安や恐怖云々ね。私もしてみたけど誰かみたいに戦闘好きだったり、攻めも守りのうち、とか考えてる奴は一層攻撃してくる」


と、角が一本の鬼、紅蓮を見る。


彼は『切れない程度の能力』、刃物で傷をつけられない奴だ。だが、彼自身が刃物で人を切れない事でもある。もろ刃な剣だったりする。あと、引き裂いたりはできるらしい。


ちなみに頭もキレない奴でいつも力押し、けれどムカつくとすぐにキレる、戦闘狂、といった鬼らしい鬼だ。


「正面から突撃がしたい」


「ダメ。紅蓮はこの前ミサイルで死にかけたでしょう?」


「リベンジしたい」


「じゃあ正面からは最終手段ね。もう少し待ってて」


「む……、分かった」


紅蓮は素直に黙り込む。どうせ、その時の妄想でもしてるのだろう。


「せやけど、どーするの?」


都さんの問いは返し難いものであった。


「じゃあさ……」










「えーりん、今日は森にいてくれない?」


「何を考えてるの?」


う……、えーりんは騙せない……か……。


「今日から妖怪は仕掛ける。えーりんには死んで欲しくないから」


「そう。まあ、落ち着いて。どちらにせよあなたはこの家にはいられないのよ」


「どうして?」


「ばれたわ。近頃、妖怪に情報が漏洩。妖怪が都市にいないかを探ったら、よく素性の知れないあなたがあぶり出されたわ」


冷や汗が止まらない。


「じゃあ、えーりんが危ないだろうから私は森に帰るよ」


「ありがとう、陽奈。また、会いたいわ」




その夜、時は満月。




戦争だ。




いまや、異常に発達した文明、名残惜しいが壊す。




「妖怪風情がぁぁ!!」


人間に容赦なく切り捨てられる。


けれど……


「あなたは私に恐怖した。だから私には勝てない」


私は人間に死を与える。恐怖ではない、そのものを。




「ひーなー、こいつらどっから沸いて来るん?」


「知らないよ」


都さんが人の頭を口にしながら聞いてくる。


ミサイルが飛んできた。


やべー、怖いなー。


「効かないよ……」


私は打ち出されたミサイルに直撃した。


「陽奈!?」


「おー、痛い痛い」


彼らは元気な紅蓮を見て“ミサイルが効かない”と恐怖してしまった。


「ロボットでも連れて来い!!」


私は撃った奴らにミサイルを直撃しながら近づき、気絶させた。


「あとは任せたよ、都さん」


ちなみにミサイルはその後に都さんが弾切れまで使っていた。










徐々に人間側が押され、どこまで逃げようとも追い掛けた。


結果、有能な人間どもは空へ……月へと逃げた。


逃げた人にはえーりんもいたが、前日に暴走を抑える薬をいくつか貰い、別れを告げた。


さらに、えーりんからの情報によると、

他にも村などはあるが未だ狩猟を糧にしている。

ここだけが異常な発達。

との事。


つまり、ここを潰せばいいだけで人間は他にもいる、ということ。




ここは全滅させよう。




元々、私はえーりんと暮らしている時から妖力を抑えていた。けれど恐怖を糧にはしていた。


その中で私の妖力は限界のない蓄電池の如く蓄積され、甚大なものになっていた。


私が妖力を久し振りに全力にすると木々が、空気が軋んだ。


「あれ、陽奈って髪は黒かったよな?」


そう、都さんが近付いてくる。


「来るな!!」


私は叫んだ。


その私の朱い髪が妖力の異質さを物語っていた。


「なんでー?」


まだ来る。


都さんの動きが途中で止まる。


「あ……、ひ……な……。私、死にた……」


私はすぐに妖力を抑えて都さんに駆け寄った。


「だから言ったのに……。私は力は使いこなしていないから恐怖も無意識に漏れちゃうの。だから……」


「すごく……怖かった……」


「私は一人で頑張るからみんなをよろしく」


「陽奈、頑張ってなー」


都さんは明るい笑顔で言ってくれた。




再び妖力を全開にする。


髪が、目が、朱く染まる。


もう、ここにはえーりんはいない。


私は街に恐怖を振り掛けた。


自殺する者、殺し合う者、確実に数は減っていった。


恐怖は恐怖を生み、私の力は尽きる事はない。


しかし、ある程度まで死ぬと効かない奴らが抵抗してくる。


私は直接、死を撃ち込む。


しかし、こちらはすぐには効かないが即死させる、けれど相手はレーザー砲。


ぶっちゃけ勝てません。


それでも数は減っていった。


ほとんどが私と都さんと紅蓮によるものだけれど。




そして、遂に人と妖怪は決着がついた。







都市には、ある一人の狂人がいた。


彼はただ狂気を受け入れ、そのままに動き、当然、捕まった。


判決は死刑であったが殺されなかった。


一挙一動で人を殺す術を知っていたからだ。


そんな彼に転機が訪れる。


突然、釈放された。


とある武器を持たされ、妖怪を根絶やしにしてこい、と、そうしたら一生自由だ、と。


彼は自由を求めた。










抵抗する人間は、もう目の前ので最後だった。


無抵抗な人を殺したりはしない。逃げたら襲わない。どうせ、飢え死にだから。


「こいつら潰したら宴会しよう」


「紅蓮は宴会好きやな〜」


今まで核やら水爆やらも使われたが人々の恐怖から学んだ私がどうにか処理した。


おかげで『放射線を操る程度の能力』とか『威力を操る程度の能力』とか手に入れてしまった。


前者ともかく、後者は運動エネルギーや化学エネルギーを操れるが物体そのものは変えられない。刃物で刺されたら、刺さり方は弱くとも刺さる。耐久性は変わらないからだ。あと、毒とかは勿論効く。そして、ゼロにはできない。


余談はさておき、目の前の人間がみんな切り捨てられる。


「おい、陽奈。人間が人間を殺した」


たった一人の人間がその中で立っていた。


彼からは恐怖を感じとれなかった。


「あいつ、危険だよ」


「そうか。俺は相手が強ければそれでいい」


相手の獲物は刃物だし……


「でも、陽奈が危ない言ってるんや。注意せーやー」


「おう」


紅蓮はその男に歩み寄る。


男はけらけらと笑い出した。


「鬼かぁ……、お前も俺のものになれよ……」


「俺の名は紅蓮。残るはお前だけ。さあ、楽しもうじゃないか」


紅蓮は名乗り出る。


「ああ、俺も名乗るのか……。俺は名前はない。捨てられた。………お前も俺の『殺した奴の身体能力を追加する程度の能力』の糧になれ」


ニタァ、と笑った。


狂ってる。精神も、能力も。


「さて、いざ尋常に……」


「シネ……」


紅蓮の両腕が切られた。


「なっ……。………ぐぁぁぁああぁぁ」


あの紅蓮が切られた。


そのまま流れるように刃は胸に吸い込まれた。


「都さん、死なないでよ!!」


私はあらゆる恐怖を解き放ち、彼を襲った。


「髪の色が変わるなんて、さすが妖怪だ」


効いてない!!?


「あいつ、また強くなるよ……」


これで紅蓮が死んだら男は鬼の力を得る。


最終手段だ。


「みんな、目を閉じて!!」


「陽奈、大丈夫なん?」


「うん、今思い付いた」


私は『放射線を操る程度の能力』で男の周りの空気を何億倍、何兆倍へ汚染させた。


妖怪ですら命を落とすレベルにまで。


終わった……。


男は笑いながら体中の穴という穴の全てから血を吐き出し死んだ。


あまりにも気持ち悪い光景だ。


武器は紅蓮に刺さったまま。


私は空気を清浄にして、火力を最大にした鬼火(妖力で灯す炎)で男を焼却した。


「みんな……、終わったよ……」


私はゆっくりと告げた。




私たちはゆっくりと紅蓮に近付いた。


「俺の相手……奪うなよ……」


虫の息なのに……


「もう喋らないでいいからっ……」


「……ごほっ……陽奈の黒い髪は綺麗だな……、今初めて知った……」


そんなことはいい。誰か……


「俺は、もう……。都、最後に………俺を切った武器は何だったか……教えて……くれ……」


「うん……、……………んっとな、触れた面を分解して引きはがす。それによって切断したかのように見せる。そんな武器や」


切れなくとも、切られる……か……。


「そうか……。よく……わから……ん……なぁ……」


ゆっくりと紅蓮は目を閉じた。




しかし、まだ終わってはいなかった。







しばらくして小妖怪が私にあることを伝えに来た。


都市から出られない。


透明な壁が私たちを閉じ込めた、と。


嫌な予感がした。


バリアだ。しかし、何の為に?


まあ、人間がいれば何とかなる。




バリアまで行ってみたが機械制御。しかも壊せない。装置も外。


そして、何かのカウントダウンをしている。


“N.B.爆破まであと〜”


兵器だ。


だけど、何だ?


「都さん、これがどんな兵器か分かる?」


「む……、ぅ……」


ヤバイ兵器なのは分かるが、核も水爆も効かなかった。


これからは残留している恐怖も読み取れない程に薄い。


「陽奈、分かったわ。でも、ちゅーせーし爆弾でなんや?爆弾なのは分かったけど」


今、な、ん、て?


「中性子爆弾!?」


「なんで、そんなに驚くんや?陽奈ならどうにか出来るんやろ?」


「分からない……」


野郎……、機械に作らせたな。道理で恐怖が感じ取れないわけだ。




中性子爆弾。それは別名サイレントボムと呼ばれる、爆発音のしない爆弾。


原子核を構成する中性子を飛ばすことで組織の接合を破壊し、生物を確実に死に至らしめる。


どんな遮蔽物も中性子の前ではトンネル同然。効果範囲から逃げる以外に助かる方法は、ない。


事前に止めればいいがそれもできない。


最後の最後に残しやがった……。


事前に人は避難した、と。




空だ。


「飛べる奴は、みんな出来る限り高く飛んで!!」


だが、それも意味はなかった。


透明な天井がある、と。


私の『威力を操る程度の能力』でも莫大な原子未満の動きは操れない。


「陽奈、どないしたん?」


「都さん、みんなを任せたよ」


私は爆弾へ足を運んだ。







力技でブッコワス。


それが私の考えた手段。


利き腕の右腕を犠牲にして、ドデカイの一発。どうせ、私は妖怪だからすぐに生えるだろう。ちょっと不便だが妖力があれば大丈夫だ。


私は莫大な妖力を生死のぎりぎりまで削り、それを一発の威力に注ぎ込む。




喰らえ、渾身の一発。


「威力無限大、殴打一撃!!」


音を置き去りにして殴った結果、爆弾は粉々に砕け散り塵も残らなかったが、私の腕も肩から粉々に砕け散り塵も残らず血が弾けた。


私は、そのまま痛みと妖力の枯渇で意識を手放した。










「ん………」


私はどれほど気を失っていたのだろうか。


「あ……陽奈、起きたんだ……」


都さんにひざ枕をしてもらっていた。


けれど様子がおかしい。


「あのあとね、陽奈……が…倒れて……る間に……人間たちがやっ………て来て、ほ……とんど殺さ……れ………てもう………た………」


都さんの妖力が徐々に失くなっていき、死が近付いているのが分かった。


「なんで私は無傷なの?」


「たぶん、最終兵器を……壊したから殺せないと恐怖された……んじゃ……ないかな?」


私は自分の持つ恐怖を探した。


『殺されない程度の能力』


これを都さんに振り掛けたい。


でも、できない。


自分が憎かった。何も出来なかった自分が。


「生きてーや、陽奈……」


死にたくなった。




私は泣いた。


泣いて、泣いて、


ずっと泣いて、


そのまま眠りに落ちた。









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