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博麗結界の緩み


郷の亥癸なる年、皐月の桜の花の咲きたるは何ぞ奇しざらん事とはなき事か。









夏のある日の事だ。まあ、外の世界なら春だが。


読書が日常と化して来た日々に悲しくなったのはさておき、集中して読む事が出来なかった。


外が妙に騒がしい。


この時節、魔法の森は徐々に活発化してゆくのだが今年は様子が少し違った。


雪解け時にしか見ない様な植物が未だに踊っていた。


植物といえば心辺りがあるので、私は家を飛び出した。









「知らないわよ。ただ、力が漲ってくるわね」


花といえば幽香だろうと思って聞いたが、違ったらしい。


「ありがと。幽香は原因とか分かる?」


「そうね……、私は特には分からないわ」


「じゃあ分かったら連絡ちょうだい」


「分かったわ。ところで陽奈」


「ん?な……、危なっ!」


幽香が突然日傘(三代目?)を私に振り払っていた。


「折角力が漲るんですもの。戦っていかないかしら?」


「嫌だ、って言ってもやるんでしょ」


「分かっているじゃない♪」


しょうがないけど、私には戦う気はないので奥の手を使う。


「幽香、本気でいくよ」


「来なさい」


私は幽香の鳩尾に一発だけ拳を入れた。


「かはっ……!?」


「幽香、どうしたの?」


私が細工をしたからだが、幽香へのダメージは大きいはずだ。


「陽奈、何を……したのかしら?力が……出ない……」


「ご馳走様でした、とでも言えば分かるかな?卑怯な手だけど容赦はしないよ」


「まさか……私の……」


「幽香の力をいただきました、ってね」


所詮妖怪なのだから主な力の源は“恐怖”だ。


では、それが断たれてしまえば?


妖怪が自力で妖力をゼロから作り出せるかというと答えは否。

呼吸をする時に酸素をほとんど横取りされたら苦しくなるだろう。


私は幽香の力になるはずのものの大半を横取りしたのだ。


「邪魔をしたら……消すよ」


「では……退いておくわ」


「ありがと」


私は幽香に一割増しくらいで力を返した。


「これは……?」


「餞別だよ。じゃあ、またね」


「また……ね。そうね、次はやりましょう」


「分かった、約束する」






上空から見て、里の近く……、凄く桃色です……。


今は葉桜の季節のはずだ。けれども桜の花が咲き誇っている。


「変だろう?私は分からないんだが」


妹紅が横から赤い炎の羽を広げながら飛んで来た。


「里の者は気にしていないんだがな」


更に横に智音さんもいた。となりには慧音もいるが。


「たいしたことないんじゃないのか?」


妹紅が呟く。


「大有りよ」


にゅる、と紫が更に横から出て来た。


「どうした八雲」


「あら、ハクタクじゃないの」


「説明しろ」


「せっかちねぇ。詳しくは博麗神社で話をするわ。スキマで送ってあげるからいらっしゃい」


じゃあ私も便乗しようかと、スキマにご一緒しようかと思ったら


「ごめんなさい、陽奈。このスキマは4人用なのよ」


「嘘だっ!」


閉め出されてしまった。


「じゃあ私が一緒に行ってやるから」


「ありがと、妹紅……」








博麗神社にたどり着くと紫たちが既に着いていた。


ぱたぱたと神社から小さい影が出て来た。


「おきゃくさんだー」


博麗の巫女装束ではあるが小さいと思う。


「お母さんはどこかしら?」


「おとりこみちゅーだよ。けっかいがふあんてーだからってゆってた。ゆかりおねーさん、どーしてー?」


「おねーさん、か。そんなに若くもないのに。若作り?」


「陽奈には言われたくないわ。紹介しておくわ。この子は今の博麗の子供の霊華よ」


「このひとたちだれー?」


「私のお友達よ」


「よろしくおねがいします!」


ぺこり、と会釈をされた。


「私は白嶺陽奈。よろしくね、霊華ちゃん」


「うん。よろしくね、陽奈ちゃん」


私たちは簡単に握手をした。手の大きさはあまり変わらない。


「陽奈ちゃんですって、ハクタクさん」


「私は名前は智音だ、八雲」


「何で違和感がないんだ……。紫ちゃんは違和感しかないのに……」


「人間の割にはよく言うわね。死にたいのかしら?」


「もう死に飽きてるな」






霊華の母は生来病弱な身だった。そのかわりなのか歴代最高の霊力を持っていた。しかし今回の異変は彼女を大きく疲弊させている。


うん、見れば分かる。


「大丈夫?」


「はい……。母から聞いております。貴女が陽奈さんですね」


「あー、うん。母親って……霊菜?」


苦しそうな顔をして言われるとな……。


「はい。結界に何かあったら紫さんに頼むように、陽奈さんに頼むように言われました……」


「そうか……。分かった、じゃあ力の供給を止めて休んでて」


「それでは結界が……」


「私が持たせるから」


「でも一介の妖怪である陽奈さんには結界は扱えないはずです。博麗しか使えないように出来ていると……」


「そうだよ。陰陽玉と同じ様にしたんだもん」


「まるで貴女が作ったかの様な言い方ですね……」


彼女の表情が歪んだ。


「そうだけど?」


飄々として答える。


「貴女は何者なんですか!?」


「“元”この神社の巫女よ、そうでしょう?」


いつの間にか紫が話に入って来た。


「でも……」


「博麗神社が博麗神社になる前の話よ」


「意味が分かりません……」


「ここはその昔、白嶺神社と呼ばれていたのよ。その時の巫女で陰陽玉の製作者が陽奈よ」


「だから、早く休んで。私なら大丈夫だから」


「紫さんが真面目な顔で言ったので信じます」


私は神力で結界を維持する。


次に紙を取り出して、結界の式を書き起こす。


これから式の上書きをするのだ。


力を式に接続して分かったけれども完全に私のミスだった。


龍脈を用い、力の循環を行う面は問題がなかった。しかし範囲や方角を意味する事に干支を、それらの循環に五行の陰陽からなる十干を用いてしまった事が大きな誤りだった。


確かにこれらで力の循環などは完璧になる。が、永続的とは言えない。それらが完全に一周する六十年目、つまり幻想郷の還暦が“終わり”を意味する形となってしまう。

今年を過ぎれば、また“始まり”として結界は機能するが、“終わり”と“始まり”の境には“無”が存在し、その間には結界は消える。

一瞬でも結界が消えれば、外の世界の“非常識”に巻き込まれ、妖怪などは大半が消滅する。


式の無駄な機能を省き、新たな循環経路を作らなければならない。


しかし、循環経路に何を用いるかが、どう用いるかが問題だ。


干支も十干もそれぞれ陰陽のバランスはとれているが、それぞれの数からして全体的には陰の流れだ。

ここに奇数、つまり陽の力が入ると力の傾きが弱くなり、術が弱まる。


そこで、方角を意味する力に四神を追加する事にする。

これならば偶数、つまり陰であり、また龍脈の力も効率よく利用出来る様になり、負担も減る。


四神には青竜、白虎、朱雀、玄武がそれぞれ東西南北を守護し、またそれぞれが春秋夏冬を意味する。

更には中心は黄竜(こうりゅう)が守護をする。

黄竜を含めると五行との繋がり、つまりは十干との繋がりが強くなり、数的には陽となるが十干という陰の力を増幅するはずだ。




「どうかしら?」


紫が様子見に来た。


「まあまあ出来たけどね」


「相変わらず陽奈の作る式は真っ黒よね」


そう、複雑過ぎて真っ黒だ。実際のよりも小さいのだから当たり前だ。


「これから拡大して印を結ぶの。あくまでも下書きだから」


私は手を動かしながら説明する。


「私はこれから用事があるから霊亜の事は頼んだわ」


「霊亜って誰さ」


「霊菜の子供で霊華の母親よ」


てっきり火竜かと。何考えてるんだ、私は。


「じゃあ、よろしく頼むわね」


紫はスキマに入って行った。


さて、私も続きをしますか。







私はスキマを潜って冥界に着いた。


「幽々子はいるかしら?」


「紫、助けてちょうだい!亡者がいっぱいで」


やっぱりか。確認の為に来て見れば……。


結界が弱まる事は外の世界との繋がりが強くなる事と同義。だから外から亡者も、そして生者も幻想郷へと迷い込む。


「幽々子、頑張ってちょうだい。閻魔に話をしに行ってくるわ」


「じゃあ、この人たちも一緒に!!」


「分かったわよ……」


私は数人の亡者を連れて白玉楼をあとにした。








「閻魔はいるかしら?」


三途の川に降りた私は渡し守に尋ねた。


「四季様はお取り込み中だ」


「その件で話があるのよ。お願い出来ないかしら」


出来ればあの小さい閻魔には会いたくはないのだけれど幻想郷の一大事ですもの。


「私は忙しいからな」


「船の上で寝転ぶのがかしら」


「なっ……いつもと違って四季様に頼まれているんだ。忙しくなるから回数を減らして、かわりにたくさん運べと」


あら、閻魔が多忙過ぎるだなんて意外ね。


「じゃあ、どうしようかしら……」


「本当に急用なら送るよ」


「あら、大丈夫なの?」


「一歩で着くよ。私は『距離を操る程度の能力』があるから千里も一歩も同じなのさ」







「四季様、客です」


「客……?まあ、いいでしょう。では小町、次は23分42秒後に船を」


「はーい」


渡し守が返った所で……


「貴女が来ると思っていました、八雲紫」


読まれていた。


「では原因は……知って?」


「幻想郷の還暦が原因です。結界が一巡し、新たに幻想郷が生まれ変わります。とはいっても、既に白嶺陽奈が対策を済ませました。60年毎に季節問わず花が咲き誇り、死者も増えたりはしますが、結界は大丈夫でしょう」


「では、大丈夫なのね」


「はい」


安心したわ。ここがなくなってしまうかと思うと……。


「八雲紫……、貴女は幻想郷を愛していますね。どうか、そのままでいてください」


閻魔が優しく語る。


「覚えておくわ」








無事に結界の引き継ぎが終わり、息抜きをしていると紫が帰って来た。


「どこ行ってたの?」


「閻魔の所よ。もう、大丈夫だと聞いたわ。貴女のおかげで」


「そうか……、よかった」


紫が嫌いな閻魔の所に行くだなんて。


「お疲れ様。そして、ありがとう、陽奈」


紫が頭を下げた!?


「熱でも……あるの?」


「な、ないわよ……。素直にお礼を言っちゃいけないのかしら?」


「紫らしくはないけど……ね。こちらこそ」


その後、紫はこの異変について幻想郷中(一部除く)に伝えたらしい。








最初の文は


幻想郷の60年目、五月に桜の花が咲いているのは不思議ではないとは思わないだろうか。いや、幻想郷であろうとも不思議であろう。


という意味になります。



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