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買ったものは食べ物だけ


私は久しぶりに里へ向かった。


以前は智音さんが子供を産んだ時に寺子屋を任せられた時だったっけ。


今回は食糧が尽きただけだ。また買い溜めをしておかないと。

それから資材も買わないといけない。


本格的に家の一部を魔法の森の休憩所にする計画を実行し、薬までは出来たが、休憩所に必要な雑貨、座布団やら布団やら机に椅子など、が未だにない。

ちなみに魔法の森の木は何か(幻覚とか)起こる可能性があるので資材などには適さない。

庭の雑草がマンドラゴラなんて可愛いものだ。私の家は奥地にあるのでまさに魔窟の中心だから、もっとヤバイのが生えてくる。


そんな理由から人里へ降りたが、人が驚きもしない。私は仮にも妖怪だし空から飛んで来たというのに


「陽奈ちゃん、今日はどうしたんだい?」


と、普通に里の人が話し掛けて来る。


見た目が化け物じゃない限り驚かないんじゃないのか?


私はそもそも人を襲わなくてもいいから問題はないけど、妖怪のほとんどはそうではない。

人間を食べなくとも襲わなければ生きていけない。

それが妖怪の本能だ。


ちなみに私にもあるようで、以前境界を思い切り操ったら少しだけ殺人衝動が出た。


そう、少しだけ。


それは別にしておいて、数年くらい人里を散策していなかったので、どこに何があるのか分からなくなっていた。

基本的な場所は変わっていなくとも若干の変化はあるからだ。


「そこのお兄さん、食べ物買いたいんだけど店の場所が分からないから教えてくれませんか?」


「ん、何だ?陽奈ちゃんじゃねぇか」


「お会いした事ありましたっけ?」


「昔、巫女さんと村で一悶着あった時に見たから先生に聞いただけだよ。やっぱり妖怪なのかい?」


私は軽く頷いた。


「食べ物……か、今年は不作だったからな……」


「そうですか……」


じゃあ半年くらいはご飯なしかな……。


「そうだ!一つだけ最近出来た店があってな、そこにならあるかも知れねぇ」


私はなぜか肩車をされて連れて行かれた。






「いらっしゃーい、……って君か。本当に子供だよね……」


堂々と掲げられた看板には『氷屋』としか書かれていない。

そして、店主は六花だった。


「肩車されて嬉しいの?」


「正直に言うと微妙な気分だけどね」


「嫌じゃないんだ」


「あー、否定出来ない。お兄さん、降ろして」


私は降ろして貰ってから彼にお礼を言って別れた。


「先生の所にも立ち寄ってやれよー」


「分かったー。ありがとねー」


「……子供っぽいね」


六花が呟いたのはしっかり聞こえたが無視しておく。


「ところで六花、食べ物を買いに来たんだけど」


「お客さんとして来たんだ。ボクに用事とかじゃなかったんだね」


「まあ、ないことはないよ……。幽香からの伝言が」


「天狗から、次会ったら消す、とは聞いたけど?」


そう、幽香と花について談笑していた時に少し話題になって頼まれた。

ちなみにまだ戦ってはいない。文の新聞に書かれていた、誰よりも強い力を持つ、という言葉で(私はもちろん、そこを編集するように頼んだが、仮にも編集長の文には逆らえなかった)感化され、次回へ持ち越しとなったからだ。


「幽香がね、少し寒くても咲いてくれる花を知らないかしら、って」


「カタクリとかトリカブトとか?」


前者はともかく後者は……。


「ボクの住んでた所の近くの山にあったよ?でも幻想郷の外だからね……」


「ボクが行くしかないか……」

「私が行くしかないか……」


「「えっ?」」


「「妖怪なのに幻想郷から出られるの?」」


「「えっ?」」


「どうして六花は出られるの?」


「ボクは雪女だよ?ボクの親戚はいっぱいいるから、伝承とかもいっぱいあるんだ。だから外に出ても大丈夫なんだよ。君こそどうして大丈夫なの?」


「私は『恐怖を操る程度の能力』を持ってるんだけど、つまりは恐怖が私の糧な訳でどこでも大丈夫なんだよ。まあ、そもそもこの幻想郷を覆ってる倫理結界も境界も私がしたようなものだし、封印を強くして極力抑えれば人間みたいなものだから」


結局今度、一緒に行く事にした。


「それで何が欲しいの?野菜から魚まで何でもあるよ。あ、魚は外で仕入れたんだけどね」


魚か……。


「オススメは……鯨の肉一塊だよ。凄く高かったんだ」


店の奥から取り出して来て、ゴンと机に乗っけた。人の顔くらいの大きさはあるだろう塊はカチコチに凍っていた。


「あと、鮪に鮭に鯵も……」


「ねぇ六花」


「なに?」


「魚……売れてないんでしょ」


「……うん」


幻想郷は地理的に海から離れているために生魚はまず届かない。魚といっても燻製や干物などの加工品だ。

もちろん小さな川魚程度の大きさならいいとして、鮪や鮭といった大きな魚はまず捕れないために調理方法が分からない。料理に使えないのだから買う訳がない。


「それじゃあ鮭を一匹いただくよ。私は鮭くらいなら捌けるし」


鮪は無理だ。昔、姿焼きにして食べた事はあるが、まともに料理するならそれなりの技量と道具を要するからだ。

対して鮭は辛うじて普通の人でも捌ける魚だろう。


「鮭は捌けるんだ」


「まあ、一応ね」


「じゃあさ、給金出すから同じ要領で他のでっかい魚も捌いてくれない?ボクも手伝うからね、お願い!」


こうして非公開解体ショーを店の奥で数日の間やり続けた。もちろん三食飯ありで。



ひなはまく゛ろをさは゛けるようになった。






六花から給金代わりにいくらか食べ物を受け取り、スキマに放り込んでから私は寺子屋へと向かった。


久しぶりに教鞭でも振るってみようかな……。


ドゴン


ガゴン


痛そうな音が二つ響いた。


私が中に入ると二人の銀髪(白髪?)子供が撃沈していた。


「智音さん……、久しぶり」


「ああ、久しぶりだな。今日は寺子屋は休みだぞ」


じゃあ何でいるんでしょうか。


「その二人……、大丈夫なの?」


「大丈夫だ。片方は娘の慧音だ。大きくなったろう?」


智音さんと似たような服を着た小さな女の子(撃沈中)を指差して言う。


私が以前見た時は赤ん坊だったが随分成長したようだ。私より大きいだろう……。


「私の娘だぞ。しかも手加減は……もうしなくとも大丈夫なくらいなんだ。そろそろ起きるだろう」


「起きていますよ、母上」


額をさすりながら呆れた顔で慧音が立って、こちらを見ていた。


「ほら、陽奈に挨拶をしろ」


「上白沢慧音です。どうぞ御見知りおきを。母上、これでよろしいですか?」


「55点だ。もう少し上品に」


「母上こそどうなんですか!」


「確かに智音さんには礼儀の教育は出来なそうだよね」


「失礼な……、陽奈こそ出来るのか?」


私は欧州へ行って来て学んだ(パチェや美鈴に仕付けられた)ある程度は出来る。


「じゃあ、服装は相応しくないけど」


私は少し息を吐く。


「皆さんご機嫌麗しゅうございます」


私は優雅に一礼した。


「……陽奈、教えてくれ」


「母上ばかり狡いです」


「私は心配されていないのか?」


最後に放たれた声は先程まで倒れていた少女だった。

が、どうにも聞き覚えのある声でもあった。


「智音、どうした……ん……」


「智音さん、私は幻覚でも見てるのかな?」


白い髪に赤い眼、聞き慣れた声。


「妹紅……、なの?」


「陽奈……だよな?」


旧友、藤原妹紅がいた。






十世紀程ぶりに会った妹紅は……何も変わっていないように見えた。


「大変だったんだぞ?見世物にされたり、雪山で遭難したり、妖怪に殺られたり退治したり。何回死んだかなんて覚えたいないくらいだ」


「私だって子供産んだり、閻魔から説教されたり、結界作ったりで……」


「子供!?陽奈、お前……アレ来てたのか?」


「アレって?」


「その……アレだよ。男にはない月一の……」


「ああ、s……むぐぅ」


「止めろ、はしたない」


妹紅が私の口を塞ぎ、やれやれと頭を振った。


「ぷはぁ。ごめんごめん。来てなかったら子供出来ないでしょ」


「そうだな……。……それであの行為はどうだったんだ?」


「「それこそはしたないわ!!」」


智音さんが妹紅を取り押さえて頭突きをした直後に私が蹴り払った。


「い、いくら不老不死でも……痛いんだ……ぞ……」


どうやらお休みになられたようだ。






しばらくして妹紅たちと別れ、私は帰路についた。






「お帰りなさい」


「ああ、うん。何でいるのかな?」


「殺り合う為に決まってるじゃない」


なぜか幽香が私の家でくつろいでいた。


「殺すのは……止めようか。次がなくなっちゃうから」


「それもそうね。さあ、始め……」


「待った。場所は移動しようか」






「じゃあ改めて行くわよ」


結局移動した結界、魔法の森の入口付近、ペンペン草が生えている程度の場所に落ち着いた。


「いいよ」


私はリボンを外し、スキマにしまった。


途端、幽香の姿がぶれたかと思うと背後から横薙ぎに傘が振るわれる。私はそれを屈んでかわした。

幽香は傘を振った力を利用して中段回し蹴りを繰り出す。私は幽香の払われた脚に手をつき身体を跳ね上げ、そのまま踵落としをした。


「あら、やるじゃない」


私の足は簡単に幽香に受け止められる。そのまま私は地面へと投げ付けられた。転がって衝撃を殺し幽香に手を翳して魔法で巨岩を飛ばす。

しかし、幽香の元で止まったかと思うと、大きな音がして亀裂が入って砕けていった。


「やっぱり岩は殴るものじゃないわね」


軽く手を振りながらも呟いた。


「今のうちに……『五行……」


「何度も同じ手は喰らわないわよ!」


幽香が構築式を傘で穿ち、式を霧散させた。幾ら強力な術であろうと発動前に壊されては何とも出来ない。


「それじゃあ……『封魔陣』!!」


「温いわ」


幽香は傘を開いて術を防いだ。


「食らいなさい」


そのまま傘の先端に魔力が溜まってゆき、火花を散らし始めた。


「『マスタースパーク』!!」


この前よりも格段に太く強い雷が私を飲み込まんと迫る。


私は同様に魔法を放ち相殺する。


「傘からじゃなくても撃てるのよ?」


私の背後で幽香が微笑んでいた。


しかし、その手には傘に集められたものよりも遥かに膨大な魔力。


「傘は囮だった、って事?」


「ご明答♪」


私は背後から猛烈な雷光に飲み込まれそうになった。


今度は同じようにはやられてなるものか。


「凍れ!!」


私はその雷を凍らせて無効化した。


「何を……したのよ。それ以前に誰なのよ、貴女は」


幽香が攻撃を止めた。


「陽奈は黒髪だったはずよ」


「私は眼と髪が朱くなるんだよ」


「でも!……っ、貴女が防いだ術は陽奈のものじゃないわ!!」


明らかに取り乱している。トラウマか何かなんだろうか。


「幽香、よく聞いて。私を相手にする事は全ての妖怪を相手にする事に近い事なんだよ。私は花も境界も闇も操れる。本人には及ばないけどね」


「何よ……それ」


幽香の声が落ち込んでゆく。




「最高に楽しいじゃない!!」


狂気に瞳の色が変わる。


呼吸もままならない程の殺気が襲う。いや、私は出来るけど。


私は対抗して相応の殺気と最大の恐怖を解き放つ。


「妖怪の根源、思い知れ!」


幽香の脚が震えているが構わず、私は踵落としを繰り出した。


「負ける訳には……いかないのよ!!」


幽香が消える。


あの恐怖の中で幽香は動いたのだ。


横から幽香が拳を飛ばして来たので私はそれを受けようと身構える。すると、幽香の姿が消え、見失ってしまった。


刹那、後頭部に重い衝撃が走る。


視界が歪む。


その時に背に重い蹴りを入れられ、私は地面に倒れ伏した。


「陽奈、私は貴女が怖いわ。だからこそ、負けたくないのよ」


私の背に足が乗せられ、幽香は力を込めた。


「うあああぁぁぁああ」


体中が潰されるような痛み。それだけでも私の意識は途切れそうになる。


「もっと……啼きなさい!!その可愛い声で助けを懇願しなさい!私の勝ちを認めなさい!」


私の背中に傘が刺さる。幽香はそれをさらにねじこむ。


「あら?……どうしたのかしらっ!」


「……っ!」


ぐしゃり、と不快な音がした。


私の左腕が踏み潰された音だった。


「次はこっちかしら?」


私の右腕にも足をかけられる。


「ゆっくりと啼きなさい……」


まるで痛みを刷り込むように徐々に力が込められてゆく。腕が悲鳴をあげているのが分かる。


やられてばかりではいられない。


だが、痛みは更に私を襲い、思考を邪魔する。


傘が私に更にねじこまれる。


腕が折れる。


その痛みだけで私は声とならない叫びをあげる。


「ゆう……か……、もう折れた……けど……」


折れてしまった腕にかけている足の力は弱まる事を知らないようであった。


「まだ壊れてないわ♪」


幽香の意識がそちらへ向いている間に、私は痛みを堪えて神力で左腕を全快にし、幽香の傘の目を握り潰す。


傘が壊れた所でその傷口もすかさず治癒した。


それが済むと私の腕が踏み潰された。


「また傘を壊してくれたわね」


「そう……でもしない……と、勝ち目が……ない……だろうから……ね……」


「消し飛びなさい」


幽香の両手に魔力が蓄積されてゆく。


「何度も食らうか!!」


私は放射線を操り、幽香の片腕に集中させる。


「くっ……」


その腕は血を噴き出して崩れ落ちる。


その一瞬に足の力が抜けたので、私は抜け出した。


内臓はいくつかやられたようで私は少し血を吐いた。


痛みを我慢して闇を操り剣にして握り、幽香に切り掛かる。


幽香はそれを避けたが甘く、脇腹をかすった。


「対して強くはないじゃないの、ソレ」


「それはどうかな?」


さらに闇を操り、幽香の身体を侵食させる。身体の中からも外からも幽香の身体を闇が喰らう。


幽香の表情が苦悶なものに変わった。


「私はもっと痛かったんだよ」


「だから、何よ!!」


幽香から妖気が更に溢れ出る。それが闇を掻き消した。


「相手の痛みを知らなきゃ強くはなれないよ」


私は地を蹴って幽香に向かう。


「あれ?」


だが、視界が反転して転んでしまった。


「やっと効いたわね」


身体が痺れ始める。


「なに……を……?」


「私の能力で毒のある花粉を出す植物を咲かせておいたわ。私は花の妖怪だから花粉は効かないのよ。貴女がもう少し強い妖怪なら大丈夫だったかも知れないわね」


マウントポジションを取られた。ただし私の腕に圧を加え、力が入らないようにして。それだけでもかなり痛い。


「今度は逃がさないわよ」


幽香が拳を合わせて振りかぶった。


もう少し強い妖怪なら、か。




私は一瞬で幽香を押し退けて逆にマウントを取った。


「なっ……!?」


「悪いけど私の勝ちだよ。敗因は振りかぶった事だね」


現在、3割程の妖気を更に2割あげた状態にまで解放した。


それだけで幽香を圧殺出来る。


私は拳を振り下ろした。


幽香の顔のすぐ横に。








「いつになったら貴女に勝てるのかしら」


「あと十世紀くらいじゃない?」


簡単な治療をして、戦闘後のティーブレイクをしている。


幽香が一口飲んでから溜息をついた。


「今の陽奈を見ていると、とても同一人物には見えないわね……」


「それはどういう意味?」


「今の妖気や殺気を考えると戦っている時の貴女は別人、って意味よ。そのリボンのせいもあるんだろうけれども、それでも異常だと思うわ」


また、一口。


「幽香もよくそれだけの殺気と妖気を抑えられるよね」


「貴女とは絶対量が違うじゃないの。最後のアレはさすがに多過ぎるわ」


「全開じゃないんだけどね」


「やっぱり……。薄々そうじゃないかと思ってたわ……」


そういえば、と話題を変える。


「幽香に戦い方を教えて欲しいんだけど」


「それは勝者の台詞じゃないわよ」


「幽香の戦いのセンスがずば抜けてるから、って理由があるんだけど」


私は茶菓子を一ついただく。


「でも貴女に負けたのは事実よ」


「それでも今の幽香なら神綺にも勝てるんじゃないかな?神綺は恐怖で崩れたからさ」


「そう……。いいわ、陽奈を弟子にとりましょう。ただし、ここにはない花の種を持って来たらよ」


「タダではない、と」


「当たり前よ。それに貴女にいつか勝ちたいもの。悪いけど、どこかの神にはいずれ踏み台にでも使う事にするわ」


それから私はたまに幽香の元へ訪れる事になった。




その後、幽香が神綺を倒しに行くのはまだまだ遠い未来のこと。







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