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雪は積もる


また幻想郷に冬が訪れた。


「にしても……」


「うん、降りすぎだよね……」


今、博麗神社にいるけれども昨日は粉雪だったものが、一晩経つと猛吹雪だった。


一寸先は白。


そんな言葉が浮かぶ程だった。


「霊菜、お茶ちょうだい」


「無理ね」


私は渋々台所に向かい、蛇口を捻る。


私の行った工事によって神社には上下水道が完備されているので、里のように水をひいたり汲んでくる必要はない。


そろそろ溜まったかと思って見てみると水が出ていなかった。


仕方なく、魔法で水を作ってから温めてお湯を作った。






「はい、お茶よ」


「私が用意したんだけどね」


それでもお茶を注いでくれるだけ、まだ良識はあるのだろう。


「ところで水が出なかったけど」


「水源が凍っちゃったのかしら?」


それはないだろう。

地下水は地熱と地下にあるという関係上、あまり温度が変わらないはずだ。


「ないとは思うんだけどね……」


「いや、霊菜は正解よ」


ぬっと紫と……恐らく式の藍であろう人物が出て来た。


「何よ、何しに来た訳?」


「暖を取りに来たわ」


「家に帰りなさいよ」


「それが……無理なんです」


藍(仮)が残念そうに呟いた。


「何で?」


「ああ、はい。……申し遅れました。紫様の式をしている八雲藍と申します。それで何故かと言いますと寒すぎるんです」


「神社内は温かいから分からなかったでしょうけど」


紫は私から湯呑みを引ったくり、中身を縁側から外に捨てた。


「紫、何するのさ」


「二人とも、見なさい」


お茶が投げられた先にはやや緑がかった氷が一つ。


「信じたかしら」


私たちは何も言えなかった。


「見ての通りよ。人里はハクタクが原理は知らないけれど歴史を一時的に書き換えるとかで難を逃れてるけれど時間の問題よ」


「そして、お気づきかと思いますが人為的なものです」


藍が補足する。


確かにこれだけの豪雪、自然災害な訳がない。けれどこんな事が出来る人も妖怪も思い浮かばない。

毎年、冬になると顔を出す奴は心当たりがあるけど自然を捩曲げる様な事はしないだろう。


「じゃあ、そいつをぶった倒せばいいのね」


霊菜が縁側に向かうが、それを紫が制止する。


「この雪の中、外に出たらあっという間に雪だるまよ」


「うっ……。陽奈、あんた長生きしてんでしょ?天気くらいどうにかしなさいよ」


そんな無茶な……。


「さすがに私でも天気は操れ……るね……」


昔、神様やってた時に取り込んだ恐怖に『天候』があったよ……。


「晴れにしてみるけど無理かもよ」


「何でよ」


「餅は餅屋、所詮私の場合は副産物みたいなものだから本当に天候を操れる妖怪とかいたら負けるかも知れないって事」


「いいからしなさいよ」


私はゆっくりと青空に変えてゆく。


「晴れたわよ。じゃあ行って来るわ」


「待ちなさい」


またしても制止する。


「文句ある訳?」


「あるわよ。見なさい」


日光が反射してキラキラと……、ってダイヤモンドダスト!?

そんな馬鹿な……。


「陽奈は天気は操れたけど気温は低いままよ。このままじゃ出た途端に氷像に早変わりよ」


「じゃあどうするのよ」


「陽奈が行けばいいのよ。貴女は芸術に早変わりするし、藍には任せられない大異変だし、私は眠たいから、陽奈が適任よ」


「ちょっと待って、紫の理由が不純過ぎる」


「じゃあしょうがないわね」


「無視された!?」


「すみません、流してください」


藍に労りの視線を向けられた!?

なんかショックだ……。


「落ち込んでいるところ悪いけれども行ってらっしゃい♪」


ふと感じる浮遊感。


下を見るとスキマ。


「ちくしょー、紫、覚えてろー!」


「忘れておくわ」


私は捨て台詞とともにスキマに自由落下した。







ボスン、という擬音とともに私は雪煙をあげて背中から雪に落ちた。


スキマを抜けると、そこは雪国だった。

いや、雪しかなかった。


「あら、誰かと思えば……」


「あ、レティ」


彼女はレティ、レティ・ホワイトロック。白い髪に白い肌、白い帽子を被り、その青い目で雪に埋まった私を見ている。青と白の服はこの季節には似つかわしいの一言。

毎年冬になると出て来る妖怪で『寒気を操る程度の能力』を持っているが自然に流されるままがいいらしい。

また、妖怪らしく残忍な面もあるが基本的には人がいい。

だが、


「誰だったかしら?」


もの忘れが激しい。


冬の短い間にしか外に出ず、夏は特に無力な為に春から秋は日の当たらない所にこもっているという。だから、あんまり覚えていないとか。


「まあ、いいわ。貴女妖怪でしょう?ちょっと付き合ってくれない?今、力が漲ってるから少し暴れたいのよ」


理不尽な。


大きな大きな氷の塊が私に飛んで来る。その大きさは賽銭箱4個分くらいかな?


「何これ無理ゲーでしょ」


それが数百個。


それが不規則に飛んで来る訳で洒落にならない。


私はどうしようもないので避けようと考えるが止める。全方位に視界いっぱいの氷塊。


氷には火だが、この気温で火が起こるのかすら怪しい。いや、起きるけれども火力が上げられないだろう。


それならどうするか。


逃げればいい。


スキマの中に。







再びスキマから出て、見ると私のいた場所が氷山になっていた。


レティ……、それ普通は致命傷になるから。


絶対覚えてるでしょ。


「いつの間に出て来たの?」


後ろを向くと(氷の)鈍器を振りかぶったレティが……、


「さようなら……」


突然過ぎて避けられなかったが、来るはずの衝撃がなかった。


「思い出したわ。貴女、陽奈ね」


腕を振り切った状態でレティが固まっていた。しかし、その手に凶器はない。


「やっと思い出してくれた?」


「そうね、氷が割れなきゃ忘れたままだったわ」


以前会った時に同様に殴られた事があったが、運よく氷(鈍器)が赤いリボンに当たり、妖力を使って固めていた為に粉々になった事があった。

大妖怪に成り立てくらいのレベルであれば触れた部分が消し飛ぶ代物だ。一介の妖怪が妖力をかき集めた物なんて一瞬で霧散する。


あの時のレティは、戦う気が削がれた、とか言って、それで終わったのだけれど。


「思い出してくれたならさ、ついでにこの大雪に原因知ってたら教えてくれない?」


「ついでじゃないと思うけど……。そうね……、私は犯人じゃないわよ。ただ、私に近い存在が犯人なのは何となく分かるわ。ただ寒い方向に向かえばいいんじゃないかしら」


「ありがと。ほんのお礼だけど」


私はレティに“寒気に対する恐怖”を与える。レティを構成しているものだから純粋にレティの力になるはずだ。


「貴女……、こんな事出来たのね」


「まあね」


別れを告げてから風上(寒い方向)に進んだ。







しばらくふよふよ飛んでいると日傘をさした赤い服の影と白づくめの影が目に映った。


「貴女が犯人なんでしょう?」


「そうだよ」


「お花たちが死んじゃうから止めてくれないかしら?」


「ボクに勝てたらね」


白い方はよく見ると、この寒さなのに純白のワンピースを着ていた。


それにしても彼女は幽香に喧嘩を売ってしまった。


「あら、随分自信があるのね」


幽香から殺気と妖気が噴き出す。


「君には負けないよ?ボクも伊達に生きてないもん」


「うるさい餓鬼ね……。止めないなら、とっとと消えなさい!!」


幽香が少女に傘を叩き込む。


「餓鬼って言った?じゃあ君はおばさんかな?」


その強烈な一撃を、ふわっと跳ねて避けた。


「おばさん?誰に対して言ったのかしら?」


「君だよ。そんなに短気だと老けるよ?」


「シニナサイ……」


幽香の手に魔力が集まりスパークし始める。


「消し飛べ!!クソヤロウ」


「嫌だよ」


幽香が放ったそれは少女に届く前に氷の塊となって重力に従ってそのまま砕けた。


「君はボクには勝てないよ」


「そうね……」


幽香が虚しそうに口にする。


「私はどうせ貴女に勝てない。私の一撃を防がれて、もう生きてゆく価値なんてあるのかしら……」


……幽香がこんなにも沈んでゆくなんて。

私が打ち破った時には、強者との出会いから嬉々としていた幽香がたったこれだけの事で落ち込むだろうか。


「幽香!!しっかりして」


私は幽香の元へ行き、肩を揺さ振った。


「ダメよ、陽奈。私なんてどうせ貴女にも勝てない雑魚なのよ。せめて桜の花みたいに優雅に散ってしまいたいわ……」


「幽香は強いよ。何で強い相手に出会ったのに喜ばないの?幽香らしくないよ」


「何故だか分からないけど……、凄く気分が落ち込んで勝てる気がしなくなって……」


「いいよ、幽香。私があいつを倒すから、その私と今度戦おう。私に勝てればあいつよりは強い事になるんじゃない?」


「そう……ね……」


ふっ、と幽香の目が閉じて、気絶してしまった。


「幽香に何をしたの?」


「あはは、子供がいたの?」


「話を聞け、ヒヨッコ」


「むぅ、それはいただけないな〜。子供にヒヨッコとか言われたくないよ」


「言われたくなきゃ幽香に何をしたか教えてよ」


「しょうがないな〜。ボクは『あらゆるものを冷やす程度の能力』を持ってるんだよ。水とか空気とかだけじゃなくて概念とか感覚も冷やせるの。その延長で凍らせる事も出来るんだ。それで心を凍らせちゃった訳。分かった?」


「はい、質問」


「どーぞ!!」


「氷とか操ってなかった?」


能力と関係しないじゃないか。


「出来るに決まってるじゃん。ボク、雪女だよ?種族として当然の能力だよ」


なん……だと……。

驚愕と同時に私の雪女のイメージも音をたてて崩れた気がする。

白銀のロングヘアーに白い(アルビノではないだろう)、雪の様に白い肌と半袖のワンピース。雪女だから大丈夫なんだろうけど……、寒々しい格好だ。


それはとにかく、彼女は種族の能力と個人の能力を持っている訳か。


「それで君は?」


「白嶺陽奈、一人一種族の妖怪。幽香とは友達……かな?」


「そーいうの聞いた訳じゃないんだけど……、まあ、後で聞くよ。名乗られたからには名乗らなきゃね。ボクの名前は六花(りっか)、錦六花だよ」


「じゃあ、六花。今すぐこの大雪を止めて」


「何で?楽しいじゃん」


本気で首を傾げている。


「六花は子供じゃないんでしょ?生まれてから何年も生きてて思慮分別がまだつかないの?」


「う゛……」


「見た目は私の方が子供なのに……」


私は嘆息する。


「うぁぁあああ!もういいよ!!戻せばいいんでしょ!!」


「分かればよろしい」


急に温かくなって来た。とはいっても比べるとだが。徐々にだが温かくなって来たので紫に丸投げするとしよう。







「そういえば少し偉そうな事言ってたけど何様なの?年上は敬えって言うじゃん」


雪を雲にして、さらには私が気温を上げるために火の球を空に浮かばせておく事を紫に命じられて、六花を道連れにしている。


「じゃあ私を敬ってよ」


「なんでボクが君に敬うの?ボクはこう見えても還暦を還暦の回数は迎えてるんだよ」


「私が小妖怪か中妖怪だとしたら幽香に消されてるよ」


ちなみに幽香を家まで運んだが、幽香の家と花たちは幸運にも無事だった。


「本気出すとどれくらい?」


「魔界の神が戦意を失うくらいかな」


「ボクにはよく分からないんだけど……」


「鬼より強いって言ったら?」


「なにそれ!?君、そんなに強いの?」


六花が目を丸くした。


「でも、年上な証拠はないからね。ボクだって馬鹿じゃないんだから」


チッ、上手く話を逸らそうと思ったのに……。


「じゃあいいよ。私、何歳に見える?」


人間換算で、と付け加える。


「8歳に」


「せめて十代には見えて欲しかったよ……」


私は自分の二つの小さな丘を見て溜息をついていた。


「だって……、君は子供っぽいし……」


「こども……」


「そんな雪原の様な胸、哀しいだけだし」


私の心に氷の槍が……っ。


「しかも小さいから喚いても怖くないし」


私の心に氷の刃が……っ。


「言動が見た目に反して大人っぽいけど背伸びしているように見えるし」


私の心に氷の(略)。


「それにさ……」


止めて!私の心の体力(ライフ)はもうゼロよ!!


「それで!……私は妖怪だから見た目と年はあまり関係ないよ」


「そうやって話を聞かない様にするのも子供っぽいしさ。ボクの方が妖気もあるじゃん」


「今なんて?」


「ボクの方が力があるじゃん。口ばっかりだけど、それなりに力を示されないと信じられないよ」


論より証拠、かな。


「一つ、忠告するよ。精神が弱いと死ぬからね」


私は封印を少し弱めて、出来る限り妖気を解放した。


「目の色が朱くなったけど、まだボクの方が上じゃん。やっぱり口だけか」


そうかい、そんなに怖いもの知らずか。とは思うものの、これでも紫や幽香と近いんだけど……。


「赤いリボン着けてるでしょ?これは封印してるの。昔、私の力に危険を感じて封印を促されたから」


私は赤いリボンを解いて、少し本気を出す。


視界に映る黒髪が朱く変わった。


「えっ……?何?身体が……」


「動かない、でしょ?」


更に圧を上げると六花は遂には足も立たなくなって、座り込んでしまった。


「何で?ボクの足が動かない……。こ、来ないで……」


鳴咽までし始めたので、妖気を引っ込める。


「分かった?」


「うん……。ねぇ、その君に封印を促した人物って……誰?」


「清明……で分かる?」


「あの平安の!?」


「そう、それ」


「まさか清明の後継人候補の封獣使いとか誰だか知っていたり!?」


「たぶん……、それ私の事だね」


六花が足を止めたらしく見てみるとorzの形になっていた。


「ははは……、ボクはそんなのに喧嘩を売ったのか……」


軽く自嘲的になっているようだ。


「ところで封印ってどれくらい強いの?」


「あまり勧めないけど……、着けてみる?」


私はリボンの封印を一番弱い状態まで下げてから渡した。


「うわっ……、これじゃあ人間より力が出ないよ」


「その状態で一番弱いんだけどね」


六花がそれを触れても大丈夫な事にびっくりだけど。

それだけ彼女は強いのだろう。


六花からリボンを返して貰い、改めて結い直した。


「なんか君に挑もうとしたけど止めるよ。人里でのんびり暮らすさ」


「まあ、その前に幻想郷のみんなに謝ろうね。私が仲介役を受け持つから」


そのあとに、各地を回って謝罪をして、雪が消えた後に智音さんに里を戻して貰ったりと事後処理をしたが、智音さんのハクタクパワーと私と紫が境界を操ったり、六花の家を人里に建てる話をしたり、その間の六花の居候先を決めたり……。




そうして完全に騒動が治まったのは、ふきのとうが芽吹き始めた頃だった。






レティって雪女の一種らしいですね。


でもおっとりしている感じがしたので活発なキャラを勝手ながら追加させていただきました。






さて、先日(2010.11末頃)確認した所、この小説(駄文?)が総合評価1,000ptに達していましたので、少しばかり変わった形で次回を作っております。挿入話というか閑話ですが。

書き溜めはありますがそちらを優先するために時間がかかるかも知れません。

しかし、アレです。

まあ、詳しくは活動報告を出します。

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