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博麗とは

一部、独自解釈などありますがご了承ください。


魔界から帰って数年、久しぶりに人里へ行くと、巫女が人に囲まれていた。


「ねぇお兄さん、アレは?」


私は近くの男の人に聞いた。


「ああ、山の上の博麗神社ってとこから来たらしくてな、妖怪退治を承けたりお守りを売ったりしてるんだ。昔はこの里では寺子屋で簡単な護衛術教えてた人がいたけど、いなくなったからね。えっと……誰だったかな……」


「白嶺陽奈、じゃない?」


「そうそう……。何で君が?」


私は自分を指差して言った。


「本人だから」


唖然としている彼を放っておいて、私は少し妖気を出しながら巫女の前にまで到った。


「子供の妖怪?」


巫女の服としては前衛的で、赤いスカートに赤い洋服らしきものを着ていて、腋を出して白い袖だけが二の腕付近から手首までを隠しているような、とても巫女とは言えないが巫女っぽいような服装をしていた。


「お守りのお札一枚ちょうだい」


「変な妖怪ね……」


私はお金を渡してお札を受け取った。


私は筆を取り出して少し手を加えてから巫女にお札を差し出した。


「売ってあげる」


「はあ?何言ってるのよ」


半ば呆れた様子でお札を手に取ったが、眺めている間に表情が真剣な目付きに変わっていった。


「何なのよ、これ」


「強化してみた」


「貴女は妖怪よね?」


「そうだね」


「何で里の人たちは平気なのかしら?」


「私が無害なのは周知の事実だから」


私たちのやり取りを見ている野次馬の中には、私の事を知っている人も幾らか見えた。


「私は博麗霊菜、今代の博麗の巫女よ」


「私は白嶺陽奈、こんななりをしてるけど大妖怪だよ」


「紫より弱そうね……」


「だってさ、紫」


私は後ろを向いて喋った。


「あんた、どこ向いてるのよ」


「陽奈にはばれてるのね……」


紫がスキマから出て来た。


「本当にいたわね……」


里の人たちは新たに妖怪が出た事に動揺してしまっている。


「霊菜、場所を変えましょう?」


「しょうがないわね……。陽奈が何で紫の事を分かったのかも気になるから聞かせてちょうだい」








三人で空を飛んでしばらくすると神社が見えた。


里の人たち……、目の前で人が飛んでも驚かないなんて……、いずれ妖怪見ても驚かなくなるんじゃないかな……。


「あそこが博麗神社よ」


すごく見覚えのある神社だ。


「ねぇ紫、ここって」


「そうね、貴女と界人の愛の巣ね」


そんな言い方じゃなくても……いいんじゃないの……かな?


「あらあら、顔が赤いわよ」


「う、うるしゃい!」


うぅ……、紫は絶対わざとやったんだ……。確信犯だ。


「話が読めないわ。説明してちゃうだい」


「神社に降りてからでも遅くはないでしょう?」







私たちは神社の茶の間で時期でもない干し柿を貪りながら、薄い茶を啜っていた。


白湯と余り変わらない程に薄い……。


「それで陽奈は博麗と関係あるのかしら?」


「私は記憶にないけどね」


ああ、お茶が薄い。


「でもここは貴女と界人の愛の巣なのは変わりないわよ」


私はお茶を噴き出した。


「こほっ……。紫、本当なの?」


「ふふっ、そうよ。貴女と界人が……」


「言うなー!」


「二人は愛し合っていたものねぇ」


「うぅ〜、これ以上言うなー!」


呂律が回らないじゃないか……。紫め、後で覚えてろよ……。


「こほん、それで紫、説明してくれるんでしょ?」


ありがとう、霊菜、君に後で玉露を贈呈しよう。


「そうだったわね。まず一番の要点を言うと、霊菜は陽奈の子孫よ」


「「はあ!?」」


私と霊菜の声が重なった。


「どういうことよ!」


「そういうことよ、霊菜。『白嶺』の読み方を少し変えてみなさい」


白→はく

嶺→れい

白嶺→はくれい=博麗?


「えっと……?分かったけどさ、どうしてこうなったか説明してちょうだい」


「そうね……」


紫の長い話を要約すると


こんな山中の神社に好んで来る人なんていないため、白嶺の巫女たちは老いてから子を授かる事も多かった。

そしてある時、子供が生まれて間もなく他界、子供は里の者に一旦引き取られ、しばらくして神社へ帰ってから、神社に書いてあった『白嶺』を『はくれい』と読む。

そして更に時が経ち、『はくれい』と言う名は聞いたが字を教わる前に親が他界し、『白嶺』という文字も色あせ見えなくなっていて、その子供は里で学んだ末に『博麗』という字をあてた。


という事らしい。


「その調子だと『博麗』もいずれ消えそうね」


「大丈夫よ、貴女がしっかりとすれば。実を言うと貴女の親までは妖力が少なからずあったのよ。けれど貴女で遂になくなったわ。先代までは自己の妖気で霊術が阻害されていたけど貴女からは違う。その妖気で阻害され発揮出来なかった分の博麗の術を完全に発揮出来る可能性があるわ」


紫が言いたい事は分かる。


体内の妖気で阻害されていた分、普通より強いものを放つ必要がある。


しかし、それが阻害されなくなったら少なくとも彼女らよりは強くなれる可能性がある。修行次第だが。


では、私は何故抵抗がないのか。


彼女らと違い、妖気を認識し操作出来るからだ。霊力を使う時に妖力を出力しなければいいだけ。

もっともこの方法は清明さんに教えられた方法だからロストテクノロジーに近い。



話がそれた。



「信じられないわ。私が、博麗が妖怪の子孫だなんて」


霊菜が愚痴をこぼした。


妖怪退治をして来た一族が妖怪の末裔だなんて滑稽な話にも程があるからだ。


しかし、紛れも無い事実なんだろう。


「じゃあ、証明出来ればいいのね」


「それなら納得してやるわよ」


私としては神社の存在だけで納得出来るが、霊菜はそうもいかないらしい。


「貴女たちが戦えばいいのよ」








私としては不本意だが霊菜と戦う事になった。


「いくわよ……」


霊菜は静かに言うと針を放って来た。


私は針を一本だけ掴んで、他は避けた。


「破魔の針だね。これは刺されば痛い」


「当然よ。貴女は妖怪でしょう?」


続いて様子を見ていると札を投げて来た。


私が少し避けると追い掛けて来たので私も札を投げて撃墜する。


「かかったわね。退魔陣!」


私の足元に結界の構成式が展開された。

設置型の結界らしい。


私は結界が出来る前に先程の針を式の線の一箇所に精確に刺した。


「あー、綺麗だねー」


「嘘……でしょ……」


そこは要であって、断たれたら式が崩れる点。


恐らく咄嗟に仕掛けたであろう構成式は私から見たら稚拙なものであったからだ。


ウィークポイントにダメージを喰らった式は綺麗に光の粒子となった。


「見本を見せてあげるよ」


私は小さな結界を自分の周りに張った。


生憎だが霊菜ほど霊力がない。だから緻密さと効率で勝つしかない。


「形は綺麗ね。でも力が足りないわ」


「私は妖怪だからね。霊術は適してないよ」


「とどめをささせて貰うわ。……『夢想封印』」


霊菜はそう呟くと霊気が虹色の輝く珠を模り、霊力となったソレは私に襲い掛かる。


私の張った結界をたやすく打ち破り、私の身を火傷に近い感覚で焼く。


「まだまだあるわよ」


そんな珠が残り七つ。


「もののついでよ、『陰陽玉』!」


私に向かって放たれたはずのそれは神社へと飛んで行き、


スコーン


そんな乾いた音をして境内にいた紫に直撃した。


「貴女は妖怪よね?」


「何で遠くの紫に飛んで行ったか、でしょ」


「いたた……、これを作ったのは陽奈だからよ。自分を襲う道具なんて作らないじゃないのよ」


紫が霊菜に陰陽玉を投げ渡す。


が、軌道を変えて


スコーン


また紫を直撃した。







紫は陰陽玉、博麗の秘宝と呼ばれるものの事を伝える為に私たちを戦わせたらしい。


「嫌でも信じるしかないわよ。すまなかったわね、紫」


霊菜が何度か実験をして痛々しい程に陰陽玉に襲われた紫はとても不機嫌だった。


「本当よ。意外と痛いのよ、それ」


「出力は試作品の二割くらいだけどね」


最初作った時は中妖怪までなら一発昇天していた。


「試作品は五倍も強かったの!?」


霊菜が聞いてきた。


「出力の差だから攻撃力なら10倍くらいはあったかな?」


「何で抑えたのよ」


それは簡単な理由だ。


「危ないから。試作品は私の霊力を全部盗んで界人の、まあ私の夫な訳だけど、霊力を枯渇ぎりぎりまで奪って行ったんだよ」


神力注いで霊力を保たせたのは製作秘話だが。


「霊菜なら……、九割は奪われるかな」


「それなら……」


「そして制御も難しくて私の両手をことごとくえぐり取って行ったよ。だから私に攻撃しないように式を組み直した部分もあるんだけどね」


霊菜の顔が面白い程に青ざめた。


「霊菜が望むなら組立直すけど?」


「遠慮しておくわ」


相変わらず顔色は酷いままだった。









しばらく神社でお世話になった後に私は人里へと向かった。


それから数ヶ月分の食糧をまとめ買いする。程度で言うと私の財布が空になる程に。


それらを全てスキマに放り込む。


「なんだ、陽奈ではないか」


「あ、智音さん久しぶ……」


私は話し掛けられたので向いて見てから言葉を失った。


「どうした?」


「いや、お腹……」


「子供だ」


マヂですか?


「おめでとう、生憎何も贈れないけど」


私は空の財布をひっくり返す。


「気持ちだけでも十分嬉しいぞ。ところであんなに食糧を買ってどうしたんだ?」


ああ、それか。


「野暮用に」


「そうか。まあ、言わなくてもいいが。時に陽奈、お願いがあるのだが」


「変な事じゃなければ」


「この子が生まれたら寺子屋にまで手が回らないから任せたい。授業方針はある程度私が作ろう。だから頼む!」


手を叩いて懇願される。


「それくらいならいいけど……」


問題はあんまりない。


「では、今度寺子屋へ来てくれ」







私は智音さんと別れた後に洞窟に入った。


「おや、ここからは地上の妖怪は立入禁止だったはずだよ?それとも私の能力でぐちゃぐちゃの肉塊になって体液を啜り取られたいのかい?」


「そんな無闇に能力を使わないの」


「あはは、冗談だよ」


彼女は黒谷(くろだに)ヤマメ。

病気(主に感染症)を操る程度の能力を持っているが彼女の性格上、多用はしない。


能力とは裏腹に結構明るい性格をしている為に一部ではアイドル扱いされていたりもするとか。


ちなみに土蜘蛛らしい。


「毎度ご苦労様って思うよ」


いつだったか交わした、地底への物資運搬をしている訳だ。


「そういえばキスメは?」


キスメはいつもヤマメといる釣瓶落しの娘だ。


「水を汲みに行ったよ」


「ふーん、何で?」


「ここって少し日光入るじゃん。だから陽奈からの物資から野菜を育ててるの。ほら、私がいれば感染症の心配ないし」


土壌汚染もなければ水質汚染もない、と。


「もうちょっと光が欲しいから穴を広げたいけどね。落盤したら嫌だから」


「キスメって確か鬼火を使えたよね?」


「光が弱くてね……。あ、そうだ。どうせ、さとりの所まで行くんでしょ?今日の分の収穫を持って行ってよ」


グイッと様々な単色野菜が渡される。

緑黄色はないみたいだ。人参はあったけど。


「じゃあ、よろしくねー」


私は手をヒラヒラ振ってスキマに野菜を放り込んでからこの場を後にした。








私が旧地獄にある街道へ繋がる橋に差し掛かると緑の目をした少女が睨んで来た。


「ああ、妬ましい。地上に行ける貴女が妬ましい」


取り敢えず無視して橋を渡った。






街道にていくつか喧嘩を売られたが無視をして、やっと、さとりのいる地霊殿にたどり着いた。


「少し遅かったですね。まあ、地上での交流も大事でしょうから責めはしません」


「まずは地上からの食材を」


「帰る時にはヤマメに礼を言っておいてください」


「はあ……」


先に色々言われてしまった。


「すみませんね。今日は一杯やりますか?」


「なら入れとくれよ。ついでに陽奈、喧嘩してくれ」


「勇儀、我慢してください、陽奈は嫌がっていますよ」


「じゃあお願いだから喧嘩してくれ」


「何で?」


「陽奈と戦った事がない奴らが地上に出せってうるさいからさ。見せ付けてやって欲しいんだ」


「それで静かになるかな?」


「少なくとも自分はもう本気の陽奈との戦いは御免被るね」


こうして急遽、地底での試合(死合)が開催された。







結果は私の単独優勝だった。


本気を出したら怯えて気絶する奴らばかりだった。


「勇儀、これでよかったの?」


「あ、ああ。それよりお願いだから妖気を抑えてくれないかい?」


「ごめん」


まだリボンを結んでいない事を忘れていたようだ。


「これで奴らも当分は熱を冷ましてくれるだろうからね。陽奈には感謝するよ。だから喧嘩しないかい?」


「お断り致します」







しばらく地底でくつろいだ後に私は洞窟へと再び帰り、ヤマメにお礼を伝えてから地上へ戻った。


そういえば今は西暦でいうと何年なんだろうか?そう思い、私は京都へ飛び立った。








どうやらかなり進んでいて、江戸幕府が倒れていた。


ざんぎり頭が闊歩している。


私の記憶が正しければ、これからは科学の時代。私たちの様な妖怪などという“幻想”は消え行く。


妖怪を初めとして、魔法も神も聖獣も吸血鬼も、それらが全て消えてしまう。


どうにかして護らなければいけない。


あの幻想の集まる場所を。







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