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遊戯と条件


フランに連れられ地下へ地下へと下る階段を下りるとそこには扉があった。


恐らく中から開けられないように扉に備え付けられていたであろう鎖や錠前は粉々に壊れ、扉を異様な雰囲気で強調しているかのようだった。


私たち二人はその扉を潜った。







部屋の中は閑散としていた。


ただ鉄の匂いがする紅に染め上げられ、ベッドと本棚、少しアクセントとして置いてあるぬいぐるみすらも、ただ不気味さを引き立たせるだけの小道具となっていた。


「陽奈……、遊ぼう?」


フランの浮かべた恍惚の笑みは私すら戦慄してしまった。


「パチェも言ってたしさ……」


――――コワレナイヨネ?


フランから可視出来るか疑う程の狂気……いや狂喜が溢れる。



フランが手を開いて握った。


パン


「えっ……?」


途端、私の左腕が弾け飛んだ。


何かをされたか?ただフランが開いた手を握っただけのはず。


私はとりあえず左腕を回復させて様子を見る事にする。


「フラン、何をしたの?」


「ただ、きゅっとしてどかーん、ってしただけだよ」


訳が分からないが何かの能力の一端なのかも知れない。


この部屋の夥しいまでの紅の正体が血液だとすれば、フランには恐怖が纏わり付いているはずだ。


まあ、血じゃなきゃなんなんだろうかね。


当然の如く恐怖が部屋に充満していた。

フランだけでなく部屋にまで。


おいしくいただきましょうか。


私は自分の封印を強めてから充満している恐怖を全部いただいた。


少し鳴咽したが大丈夫だった。


「フランは“ありとあらゆるものを破壊する程度の能力”を持っているんだね」


その恐怖をいただいた私はその能力に対応する手段が出来た。


フランが一瞬驚いた顔をしたがすぐさま表情を戻した。


「そうだよ。目をきゅって握るとその目のあった場所がどかーんってなるの」


ほぇ……、怖いな……。


「だからね……」


私の左腕から何かが出て来るのが見えた。これが目なのだろう。それがフランに向かう。


「握ると……」


やばい……。


私は咄嗟に移動してフランの手を握った。


「あっ……」


私の左腕がまたもや弾け飛んだ。


「陽奈って……おバカ?」


なんだか空気が和んだ。






私たちは再び戦いを始めた。


しかし、それは先程までとは異なるもの。


能力を使わない事にした。


それはただ楽しむ事が目的。

これからは『遊び』だ。











「はぁ……はぁ……」


私たちは今床に伏している。


ただ二人で疲れたから止めただけ。


「こんな気持ち初めてだよ。あいつとは喧嘩ばかりだし……」


「あいつ?」


「お姉様のこと。あいつ、って呼んだら機嫌悪くするから。気を使うのも面倒臭いんだけど……」


フランが天井を見上げて呟いた。


その瞳はどこか淋しそうだった。


「私はね、この能力のせいで地下に閉じ込められた事になってるの。

でも違う。私は物心ついた頃には能力の事を理解していた。ただ、不安定だった……。

私は狂った様に振る舞い、地下に閉じこもって軟禁されていたけど簡単に出られた。

だけど出なかった。私はたくさんの命に感謝しているの。あいつは人をけなす。種族に囚われているの。

彼らがいなければ私は能力を使いこなせなかった。だけど私はあいつと同じ悪魔の血が流れている。

私という存在に怯えて、私が謝っても……騙している……ってぇ……っ。私……は……彼らを……救えて……いない……っ」


「じゃあ何で死骸はないの?」


「あいづが……うるざいから……」


フランはいつのまにか泣いていた。


「みんな自殺しちゃうから……私は死体を破壊処理して血を貰う……。私は……殺していない……」


「フラン、本当にみんなそうだったの?」


「ううん……、たった一人だけ私を見てくれたよ……。私はすごく嬉しかった……けど……、寝て起きたら死んでいたの。私はあいつに聞いてみたら、あんな奴を何で襲わない、私が代わりにいただいた、って……。あいつは……」


そうか……、


「フラン」


私は歩み寄ってフランを抱きしめた。


「私じゃダメかな?毎日は来れないかも知れないけど絶対に忘れない。何年も会えなくなっても絶対にまた会う日まで。私はその人の代わりにはなれないけど、長生きだから離れてもいずれ会えるから」


私はフランを抱きながらフランの『孤独』という恐怖を少しずついただいた。


「ありがとう……陽奈……」


フランは泣き疲れたのかそのまま寝てしまった。









結局私はフランが起きるまで動けなかった。


どうしてか?吸血鬼の抱き着く力は半端じゃない。萃香とかよりはマシだがガッチリと掴まれた。


「陽奈、おはよぉ〜」


フランが目を擦りながら私に声をかけた。


「おはよう」


私はパチェとかが心配しているだろうな、と少し思った。正確にはレミリアと美鈴がおろおろしているのにパチェだけ大丈夫とか言ってそうだけど。


「ねぇフラン、少し上に行っていいかな?」


「また来てくれる?」


「絶対に」


私はフランに約束をした。


「それで陽奈、お願いがあるんだけど……」







「ただいま〜……」


そんな訳で私は地上へ帰って来た。


「お帰りなさい……って陽奈!?」


パチェが驚くのも無理はない。


私が脂汗を流し、片腕を失い、血にまみれていたからだ。


「さすがに……厳しかった……」


ちなみにこれはフランからお願いされた『演技』だ。私が無傷で帰って来たら不自然に思われるから、と。


「私……明日もフランのところに行くからね……」


「強情ね。そんなにされたのに何がしたいの?」


「そうよ。フランに何されたかは知らないけど止めておきなさい」


レミリアに止められるが私は止めない。


「フランが何で遊びたいか、が一番大事だよ。私は他の妖怪より丈夫だから大丈夫」


「私は貴女には死なれたくないの。貴重な戦力を身内に殺されたなんて馬鹿な話は嫌なのよ」


レミリアが必死に私を留めようとしているのは分かる。


「ありがとう。でも断る。私は今度こそ本気でフランにぶつかる」


そろそろリボンの事を言及されるだろうから。


「なら準備しておくからレミィと美鈴の事なら心配しないでいいわ」


「ありがと」







翌日、早速フランのもとへ向かう。


「フラーン、起きてるー?」


私は大きなフランの部屋の扉の前で叫んだ。


「どーぞー」


フランから応答があったので私はお邪魔した。




あれ以来、何故かフランが私に抱き着くのが習慣になってしまっている。

安心するんだとさ。


「ねぇ陽奈」


「ん?」


「何でリボンをずっと付けてるの?普通はシャワー浴びる時とかには取るのに美鈴が取ってないとか言うから不思議だなぁ、って」


あの中国、覚えてろよ……。


それはさておき、私はフランの羽が飛べる原理を知りたいが答える事にする。いつかは聞かれるんだ。


「これは封印なんだよ」


「ふーいん?」


「これがあると本気で力が出せないんだよ。まあ、自分で外せるからあんまり気にしないで」


そこまで言うとフランの目の色が変わった。


「あの時は手加減してたんだ……。一回本気になってみてよ……」


フランの目は明らかに疑惑の色に染められていた。







自分の気持ちを踏みにじられる気がした。

自分が本気だったのに相手は手を抜いていた。これ程不快なのは吸血鬼の血が許してくれない。


「じゃあ一回だけ本気で遊ぼう?」


私は陽奈に聞いてみた。


陽奈が何故自分に枷をはめるのかが不思議だった。わざわざ自分の自由を奪う事をするなんて考えられなかった。


恐らく断るだろう。

余程のリスクがあるに決まっている。


「いいよ」


予想に反した言葉が陽奈の口から発せられた。


では何故封印しているのか。

気にくわなかった。


「ただし、気をしっかり持ってね。気を抜いたら死ぬかもよ」


何を言っているんだろう。

暴走でもしてしまうのだろうか。いや、それなら拒むはずだ。


「たぶん大丈夫かも」


私は少し強がりを言ってしまった。


まず陽奈は紫色のリボンを外した。


途端に溢れる魔力。

私も冷や汗をかいてしまう。けれどいくら魔力がたくさんあってもそれはあまり恐怖ではない。

だけどこの前、陽奈はたくさんの魔法を使って来た。つまり知識は十分にあるという事。たくさんの知識と魔力は恐怖以外のなにものにもならない。


もしかしたら赤いリボンでさらに魔力が上がるのではないのか?そう思うと怖く感じた。


けれど何故そこまで怖いのかはよく分からない。


陽奈がもう一つのリボンを外した時、私は急に危険を感じた。


ここにいてはいけない。


私は逃げようとしたが足も羽も全く動いてくれなかった。脚が震えて崩れ落ちる。


助けて。


怖い。


「ああああぁぁぁぁあ!!」


私はいつのまにか炎で出来た破壊の剣“レーヴァテイン”を陽奈に振っていた。


「ごめんね」


私の近くで声がした。


黒い髪と目が朱くなったロングヘアの陽奈の顔がそこにあった。


「ひ……な……?」


今までの陽奈とは違い、美鈴なんか比較対象にも成り得ない妖気に溢れ、逆に神々しく感じてしまう。

ただ、怖いのには変わりなかった。


私は本能的な逃走心と陽奈という存在の恐怖と安心の葛藤の中、意識を闇へと投げ出した。







私がリボンを外してしばらくするとフランが気絶してしまった。


なんか危なげな炎の剣を受け止めたのはいいのだが、そこまで私は怖いのかな?


私はとりあえずリボンを結び直してからフランをベッドに運んだ。





それからしばらくしてからフランは目を覚ました。


フランは私を確認すると抱き着いて来た。


「陽奈……だよね?」


「そうだよ」


私はフランをぎゅっと抱きしめた。


「ごめんね、陽奈。陽奈はみんなのために力を使わないんだね……」


私は何も言い返せなかった。


たしかに、みんなのためでもある。

けれど実は私のエゴも含まれる。


封印してなければ私は孤立して暴走してしまうかも知れないから。長年生きてきたが、だからこそ孤独は人を狂わせる事を知っている。


私が封印を施さなければ、紫や閻魔も尻尾を巻いて逃げてしまう。それは私が独りになる事に等しい。


最善手を選んだ結果が今である。


「私は身勝手なんだよ……」


私はフランを撫でて言った。


今はフランには分からないだろうけど、いずれ知る事になるんじゃないかと思う。








それから数日、いつもはフランと遊んだり、レミリアの我が儘に付き合ったり、パチェの研究の手伝いをしていたが、今日は違う。


教会の奴らがやって来る。


私は(女だが)紳士な対応をしようかと思う。…………いや、淑女か。


とにかく待ち合わせなどはしていないので街の教会に赴く事にした。


ちなみに昼間なので私が一人で行く事になる。


そもそも夜に吸血鬼を倒そうとする輩はいないだろう。太陽の苦手な奴は昼間にこそ倒しやすいからだ。








久しぶりに外に出ると太陽が眩しかった。


しかし、私はあまり気にせず教会へと足を運ぶ。


私は向かいながら少し能力の開発を試みていた。


恐怖を部分的に集中させる、という事だ。


ちょうど吸血鬼に対する恐怖も得た事だし早速右手に集中してみる。ミスして全身吸血鬼になってしまったらヤバイので右腕だけを日にあてた。


一瞬熱さを感じた後に見てみると紅い煙を出して手首より先が蒸発していた。手を日陰に引っ込めたら生えてきたけど。


他にも来たる教会戦に対してある程度は準備をしておいた。








教会にたどり着くと多くの馬車が停まっていた。装飾が多いのを見る限り主戦力は人間であり、騎馬隊などではない事が伺える。


そんな事も考えつつ私は教会の扉を開けた。


たくさんの戦力らしき人達が席を埋め尽くし、作戦会議らしきものをしていた。


・・・。


「失礼しました……」


正直、気まずいので私はその場を去った。


「貴様、何者だ!!」


と、したくとも無理だった。


先程まで前に立っていた人物が私を呼び止めたからだった。


私は仕方なく足を止めて振り返った。


「普通はそっちから名乗るもんじゃないの?」


「貴様のような者に名乗る名があるとでも?人外が」


ばれてました。


「へぇ、分かるんだ」


敢えて挑発してみる。


「私は分かるんだ。何せ親が人外に殺されたからな……」


「お気の毒に……。もしそいつが生きてれば殺しに行くよ?」


「もう殺した。……ところで貴様は魔女か?」


専ら判断材料は今が昼間な事と人外な事なんだろうか。


「違うよ。ちなみに悪魔(吸血鬼含む)でもない」


「では何だ?」


「大陸東から来た人外。人外って魔女や悪魔だけじゃないんだよ?世界は広いの」


相手は、ならば……と、話しを続ける。


「何をしに来た。関係がないなら関わらないのが道理であろう?」


「知り合いの魔女と悪魔を助けに来たんだよ。つまり、私はあんたらの敵。今、宣戦布告する。妖怪である私、白嶺陽奈は教会を潰す」


「ほう、敵ながら礼儀があるな」


「ああ、うん。私を倒すまでこの街の悪魔狩りや魔女狩りを止めるという条件を受け入れて欲しい。」


「それは出来ん。こちらに得がない」


「あるよ、相手は私だけ。人海戦術で押し潰せる」


「そんな悪魔の契約にのってはダメです!!」


突然、割り込んで来た声。多くの人の中から一人立ち上がって反論した。


「私は悪魔じゃない、って。どうせ漏れがあるとか言うんでしょ?私の出す条件は私一人で相手をする代わりに私を倒すまで全力で私を殺しに来いって事だけ。私は小さな女の子だよ?分が悪いとは言わせない」


私はソイツを睨んだ。




その後、この交換条件は呑まれ、翌日から戦いが始まる事となる。







教えてあげよう。


本当の恐怖を。






懲りなくまだ続きます。


まあ、もうプロットは出来ているのでそんなには時間は掛からないと思います。

ただ、咲夜の話をいつ入れるかは考えておりません。あの年齢不詳のPA……メイドさんの話は考えてはあるんですけどね。

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