私、渡欧するよ
タイトルの元ネタを知る人はいるのでしょうか?
「分かった、僕、渡米するよ」
です。
全く東方は関係ありません。
私は人里で数年間、智音さんと教鞭を振るっていたが、久しぶりに帰宅する事にした。
森の中の小屋な訳だが、家の周りには魔法植物やら化け茸やらがたくさんあるので普通に歩いてたら胞子やら花粉やらで仏になる。
しかも私が来る度に増している。
今度対策しておこうかなぁ……。
玄関部分を二重にして、初めのフロア、土間を外から隔離と空気清浄でもして休憩所にしよう。
家の建っている位置が森のやや奥だからちょうどいいかもしれない。
もちろん居住スペースは隠蔽。
そんな事を考えながらも家にたどり着く。
私は扉を開け、
むにゅ
何かを踏んだ。
慌てて飛びのくと赤い髪に小さな蝙蝠の羽、ワイシャツらしきものの上には黒のブレザーらしきものを着て、黒いスカート。
改めて見ると真っ黒だが、小悪魔だ。
どうやらパチェはいないようだが。
何でいるのかは起きてからで聞けばいいものの、倒れている理由は見れば明らかだ。
顔がほんのり紫色で息もとぎれとぎれ、非常に苦しそうだ。
治療をしよう、そうしよう。
とりあえず魔法で治療かな。恐らく森のおかげでこうなったから効き目はよくないが、私の圧倒的魔力で強引にやる。
ついでに、ここを休憩所にする(確定)なら治療薬を作っておこう。
「Ah...where?(あ……、ここはどこ)」
「あ、起きた?」
小悪魔が目を覚ましたようだ。
「あ、すみません。お久しぶりです、陽奈様。先程は言語を間違えて……」
小悪魔はそのまま立ち上がろうとした。
私は小悪魔が起きないように魔法で拘束する。
「何故動けなく……」
「まだ安静にしてないと!」
まだ身体は十分には動かないはずだ。そうなると厄介になる。
「あ、ありがとうございます」
「ところでパチェがいないけど……」
小悪魔がいればパチェもいるはずだ。
「はい、そのことなんですけど……、パチュリー様は一緒ではありません。陽奈様を連れて来いと言われました」
はあ、どこに?
「今、大変困っているので助けていただけないでしょうか」
最近暇だしな……。
私も人里で教える事はなくなってきた。史実を智音さんが述べ、実体験などを織り交ぜ興味を持たせる。だが、話とは継承されるもの。そろそろ私の話もいらなくなってくる。
あと、簡単な術も教えた。原理も記した。妖怪が仮に襲ってこようにも大人ならば追い払う程度は出来るだろう。
人助けとしますか。
旧友であるパチェの頼みでもある。断る理由は微塵もない。
私は小悪魔にその旨を伝えた。
「一刻を争うので今すぐにでも出ましょう!!」
バタバタと暴れ出したのでとりあえず落ち着かせる。
「そんな状態で大丈夫なの?」
「だいじょ……こほっこほっ」
しょうがない。
一刻を争うのであれば、
「こほっこほっ……。……あれ?治りました!!」
神様パワーの治療だ。治らない道理はない。
「じゃあ早急に案内して」
「はい」
私は家を休憩所にする作業を諦め、小悪魔を追って飛び立った。
「どこまで行くの?」
しばらく飛びっぱなしなのでさすがに聞いた。
「海を越えますよ。このペースだと一月で着きます」
すごく……遠いです。
そういえばパチェは帰国するって言ってたな。
魔法の起源はヨーロッパあたりだから……。一万五千kmくらい飛ぶの!?
「小悪魔、私につかまって」
「何故ですか?」
「スピードを上げるよ」
世界地図は頭の中にある。
準備はいい。
小悪魔、シートベルトは(ないけど)締めたかい?
ぎゅっと掴んでいますか、はい。
「あーゆーれでぃ?」
「Well...OK」
私は運動エネルギーを操りまくって小悪魔が落ちないように爆進した。
途中、境界を抜けた時に大量の恐怖が流れて来て少し減速したが八意印の薬で抑えて再加速した。
最近は魑魅魍魎に対する恐怖もあるが戦への恐怖、銃火器への恐怖も増えているみたいだ。
織田家が導入したといわれる鉄砲は改良を加えられ、また精錬技術の工場も相成り銃弾も改善、創意工夫による針弾や砲弾なども。
火薬は発破と花火にだけ使えばいいのに。
話がそれた。
世の中に新たな恐怖が生まれるたびに私は取り入れなければいけない。そんな気がする。これが私の本能なのかは分からないけれどそれに任せる事も必要だ。
しばらくして私たちは休憩をする事にした。
飛行機で半日以上かかる距離をどうして行けるものか。まだ、そんな飛行機はないけれど。
「あの……陽奈様、服を脱いでくれないでしょうか」
「えっ、何で?まさかソッチの趣味?」
いきなり小悪魔がびっくりな発言をした。
「ち、違いますよ!!下はまあ、スカートですから大丈夫でしょう。けれどその和服は明らかに目立ってしまいます」
なるほど。
「それで……私のお下がりですが着てください」
渡されたのはカッターシャツに赤いブレザー。幾分目立たないとは思うけど。
私が固まっていると
「やっぱり脱いでください」
「だから何で!?」
びっくり発言だ。
「いえ、どのように着るのかが分からなくて動かないのかと思いまして。ならば手取り足取り教えて差し上げようと……」
「ありがとう、自分で着れるから心配しないで。………こっち見んな」
「す、すみません」
小悪魔がそっぽを向いたところで着替え始める。
肌着とかないのかな?直にシャツを着るとなんか嫌だな……。
「肌着とかないの?擦れて嫌なんだけど」
「和服に重ね着すればいいのではないでしょうか?」
うん、そうだね。
着替えたが少し大きかった。袖から指しか出ない。
大きめの制服を買ってもらった子供みたいだ。
「ちゃんと着れていますね」
小悪魔からも合格をもらった。
「あとはこれを」
小悪魔は黒い靴と白の靴下を取り出した。
「裸足はさすがにまずいですから」
数日飛ぶと小悪魔が降りるように言った。まだ街の外れなのに。
「陽奈様は普通の人間の前で降りるんですか!?殺されてしまいますよ!?」
・・・。
普通の人間は空は飛べないな。
「殺されるかは分からないけど厄介事になるかも知れないから降りるよ」
しばらく歩くと街に着いた。
「なんか全部の家に十字架がかかってるんだけど……」
「当たり前です。この街では魔女狩り、バンパイアハントが行われていますから。時には冤罪で街の人が拷問もされます」
「パチェって……」
「魔女です。陽奈様も一応そうですよ」
なんてこったい。
「でもそれなら何でこんな所に?逃げればいいじゃん」
魔女狩りのしている危険な場所にわざわざいる意味はあるのだろうか。
「私たちは教会に目をつけられています。今逃げたら正体をばらすようなものです。ですからいっそのこと教会の過激派を消そうと」
パチェ……、自分でしろ。
そんな事を言える訳ないが思うだけなら自由だ。
そんな中、数人に捕まえられ、連行されている女性を見た。
「小悪魔、なんて言ってるの?」
ちなみに言語はあまりわからない。
「止めて私は魔女なんかじゃない、と」
その時、そのうちの一人が私たちの方に来た。
小悪魔に向かって何かを言っている。
「陽奈様と妙な言語で話していると疑われました。なので他国の方、と事実を言っておきました」
どうやら言い方一つで私たちも危なかったようだ。しかしなあ……、あの女の人はただの人間だよな……。
「助けるか……」
「えっ?陽奈様!?」
私は小悪魔を振り切って駆け出した。
「止めなよ」
「Who are you?(誰だ)」
あ、日本語通じないんだった。
〜以下英語〜
「止めなよ」
「何だ貴様は」
「先程妙な言葉で話していた奴の一人だ」
「私は確かに街の外の者だけど罪のない奴を目の前で殺されちゃたまらないよ」
「こいつは魔女だぞ!」
「そうやって罪のない人を殺すの?」
「魔女は我々を脅かす!!」
「今まで何をされたの?」
「突然、雨が降ったり、はたまた晴れたり。病人が数日さらわれたり」
「それで?」
「それだけでも脅威と言えるだろう」
ああ、アホなのか。
「誰か死んだりしたの?」
「いや、まだだが……」
「なら殺す必要ないよね。この街には自警団とかいるんじゃないの?わざわざ人の目の前でさらうような事はしないと思うし。それに私は魔女に会った事あるの。魔法でやられそうにもなったから魔力の感じが分かるんだけど、その人からは感じられないよ」
「魔女の肩を持つとは……」
「まあ、よせ。……そこの餓鬼」
私か。
「この女は人間なんだな?」
リーダーみたいな奴が私に言う。
それに対し、私は頷く。
「では、あと数日で一度本部の者が来るのでそれまでは許す」
「だが……」
先程までうるさかった男が弱々しく反対している。
「黙れ!何もここで殺さなければならん訳ではない。帰るぞ」
彼は女性を置いて教会の奴らを連れ帰った。
ちなみに助けた女性からは大変感謝された。
しばらく歩くと小悪魔が小屋の前で立ち止まった。
「ここです」
私は扉を開け……びくともしなかった。
「下手に開けられると困りますから魔法で鍵をかけているんです」
小悪魔が、鍵は簡単な言葉ですから、と付け加えた。
「えっと……、ひらけごま?」
まさかそんな日本語な訳ないよね。
ガチャン
・・・。
ものすごく重厚な音がしたんだけど……。
「さあ、入りましょう」
裏側から見ると鍵がいっぱいついていた。
「パチュリー様、ただいま帰りましたー」
「そう。陽奈、久しぶりね」
パチェは相変わらずだった。
「パチュリー様、陽奈様にはこの街について説明しました」
「気が利くわね。陽奈、貴女を呼んだのは二つ頼みがあるからなの」
小悪魔が積まれた本を片付けている間にパチェは現状から説明してくれた。
吸血鬼を求め、この地にたどり着き無事に会合を果たした。
その吸血鬼は街の者から慕われていた。吸血鬼には典型的な強情っぷりだったが、貧しい者や病人を館で擁護し稀にパーティを開いたりと街の者に不満はなかった。
パーティの際や擁護の代わりに血を少し貰う程度。彼らはそれだけで十分だった。
そんな日々が続いていたある日、宗教改革とやらで街の教会に過激派が住み着いてしまった。横暴で刃向かう者を魔女や吸血鬼と称し、殺すようになった。
吸血鬼とパチェは館を捨て、街に隠れる事にしたが見つかってしまう。彼らは必死の抵抗の末に敗北。野ざらしにされ太陽によって焼かれてしまった。
ただ、パチェに託した二人の子供たちの幸せを願いながら。
街の者は悲しんだが表には出せず、パチェたちを守るために十字架を家に掲げた。もちろん吸血鬼には効かないという事は知っていたが過激派は知らないようで騙す事は簡単だった。
一般的に知られる間違った知識でも十分に効果を発揮したのだった。
その吸血鬼の子供たちはもちろん吸血鬼だが直接的な弱点は太陽と聖水くらいしかない。
流れる水の上は渡れず、豆のような細かい物を撒かれると数えたくなるが直接的な死亡原因にはならない。
「それで頼みたいのは無事に私たちを逃がす事と、逃げた先を考える事よ」
恐らくこの地に留まる事は永久に目をつけられる事に等しいからこその選択だろう。
「パチュリー様、その事なのですが……、教会本部がこちらに向かっていて戦いは避けられません」
「なっ!?どうしようかしら……」
「私が相手をする」
私は自ら名乗り出た。
「貴女にも勝てないわ。彼らの恐ろしさを知らないもの」
「私はその恐ろしさを糧にするんだよ。負けると思う?」
「それもそうね」
パチェが子供たちに私を紹介したいらしい。奥の部屋にいるらしいが夜までは待たなくてはならない。吸血鬼だから。
「じゃあ先にこっちを紹介するわ」
出て来たのは緑のチャイナに軍帽、赤い髪のアジア系の女性だった。
「紅美鈴です。お嬢様方のお世話係です。どうぞよろしく」
子供は女の子らしい。
しかし……、彼女からは明らかに妖気が感じられる。
「私は白嶺陽奈。同じ妖怪どうし仲良くしよう」
「あ、はい。ところで何故パチュリー様に呼ばれたんですか?」
「陽奈は戦力になるからよ」
「えっ……、まだ子供ですし力もそんなにないと思いますけど……」
まあ、そうか……。
「その子は貴女より長生きよ」
「将来がですか?」
「現在進行形で」
「この子がですか?信じられません」
美鈴に頭をぐしぐしと撫でられる。
「うぅ〜、撫でるなぁ〜……」
「明らかに子供です」
「まあ、言動とか見た目は否定出来ないわね」
「いいたいことばかりいうなぁ」
何で抵抗しないんだ私!?
美鈴はさらに撫でてくるが私は全然抵抗出来ない。
「めーりん、なでるのはいいとしてあかいりぼんにはさわらないほうがいいからね」
もういいや。
私はつい目を細めてしまっているがいい気分じゃない。断じてない……はず。
「陽奈、妖気を少し解放して美鈴に見せ付けちゃいなさい」
それもそうか……。
私は抑えるのを少し緩めた。
「なななななんですか!?陽奈ちゃんがいきなり……」
美鈴が私から大きく離れた。
私はあまりにも大きな反応に驚きながらも一言言う。
「誰が子供だっ!」
とはいっても既に妖気を抑えているので小さい子が背伸びしているかのようにしか見えないだろう。
その後、日が暮れるまで話し続けた。
美鈴とは妖怪どうしだからか話が合う。
中国から遥々訪れたが途中で力尽き、それを拾ってもらい、その恩を返すため長年の間働いていたらしい。途中から給料をもらい始めたが使っていないのであまりに余っているらしいが。
それはともかく中国にも妖怪はいるらしい。美鈴も妖怪なんだから他にもいたっておかしくない。
だがハクタクの話をすると美鈴は妖怪ではない、と言い放った。私も知ってはいたが聖獣という種族らしく、ハクタクはあらゆる知恵を司るらしい。
その割には私の事は分からなかったらしいが……。
智音さんとは知り合いだった事にも私は驚いた。人外どうしだからよくある事らしい。
夜になった。
街からは人が消え、家々には明かりが灯り始めた。
「そろそろね」
パチェが呟いた瞬間、扉が開け放たれ二つの影が出て来た。
「パチェ、美鈴、おはよぉ〜」
今は夜です。
青い髪に紅い瞳で蝙蝠の羽が生えた少女と……、
「パチェ、その子誰?」
同じ紅い瞳で金髪、よく分からないが宝石のようなものを吊したような羽が生えた少女がいた。飛べるのか疑問だが。
「私の友達よ」
「遊んでいい?」
「いいんじゃないかしら」
「その前に自己紹介させて。私は白嶺陽奈。ちなみに陽奈が名前だから」
私が名乗ると青い髪の方が一歩前に出た。
「私はレミリア。レミリア・スカーレット。悪い事は言わないわ。フラン……私の妹と遊ぶのは止めた方がいいわ」
すると金髪の方……フランと呼ばれた少女はレミリアのさらに前に立った。
「お姉様の言う事なんて聞かないでいいよ。私を地下にずっと閉じ込めるんだもん。今日はパチェから誰か来るって聞いてたから出て来たけど。あ、私はフランドール・スカーレット。フランって呼んで」
レミリアが後ろから声を張る。
「フラン!あなたは遊んじゃダメよ。そうやって……」
「お姉様は黙ってて。だいたいパチェも珍しく推してくれたんだもん」
「むぅ……、パチェ……大丈夫なの?」
レミリアがパチェに首だけを向ける。
「大丈夫よ」
私は何でこんなにも確認をとるのか今はまだ知る由もなかった。




