表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/48

自分の事と人里と


翌日、私は映姫さんに連れられて裁判所みたいな場所へ赴いた。


彼女の仕事場であって何よりも


「陽奈はん、久し振りやな」


「久しいな」


紅蓮と都さんがそこにいた。


「なんで!?」


「いやな、映姫さんのとこで働かしてもらっとんのや。陽奈さんの家の近くを管轄しとる閻魔ちゃんのとこで働けば会える機会もあるかと思うて志願してみたら推されてもうたわ」


「彼らには助けられます。魂が強いですから疲れ知らずでして」


「精神しか疲れへんしな。おかげで休みは二週間に一日、一日36時間労働や」


あれ?一日ってそんなにあったっけ?

労働基準法とかないの?


「嘘はいけません。6時間労働の週休二日です!!」


なんだ、普通か。


「こほん……。陽奈さん、今日は貴女についてでしたね。まず、前回鏡が割れてしまった事ですが……、当然の結果でした」


私の頭に疑問符が浮かぶ。


「分からないようですが私が全て話してから質問をしてください。……私の憶測ですが貴女が生まれた時、貴女の他に妖怪はいなかったのではありませんか?」


少なくとも私のいた近辺にはいなかったね。


私は軽く頷いた。


「次です。貴女は月の民を知っていますね。では彼らに初めて会った時、あるいはしばらくして何か変わりましたか?」


「都市の結界が破れた時に安全も減少して恐怖が飽和して私は暴走しかけた、くらい?」


「貴女の周りに妖怪が現れ始めたのは?」


「その時」


「現在貴女は他の妖怪の力を使えるはずですよね?」


「なんでわかるの?」


「推測です」


たぶん、彼女は私が何かは知っているのだろう。


「最後の質問です。貴女は人を襲わないで何故生きていけるのですか?」


「私が周りの様々な恐怖を糧にしているから」


長い沈黙が場を支配する。


「質問は?」


「まだありません」


「はっきりと言います。貴女は妖怪です。ただし原初の妖怪、他の妖怪とは少し異なります」


私が初めての妖怪、という事か?


「貴女は妖怪の中でも世界に創られた妖怪です。貴女以外の妖怪は人間や他の動物の恐怖から生まれています。

私は詳しくは知りませんが少し歴史の話をしましょう。

私たちがいる以前の時代に混沌期と呼ばれる時代があるといわれてます。その時代は長い間混沌で埋め尽くされ月に逃れた者や特定の場所にいた妖怪以外は何らかの影響を受けました。そして神話時代、世界各地の神話が事実であった時はとても長いといわれています。そして現在です。

しかし、都さんが伝えるまではここまで明確ではなかったのです。混沌期以前は不明でしたから。

では、貴女の事です。簡潔に言うと貴女は妖怪の祖です。そして世界と同格なのです。私は貴女に説教は出来ますが裁けません」


まとめると……、

私は1番最初の妖怪

世界と同格

最強?


「私って映姫さんより偉いの?」


「はい、そうです。今までの無礼をお許しください」


「いや、無礼な事なかったでしょ……」






自分という存在を改めて自覚すると変な気持ちになる。


今までの様々な疑問が一気に解消したけど……。


意識したら結構凄い事が出来る。


というわけで当分は自分の能力の考察だ。


まあ、とりあえず人里へ。







「ただいまー」


「誰かと思えば陽奈か。どうだった?」


智音さんの家に。人里には私の家はないからしょうがない。


「妖怪ではあったよ。ただし普通じゃないらしいけど」


「そうか」


その言葉で察したのか、深入りはしてこなかった。


「明日は歴史の授業をしたいんだが陽奈もどうだ?」


「うーん、智音さんの授業を受けてみようかな」


「そうか」






夜中、智音さんが寝てから私は自分の能力でいろいろと試してみる事にした。


まずはリボンをつけたまま。


私は“恐怖”を主に飛ばしていたが、ではそれからなるものを集めてみたらどうなるのだろうか。


まずは最も原始的な“死”を集める。すると徐々に形が定まってきた。私がさらに集中させるとそれは蝶となった。


私が試しに欝陶しい蝿に当てると紐が切れた人形のように撃墜した。


……死んでる。


人に当たってもこのような結果になるのは何となく想像出来るので止めておこう。




結果は主に物体などを操る形になる恐怖はそれが顕現する。抽象的な場合は何か動物をかたどる。


ただそれだけだが。


とりあえず今夜は寝る事にした。







翌日。


「今日は歴史の授業だ」


智音さんが張り切って言った。


それもそのはず、口頭で言っていた授業が楽になるからだ。


智音さんの背後には大きな黒い板。手には白い石灰質の細長い棒。

教室には必ずある黒板とチョークだ。


私が五行魔法でパパッと作った黒板。それは黒いが立派に機能するはずだ。

黒板消しは持ち手付近を木に、またチョークは念のために大量に(白しかないが)作った。


オーバーテクノロジーなのもいいとこだが気にしてはいけない。


「では始めるぞ。今日は遥か昔に起こった神の戦争、諏訪大戦だ」


智音さんは黒板にいろいろ書きながら説明し始めた。


「まず、守矢神の治める守矢王国というものがあった」


守矢と書いて丸で囲む。


「そこに大和の神が侵略してきた」


大和と書いて矢印を書く。


「守矢神は当時の最新鋭の鉄器を用いて対抗したものの激闘の末に破れ、大和に支配された。その激闘が守矢神のいる諏訪という地域で起きたのが名前の由来だ。質問はあるか?」


一人だけ手を挙げた。


「どうして大和の神様は侵略したの?」


「それは……何故かは本人に聞かないと分からないだろう。特に文章にあれば分かるが……」


私は口を開いた。


「私は知ってるよ。そもそも神様は信じられる事で自分がいられるんだけど、たくさんの人から信じられると力が強くなって、神様の力が強くなる。また、信じてもらえないと最後には死んじゃうの」


「陽奈、どういう事だ?」


「私も少し神様やってた事もあるし」


「いや、何故大和の神の思惑が分かるんだ?」


ああ、それか。


「私は見てたから」


教室が静まりかえる。


「守矢って漢字が違うよ。さんずいの“洩”」


私は黒板に向かい、書き直す。


「えっと……、洩矢神の名前は洩矢諏訪子。大和の神は八坂神奈子。諏訪子は土地の神様の頂点で祟りの神様だった。けど祟りの対策も鉄器の対策もしていたからあっさりと負けた。これが諏訪大戦と呼ばれてるもので大戦って程ではないよ」


へぇ〜、と子供たちが聞いている。


「陽奈……」


「な、なに?」


智音さんが暗い……。


「私の役目をとらないでくれ……」


「ごめん……。今度出来たら諏訪子と神奈子連れて来るから許してよ」


「ああ……そうだな……」


この日、智音さんのどんよりオーラは中々治る事はなかった。









夜、私は森を歩いていた。


ただ歩きたかった。それだけだ。


そもそも大半の妖怪は夜行性だし。


私は今、試験的にリボンへ供給する霊力を強めている。当然苦しくなる訳だが好きでやる馬鹿はいない。


最近気が付いたが、無意識の内に霊力を送っていたようで意識的に調整が少しは出来るらしい。


それで限界を調べている訳だ。


そもそも妖気というのは無意識で恐怖を与える。私としては嬉しい事でもあるが相手が妖怪でない時にどうしても距離をおかれる。


それが嫌だった。


だから私は妖気が漏れないように抑えていたが自分で抑える場合、気を抜くとダメだ。それに比べると封印を強めた方がいい。

苦しくはなるが気を抜いても大丈夫だからだ。


余談はさておき、雰囲気的性質が人間に限りなく近くなる行為を何故妖怪の巣窟で行うかというと、能力持ちの強い妖怪に遭いたいからだ。


誤字にあらず、遭遇したい。


私の能力のもう1つ、相手の妖怪の力を使う事だ。


とはいっても自分を封印している限りはそれが出来ないのだが。


これから毎日、やってみようかと思ったが今夜はもう帰る事にした。




それから数年間、智音さんの家に世話になりながらも、夜には森を徘徊するのを続けたが弱くなったルーミアくらいしか見る事はなかった。


そもそも怯えもせずに夜道を小さな子が歩いているのなんて少し強い妖怪なら考えれば怪しいと感じるはずだ。だから寄って来ない


まあ、ルーミアは例外だ。顔見知りだから寄って来る。






「また外を出歩いていたのか」


帰ったら智音さんが立っている事もあった。


「子供たちが真似をしてしまうだろう?今日こそは許さんぞ……」


ガシッ、と音がする程に肩をホールドされた。


「陽奈には手加減はいらないな」


ドゴン


「み゛ゃああああぁぁぁぁあああ」


頭突き……された……。


「痛いじゃないか!」


「私だって痛いんだ」


「この石頭!!舌噛んだじゃったから痛いし……」


「すまん。だがこれに懲りて止めてくれ」


「だがことわ……」


ドゴン


「しゅみません。もうしましぇん……」


私は智音さんの頭突きには敵わない事を学んだ。









そしてある日。


「大変だ!!村の外から来た妖怪退治屋が先生と陽奈さんの正体を聞いて退治しに来た!!」


と数年前に寺子屋を卒業した男がいきなり戸を開け叫んだ。


「「えっ?」」


私たちの着替え中に。


「「とりあえず出てけ!!」」






「それで妖怪退治屋だったか?」


「はい、そうです……」


彼を正座させ私たちは話を聞いている。


「緊急だったから許すけど普段だったら智音さんから頭突きだよ?」


「私がか!?…………ああ、そうだな」


彼の話からソイツは村にある広場で待っているそうだという事が分かった。


「じゃあ行こうか」








広場につくと少女が一人、男に縄で縛られていた。


「あーれー、捕まっちゃたわー」


「ふざけてるんじゃない!!」


「きゃー怖いわー」


私もふざけてるかと思う。

棒読みだし。


「紫…………、何やってるの?」


「あら、陽奈♪」


何でこんな知り合いがいるんだろうか……。


「お前が白嶺陽奈か。ではそっちが上白沢智音だな」


と男が言う。


「妖怪を一人捕えたがみんなこうなのか?」


「「いや、一緒にしないでほしい」」



私と智音さんの声が揃った。


「ところで何故貴様ら妖怪どもは襲わない。何もしないならこちらから行かせてもらうぞ」


札を一枚投げて来た。


私はそれを構わず手で掴み捨てた。


「ここら辺の妖怪は人里では襲わないから。戦うなら村の外でね。あと、いくら牽制ようだとしても術式が甘すぎるよ」


私は術式を強化した札を男に渡して村の外へ向かった。










妖怪が蔓延っていると噂で聞いた村に先程ついた。しかし、妖怪は見掛けるもののどうにも様子がおかしい。


人を襲っていない。


とりあえず寺子屋にいるという二人組を呼び出す事にした。


「おい、どうすればその二人を呼べる」


俺はさっき捕まえた女の妖怪に聞く。


「この里では有名だから誰かに頼めばいいと思いますわ」


その妖怪の助言通りに事は進んだ。


そして暫く待つと二人の女がやって来た。


一人は子供だ。


そして奴らが探していた二人だった。


すると捕まえてた妖怪が何か叫んだ。

果てしなくふざけているかのようだ。


「みんなこうなのか?」


奴らは声を揃えて否定した。


「ところで……」


俺はこの里に入ってからの疑問と共に、牽制として札を一枚弱そうな小さな女の子の方に投げた。


この里に妖怪が紛れているが何故動いてないのか疑問だった。


「ここら辺の妖怪は人里では襲わないから。戦うなら村の外でね。あと、いくら牽制ようだとしても術式が甘すぎるよ」


質問の答えと一緒に返された札はあまりにも緻密で精巧な式が掛かれていた。もはや芸術に近いもので霊力はなんの抵抗も感じずに流れる程のものだった。


俺は唖然としたが、とりあえず奴らの後を追った。











私は少し歩いて森の開けた場所に至った。


退治屋もついて来てくれた事なのでちょうどいいここで足を止める。


「ここでやるのか?」


「ちょうど開けた場所に出たから。気まぐれだけどね」


別に人里の外ならどこでもよかったのだ。


「そうか。二人で来るのか?」


「いや、私は遠慮する。陽奈の方が戦いに長けているはずだ」


「そうか」


智音さんに押されて私は前に出た。


「しかし、本当に妖怪か?妖気が感じられないぞ」


「じゃあ弱いかもね」


私は札を数枚投げた。


どれもが妖怪が痺れる程度の弱さだけど。


当然避けられた。


「なめているのか?」


彼はお札を雨の様に投げてきた。


私は結界でそれを防ぎ、式神を一枚飛ばした。


「ふざけるな」


彼の放った霊弾で撃ち落とされた。


「貴様……」


「そもそもさ、君の相手に私は相応しくないよ。せいぜい中妖怪に善戦する程度だろうしね」


そんなに難しい術式も使えず、無駄も多い。そして遅いし弱い。


「それならこれを防いでみろ……」


彼は術を組み始めた。


それは今までにない程のもの。


彼の切り札なんだろう。


「破っ!!」


彼の術が私に襲い掛かる。


「逆転術式……」


が、私は相殺した。


「何故だ!!」


「君が弱いだけ」


逆転術式とは、術に使われている式の逆式に陰陽を逆比にしたものを合わせる事で対象の術などを相殺が出来るという、高等技術。

清明さんが理論上発見した対術式用の方法だ。


「紫、コイツを里に」


「分かったわ」


いつの間にか縄を解いている紫に頼んで、彼を里にポイして貰った。


「なんであの人がアレを使えるんだろう……」


彼の最後に放った術は既にロストテクノロジーなはずだ。


「使えたからこそここにたどり着いたのよ」


紫が言う。


「紫は何か知ってるの?」


「あの術はもう貴女以外には完璧に使える者はいなくとも細い線でも残っていたのよ。しかし、彼以外には知る者は隔離されたここら辺にいる貴女だけよ」


隔離した境界には、外で忘れられた物が流れ着く、という作用もあるからか。


「正解よ」


「あの……、心読まないで」


「ごめんなさいね」


紫はいつも通りの胡散臭い笑みを浮かべていた。


「貴女は彼の技術が惜しかったから殺さなかった。違うかしら」


「もともと殺す気はないけど」


紫とはイマイチ意見は合わないようだ。


「そう」


紫はそのままスキマに帰って行った。


「陽奈、帰るぞ」


あ、智音さんまだいたんだ。

後半、智音さん空気でした。


とりあえずこれで一段落です。

前半がメインで後半は蛇足みたいなものです。


次回からはやっと別のお話となります。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ