表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/48

人里と冥界と





「いたたた……。紫め、あとでしめてやる」


さて、ここはどこだろうか。


ってどう見ても人里です。ありがとうございました。


「おや、小さい女の子が夜に出歩くなんて危ないぞ」


は、話し掛けられた!

しかも女の人だ。


「こ、こんばんは」


落ち着け、私。くーるになるんだ。そうだ、koolだ。びーくーる、びーくーる。(※正しくは“cool”です)


「こんばんは。ほら、危ないからお家に帰れ。最近は襲わないが妖怪が出ないとは限らないからな」


「は、はい、ありがとうございます。で、でも私はここの者ではないので帰る家はないんです」


「そうか、なら今夜は私の家に泊まるといい」


「わ、悪いですよ」


「構わないさ」


「じゃあ、お言葉に甘えて……」


私は彼女について行った。









「さて、何の用事があってうろついていたんだ?」


「え、えーっと……」


冷や汗が流れる。

私は妖怪です、とも言えないし……。


「だいたい、君のような小さい女の子が夜に出歩いたら妖怪には喰われるし、好き者(変質者)には強姦とかも考えられる」


強姦って………


「お姉さんは外に出歩いていてもいいんですか?」


「私はいいんだ。並の妖怪なら退治出来るしな」


貴女の目の前に私という大妖怪がいるんですけど……。


「へー、強いんですね」


「さて、脇道に逸れたが何をしに来たんだ?」


ばれたか……っ。


「妖怪が会議らしいものをしていて、自分たちは人間のおかげで存在しているから人間が住んでいる所などは襲わないようにしよう、って言うのを聞いて伝えに来たんです。人間の私がばれなかったのは幸いでした」


我ながら完璧な言い訳だ。


「それは本当か?」


「あ、はい」


私が妖怪という以外に嘘はない。


「嘘だな」


「なぜばれたし……」


あ……。


「だいたい無理があるんだ。君のような小さな女の子が妖怪に気付かれずに盗み聞きする事とあともなく出歩く事が、近くの他の集落でも大人が二晩かかる程の僻地に用事がある事が」


ですよねー。


「それに……君からは常軌を逸した歴史がある。何をしに来たんだ、妖怪」


「それよりもあなたが何者か教えるべきだよね」


歴史?何で人の事が分かるんだろう?


「済まなかったな。私は上白沢智音(かみしらさわともね)、正確には違うが妖怪みたいなものだ」


「私は白嶺陽奈。妖怪だけど安心していいよ」


「そうか。では、私の“歴史を見て創る程度の能力”で少しばかり真偽を確かめるが……」


「いたく……しないでね……?」


「ああ、もう見た」


畜生、スルーされた。


「妖怪の話し合いは本当らしいな。みんなに伝えておこう。それより君は何歳なんだ?歴史が深すぎて見えなかったんだが。それにいつまで髪を結っているんだ?くつろいでも構わないんだぞ」


そう言って智音さんが赤いリボンに触れた。


バチッ


「な、なんだ、これは!?」


智音さんが触れた瞬間、封印が手を弾いた。咄嗟に手を引いたようだが赤く腫れていた。


「これで力を抑えてるの。普通の大妖怪ならたぶん消し飛ぶよ。それと私の年齢は…………」


えーっと、えーりんから教えてもらった時がアレでそれからアレくらい経って……ルーミアが言ってたのが酷い誤差があったから……


「どうした?」


「計算が面倒臭い!!」


「そうか。でも見た目よりは長生きなんだろう?」


「そうだね、1億以上は生きてるよ」


「そ、そうか……。例の件は伝えておくからもう寝てくれてもいいぞ。家があるとしても戻るのに苦労するだろう?」


「あ、うん。じゃあおやすみ」


私は話を切り上げられた感があるが黙って布団に潜った。










眠ったか……。


それにしても先程の妖怪の少女は本当に何者だったのだろうか。


長年の間、人妖と様々な者に知恵を与え、その者の歴史を見てきた。

が、この者は霞む程に多く抱えていて私でも見切れない。


さらには一億以上という有史以前から生きていると言うのだから力も強く、書き換えたりなどの私の力が及ばない。


彼女の歴史は見れた範囲だけならば安全とはいえるだろう。


まあ、危険ではない、という結果に落ち着くな。


私も今夜はもう寝るとしよう。


明日も子供たちの相手をしなければいけないからな。










翌日、私は智音さんに連れられて朝からある場所にいた。


「ここが寺子屋だ」


「智音さんが?」


「そうだ」


私はもう寺子屋があったのか、と思いつつも門を潜ると、既に子供がたくさんいた。


「ほら、席につけ。授業を始めるぞ」


「「はーい」」


元気な返事だ。


「今日は特別な授業だ。道具はしまっていいぞ」


そう言って私に目配せする。


「私?」


「そうだ」


「せんせー、その人だれー?」


「今日の先生だ」


「どーみても私より年下だよー?」


「小さい言うな!!」


こんなに悪意の感じられないダメージは初めてだ。


「わー、かわいー」


一人の女の子が頭を撫でてくる。


「うぅー、なでるなぁ……」


「まあ、それくらいにしてやれ。今日はいろいろと教えてもらうんだからな」


「はぁーい」


ふぅ、やっと止めたか……。



「で、私が何を教えられると?」


「君は平安に陰陽師をしていただろう?」


まあ……してたけど、


「素質ありそうなのはいないね」


「何か教えられる事はあるか?」


何か……ねぇ……、


智音さんが目をちらちらと向けてくる。

あれか。


「里にいれば妖怪は襲わない、って事かな。最近決まったからまだ不安だけど、それなら私がここにいればいいし」


「でもどれくらい強いのー?」


どれくらい……か……。


「なんだかんだで負けてないかも……」


「すごーい」


子供って純粋でいいな。


「そーいえば、あなたは誰なの?」


そういえば自己紹介もしてなかった。

というか子供はすぐに話題を変えるな……。


「私は……」


あれ?私が妖怪って事は言っても大丈夫なのかな?


「どうした?」


「いや、どこまで言っていいのかな?」


「じゃあ、私が代わりにしてあげよう」


私は肯定を示す為、軽く頷いた。


「コイツは白嶺陽奈という。私みたいに人を襲わない妖怪だ。……さて、あとは出来るな」


「ああ、うん。というわけで私は妖怪で君らよりは年上だけど気にしなくていいよ」


ああ、子供たちの目が輝いている。

妖怪って事に興味を持たれたな……。


「何が出来るの?」


「おしえてー」


わっ、と群がって来る。


「こら、やめろぉ……。私はおもちゃじゃないぃ……」


撫でるな、愛でるな、抱き着くな。


「席に着け!!」


「「はいぃっ!」」


子供たちが慌てて席に戻った。


「お前らがあまりにも言う事を聞かないから更に予定を変更するぞ。今日は算術だ。試験をする。正解した者から今日は自由だ。自由な者同士で遊んでいても構わない」


数名が嬉々とした表情を浮かべるものの、多くは苦い表情をした。いつの時代でも数字を扱う学問は嫌われているようだ。


「もちろん、陽奈も解けるまで自由はない」


私もその一人だった。









えっと?難しくないですか?


-地面のある地点から木の根本まで二十四間、頂上まで二十五間あった。木の高さは何間か求めろ-


「ねぇ、智音さん」


「なんだ?」


「みんな同じ問題なの?」


「いや、それは陽奈だけだ。降参か?しょうがないな。それならもっと……」


「7でしょ」


難しいと思うよ、10にも満たない子供なら。三平方の定理(直角三角形において斜辺の二乗は他辺の二乗の和に等しいというピタゴラスの定理の事)なんて。

25の二乗は625で24の二乗は(25−1)二乗=(625−25×2+1)=576。625−576=49で√49=7。

私が人間の学生として生きていた頃には当然過ぎる中学レベルの定理だが。


「わ、私の考えた難問が……」


そうか……、まだ日本に伝わってないのか。とは言え、求める方法は智音さんが言う事には確立はしているらしいけど。


「さて、私も手伝うから早くみんなで終わらせよう」


「そうだな……」


この後、当分の間智音さんが沈んでいたのは言うまでもない。










しばらくすると次々と自由になる者が出始めた。


「陽奈ちゃん、あそぼー」


「あそぼー」


そんな感じで寄って来る。


「おれと勝負しろ!!」


ただし例に漏れず、こんな奴はどこにでもいるようだ。


「喧嘩したいの?」


「そうだ。せんせーが言っていた事がほんとーならつよいんだろ?」


いきなり殴って来ました。

私は手で受け止める。けれど、その後、お腹に軽い衝撃が走る。


「硬いな。さすが妖怪か……」


おかしい。


何で私は気付かなかった?


「君、何者?」


私は魔法で探りをいれる。


「そいつは私も分からないんだ。なぜか歴史が見えない。陽奈とは違って空虚なんだ」


それはおかしいだろう。


私から見てもただの人間の子供にそんな高尚な技は使えないはずだ。


「すきあり!!」


後ろから突如に頭に蹴りが飛んで来た。


バチィ


「うああぁぁあっ」


彼の足がリボンに当たると足が消し飛んだ。


「そうか……、君、妖怪なんだね」


普通の人間なら触れたところで何の問題もないし、当然身体が弾かれる事もない。


「な、なんなんだ、その布は!?」


「これ?教えない」


私は悪戯に笑みを浮かべる。


「1500年くらい生きているがお前みたいなのは初めてだ!!おれの能力は“隠れる程度の能力”だが不意打ちすら効かないなんて反則だろ!!」


……若いって、いいね。私は君の十万倍以上生きてるよ。


「ねぇ、平安の都の陰陽師に小さな女の子がいた、って聞いた事ない?」


「何だ?いきなり話を変えて……。それなら当時の妖怪の誰もが知っている事で天才陰陽師で妖怪からは恐怖の術師という事で有名だったじゃねぇか。殺された、って話だったが……」


そうか……、私は歴史上では死んだのか……。


「それ、私だから」


「はぁ?」


「それでもまだやるの?」


私は大量にお札をちらつかせる。一つ一つが中妖怪を塵も残さず殺せるレベルの物を。


「やりません」


よし、いい子だ。


「ただし、お仕置きは必要だな」


智音さんはゆっくりと立ち上がり、彼の肩をホールドして


ドゴン


「ふぎゃあああぁぁぁ!!」


頭突きした。


智音さんが言うにはこれでも手加減しているとか。


空気が振動するくらいで手加減してるとか……ないわ。


ちなみに彼のけがは治しました。

智音さんの頭突きは喰らいたくない。









「陽奈、少しいいか?」


寺子屋も閉め、今日も智音さんの家にお世話になる事になった。


「私は君の歴史がよく見えないと言っただろう?所々に穴が空いているんだ」


「例えば?」


「大妖怪と戦っている最中が特に顕著だ。それと平安以前の君の歴史が見えない」


うーん、おかしいな……。


「私はな、正確には聖獣という枠組みの中にいて世界でいうと妖怪よりは格が上なんだ。陽奈が会った事のある閻魔とかは私より上だから私の能力は及ばない。妖怪ならば私より下だから見えるはずなんだ」


なるほど……。


「私が妖怪なのか、って事?」


「そうだ」


「そこでだ。髪留めを外してみてくれないか?」


「あ、うん。妖気を開放しちゃっていい?最近外しても抑えてばかりだからさ」


「ああ、好きにしてくれ」


私はリボンを外してリラックスした。

ふぅ……久し振りだな……。


「どぉ〜?智音さん」


「君の顔がだらけ切っているのは明確だ。そして予想通り、君の歴史は見えない」


「そーなのかー?」


「ああ。これで分かった」


何がさ。


「君は妖怪ではない」




私は耳を疑った


「詳しくは閻魔に聞いたらいいだろう」


私が妖怪じゃない?


それはおかしい。


私の力の根源は妖力だ。


「待ってよ、じゃあ私は何なの?」


「私には分からないんだ。許してくれ」


じゃあ閻魔の所に向かうしかないか……。


……どこに行けばいいんだろう?


地獄への行き方は分からない。冥界?……心辺りはなくはないが最終手段にしておこう。


「ねぇ、智音さん」


「なんだ?」


「今、閻魔がどこにいるか分かる?」


「そうだな……、冥界だろうな。閻魔の歴史は知らないが仕事をしているならば冥界かそこにいる誰かに聞くのが適当だろう」


「ありがと。行ってくる」


私は結局、白玉楼へ飛んで向かった。










白玉楼に付近に着いた私はゆっくりと地面に降りた。

桜が咲いていなくとも桜並木は絶景だ。新緑に埋め尽くされ、隙間からは日が漏れている。時折吹く風が木の葉をさざめかせ、また、さらさらと響いている。


ここ……、冥界か?


そんな事を思いながらしばらく歩みを進めていると白玉楼にたどり着いた。


「おじゃましま〜……」


「くせもの!!」


ペチペチ……


小さい白髪の女の子が私を竹刀で叩いていた。

その女の子はおかっぱみたいなショートの髪であり、また、その子の近くには大福みたいな何かが浮いていた。


「何事かと思えば陽奈殿でしたか……」


慌てたように妖忌がやって来てため息をつく。


「妖忌さん、お久しぶりです」


「こちらこそ。また一段と美しくなりましたな」


「あはは……、お世辞はいいですよ。そちらこそ凛々しくなりましたね」


「これは陽奈殿の方が一枚上手でしたな」


私自身、あまり外見が変わった気はしないからね。


「妖忌〜、お客さん?」


幽々子が屋敷から叫んでいる。


「お客様がお出でになられましたー」


「じゃああげてちょ〜だ〜い」


「では、いきますぞ」


私は未だに竹刀で叩いて来る女の子の


「みょん!?」


首根っこを掴んで後についていった。









屋敷の部屋に通されると幽々子と緑の髪の女の子が大福を頬張っていた。


「あっ、ひなひゃらいろ(陽奈じゃないの)」


「お嬢様、飲み込んでからおっしゃってください」


「そうですよ、幽々子さん。行儀が悪いです」


その女の子は幽々子に妖忌同様に注意した。


「えっと……、どちらさま?」


「私ですか?……私服じゃ分かりませんか…………四季映姫ですよ」


そして、また大福をはむっと頬張る。


目的を探す必要はなかったようだ。


「今日は休暇をとったので久し振りに赴いたのです」


閻魔の休暇なんぞ知らないが運がよかった。


「では、私はこれで。御用がありましたらまたお呼びください」


そう言い妖忌さんは会釈をして下がって行った。







「今日は何をしに来たの〜?」


のんびりと一緒に大福をいただいている場合じゃなかった。映姫さんに用事があるんだった。


「実は……映姫さんに用事があって」


「はみゅはみゅ……。私ですか?」


「はい。どうやら私は妖怪ではないらしいんですが……」


「けほっけほっ……。だ、誰ですかそれを言ったのは」


映姫さん、何故むせる。


「ハクタクです」


「そうですか。で、ですが私は何も知りませんよ?」


「教えてください」


「知りません」


「教えてくだ……」


「知りません」


「おし……」


「ダメです。………あ」


どうやら彼女は知っているようだ。


「い、今は休暇なので。それは私の“仕事”なんです」


「はぁ……」


「それよりも貴女は妖怪としての本分を忘れすぎています。もう少し妖怪としての自覚を持って日々を過ごしなさい。貴女は仮にも妖怪なのです。人を襲っても節度をわきまえれば問題はないのです。むしろ襲いなさい。殺せ、とは言いません。怖がらせるだけでもいいのです。そもそも貴女は恐怖を操るのだから人をもっと恐怖に陥れなさい。貴女は見聞を広め恐怖で人々を包み込みなさい。それ以前に………」


「すみません、何故……」


「まだお話中ですよ!!そもそもふがっ……」


あまりにもうるさいので私は映姫さんの口に大福を押し込んだ。


「映姫さん、私に説教をする為に休みをとったわけじゃないよね」


「すみません、つい職業病が……」








「夕食の準備がととのいました。陽奈殿と映姫様は如何致しますか?」


しばらく談笑していると妖忌さんが呼びに来た。


「あら、もうそんな時間なのね〜」


「私はいただく訳には……」


「それじゃあ私も。映姫さんについていかないと……」


「食後に甘味も準備しております」


「「いただきます!!」」


私たちは迷わず御馳走になる事を決めた。








びっくりした。


「これ、多くない?」


「私もそう思います……」


大きな机に所狭しと並べられた料理。

種類も多く和洋中と様々だ。


……洋食?


なぜ、この時代に西洋料理が?


「初めてみる料理が様々です」


「美味しいから大丈夫よ〜」


とりあえず私たちは食卓を囲んだ。


私に映姫さんに幽々子に妖忌、その隣にはみょんな子供。


「妖忌さん、その子供って……」


「孫でございます」


「孫!?」


いつの間に!?


私はじっと孫娘さんを見る。

確かに孫には見えるが、見た目が変わらず何年も経ってるのに孫なのはいささか違和感を感じる。……曾孫の孫くらいだろ、人間なら。


もっとも、彼は半分幽霊だけど。


「こ、こんぱくようむでしゅ……」


すっかり萎縮しちゃってる。


「じゃあ妖夢も自己紹介終わったから……」


いただきます。




食後の甘味はケーキでびっくりした。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ