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闇と闇


数日で家に帰ってからやることもないので本を読む事にした。


パチェの置いていった本でところせましと埋められてしまったため本には困らない。


それにしてもいろいろな本がある。魔法関連はともかく何でガーデニングとかもあるのか不思議だ。


さて、読むか。










少女熟読中...










やっと全部読んだ。何年かかったは知らないけど。


身体を伸ばして、凝り固まった身体を解した。不眠とは言わずとも食べてはいなかったからお腹は空いた。


別に食べなくとも、私は妖怪で恐怖を糧にしてるから余程の事がない限りは死にはしない。それでも身体は鈍った気がするけど。


本を読んでいて捨食の魔法というものを見つけた。食べなくても魔法を糧に出来るというものだ。私にはあまり必要ないけどパチェによるマークが他の魔法より目立つようにしてあったので覚えておいた。




気分を変えたいし時間を考えずに本を読んでいたため、私は久しぶりに外出する事を決めた。










まずは神社だ。改めて向かうと結構近かった。


「知佳、いるー?」


「あ、おかーさん。久しぶりだね」


「何年くらい経った?」


「うーんと……、百と数十年くらいだよ。おかーさん何してたの?もう私の曾孫の代になっちゃったよ?」


「……本を読んでた」


百何十年も引きこもってたのか……。

途中、紫の介入とかもなかったから気付かなかった……。


知佳も苦笑いしてるし……。




「おかーさん、一つ聞いていい?」


どうやら話を変えたいそうだ。


「何でも聞きなさい!」


「子供がみんな女の子なんだよ。毎回婿をとってるんだよ」


ぱーどぅん?何て言った?


「女の子しか生まれないんだよ」


「ごめん、理由は分からない……」


生命の神秘はすごい!!


はい、逃げました。すみません。


心当たりもないのでどうしようもないけど。




「そーいえば……おかーさんに頼みがあるんだけど」


「うん?」


私は今、孫たちを愛でているが……成長遅いと思う。知佳もやっと母親みたいな見た目だし。妖怪の血は薄くなっていても残るんだと感じた。


「……さん、おかーさん、聞いてる?」


「あー、うん」


どうやら知佳の話によると、最近神社の近くで大妖怪がうろついているとか。

しかも人を頻繁に食べるらしい。


もっとも、夜は危険だが昼間はあまり姿を現さないらしいが。


「で、退治してくれと?」


「うん。子供たちも怖くて外で遊べないし、夜遅くだったら里に泊めてもらうしかなくなっちゃうから」


「でも里も安心は出来ないんじゃないの?」


「うーん、それがね?どうにも人里とか居住地に襲いには来なくてね、森を歩いたりしてると襲って来るんだって」


……変わった妖怪だな。普通の妖怪なら里を全滅とかあるのに。


「しかもね、妖怪退治の人とか強い人ばかりが犠牲になるの」


「じゃあ今晩に二人で行こうか。子供と婿さんも神社の中なら大丈夫なんでしょ?」










そして夜。


私と知佳は森を歩いていた。


あからさまに多くの霊気をまとい、妖気は隠す。これで襲われる条件には合致するはずだ。


「ねぇ、おかーさん、よーかいの容姿を聞いてないよね?」


知佳から他愛ない話題が出る。


「それは出会えば分かるだろうし」


大妖怪はまとっている雰囲気も妖気も全然違うし。


「おかーさんすごいねー。でもさ……」


突然、辺りが暗くなった。


夜なので当然暗い訳だが、それでも月や星は瞬いていた。それすらも掻き消す闇。


「知佳?」


「おかーさん、油断しちゃダメだよ」


知佳に腕を掴まれた。


そこから私を闇が侵食してゆく。


私は慌てて腕を振り払った。


「うっ……」


掴まれていた部分を中心にえぐられていた。


「知佳……じゃないよね?」


「あー、ばれちゃったのかー。私を退治するにはこの身体を殺さなきゃダメだけど」


クスクスと知佳の顔が笑う。


けれど、溢れる妖気は知佳のものではなかった。


「知佳の意識はあるの?」


「ないよ?殺しちゃったから。自殺に近かったけど。自分で潰れたの」


私はそれを聞いて安心した。もう、知佳は死んでいる。つまり、幽々子や映姫さんに聞けばいい。


「そうか……。知佳は死んじゃったんだ……」


「そーなのだー」


「じゃあ、その身体は関係ないね」


私は瞬時に魔法陣を展開して一斉射撃した。


やったか?


「私は後ろだよ?」


いつの間にか背後をとられていた。


知佳の身体で闇を握り、剣として私に刃を向ける。

私は咄嗟に回避した。


掠った部分が闇に侵食されなくなる。


私は神力で快復しておく。


「どうしたの?おかーさん」


「うるさい」


「ねぇ、おかー……」


「黙れ」


私は妖気を思い切り開放した。


してしまったのだ。


「ありがとう」


相手はニヤリと笑うと闇を広げ私の溢れた妖気を喰らい尽くした。


敵に塩を贈るとはまさにこの事だ。


感情に任せて相手に妖力を与えてしまった。今の私は限りなく人間に近い強さだろう。


妖怪の私は、それこそ様々な力を持っているが妖力が主な力だ。他の力と違い、枯渇は生命に関わる。


「陽奈、約束は守ってるよ」


相手が言う。


「私は村とかは襲わない。なのに何で退治をするの?」


約束?


私はあなたを知っている?


なぜ、私の名前を知っているの?


「バイバイ、陽奈。楽しかったよ」


闇が私を包んでゆく。



……そうだ、忘れていた。




私は久しぶりにリボンを解いた。




私はどれだけ間抜けなんだ。自分にした封印をも忘れていたなんて。


私の身体の隅々まで妖力に溢れてゆく。


相手は何かを感じたのか、私から離れてくれた。


「あの時より……強くなってるのだー……」


私は一度した失敗はしまいと、全力の妖力を無理矢理に身体に押し込んだ。他の力も一緒で外には力を放出しないように。


「ここからが本番だよ……」


私はこの時不思議な感覚を体験していた。


闇を恐れていなかった。


全てが見えた。


この闇は妖力に操られているが、根本は能力だ。闇を操る能力の持ち主が知佳を襲った犯人。



相手は闇による双剣を作りだし、私に切りかかる。しかし、単純な剣筋で避けるのには苦労しない。


ふと思った。私には攻撃手段はあるのか?

魔法は闇を盾に防がれるだろう。試しに様々な魔法を闇に撃つとなくなってしまった。


では、恐怖は?

私は死の恐怖を、そして“死”そのものを相手に。けれど闇がそれらを掻き消した。


……攻撃手段がない。








防戦が続き、私の体力も大分なくなって来た。


「避けてばかりは卑怯なのだー」


闇の大鎚が私に襲い掛かる。


様々な武器を使ってくるものの洗練されていない動きは無駄が出る。だから見切るのも簡単だ。


私はそれを受け止めた。



「「あれ?」」



私はしっかりと受け止めていた。


「お、おかしいのだー」


そして、触れた時に分かった。


私は闇に妖力を、ある恐怖を付加させてから注いだ。


相手は慌てて闇を手放した。


闇が象ったのは一本の刀。


「これで互角かな?」


私はそれを握った。







私は妖忌さんから少しだけ教わっていた剣術で相手を攻める。相手の剣は基礎がないため私が勝つ。


闇と闇がぶつかり、闇の波を生み出す。


それが何度も繰り返された。


私はその間に周りの闇を自分のものにしていった。



相手の攻撃が止んだ。

いや、攻撃が出来ない。


私が辺りの闇を乗っ取り、使えなくした。

既に相手のストックは手に持った剣だけだった。


「何をしたのだー!?」


「あなたの真似事だよ」


私は躊躇いなく、知佳の身体を両断した。


「陽奈、躊躇わないのだー。さすがなのだー」


すると、切った所から大量の闇が噴き出した。


何故、名前を知っている?


私は名乗ってはいない。


「あなたは……誰?」


帰って来た言葉は私を戦慄させるのには十分過ぎる名だった。


「私は……ルーミア。陽奈、久しぶりなのだー」







「陽奈は何も変わってないのだー。私は陽奈に負けないように強くなったのだー。…………あー、子供っぽい喋り方は止めるよ。それで、実力のある者を襲って、時には育てる。色々な事を学んだ。人間とは、妖怪とは、そして自分とは何たるかを。闇は夜の、影の闇だけじゃない。私は闇なら何でも操れる事を知った。心の闇でも……」


ルーミアが闇へと変わり、私に迫る。


「ねぇ、陽奈の心の闇も見せてよ」


私は抵抗しようと手を振るうものの虚しく空を切るばかりだった。


そして、ルーミアである闇が私を包んだ時、私の意識は闇へと落ちた。











……私はどこにいるの?


暗闇?


温かい。


これは……?


私はゆっくりと目を開けて温かいものを見た。


それは紅。


「ひ……な……」


誰?


「お……れ……は……」


紅蓮が血まみれで四肢を八つ裂きに……。

隣にいるのは……間違いない、都さんだ。けれどそれはもはや原型を留めていない。ただの肉塊。


やだ……。嫌だ……。


「お前が俺達を殺した」


私の視界が闇に染まった。






もう、見たくない。何も……誰も……。


怖い。


恐い。


消えたい。


私は何で生きているの?




「陽奈さん、死んじゃダメや」


「そうだ。お前は死ぬな」


えっ?


「都さんと……紅蓮?」


「そやで、陽奈さん」


「うむ」


都さんはニカッと笑った。

紅蓮も相変わらずだ。


「でも……どうして?私は……」


「言っとくけど本物やで?」


「じゃあ、私も死んじゃったの?」


「死んでへん。あのな、ちっこい閻魔さんが慌てて私らを陽奈さんのとこに寄越したんや。あんまり言っちゃいけんのやけど陽奈さんが今死んでまうといろいろ大変なんや。だから生かすために繋がりが強かった奴らを呼ぶって考えたらしいで」


「らしいぞ」


紅蓮は理解しているのだろうか、いやないな。


「転生とかはしなかったの?」


「出来ない訳ではないんらしい。けどな、私ら魂強すぎて記憶を消せないらしいんや。せやから奨めにくいし、それに……身体を作れないんやと。陽奈さんくらいの強さの妖怪の身体じゃないと私らの魂入れられないんや。でもな、理由があって作れへんらしいんや。……まあ、私らの役割は済んだし、そろそろ還るわ」


「死ぬなよ。まだその時期じゃないらしいからな」


「最後にな、私らほとんど妖力いらんのや、死んだから。せやからあげるわ」


「俺も鬼だからあんまりないが足しにしてくれ」


そう言うと二人は光の粒子になって消えた。


これ以上、妖力増えても……、溢れる妖気抑えるのが大変なだけだけど……。


まあ、おいておこう。














陽奈の心を闇に染めてから数刻経った。


心が動かなければ、私は身体を操れる。副産物的作用だけど有用ね。


魅力なのは妖力の膨大さ。何でも出来そうだわ。なんでこの力で餌(人間)どもを支配しようとか考えなかったのか不思議すぎるわね。


まあ、これだけあれば大丈夫かしら。


まずは手始めに誰か妖怪を襲おうかしら。


私はこの時浮かれ過ぎていたのか、それとも些細な事だと思ったのか、二つの魂が身体に入った事には気付かなかった。いや、気付いていたのかもしれないが見逃したのか……。


それが自分の首を絞めるとは誰も思わなかったわ。






私が人里に向かって数刻、陽奈の身体に違和感を感じ始めたわ。最初はただ、調子が悪いだけだろう、と考えていたの。


けれど、私が人里を視界に捉えた辺りで違和感は異変へと認識が変わったわ。


闇に落としたはずの心が、また輝いている……。


「困ったわね……」


私は闇を一層深めたけれど、その太陽は強まる一方だったわ。


そして、私は陽奈の身体から追い出されてしまったの。












身体が動く。


ごく当たり前の事だが懐かしく感じる。


「うぅ……どうしてなのだー?」


「それは、今のルーミアには分からないと思うよ……」


「どーいう意味なの?」


ルーミアは心の闇を吸収してしまっているのだろう。それがルーミアを悪い方向に染めてしまっている。


「闇は奪うためのものじゃないんだよ」


「違う。私は闇なの。だから……」


「無理しないでいいんだよ」


分かった……。ルーミアは変わっていない。ただ、暗いものに触れすぎたから……。


「私は……闇だから人を、みんなを怯えさせる事しか出来ないの。それで人を……殺したりしないと……」


ルーミアは無茶をしているのだろう。

人を殺す……生命に対して自分なりに努力はしたのだろう。


「私は自分から子供とかは襲わないの。まだ、未来もあるし……。でも妖怪が人間を襲うのはしょうがない事。じゃあどうしようか考えたの……」


「私も……。ルーミア、辛かったよね」


私はルーミアを抱きしめていた。


見た目は私と変わらない身長だけど、私の腕にすっぽりと入った。


ルーミアは私の背中に手を回して、そのまま私の背中に刺した。


「えっ?」


私の口に血が逆流する。


「陽奈は勘違いしてない?私の答えは……妖怪の絶滅だよ。そのために陽奈を超えなきゃ、誰よりも強くなきゃ。……だから……死んでくれるよね」









油断していた。


「ごめんね、ルーミア」


「……何で謝るの?私は今から陽奈を殺すんだよ?」


私は魔法で赤い妖力を抑えていたリボンを引き寄せる。


そして、それをある程度切り取り、封印の術式を幾多にかける。


「ルーミアのやっている事は雨が降ったら雲を消せばいい、って考えと一緒。妖怪はいなくならないんだよ」


私はルーミアにリボンを着けて


「ごめんね……」


封印した。










ルーミアは地に伏して気絶している。


「紫、後処理を頼む」


私は虚空に話し掛ける。


・・・。


私はスキマを開いて紫を引っ張り出した。


「あいたた……、相変わらず人遣いが粗いわね……」


「境界を弄って。ルーミアが封印を破れなくなるように」


「本当に貴女は後悔しないのかしら。あれほど嫌っていた、未来を摘む、という行為を貴女は促しているのよ」


そう、後悔しない訳がない。

私は本当はしたくない。


「お願いします……」


紫はスキマに重いこ……軽やかに腰をかけると境界を弄り出した。








「ときに陽奈」


「ん?」


「どうやってスキマを開いたの?確かに私は見ていたけど別のスキマから引きずり出されたわ」


「なんとなく出来る気がした」


「貴女は面白いわね」


クスッ、と紫が笑った。



「それより何で助けてくれなかったの?」


「助けられなかったのよ。あんな戦いの最中にいたら消し炭になっちゃうわよ」


紫はふぅ、と溜息をついた。


「だいたい今陽奈には近付きたくないのよ。何故か本能で避けたくなるのよ。お願いだから妖気を抑えてもらえないかしら」


私は無言でリボンを二つつけた。


「抑えたけど……、背中の風穴をどうにかしないといけないんだけど……」


ルーミアに刺された部分だ。見事に貫通してしまっている。


「私は治せないわよ」


「うん、期待してない」


紫が、それは残念ね、と呟いているけれど気にしないで神力で治す。








「そういえば陽奈、私は貴女の考えを試してみたいと思ったのよ」


唐突に話題をふってきた。


「私の?」


「人間と妖怪の共存する世界、ってやつよ」


「実現は?」


「貴女のおかげで少しは楽が出来そうだわ。あの狐……私の名字と藍って名前をあげたんだけど、彼女が手伝ってくれるらしいわ。じゃあ私は藍が怒る前に帰るわね」


「うん、頑張って」


人間と妖怪の共存か……。


もう少し早く、ルーミアが聞いていれば……。


私はそう思いながら倒れ続けるルーミアを一瞥して、この場を離れた。










現在の西暦は1500〜1700程度と考えてください。


さて、次回ですが……詳しくは活動報告にありますので。

随時募集中です。



西暦から見て、吸血鬼姉妹が生まれるでしょうが国外なので誕生話は書きません。



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