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はるですよー

某妖精は出ません。



勢いで飛び出したのはいいものの行く宛てなど特にはなかった。


鬼との宴会も悪くはないけど体中痛くなるのは必死だ。


じゃあ………家に帰るか……。








「あら、久しぶりね」


バタン


誰かいたような……。


私はゆっくり扉を開けてみる。



誰も……いないな。


「人の顔見て扉閉めるなんて失礼ね」


「わきゃああああぁぁぁああ。………なんだ、紫か……」


いつの間に後ろに移動したんだよ。


「ふふっ、貴女の驚き方は面白いわね。……ところで、暇してないかしら?」


また紫は胡散臭い笑みを浮かべる。まるで私の心情を理解しているかのように。


「もしかして、何か頼みがあるんじゃないの?」


「あら、口に出した覚えはないわよ?」


「じゃあ、あるんだ」


「たぶん、貴女しか出来ない事よ」










スキマを出ると、そこはお屋敷だった。


だが、みょんに静かだ。人の気配がまるでしない。


「くせ者!!」


いきなり、白髪……というより銀髪の爺さんが刀で襲い掛かって来た。


目茶苦茶な速さで抜刀して切って来るが


「止めなさい。私の客です」


一つの声によって阻まれた。


「ですが……、妖怪でござい……」


「黙りなさい。妖怪であろうと客には変わりありません。……まあ、日傘をさした方だけですが。その小さい子は切り捨てても構いません」


えっ……?


「かしこまりました」


目茶苦茶速くて見えない刀を避けろというのか。妖怪でもこんなに速く切る奴はいない。


しかもこの刀、ただの刀じゃない。

業物だけど破魔か何かの力もついてる。


当然、そんなものに耐性はないので避けざるを得ない。


「紫、助けてよ」


「え、紫のお友達?」


「まあ、そうね」


くつくつと紫が笑う。

謀ったな……。


「止めなさい!その方も客人です」








「先程は申し訳ありませんでした」


「気にしてないから……」


今、爺さんに謝られている。


この爺さん、名前を魂魄妖忌というらしく、この屋敷、西行寺家に代々使えてる半人半霊らしい。


「家来の失態は私の失態でもあります。そもそも私が全て悪いんです……」


「紫、お嬢さんの周りにどす黒いオーラが……」


「それが彼女、西行寺幽々子の悩みよ。あれは能力の一部」


「幽々子さんの能力とは?」


「『死に誘う程度の能力』よ」




幽々子さんの能力は元々は『死霊を操る程度の能力』だったらしい。けれど、妖怪桜こと西行妖との共鳴作用みたいなもので能力が変質してしまったらしい。



西行妖、それはとても綺麗な桜の木。しかし、その美しさ故に自害する者が集まるようになっていった。やがて、その死霊たちは桜の木に徐々に恐怖を集めさせた。そして、妖怪桜へ変質した桜は人を死へと誘うようになってしまった。


そんな時に生まれたのが幽々子さんだ。


同じ力を持つが故に近付く事が許された人間。ただ、共に力は強くなっていった。




で、現在に至る。


「私に何をしろと?」


「貴女なら西行妖を無力に出来るのではないかしら?恐怖がまとわりついて妖怪になったならば取り除けばいいと思うの」


簡単に言ってくれる。


「お願いします……」


と、幽々子さん。


力がここまで強いと、桜を直したところで幽々子さんの方に引っ張られて戻ってしまうだろう。もはやシンクロに近い状態。片方が欠損すればもう片方が補ってしまう。


「一応、やってみるか……」







凄く……大きいです。


桜なんて子供が登れるくらいのものを想像していたけど、そんなレベルじゃない。


けれど、一度恐怖に目を向けると真っ黒だ。


「どう……ですか?」


「やってみる」


私は試しに少し恐怖をいただく。


濃くて強い、恐怖の根本の“死の恐怖”。

私はもっと欲しくなった。



ふいにグンと引き寄せられる。


私の力を盗ろうとしているのか?


徐々に強くなってゆく。これは……ヤバイ。


私はどうにかしようと魔法で炎を出すも消された。


「紫、この桜、私を吸収する気だよ。予定変更、私が引きずり込まれる前に思いっきり恐怖を奪い取るから紫は私と桜を幽々子さんと同期する前に結界か何かで繋がりを切って。私がどうにかする」


「分かったわ。でも陽奈、貴女が引きずり込まれる、ってどういう事?」


「わざと吸収させて吸収し返す気だったんだよ。自分のものなら入りやすい。私に十分吸収させて自分に近い者にさせるのが狙いだったんだよ」


さらに力が強まる。


「いくよ、紫。もう限界……だから……」


私は大量の恐怖を奪い取り、そのまま精神を西行妖に引きずり込まれた。










暗い……。


どんどん落ちてゆく……。


温床となり増幅するだけの存在になってしまった怨念たち。今、何を怨んでいるの?何に怯えているの?


死ぬ事を恐れているの?


でも、もう恐れていないじゃない。


愉しんでいる。


縛られて言いなりになっていていいの?



私が君達の恐れているものを全部受け止めてあげるから。


自分の手で掴もう?


負の連鎖を断ち切ろう?


あなたたちも私たちも、生きていても死んでいても、存在には善悪はないんだよ。


ただ、不自然な状態がいけない事。


死んでからも逃げちゃダメだよ。


逃げたら次はやって来ない。



恐怖の鎖を解いてあげるから、還ろう?










目が覚めた。


私は桜にもたれ掛かっていた。


恐怖は完全にいただいて、怨念は大半が成仏し、この桜に残っているのはまがまがしい妖気のみ。


しかし数百年放っておけば、また力を得てしまうだろう。


私がしたのは進化を止める事だけ。


最終的には半永久的な封印を施さなければいけないだろう。







「紫、ただいま」


「おかえりなさい。その様子だと大丈夫なのかしら?」


「実はかくかくしかじかで……」


「それもそうね……」


通じた!?かくかくしかじかで通じたよ。


「あの……いったい何があったんですか?」


「つまり、超弱くしたけど封印しないと戻っちゃう、って事」





それから桜は人をあまり襲わなくなったが、まだ幽々子さんの力に衰えはない。


人里に出てしまえば、みんな死んでゆく。

屋敷に人が来てもまたしかり。


幽々子さんの能力に対して、紫は境界を操ってるらしいし私も相殺している。妖忌さんは半分幽霊だから影響がないらしい。


人に会わないと人間はどうなるか。


神経衰弱に陥る。


ただ、私たちも妖忌さんもいるから、それはほとんどない。


ただ、触れる人数が少ない。


そう、少なすぎた。








ある春の日、満開の桜のもとで幽々子さんは自害していた。


ただ、隣に封をした手紙とともに……。


自害しに行く幽々子さんを妖忌さんは黙って見送ったそうだ。


手紙にはこうあった。



前略。


これを読んだということは私は自害しているでしょう。


親愛なる紫と陽奈にお願いです。私は貴女たちに会いたい、と未練を残します。私の肉体を要として西行妖の封印をしてください。私の身体はこの世から離れなくなりますが構いません。私の魂一つで多くの人が救うのが罪滅ぼしとなればと思います。


結果はどうなるか分かりませんがよろしくお願いします。


西行寺幽々子



私たちは早速作業を始めた。


紫の封印は能力を使わなければならないため不採用。よって私の知識と術を使う事にする。


紫は、まず境界を操り様々な措置を施す。必要な措置は私の指示によるものだ。

魂と肉体と桜についての結び付きやらは紫の仕事。私は何も出来ない。


封印に用いる陰陽術は五行、つまり木火土金水の流れを組む。

桜を殺さず、力を抑えるには生の循環を止める事が必要だ。


まず、春を象徴する木は完全に陰。

次に、夏を象徴する火は成長を促さない程度に陽、あとは破壊の陰を組み込む。

土は保護と季節の変わり目、外からの隔離に陽を少しと変わる事のない季節をおくために陰を残りに。

金は完全に陽。秋を象徴するから滅びとして。

冬を象徴とする水は命の誕生も司るため陰陽のバランスが微妙。


そうやって細かく術を組んでゆく。


簡単に書けば二元一次式みたいなものだが今回は複雑すぎて札がほとんど真っ黒になった。


「紫、これ貼れば大丈夫だと思う……」


「札が黒く見えるのは気のせいかしら?」


「私も組んでからびっくりした」



札も設置して、あとは霊気を込めるだけ。だけど……霊力足りるかな?


とりあえずやってみた。


・・・。


やべぇ、力がどんどん使われてゆく。かつてない脱力感が全身を襲う。


ふと身体が軽くなった。

霊力尽きました。お疲れ様でした。


「紫、助けて!!」


術が壊れかけている。


「私は何も出来ないわよ。普通の妖怪は霊気は人間未満だもの。貴女だけよ、人間を超えてるのは」


「で、でも、崩壊を止める事くらい出来ない?」


「無理よ。複雑すぎるわ。貴女、いろいろな力を持っているんだから何かで代用出来ないの?」


生憎、私には力の変換機構はない。


そしてたぶん、妖気は無理だ。


魔力は………いけた。


私はリボンを外して、見栄え悪いのでポニテにしてから、魔力を注ぎこんだ。


が、歓喜したのも虚しく底を尽きた。


術に対しての効率が非常に悪い。


私はまた髪型を元に戻して、切り札的なもの、神気を使った。




「なんとか終わったよ……」


実に効率がいい代用力だった。初めの霊気と同じ分を満たすのに雀の涙ほど。


それでも全体の半分くらい消費したが。


出来れば使いたくはなかった。


他の力と違って回復しないからだ。

私には信仰がないし。親交はあるけど。


それが半分くらいなくなった。


今の私は力の量から2割が純粋な神で8割が純粋な妖怪。けれどリボンをつけてるから半神半妖くらい。


「紫、私、寝る……」


疲れたら眠くなる。


「おやすみなさい」


その時の紫の笑みからは胡散臭さが感じられなかった。






それから数日後。


幽々子は亡霊のまま姿を顕現している。


私が起きた時は既にそうだったのだが。


まず、性格が物凄く明るくなった。それと、幽々子さん、と呼んだら、堅苦しい、と言われ呼び捨て状態だ。


幽々子の成仏しなかった理由が私たちな為、名前とか忘れなかったらしいが桜の封印については覚えてないらしい。もしかしたら覚えてるかも知れないが桜を見て頭に疑問符を浮かべていた(春なのに枯れているから)ので、やっぱり忘れているのだろう。


紫との審議の結果、話さない事にしたが書物には残しておく。



私が寝ている間に紫は閻魔に会ったらしいが、子供に説教された、と嘆いていた。ちなみにまた来るらしい。


来た理由は今回の封印について。

次に来る理由はこれからについてらしい。


私も久しく説教されるかと思うと怖くなった。


「逃がさないわよ。また来る理由は貴女が寝てたからなのよ」


泣いた。







またいくらか日が過ぎ、三人で団子を食べながら話していると一人の訪問者があらわれた。


「私はおさらばするわ」


「させませんよ」


凛とした声、緑の髪にゴツイ帽子、ちっこい見た目の少女が立っていた。


「八雲紫、貴女も聞かなければなりません。ところでそちらの方が陽奈さんですか?」


「そうですわ」


紫が敬語モードだ。


まさか……


「初めまして、閻魔をしている四季映姫と申します」


「私は白嶺陽奈です。どうぞよろしくお願いします」


私は会釈した。


「さて、西行寺幽々子の今後ですが……」


こうして決まった事はこの屋敷を冥界の白玉楼という場所に移し、あの世へ行く幽霊の一時的な管理など。





一通り話が終わり、屋敷の移動の為にもう一仕事あるからと映姫さんが泊まる事になり暇が出来た。


「陽奈さん」


「はい」


そして呼ばれた。


「この際です。貴女の事も見ておきましょう」


「はあ……」


映姫さんが手鏡を取り出した。


「それは?」


「これは浄玻璃の鏡といいます。これで貴女の罪を映し出すので反省しなさい」


と、私に鏡が向けられる。理不尽だ……。そう思った時、


パリン


鏡が割れた。


「えっ……?」


「割れ……ましたよ?」


「だ、だいたい貴女は長生きし過ぎる」


「普通に暮らしていましたよ?」


「そ、そもそも貴女という妖怪は……妖怪は……」


映姫さんが棒を取り出した。


「それは?」


「これは悔悟の棒。貴女の罪の大きさで重さが変わります。罪人の頭を叩く棒です」


と、映姫さんが棒に何かたくさん書き込んでいる。


「叩かれるんですか?」


「叩かれるんです」


映姫さんの書く手が止まる。


「で、では……」


両手で顔を真っ赤にして持っている。


頑張って振りかぶって……


ズドン


……そのまま倒れて床に穴が空いた。


床を貫通して地面にめり込んでる。


「ちょっと棒持たせて」


「だ、だめですよ……」


無視して持ち上げ………られない。


しょうがないので魔法を併用してでも持ち上げた。


「あの……、こんなもので叩かれたら顔が吹き飛びますよ?」


「そう……ですね。はい。貴女を死なせたら私が罪人になってしまいますね」


この後、あまりにも映姫さんが謝るので何だか申し訳ない気持ちになった。








無事に屋敷も白玉楼に移って、映姫さんは帰って行った。


「「私、あの閻魔苦手だわ」」


紫と幽々子が声を揃えて言ったので笑ってしまった。


説教くさいんだと。



それから映姫さんに聞いたけど亡霊となった幽々子さんは『死を操る程度の能力』になったそうだ。これによって近付いた人を無差別に死に誘う事はなくなったらしい。


まあ、この冥界に人が来るかは知らないけど。




私や紫は生者だ。半分幽霊や完全幽霊な方々と違って冥界にずっといていいものではない。


つまりだ。


帰宅しよう。


私と紫は幽々子と妖忌さんに別れを告げ、それそれ帰路についた。




ちなみに妖忌さんがお土産にくれた大福と饅頭がとてもおいしかった。









映姫は、まだその地が幻想郷ではないのでヤマ(略)はつきません。


本当は何かつけようとしましたがやめました。



ちなみにヤマザナドゥとは幻想郷の事で、ザナドゥとは楽園を意味するとか……。

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