妖怪と少年
今回は大事な大事な閑話です。
私は鬼たちと戯れた後、また放浪していた。
それにしても
「あ゛づ……い゛……」
陽射しが痛いくらいに暑い。蝉すら鳴かない程暑い。卵が茹で上がるんじゃないかと思うくらい暑い。
私は着物(下はスカートみたいなものだが)一枚の服装で風通しはいいが、それでも暑い。
川とかに入って涼みたいが、以前、おっさんたちからの視線に嫌悪感を感じて以来、昼間は我慢している。
笠でも買おうかな……。
あー、ふらふらする。
なんか視界がキラキラして真っ白に………
「はっ!」
いつの間にか倒れていたのか。
妖怪でも熱中症とかになるんだ。
ところで
「知らない天井だ……」
いつの間にか私は布団に寝かされていて濡れた手ぬぐいが額に乗っかっていた。
質素な感じだが一般民家ではない。
私はふらふらと立ち上がって外へと出て行った。
「神社?」
山中の神社だった。人はあまり来ないだろう。
「あっ、起きたんだ」
声の主は男の子だった。
「君が?」
「あ、うん。歩いてたら急に前を歩いてた女の子が倒れたから……」
「ありがとね」
私は彼に微笑んだ。
彼はこの神社の事実上の神主だった。
彼の家系は代々妖怪退治を生業としている神社の家系らしいが今や何の神を奉っているかは分からないらしい。
さらにこんな山中にあるものだから人も来ない。賽銭もない、金もない。
彼の両親は大妖怪や外法の人間やらを命からがら封印したらしく、独り身らしい。
あまりにも災難だと思い、私はしばらく居候しようと考えついた。
彼の名前は白嶺界人。職業は神主、兼、妖怪退治。
けれど私と彼は気が合った。
そんなある日、
「町の方でなんか妖怪が出たらしい」
「行くの?」
「もちろんだ」
いつも通り、妖怪退治に行く。
退治に行くのだ。
今の時代、まだ妖怪は殺すものであったりする。しかし、彼の場合は退治で済ませるらしい。
妖怪は一度退治すれば当分は自重するし、なによりも
「可哀相だろう?」
と。彼は人妖特に差別はしない。ただ、悪い事をしたら懲らしめる。逆に益な事をすれば褒める。
平等で優しい人物だ。
つい私は長い間、彼と時間を過ごしていた。
何年か経ち、界人は少年くらいの年頃になっていた。
「界人、話って?」
ある日、私が境内の掃除をしていると界人から呼ばれた。
「ひ、陽奈?」
「うん?」
「あ、あのな、俺は……」
界人の顔が赤くなっていった。
「熱でもあるの?顔赤いよ?」
私は界人の額に額をあてる。すると遂に茹でダコになってしまった。
「大丈夫!?」
「あ、ああ。あのな、陽奈、俺、好きだわ」
「え、何を?」
「だーっ!!お前の事が好きなんだよ!!」
今、コイツ、何て言った?
「もう言わないからな」
あ、そう。
「その言葉は心からの言葉なんだよね」
界人は俯いたまま黙って頷いた。
「でもダメ」
「な、なんでだよ!」
「私の事、分かってるの?」
そう、彼には私の身の上はなにひとつ話していない。
「優しくて、たまに厳しくて、いつも近くにいてくれる可愛い女の子としか……」
か、かわ……可愛い!?
「そ、それじゃあ、分かってにゃいんじゃん」
噛んだ、盛大に噛んだ……。
「陽奈はいい人だと思うよ」
「違う」
私は言わなければいけない。界人のためにも。
「界人、私は……、うん、確かに私も好きだよ。でもね、私は……ょぅ…ぃ……だから……」
そう、私も界人に惹かれてはいた。けれど、一緒にはいられない……。
「陽奈、何が言いたいんだ?」
「私はね、界人、人間じゃない。妖怪なんだよ。だからダメなの」
「じゃあ!!……俺が死ぬまで側にいてくれないか」
「いいの?私、妖怪だよ?」
「陽奈が何だろうと関係ないだろ」
私は……我慢できずに飛び付いていた。
「界人、大好き!!」
そんな私が彼と初めに行った事は道具作りだった。
どんな妖怪でも退治出来るものを。
あらゆる妖怪やらに反応して、死なない程度に加減して攻撃する術を私と界人で施す。ただし、私には攻撃出来ないようにしておく。
二人で着々と複雑な術を組み込んで、最後に二人掛かりでそれを形にした。
陰と陽の八卦の術を組み込んだそれは白と黒の二色で出来た球体となった。
これをこの神社に代々伝える事で力の弱い後継人でもある程度は退治出来るだろう。
伝えていく事が目的なので私と界人の血を継ぐ者しか使えない術も組み込んだ。
「陽奈、久しぶりね」
紫か……。
私がいつも通り境内を掃いていると紫がスキマから出て来た。
ちょうど界人は買い物に行っている。
「なに?冷やかしにでも来たの?」
「陽奈がまさか人間とそこまで仲良くなるとは思わなかったわ。まずはおめでとう」
「何がおめでたいのさ」
「ご懐妊おめでとう」
紫はクスクスと笑って私を見ている。
「えっ、何て言った?」
「貴女、子供がいるのよ、ここに」
私の腹を指差し、紫がまた笑った。
マジで?
「お幸せにね、白嶺陽奈さん」
「ただおちょくりに来ただけでしょ」
紫はそのままスキマに帰って行った。
何がしたいんだか……。
ふと見ると紫のいた位置に何かが置いてあった。
……なんだ、結構いい奴じゃん。
そこには安産祈願のお守りが一つ。
程なくして、私は子供を一人産んだ。
マジで死ぬかと思ったよ、あれ。痛いってレベルじゃ……。
子供は女の子で名前は知佳。才ある良い子に育って欲しいという願いを込めた。
知佳は私と界人の子供だから半人半妖なのだがマジで才能があった。
ちょっと霊力の操作を教えたら翌日には空を飛んでいたからびっくりした。
そんな知佳ももう十歳になった。
なんか見た目がものすごく私に似ている。
まだ背は私の方が高いが越されるのも時間の問題だろう。
「なぁ、陽奈。知佳ってお前に似過ぎじゃないか?」
「うん、同感。見ていて気持ち悪いくらいにね」
「おかーさん、おとーさん、よーかい捕まえた!!」
「「返して来なさい」」
今日は珍しく妖怪退治の依頼が来た。相手は小妖怪だが強いらしい。
普段なら私か界人が一人で行くのだが夜でないと現れない妖怪らしく、夜に強い私が行く事になった。
が、いざ飛び立たんとする時に
「おかーさん、どこか行くのー?」
知佳が起きた。
界人はいびきをかいて寝ているし、知佳は好奇心旺盛でついてくるだろう。
が、昼間に退治する時とは違い、夜は妖怪パワー全開で仕事をする。そっちの方が早くて効果的だからだ。
知佳は私が妖怪とは知る由もない。
「妖怪退治行こうかな……と」
「あたしも行きたい!!」
「じゃあ、私も行くけど知佳に全部やってもらおうかな」
「うん!!」
知佳は早速、例の球体を持って来て早く行こうと張り切っている。
「じゃあ、行こうか」
知佳は妖怪に容赦なかった。
視界に映った瞬間に奇襲。強襲してフィニッシュ。
話を聞く気はまるでないようだ。
「ごめんごめん、もうsぐぼぁ……」
「知佳、やりすぎ」
「おかーさんとおとーさんは甘すぎだよ。しっかりと骨の髄まで刷り込まないと……」
育て方……間違えたかな?
「もう、悪い事はしないようにね」
私は妖怪を逃がす。
「おかーさん、よーかいの味方なの?よーかいは悪い事を何度もするんだよ?」
味方も何も妖怪なんだけど……。
「知佳、私はね知佳には優しい人になってほしいの。人も妖怪も同じ生き物なんだよ。ご飯食べる時に、いただきます、って言うでしょ。それはね、命を分けてくれてありがとうって事なんだよ。人が野菜や兎とかを食べるのも、兎が草を食べるのも、妖怪が人を食べるのも同じなんだよ。」
「それは少し違うわね」
「うん、少し違うけど……」
「おかーさん、誰と話してるの?」
「えっ?」
「あら、陽奈。せっかく子供の顔を見に来たのに気付いてくれないのね」
なんだ、紫か。
「むっ、よーかい!おかーさんに何の用だ!!」
「知佳、敵わない敵に会ったら逃げるのも作戦だからね。紫は私の友人だから襲わないよ」
「おかーさんは何者なの?」
「知佳のお母さんだよ」
「あら、ようkむぐぅ……」
私は、まだ知佳には私が妖怪だって言ってない、と目で伝える。
「厄介な人よね、妖怪にとって」
「おかーさんは強いもん!!」
「そうね。私もそう思うわ。じゃあ、退治される前に帰らなきゃいけないわ。じゃあ、またね、陽奈」
紫が知佳に言った。
「陽奈は私だっ!!」
絶対わざと間違えたんだろう。
そして翌日の昼、
「おとーさん、おかーさんは何者なの?」
昼ご飯中に知佳が聞いてきた。
界人は私を一瞥するが私は首を横に振る。
「おかーさんはよーかいの友達がいるんだよ」
界人は、まあいてもおかしくないだろう、という顔をしている。
「そういえば、今夜は満月だね」
「ああ、そうだな。知佳、今夜お母さんと出掛けて来なさい」
「夜はよーかいがいっぱいだから危ないんじゃないの?」
「大丈夫だ。お母さんは凄いから」
そして、夜。
「じゃあ、界人、帰りは朝になるかも」
「いってきまーす」
「おかーさん、どこ行くの?」
知佳が少し震えながら私に抱き着いてくる。
「ただの散歩」
しばらく歩くと広い場所に着いた。まあ、今日はここでいいだろう。
私は持って来た酒を置くと
「呑もうか」
知佳に言った。
「呑もうか……って、おかーさん、ここじゃよーかいがいっぱい来ちゃうよ!?」
私は無視して
「月が綺麗だねー」
晩酌をする。
「おかーさん、よーかい退治は?」
「むこうから来てくれるから」
と、また一杯。
「夜は妖怪が活発化するけど満月は特に活発化させるんだよ」
「危ないじゃん!おかーさん、大丈夫なの!?」
なんか界人にいつまで焦らすんだ、って言われそうな気がする。
「大丈夫だよ、お母さんも今夜は強いから」
「ねぇ、おかーさん」
「なに?」
「よーかいがいっぱいいるけどいいの?」
「大丈夫、悪い奴はいないから」
いつの間にか晩酌から宴会になっていた。
「最近、人を襲ってる妖怪知らない?」
「ああ、あいつ」
名前も知らない妖怪に尋ねると、彼は一人の妖怪を指差した。
そこには小さい子供が一人。
「君が人を襲ってたの?」
「ああ」
「そうか」
私は笑顔で軽く殴った。
「ここらへんで昼間には人を襲うな、って言ったよね?」
「いてーな。ほっとけよ人間が。喰うぞ」
「喰ってみてよ。雑魚妖怪」
「おかーさん!?」
「知佳、大丈夫。いくら強かろうが私には敵わないから」
私は初めて知佳の前で妖力をしっかりと出した。
「おかー……さん?」
「ごめんね、私も妖怪なんだ。界人も知ってる。知佳には私みたいな人を襲わない妖怪も知って欲しいから」
そんな事言ってたら逃げられた。
まあ、また会ったら懲らしめよう。
「おかーさん、よーかいだったんだ……」
「うん、そうだよ……」
私は知佳を抱きしめていた。
翌朝帰ると界人が仏頂面で待っていた。
「いやー、ごめんごめん」
「ぽけー」
あのあと知佳はずっと上の空だし、飲み明かしてしまった。私以外酔い潰れたけど。
「ただいま、おとーさん……」
余程衝撃的だったのか、元気がない。
「まずは朝ご飯だな」
「じゃあ、おかーさんは強いよーかいなんだね」
「そうだね」
私は自分の昔話を二人にした。
私の年齢を聞いた時の二人の反応は面白かった。
「おかーさん、若い……というか子供なままだもんね」
「子供とは失礼な」
「陽奈は子供じゃないか」
「界人!!」
「ごめんごめん」
けれど、楽しい時間は長くは続かない。
それから十数年、知佳には婿さんが数年前に。
知佳はあの夜以来、妖怪に容赦ない性格は徐々になくなっていった。
今の知佳の見た目は私をもう少し大人にした感じだ。
半分人間だがもう半分は妖怪なので成長は遅いし、寿命も長いだろう。
界人は………数年前に。
あの時の約束は守れたけど悲しい事には変わりなかった。
だがいつまでも引きずらないのが妖怪クオリティだ。今はこれから生まれるであろう孫を待つ日々かな?
ちなみに私は未だにほとんど成長していない。身長が0.2cm伸びた。誤差じゃない事を祈りたい。
「お義母さん、手伝いましょうか?」
つまり、箪笥の上に手が届かない。上機嫌で掃除をしていたら、はたきが手から抜け飛んで箪笥の上に……。
一応、飛べば取れるし、魔法も使えば簡単だが、婿さんの前では使いにくい。
「あー、お願いします」
私は持ち上げてもらう。
「軽いですね……」
「重いとは言われたくないけどね」
私ははたきを手中に収めてから降ろしてもらった。
「ありがと」
「いいえ」
「ねぇ、私の事どう思う?」
私は唐突に聞いてみた。というのもいつかは話さなければならない事がたくさんあるからだ。
「お若いと……思いますよ?」
「本音を言っていいよ」
「何故……歳をとらないんですか?」
「それは老けないって意味でいいんだよね?」
「はい。自覚はあったんですか?」
「知ってるし。見た目、私何歳に見える?」
一度聞いてみたかった。妖怪として長い年月を過ごしているから人間的な見方を忘れている。
「すみませんが10歳くらいです」
「そうなんだ……」
人間でいうと第二次性徴早期以前。そうか、界人はロリコンで私はロリータか。
まあ、まだこの時代珍しくない。
「あの……お義母さん?」
「ん、いや、ありがと」
「いや、そうではなくて……何者なんです?」
うーん、言うべきか?
「おかーさんたち、ご飯出来た!!」
夜ご飯も食べ、婿さんが入浴中なので知佳に聞いてみた。
「私が妖怪だ、って言っても大丈夫かなぁ?」
「うーん、どーだろ?」
そうだな……。
………………。
「じゃあ、知佳から言ってくれない?私は里帰りというか……家出する!」
「おかーさん、何考えてるの!?」
「気が向いたら帰って来るからさ。子供は産みなよ。後継者がいないと大変だから」
「あっ、おかーさん待って!!」
私は夜空に飛び出した。
いつかは親離れをしなきゃいけないんだ。神社は若者に任せて老人は去るべきだ。
「元気でね、知佳……」
私はそう呟いて飛び立って行った。
その時、私の頬に涙が一滴だけ流れていたのには誰が気付いたのか……。
名字確定。
白嶺陽奈となりました。
さて、気付くかなー?とかひそかに思っております。
次回は東方の史実から(やっと)話題を出します。
早く主人公組とかとドンパチさせたいですね。あと何話で現代になるんでしょうか?




