秋の放浪
タイトルは洒落ですので気にしないでください。
京を出て数年、私は宛もなく放浪していた。
そうだ、家に帰ろう。
「あら、陽奈。帰ったのね」
「パチェ、まだ生きてたんだ」
「勝手に殺さないでちょうだい」
いや、別れてから千年以上経ってるけど互いに見た目が変わらないし。
「私、帰国しようと思ってるのよ」
パチェが唐突に言い出した。
「帰国?」
「家にある本と今の成果を比較研究したいのよ」
「賢者の石はどれくらい完成したの?」
「八割くらいかしら」
パチェはふよふよ浮いた奇妙な虹色の結晶を私に投げた。
「あげるわ、それ。データはとってあるから。まだバランスがうまくとれてないから取り扱いには気をつけて」
どことなく力が不安定だが確かに半永久的なエネルギーは感じ取れる代物だ。
「これさ、属性毎に分けて作れないかな?」
混ざったエネルギーから特定のものを取り出すのは非常に困難だろう。
「なぜ?」
「混ざってると使いにくいじゃん」
「なるほど……」
パチェは暫く黙り込んでいた。
「小悪魔、手伝って!!」
「はい!!」
いきなりいそいそと作業に取り掛かり始めた。
「陽奈、あなた天才よ。その発想が大事だわ」
はて?
「五つの属性を分けて結晶にして同期させればいいのよ」
「はあ」
「無理に混ぜようとするから失敗したんだわ」
「ふーん」
それから数時間後。
「やりましたね、パチュリー様!!」
「そうね」
「出来たの?」
「理論上では完成したわ。あとは材料だけよ。結局、帰国しなきゃダメだったわ」
何か力になれるかな?
「何がいるの?」
「吸血鬼の血とかよ。この国にはいないでしょう?」
そうですね。
パチェは荷物を最低限だけ持って、ふよふよと小悪魔と飛んで帰って行った。
部屋に残ったのは山積みの本と棚いっぱいの本だけ。
私は棚に本を全て戻してから、また放浪し始めた。
ある時、妙な話を聞いた。
九尾の狐が里を襲っている、と。
なぜ妙かというと、襲った翌日には襲われる前の状態に戻るという。
私は化かしてるんだと思うけど。
「里を代表して来た?」
はい、九尾の前に私は立っています。
迫力あるなー(棒読み)。
「何の為に里を襲うのかを教えて下さい!!」
子供らしく、子供らしく。
「暇潰しだ。実害は出してはいないだろう?何の問題があるんだ」
その発言が問題だ、と言いたいが我慢する。
「それでも……、襲われた時の恐怖は簡単にはなくなりません!!」
「じゃあ、お前が暇潰しの相手になってくれるのか?」
私のほっぺたをつんつんと指で突いてきた。
爪が刺さるから止めてほしい。
「何を……なさるのですか?」
其一
頓知
「ここに私の描いた狐の絵がある。これを捕えてく「じゃあ、まず絵から追い出してください。待ってますから」
其二
なぞなぞ
「上は大水、下は大火事、これな「お風呂か海底火山」
其三
数問答
「100の饅頭がある。これを17の者にちぎったりせずに均等に分け与えるといくつか余りが出る。あといくつ饅頭があれば余らなかったか」
「むぅ……」
計算面倒だな……。
「どうした?解らぬか?」
「2つ。ちなみにそれぞれに5つずつから6つずつになる」
終了。
「九尾さんたいしたことないですね」
「人間ごときが……」
これはいつも通り、戦闘パターン?
「私と戦え」
「やだ、戦うまでもありません。弱いそうですし」
私はここで妖力を開放する。
九尾は驚いている。面白いな、この反応。
「貴様、人間では……」
「うん、妖怪」
「騙したな!!」
「騙すも何も私は何も言ってないし」
「ぐっ……」
さて、散々おちょくったし、
「威力無限だ(略)!!」
鈍い音が山中に響き渡った。
のびた狐を放置しておくのも気が引ける。
……そうだ。
「紫ー、下僕ほしくないー?」
私は虚空に向かって叫んだ。
「そうね、ちょうどいいわ」
後ろにスキマから半身だけ出した紫がいた。
「前から出て来てよ」
「あら、いい狐ね」
話をそらされた。まあ、いいか。
「式が欲しかったけど人格の構成が面倒臭いのよ。この狐のを貰いましょう」
「じゃあ、ついでに教育してあげて」
「分かったわ。じゃあね、陽奈」
胡散臭い笑みを浮かべて紫はスキマに九尾を引きずり落としてから帰った。
お気の毒に。
また宛もなくふよふよと漂っていると大きな山が視界に入った。
ただそこに盛るようにある山だからこそ一際目立つが、それだけならまだしも妖怪だらけだ。
まるで山が妖怪に見える程、妖力に溢れている。
今は霊力主体で出してるから人間と思われ襲われかねない。
行きたいという好奇心もある反面、面倒とも思う。
うん、なんか知ってる妖気もいくつか感じ取れる。
さて、別の場所に行こうか、と思っていると私の前に一人の妖怪がもの凄い速度で飛んで来て止まった。
「あやややや、人間さんどこに行くんですか?」
「ごめん、取材拒否させて」
私は全速力で逃げ出した。
しかし回り込まれてしまった。
「逃がす訳には行きません。話を聞かせてください」
「断る!!」
私は全速力でまたもや逃げ出そうとした。
「逃がしません!!」
妖怪に羽交い締めにされた。
「はーなーせー」
「いーやーでーすー」
体躯の差からか無駄な抵抗になっている。
しょうがない……、面倒臭いけど妖力を開放して
「放せ」
私は静かに、声色を変えて言った。
妖怪は咄嗟に離れて私から距離をとった。
「あやややや、よ、妖怪でしたか?……やっぱり人間?」
私はすぐに妖力を引っ込めたものの、妖怪の身体は恐怖に震えていた。
「こ、これは緊急事態です。山に行って報せないと……」
明らかにパニックになっている。
やり過ぎたかな?
まあ、いいや。
「別に襲う気はないから」
「そうなんですかぁ……。では人間が何の用で?」
「鬼と……酒盛りかな?」
あのあと、妖怪の少女とは打ち解け、鬼のもとへ案内してもらっている。
彼女の名前は射命丸文。烏天狗らしい。
想像している烏天狗とは全然違って、ただ高い下駄を履いて黒い羽があるくらいの少女だ。
「陽奈さんは何故鬼と知り合いなんですか?」
「それは……、鬼に聞けば?」
「あやや、鬼は苦手です……」
文が手帖を出してはしまってを繰り返していた。ネタ帳の類だろう。一度、見てみたいものだ。
「陽奈さんは人間なのに、よく鬼が平気ですね。妖怪の私でも……」
私はその言葉を遮って
「私は妖怪だけど?」
「えっ?」
「うん」
しばし、沈黙が場を支配した。
「あやややや、陽奈さんみたいな妖怪がいるのなんて初めて知りました」
手帖にもの凄い勢いで何かを書き込みながら言葉では驚いている。
文は飛ぶのも速いけど手の動きも速かった。何をそんなに書いているんだろうか。
「種族は何ですか!?」
種族?私は仲間とかたぶんいないから……、
「一人一種族の妖怪だと思う」
私のその言葉に文は一瞬固まった。
それから一言
「聞いた事ありません」
私は私みたいな妖怪が自然発生する事云々を文にいつの間にか話していた。
文の手帖の頁が残り僅かになったところで鬼の住家についた。
そこにはやはり見覚えのある鬼がいた。
「ヤッホー、萃香。また会ったねー」
山中なのでクライマーズハイなのかは知らないけれども私はテンションがやけに高かった。
「げっ、その声は陽奈」
萃香が露骨にも嫌そうな顔をする。
豆か、炒った豆なのか?
それが原因か?
「大丈夫、今日は豆は使わない」
私は宣言した。
鬼の弱点を用いずに、ただ全力で相手をしようと。
「じゃあ私から……」
私は萃香の言葉を遮る形で
「ただし、手加減は出来ないよ」
言った。
私は妖力を出せる限り出してゆっくりと萃香に歩み寄る。そう、ゆっくりと。
あの時、私は攻撃を受けてばかりで私からの攻撃はなかった。だからこそだ。
私の場合は相手を怯えさせてこそ真価を発揮出来る。抑えられた状態でも鬼たち全員の妖力を上回っている。そんな力の塊が近付いて来れば、いくら鬼であろうと恐怖を感じない訳がない。
そして、その恐怖が私を強くする。
萃香が勢いよく私を殴ってきた。
「もらったー!」
私に拳が触れる。
私は威力を最小にして手で受け止める。
「ざーんねん」
そのまま威力最大、運動エネルギーも最大でぶん投げた。
萃香は地面と平行に飛んでいって岩に衝突。その岩と当たってそれが壊れてもなお飛び続け、木々を二、三本折ったところでようやく止まった。
大丈夫かな……。
「おこったぞー!!」
びっくりして見直すと角が一本折れた萃香が激昂していた。
「ミッシングパワー!!」
なんか萃香がでっかくなった。
密度を操れると巨大化できるらしい。
なんて暢気な事を考えていたら殴られた。
私も萃香同様に飛ばされるものの運動エネルギーを減らして衝突は免れた。
「ありゃ、飛ばないな」
と、萃香。飛ばされてたまるか。
「じゃあ、こっちからいくよ」
今度は私が殴る、蹴る、と鬼顔負け張りにラッシュ。けれど手応えがない。すかすかする。
密度を減らせば透り抜ける、って?
なら、別の手だ。
私は萃香の攻撃を避けながら陰陽術を練っていた。ばらばらならば……
「今だ!!」
隙を見て遠ざかり、萃香をすっぽり結界で包み込む。
「出せー!!」
ゴン、と鈍い音が何度かするものの出る事は不可能。
それから内部に大量に魔法陣を展開、攻撃魔法の雨霰。当然、萃香は密度を減らして避ける。
それを待っていた。
私は結界を圧縮してゆく。ルーミアにした時同様に押し潰す。
どこまで密度を下げていられるかな?
「だ、だせー。潰れる〜!!」
微かにそんな声が聞こえた気がする。
うん、ぷちっとやっちゃうかな?でも可哀相だから……、このままにしておこう。
「はい、次の相手は?」
萃香には抵抗する術はないので私は次を要求した。
「私がやろうじゃないの」
ザッ、と前に出て来たのは姐御肌の鬼だった。
上は体操着みたいなもので下はスカート。
一本しかない赤い角には星が見える。
「萃香を解放してくれないかい?もう勝負はついているじゃないか」
「嫌……って言ったら?」
「あんたを倒す」
いきなり蹴ってくる。
私は慌てて避けるものの余波で飛ばされる。なに!?この馬鹿力。
「待った、名乗ってからでしょ!?」
「あんたからね」
攻撃を止めてくれた……。
「私は陽奈。『恐怖を操る程度の能力』を持つ妖怪」
「私は星熊勇儀。『怪力乱神を持つ程度の能力』さ。さあさて、萃香の仇は撃たしてもらおうかね」
勇儀が拳を空に突き出す。
その衝撃が私を吹き飛ばす。
「は、はん……そく……じゃない?」
私はいつの間にか腰が抜けていた。
勇儀の場合、自分の力に揺るぎない自信を持っているのだろう。中途半端な自信は恐怖を生むだけだが勇儀にはそれがない。
むしろ、強者への出会いに嬉々としているのか。萃香を破り私が勇儀に強者と認められたのか。定かではない。
けれど、厄介な相手に対峙しているのは変わらない事実だ。
鬼は見た目とは裏腹に身体能力がずば抜けている。それに加えて勇儀は怪力の能力。
勝てるのか?
そう考えていたら勇儀の姿が見えなかった。
「ほうけてたらいけないねえ」
目の前には勇儀の姿。
やば……
「降参しなっ!」
私の身体全体に鈍い衝撃が走った。
何が起こったか分からないが視界が一色に変わってゆく。
私は意識を保ち、神力で回復した。
殴られた事が分かった。
「あら、丈夫だねえ。萃香も倒れるのに」
首を掴まれ持ち上げられていた。
「でもこれでどうだいっ!!」
拳がまたもや飛んできた。
私は自分の威力を上げ、勇儀の威力を出来る限り下げて、拳をぶつけた。
私の腕が砕けた。
「威力を下げたはず……」
「私の能力を忘れたかい?私も腕が痺れたさ。びっくりしたよ」
怪力乱神、つまり……無限大。
私の右腕はもう動かない。治せばいいけど時間が掛かる。
おとなげないけど……、
「一回、放してくれない?本気出したいから」
この言葉に勇儀の顔が驚きを隠せなくなった。
「本気じゃなかったのかい?」
「あ、うん。このリボン外さないとダメなんだよ。これが私の重い枷になってるの」
勇儀は私をゆっくりと降ろすと
「外しなよ」
「見物してる小妖怪と弱い鬼は下がって。死ぬよ」
私が少し死の恐怖を出すと言う事を聞いてくれた。
「あと、リボンに触らない事」
私はゆっくりとリボンを解き、長い髪を下ろした。黒い髪がふわりと重力に従って下りた。
「なんだ、変わらないじゃないか」
勇儀の言葉を無視して私は妖力と魔力を探る。……うん、さらに強くなっている。
「口だけだったら興ざめだよっ!!」
勇儀が私に拳と蹴りを乱打してくる。
私は『怪力乱神を持つ程度の能力』に対する周りからの恐怖を吸収していた。
リボンを外してからそれを理解した。
「勇儀、力に絶対はないよ」
私は妖力を全開にして勇儀の拳を左手で受け止めた。そう、受け止める事が出来た。
「なっ!?」
勇儀が怯んだ。拳を受け止めた事が衝撃的だったのか。
理由は簡単だ。触っていないから。
紫のリボンを外しただけで魔力が膨大。
木属性は風も生み出せる。圧縮された空気はあらゆるものよりも硬い。私は掌にそれを固定して発生させただけ。
私は様々な魔法を打ち出しながら拳に妖力を集中させていった。
勇儀の傷が増えてゆく。
「撃ってばかりは卑怯じゃないかい?」
「そうだね」
私はゆっくりと降りて、勇儀に歩み寄る。
いつの間にか私の髪は朱くなっていた。
「私が怖い?」
「さあね」
内心怖がっているのは目に見えていた。
「私ね、勇儀が強い事を知ったよ。けれど、頭を使わないと、そして、自信を持ちすぎると……負けるよ」
私はただ一発、勇儀の腹に拳を撃ち込んだ。
反応すらさせない。
勇儀に後ろに飛ぶ事すら許さない。
私の中の恐怖はそれが出来た。
「萃香は解放するから勘弁してね」
今、思い出したが萃香を捕えたまま、ハンデを持って戦っていた。
何とも否めない……。
勇儀は目をぐるぐるさせて気絶してるし、やることもなくなったので、リボンを付け直して右腕を治し始めた。
「いや、お前さん強かったねー」
勇儀が目を覚ました後、なんだかんだで酒盛りになった。
「勇儀、バシバシ叩かないで。痛い」
「おっと、ごめんごめん」
「陽奈は鬼じゃないんだから考えなよ〜」
あはは、と笑って呑んでいるものの何だかぎこちなかった。
酒の肴に観戦とは……、鬼らしいな。
「陽奈、雑魚の戦いつまんなーい」
「まあ、そう言わずにさ」
とは言うものの、確かにつまらない。組み手をしているかのように見える。そう、戦いに見えない。
私たちの戦いを見ていたためなのか、他の鬼たちも興が冷めていた。
酒の肴がないと酒もうまくはない。
「陽奈、もう一回やるかい?」
「却下。腕も完治してないし」
「それは残念だねぇ」
私はあんたら鬼みたいに丈夫じゃないの。
「話くらいなら出来るけどね」
私は昔話を少しばかりした。
事の初めは村で目が覚めたところから今までを。
少しなのかは分からないが肴にはなったようだった。
妖怪から見ても長い年月を生きている私の話は鬼たちをひき付けていた。
その後に質問タイムと、暇だったので答えるのも悪くはなかった。
まあ、でも、酒を呑みながらだったので当然私でも酔う訳で、最後は支離滅裂だったり退行していたりしていたらしい。(勇儀談)
うん、自分が駄々こねてたりするのとか、ないわ。
で、朝起きたら萃香が寝てて起こしたら
「陽奈、積極的なんだね」
勇儀も起きて来て
「陽奈は激しいやつだった……」
と。
私は何をした!?
問い詰めたかったけど、何となくやめた。
「いやー、陽奈は昨晩積極的だったねー(酒の呑み具合が)」
「本当に激しかった……(酔った後の言動が)」
鬼二人は少女の妖怪にばれないようにひそかに溜息をついていた。
グダグダな話になってしまいましたね……。
早く霊夢とか出ないかなー、とか思っていますが……、まだまだなんですよね……。