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第六話:土間の再会、涙の咆哮

定時後、夕闇に包まれた田舎道を急ぎ、健一と瀬戸は古い一軒家の門を潜った。  瀬戸の肩は微かに震えている。期待と、そして「拒絶されるかもしれない」という恐怖が混ざり合っているのが、テイマーである健一には痛いほど伝わってきた。


 健一が重い引き戸を開ける。  「……ただいま、ギン」


 土間の隅で、大型犬がゆらりと立ち上がった。  最初は、前世の意識である「ギン」が、主の帰還を喜ぶように尻尾を振ろうとした。  しかし。  健一の背後に立つ瀬戸の姿を認めた瞬間、ギンの全身の毛が逆立った。


「(……ガ、ァ……ッ!!)」


 瞳が真っ赤に染まる。「宿主である野良犬」の意識の暴走だ。  瀬戸は思わず息を呑み、一歩後ずさった。  健一の脳内には、濁流のようなギンの感情が流れ込んでくる。


『嬉しい。会いたかった』 『嘘だ。また置いていくんだろ。あの雨の夜みたいに、俺を捨てて消えるんだろ!』


 ギンの咆哮は、怒りというより、張り裂けんばかりの悲鳴だった。  事故に遭い、死に物狂いで彼女を待った夜。  一瞬だけ目を離した彼女を見失った絶望。  「助けてくれる」と信じた分だけ、その後に訪れた孤独が、野良犬の心を深く抉っていたのだ。


「……ギン、落ち着け。彼女は捨てたんじゃない」


 健一はギンの前に立ち、その巨大な頭を力強く、しかし優しく抱きかかえた。  噛まれても構わない。指先から、ありったけの穏やかな魔力を流し込む。


「瀬戸さんは、ずっとお前を探してたんだ。……見てみろ、この涙を」


 瀬戸は、膝をついて土間に泣き崩れていた。  「ごめんね……。ごめんね、見つけられなくて……。ずっと、怖かったよね。痛かったよね……!」


 彼女の絞り出すような謝罪の言葉。  その声の響きに、ギンの赤い瞳から、少しずつ色が抜けていく。    ギンは、健一の腕を振り解くと、ゆっくりと瀬戸へ歩み寄った。  一歩、また一歩。  そして、彼女の涙で濡れた頬に、大きな鼻をそっと寄せた。


「(……ク、ゥゥ……ン……)」


 それは、今までのどの声とも違う、掠れた咆哮だった。  許したわけでも、すべてを忘れたわけでもない。  ただ、この温もりだけは本物だと、野良の意識がようやく認めた瞬間だった。    瀬戸は堪らず、ギンの首筋に顔を埋めて号泣した。  薄暗い土間で、一人の女性と一匹の獣、そしてそれを見守る中堅テイマー。  止まっていた時間が、涙と共にゆっくりと動き始めた。

第六話を読んでいただき、ありがとうございます。


 今回は物語の大きな節目となる、ギン(野良犬)と瀬戸さんの再会を描きました。  人間に絶望した「野良」の意識にとって、瀬戸さんは唯一の希望でありながら、同時に「自分を置いていった」という深い悲しみの象徴でもありました。  あの咆哮は怒りではなく、ただ「寂しかった」と伝えたかった犬の心の叫びです。


 健一が「テイマー」として、力による支配ではなく、二人の魂の通訳ブリッジになったことで、ようやく止まっていた時間が動き出しました。  異世界の魔法では癒せない傷を、現代の「再会」という奇跡が癒していく。  そんな中堅テイマーらしい、少し泥臭くて温かい解決策を感じていただければ幸いです。


 さて、感動の涙が乾く間もなく、次回はギンのキャラクターが崩壊する(?)急展開が待っています。  愛の力は、Bランク魔犬をも変えてしまうのか。  今後とも、一歩ずつ進む彼らの物語をよろしくお願いします。



第七話:いぶし銀の二つ名と、ササミの誘惑

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