重なるオルゴール
テーマは『オルゴール』
『第7回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』の対象となる超短編作品です。
「ふぅ。やっと……終わったか」
窓を開け放ち、大きく深呼吸して肺の中の空気を全て入れ換える。
ここは祖父母の家だったが、今はもう住人がいなくなってしまったため、ちょうど一人暮らしで都合の良かった自分がここで暮らすこととなった。
そのための引っ越し作業が一段落ついたところだ。
昔はともかく、最近ではこの家を訪れることもあまりなくなっていた。小さかった頃には家の事情もあって一時期この家で過ごしていたこともあったが、それも遠い昔のこと、記憶にはほとんど残っていない。
手元に視線を落とす。
その手の中には一つのオルゴール。部屋を片付けていたときに見つけたものだが、それは僅かに憶えている記憶の一つでもあった。
初めて見たオルゴール。祖母にその音を聞かせてもらったとき、子供心にとても強い衝撃を受けたことを憶えている。
「……あれ?」
ネジを巻いて音を鳴らす。
だけど、それは期待したものではなかった。
「こんなもの、だったか……?」
それは記憶に残っていたものとは違う。思っていたほどではない。悪く言ってしまえば地味で薄っぺらい。
小さくため息をつく。
そういうこともあるだろう。きっと過去の記憶が美化されて思い入れが強くなっていただけなのだろう。
ふと窓の外に目を向ける。その先に見えるのは小さな公園。
かつてを思い出す。何度もそこへ足を運んだ。
懐かしい思いに自然と足がそちらへ向かう。
「ここも、小さくなったな」
元々大きいものではない。だけど、それ以上に小さく感じる。
少し寂しく思いながらも誰もいない公園をぐるりと見回すと、鉄棒に背中を預けて一つ息をつく。
そして、もう一度オルゴールをかき鳴らす。
昔、祖母がここで聞かせてくれたように。
だけど変わらない。この空気もその音を飾り立ててはくれなかった。
しばらくぼうっと空を見上げていた。
「―――え?」
すぐ傍からオルゴールの音が流れる。
隣に目を向けると、自分と同じようにもたれかかる女性。どこか見憶えのある彼女が手にしているのは自分のものとよく似たオルゴール。
突如、記憶の欠片が蘇る。自分は彼女のことを知っている。そして、そのオルゴールも。
どうりで物足りないはずだ。
微笑む彼女と目を合わせると、手の中にあるオルゴールのネジを回す。
そして―――二つは重なる。




