転生令嬢と女子力高め王子
「そもそも私は仮にもこの国の第三王子だよな!?もう少し、こう、別に好き好き言えとかいうわけじゃないけれども、いっしょにお忍びデート♡とかしてもいいんじゃないか!?」
「あら、アンバー王子、クッキーを焼くのがずいぶん上手くなりましたのね。素敵ですわ」
「ありがとう!君が毎日ねだるからね!」
王子は仕方ないからなという風にしているが耳が赤い。照れている。にしても本当に美味しいクッキーだ。これならお店も開けるんじゃないか?
「アンバー王子、明日はチョコレートのお菓子が食べたいですわ」
「君という人は…!」
アンバー王子はその綺麗な顔をむぎゅっと歪めているが、ちょっと嬉しそうなので彼はきっと明日もお菓子を作ってくれるだろう。
なんだかんだ、彼にはそういうところがある。
さて、そんな彼はこのルミナリア王国の第三王子セレフィア・アンバー。
キラキラしい顔の構成要素は琥珀のような金色の髪、すべすべの白いお肌、ルビーをはめ込んだような赤く輝く瞳。猫を思わせるようなちょっとつんとしたような顔つきで、その辺のご令嬢からも大変評判のいい顔だ。
対する婚約者の私セレナーデ・リオネッタは伯爵家で、べつに公爵家と比べればお金があるわけでも、特別な血筋だというわけでもない。水色の髪に黄緑の瞳。顔はいい風に言えば化粧映えする顔で、ちょっと悪く言うなら地味な顔だ。ついでに言えば名前も、割とよくある。
私に違うところがあるとすれば、前世の記憶があることだが、料理だとかお菓子の記憶ばかりで碌なものがない。そして私は料理は食べる専門だ。
まえにおにぎりを作ろうとしたことがあるのだが、不思議なことに握っていた米がなくなり、手がベタベタになっていた。王子はその隣でいい具合の三角おにぎりをつくってくれていた。程よい硬さといい感じの塩加減でとてもおいしかった。うれしい。ほかにもプリンを作ろうとしてなんだかもっちゃりした塊が出来上がってしまったり、クッキーを焼こうとしてとても硬いのに味のしないクッキーを生み出したりしたので王子からキッチンに入るなと言われている。因みに王子が作ったプリンもクッキーもすごく美味しくできていた。
そんな私がこの国を継がないとはいえ、仮にも王子と結婚することになったのは、馬鹿みたいに多い魔力とほとんど全ての魔法に適性がある、この国で賢者とか呼ばれる人間だったということ。
ちなみに学力は王子が必死に教えても真ん中ぐらいで、王子の婚約者になる前はしたから数えた方が早いぐらいだったので、全く賢い者ではない。そしてつぎつぎに店を開き、新しいレシピを生み出したり、新しい魔道具を作り出したりしていたからだ。国からすればそんなレシピを生み出したり魔法の才能のある人間が外に行かれては困るので、空いていた第三王子と結婚させたというわけだ。
「明日作るお菓子はがっつりチョコ系でもいいのか?」
「勿論です!ザッハトルテか、ブラウニーか、はたまたフォンダンショコラか…!」
「まて、ザッハトルテとブラウニーはわかるがふぉんだんしょこらとはなんだ!聞いているのか?ふぉんだんしょこらとはなんなんだ一体…!」
そう、この国はあまり複雑な食べ物がないのだ!ただごはんが美味しくないというよりかは素材が美味しいので、あまり手を加える必要性がなかっただけなのだが。どの野菜もみずみずしく、味も濃くて、フルーツはびっくりするぐらいあまい。
どうにもその辺には緑魔法やら魔素やら魔物の存在やらが関係しているらしい。そんな素材たちはそのままでも割と美味しい。でも!私が愛しているのは馬鹿みたいに砂糖をつぎ込んだあまーいスイーツや、焼いても美味しい豚肉をわざわざじっくり煮込んだ角煮なんかの食べ物だ。
私が前世の記憶を思い出した時、スイーツのなさにびっくりした。
パンも美味しいし、スープもおいしい。和食の時には美味しい刺身も出てくる。スイーツもパンケーキやフレンチトーストなんかがあって普通にめちゃくちゃおいしかった。
でも、足りない!刺身は塩で食べるし、スープはちょっとパンチがない。スイーツだってマロングラッセやらショートケーキだってあったっていいはずだ。
素材が美味しいなら前世で食べた美味しいご飯はもっと美味しくなるはずだ。
そう考えた私はまず平民向けの料理屋さんを作り、つぎに貴族向けのお菓子を作り、平民向けのお菓子をつくり、ついでに下着屋さんを作ったり仕方ないので学校にもかよったりしながらこの世界しあわせ計画を進めて行った。そしてある日、醤油を作るヒントを得るべく図書館で本を探していると、認識阻害の魔法によって起きる歪みを見つけ、もしかしてそこに醤油のヒントが!と思い解くと少女漫画を読んでいる王子に出会った。
今思えば王子は顔を真っ赤にして、なんか目もうるうるしてたので多分めっちゃくちゃ恥ずかしがっていた。王子のことを擁護するなら、あの認識阻害の魔法は3種の複合魔法で、初等学校は勿論、中等学校卒業レベルの魔法かつ3種の複合魔法が使える人間なんてなかなかいない。
私は当時学校の成績は下から数えた方が早く、私ですらなんか色々魔法が使えて便利だと思っていただけなので、王子は当然知りっこない。王子が見つかったのは運が悪いというしかない。だが、そんなこと当時の私にわかりっこないので私はぐいぐいはなしかけた。
言い訳させてもらえるなら、まさかあのキラキラしくて相手には困ってないだろう王子が恋愛ものを呼んでいると思っていなかったのだ。それに、なにより、私がスカウトした漫画家の作品だったので、
「それ!面白い?やっぱり私としては負けヒロインのクロエがめちゃくちゃ可愛いと思うんだけどさぁ!」
と勢いよく話しかけると王子は真っ赤な顔のまま
「まて!なんでもするから言いふらさないでくれ!」
と小声かつ声を張るという器用なことをしていた。
「なんでも?本当に?」
と聞くと王子は今度はさっと顔を青くしていたが、そんなことに気づかず私は
「じゃあ、クッキーがたべたい!やっぱりバターたっぷりで豪華なクッキーが多いけど、私シンプルなクッキーがすきなの!」
と頼んだ。本当に恥ずかしい話だ。まず私は王子だとも認識していなかったし、そうじゃなくても人にクッキーなんかレディは頼まない。
そして王子もなんでもするとか言わなくても、言いふらすなと言えば良かった話だが、王子はちょっと天然なので普通に了承して、次の日図書館にクッキーを持ってきてくれた。
「ほら、クッキーだ。絶対言いふらすなよ…!」
クッキーはちょっと焼きすぎたのか少し茶色っぽすぎたが、味はとても美味しくて、初めて作ったとは思えない出来だった。今思えば、あの時から好きだったのかもしれない。その日からしばらくして、私の婚約が決まった。初めて婚約者と顔を合わせて、互いにとても驚いたことを覚えている。
王子はその綺麗な目をまんまるにして、私は少しだけ嬉しかった。当時はなぜかわからなかったけど、今ならわかる。王子と2人きりになったとき、ついクッキーをまた頼んでしまったのは仕方がない。
「ふぉんだんしょこらは名前的にもきっとチョコレートのお菓子なことはわかるが、どんなものだ?うーん、トリュフチョコレートのようなものだろうか?それとももっとプリンのような食べ物なのか?わからないぞ…」
「あ、フォンダンショコラっていうのはケーキの中にチョコレートが入っていて、こう、とろっととろけてくるんですよ」
「あぁ、じゃあ生地を焼いた後にチョコを入れてもう一度焼く感じか?美味しそうだな」
「ええ、楽しみにしていますね!ところでアンバー王子、私とデートはいかがですか?」
「でっ、デートか、そうだな、初めてだしやっぱり劇を見て、噴水を見て、スイーツを食べて、星空を一緒に眺めるような…」
王子は私よりもロマンチストだし、スキンケアもきちんとしている。女子力の塊だ。というかそれは最近読んでいた恋愛小説のデートコースじゃなかろうか。
「いえ、研究で必要なものとドレスを買いに行きますよ」
王子はちょっと拗ねたみたいにして、頬を膨らませて
「小説や漫画でもデートと言えばロマンチックなものだし、兄上たちももっと特別感があるコースだったぞ。それではただの買い出しではないか!」
「でもデートは仲を深めるものでしょう?でしたらどこに行くかは関係ないのでは?」
「それは、そうだが…」
ちょっと涙目になっている王子は、なんだかかわいらしい。だから仕方がない。つい可愛い口からポロッと
「それに、私はアンといられるならどこでもたのしいんですよ」
とこぼしてしまった。王子の顔がみるみるうちに赤くなっていく。恋愛物をよく読むのに、すぐに照れるのもかわいらしい。
思わず頬にキスをしてしまった。
「ねぇ、アン、愛していますよ?あなたを誰よりもずっと」
「う、あ、わたしも、その、愛している、君のことを。ちょっと、ほら、フォンダンショコラを試しにつくってみるから、失礼する!」
本当に可愛らしい人だ。コロコロ変わる表情も、恋愛ものが好きな割に2人きりの時好意を伝えると照れてしまうのも。ちゃんと人がいる時はキリッとして、でも耳が赤いところも。
明日のデートは楽しんでくれるだろうか?彼が最近ハマっている恋愛小説の劇のスペシャルチケットはとっているし、ディナーも夜景が綺麗に見えるところにした。メイドさんにも伝えているから、準備は大丈夫なはずだ。というか買い物に行くことをデートと呼ぶなら、今までにも買い物に行っているのに、急に今日はデートだとわざわざ伝えたのがなぜか気づくだろうか?私もつい楽しみになってデートだと言ってしまった。
にしても噴水か、次のデートでは行きたいな。そうだ、あの恋愛スポットの噴水に行くか。たしか行った人と末長く幸せになれるという噂の噴水。喜んでくれるといいな。
「あしたが楽しみだな。メイクもしっかりして、風呂でしっかりマッサージをしてもらって、それからスクラブも、あぁうまく行くといいな」
王子の婚約者として。そしてもっと王子に好きになってもらうために。
昔の私が見たら驚くだろうか?まるで少女漫画みたいだって?もちろん彼に好かれるためなのはあったが、彼の喜ぶ顔が見られるならいくらでもやろうじゃないか。
「楽しんでくれるといいなぁ」
初めて小説を書きましたので、おかしなところが多かったと思いますが、最後まで読んでくださり、ありがとうございます。あなたに何かいいことがありますように。
おまけ
セレナーデ・リオネッタ
転生している。あまり前世の記憶はない。食べるのが好きだが料理はできない。
水色の髪に黄緑の瞳。プリクラで盛れるタイプの顔。最近展開しようとしている事業はブロマイドや写真集の推し活アイテム。愛情深い。好きな食べ物はクッキーとミートスパゲティ。魔力が多く、ほとんどの魔法に適性がある。ただし頭はよろしくない。
乙女ゲームで第三王子ルートを選ぶと出てくるキャラクター。物語開始時点で死んでいるので、第三王子の回想にのみ出てくるキャラクター。神童と呼ばれるほど頭も良く、性格も良く、そして使える魔法も多かったので、第三王子の婚約者だった。しかし、第一王子派のとある貴族により第三王子を庇って死亡。第三王子の心の傷になった。
セレフィア・アンバー
ルミナリア王国第三王子。三人兄弟の末っ子なのでちょっと末っ子気質。キラキラしいイケメンで、ツンとした印象の顔立ちに赤い目、白い肌に琥珀色の髪。婚約者にかっこいい姿を見せようと頑張るが、自分が照れた時に耳が赤くなるのを知らない。料理が得意でストレス発散の時に一度大量のクッキーを焼いたことがある。恋愛ものが好きで、よく読むのに全然恋愛耐性がない。色々魔法が使えて、魔力が多い。好きな食べ物はアップルパイとクッキー。学力一位、実技も二位、総合成績圧倒的一位の秀才。教えるのも上手い。
攻略対象。実技も学力も一位の秀才。どこか闇のある様な雰囲気で、誰に対しても優しいが、心を許した人は1人もいない。自分の周りの人は殺されてしまうので、誰とも仲良くしない様にしている。昔婚約者だった人とずっと比べられ、限界だったのに、その婚約者に生かされてしまった。ずっと笑顔なのは婚約者の真似。攻略難易度がかなり高く、難しいがクリアした時のスチルは素晴らしい。ご飯の味がわからないし、夜もあまり眠れない。自分がストレスを抱えていることに気づいていない。かわいそうに。
醤油
隣の国にしか生えていなかった木の樹液がなぜか醤油だった。主人公がとても喜んだ。




