表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

第6話:失われた記憶と、物語の再編

『物語』を再編する力。

それは、失われた記憶を呼び覚まし、虚構と現実を繋ぐ力。

しかし、その力は、同時に『物語』の作者としての責任を、私に突きつける。

私は、ただの『登場人物』から、『作者』へと変わるのか。


私は、今、その第一歩を踏み出した。


私の指先から生み出された言葉は、小さな光の粒子となって、この『空白』の世界に漂い始めた。

『私は、大切な人を失った。』

その言葉は、私の失われた記憶の断片を呼び覚ます鍵となった。


視界が歪み、過去の風景が鮮明な映像として蘇る。

そこには、笑い合う私と、もう一人の少女の姿があった。

彼女の名前は、水瀬 綾音みなせ・あやね

私の、たった一人の親友だった。


私たちは、いつも一緒にいた。

授業中も、放課後も、休日も。

二人で小説を書き、お互いの作品を読み合うのが、何よりも幸せな時間だった。

「ねぇ、みつき。もしも私たちが、小説の登場人物だったらどうする?」

「物語の主人公は、いつも苦難に立ち向かわなきゃいけないから、嫌だなぁ」

私たちは、そんな他愛のない話をして笑っていた。

しかし、その笑い声は、やがて悲鳴に変わった。

綾音は、交通事故で、私の目の前で、この世界から消えてしまったのだ。


私の世界から、色が失われた瞬間だった。

悲しみと絶望に、私は立ち尽くすことしかできなかった。

そして、その日から、私は自分の人生を『虚構』として捉えることでしか、生きられなくなってしまった。

この世界は、綾音がいない、つまらない『舞台劇』に思えた。

だから、私は、誰かが紡ぐ物語に依存することで、自分を保とうとした。

零士の『グレイ=レイヴン』は、そんな私にとって、唯一の光だった。

誰かが私の人生を書いてくれる。

誰かが私の存在を認めてくれる。

それは、私にとって唯一の『真実』だった。


しかし、それは幻想だった。

零士は、私を物語の『登場人物』にすることで、私を『作者』としての責任から遠ざけようとしていた。

そして、グレイ=レイヴンは、その呪縛を解くために現れた、もう一人の『作者』だったのかもしれない。


私は、再びメモ帳に言葉を書き記す。

『私の大切な人は、もういない。』

その言葉が、私の心に深く染み渡り、失われた記憶が、より鮮明な物語となって私の心の中で再構築されていく。

そうだ。

私は、自分の物語を紡ぐことでしか、この『空白』から抜け出すことはできない。

そして、私が紡ぐ物語の力で、いつか、綾音を取り戻せるかもしれない。

そう、私は、そう信じたかった。


私は、ペンを握り直し、新たな物語の始まりを、この世界の空白に刻みつける。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ