水漏れ
ぴちょん
「なんや?」
蝉の声が鳴り響く中庭でどこからか水音が聞こえ、辺りを見渡す。
ぴちょん
一定の間隔で聞こえる水音は校舎から聞こえるようだった。
誰かが蛇口を閉め忘れたか、と音のなる校舎の中へ足を向ける。
夏休みに入り、部活終わりで下校する学生とすれ違いながら水音がしそうな箇所を見て回る。
「せんせーさよーならー.」
「はい、さようなら。暑いから水分補給しながら帰るんやで~」
はーい、せんせーもね~と返事をして、楽しそうに、ここからが本番だと言わんばかりに元気に学生たちは帰っていく。
まだ明るい時間に学校が空となるのが、毎年のことだがなんだか不思議な気持ちになる。
段々と、学生たちの声より蝉の声が多くなり、夏の暑さが増した気がした。
水音を見回るついでに戸締りもついでにしていくかと、一階の職員室へ行くとマスターキーを手に取る。
学生に貸し出す鍵箱を見れば、まだ鍵が帰ってきていない教室がいくつかあるようだ。
「戸締り行ってきまーす」
パラパラと帰ってくる返事を聞きながら、すっかり蝉の声に支配された校舎の階段を上っていく。
途中、まだ帰っていない学生に声を掛けながら、一番上の階から順に鍵が閉まっているか確認していく。
ぴちょん
2階まで戻ってくると、先程と同じ水音が響いていた。
「……誰か居るんか~?」
ぴちょん
人の気配のない校舎に響く水音は何だか雰囲気が出るなと思いながらも
水回りを確認すれども、水漏れはしていなかった。
ぴちょん
蝉が鳴き声が響く校舎ではどっちから音がしているのか判別がむずかしい。
それでも耳を澄まし、水音の方に足を運べば視聴覚教室の中から聞こえているようだった。
扉に手を掛けると鍵がかかっていた。
どうやら水音に気付かずに帰ってしまったのだろう。
扉を開ける為、マスターキーを鍵穴に通そうとしたとき、
かちり
扉が開く音が聞こえた。
マスターキーを持った手で扉に手を掛けると、何の抵抗もなく扉が開いた。
「お~い。誰のいたずらだ~?もう下校時間は過ぎてるで~帰りや~」
分厚いカーテンが閉まっている室内は薄暗く、誰かが隠れていても分かりずらい。
室内に入り電気をつければ明るさに一瞬目がくらむ。
再び目を開けば、一人の男子学生が立っていた。
後ろ姿しか見えないからだろうか、担当していない学生なのだろうか、どこかで会ったことはあるような気がするが名前が思い出せない。
でも、そう確かこんな体形が分からないくらいのダボッとした服装を好む男子学生がいたような気がする。
「こら~。いかんやろ~?はよ帰り~。」
しかし、男子学生はこちらに背を向けたまま動こうとしない。
「どないしたん?なんや帰れんのか?」
ぴちょん
先程より水音が大きく聞こえる。だが、ここからでは水音の発生源は見当たらない。
「そや、なんや水音聞こえるんなんか知っとるか?」
再び声をかけると男子学生はぐらりと、まるで体の力が抜けてしまったかのように机にもたれかかる。
肩で息をしており、体調が悪いのが一目瞭然だった。
ぴちょん
「おいおい、どうした。どこが悪いんや?」
男子学生に駆け寄り、あと一歩で手が届くといういう距離。
ぬるりと足元が滑る。
そのまま近くの机に半身を強く打ち付け、机に乗りかかる。
痺れるような痛みに声にもならない呻きが漏れ、体が机から滑り落ちそうになるのを机を強く掴むことでなんとか耐える。
「痛、った~~~!!なんやこ………あ?」
ぬるりと水っぽい感覚。
先程滑った原因かと足元を見れば、そこには〈穴〉があった。
穴というより〈黒〉なのか。
〈黒〉は近くにあるような遠くにあるような、あるようで何もない、漆
ぴちょん
「なんや?」
蝉の鳴き声に紛れてどこからか水音が聞こえ、中庭から辺りを見渡す。
ぴちょん
一定の間隔で聞こえる水音は校舎から聞こえるようだった。
誰かが蛇口を閉め忘れたか、と音のなる校舎の中へ足を向ける。
夏休みに入り、部活終わりで下校する学生とすれ違いながら水音がしそうな箇所を見て回る。
「せんせーさよーならー.」
「はい、さようなら。暑いから水分補給しながら帰るんやで~」
はーい、せんせーもね~と返事をして、楽しそうに、ここからが本番だと言わんばかりに元気に学生たちは帰っていく。
まだ明るい時間に学校が空となるのが、毎年のことだがなんだか不思議な気持ちになる。
段々と、学生たちの声より蝉の声が多くなり、夏の暑さが増した気がした。
水音を見回るついでに戸締りもついでにしていくかと、一階の職員室へ行くとマスターキーを手に取る。
学生に貸し出す鍵箱を見れば、まだ鍵が帰ってきていない教室がいくつかあるようだ。
「戸締り行ってきまーす」
パラパラと帰ってくる返事を聞きながら、すっかり蝉の声に支配された校舎の階段を上っていく。
途中、まだ帰っていない学生に声を掛けながら、一番上の階から順に鍵が閉まっているか確認していく。
ぴちょん
2階まで戻ってくると、先程と同じ水音が響いていた。
「……誰か居るんか~?」
ぴちょん
人の気配のない校舎に響く水音は何だか雰囲気が出るなと思いながらも
水回りを確認すれども、水漏れはしていなかった。
ぴちょん
蝉が鳴き声が響く校舎ではどっちから音がしているのか判別がむずかしい。
それでも耳を澄まし、水音の方に足を運べば視聴覚教室の中から聞こえているようだった。
扉に手を掛けると鍵がかかっていた。
どうやら水音に気付かずに帰ってしまったのだろう。
扉を開ける為、マスターキーを鍵穴に通そうとしたとき、
かちり
扉が開く音が聞こえた。
マスターキーを持った手で扉に手を掛けると、何の抵抗もなく扉が開いた。
「お~い。誰のいたずらだ~?もう下校時間は過ぎてるで~帰りや~」
分厚いカーテンが閉まっている室内は薄暗く、誰かが隠れていても分かりずらい。
室内に入り電気をつければ明るさに一瞬目がくらむ。
再び目を開けば、一人の男子学生が立っていた。
後ろ姿しか見えないからだろうか、担当していない学生なのだろうか、どこかで会ったことはあるような気がするが名前が思い出せない。
でも、そう確かこんな体形が分からないくらいのダボッとした服装を好む男子学生がいたような気がする。
「こら~。いかんやろ~?はよ帰り~。」
しかし、男子学生はこちらに背を向けたまま動こうとしない。
「どないしたん?なんや帰れんのか?」
ぴちょん
先程より水音が大きく聞こえる。だが、ここからでは水音の発生源は見当たらない。
「そや、なんや水音聞こえるんなんか知っとるか?」
再び声をかけると男子学生はぐらりと、まるで体の力が抜けてしまったかのように机にもたれかかる。
肩で息をしており、体調が悪いのが一目瞭然だった。
ぴちょん
「おいおい、どうした。どこが悪いんや?」
男子学生に駆け寄り、あと一歩で手が届くといういう距離。
ぬるりと足元が滑る。
そのまま近くの机に半身を強く打ち付け、机に乗りかかる。
痺れるような痛みに声にもならない呻きが漏れ、体が机から滑り落ちそうになるのを机を強く掴むことでなんとか耐える。
「痛、った~~~!!なんやこ………あ?」
ぬるりと水っぽい感覚。
先程滑った原因かと足元を見れば、そこには〈穴〉があった。
穴というより〈黒〉。
そこに己の足があるはずなのに、感覚はあるのに、見えなかった。
それはひどく不気味で、到底この世に存在していいものではない、と直感する。
嵌った己の足を引き上げようと動けば動くほど
〈黒〉が跳ね、
飛び散り、
染められ、
脚が見えなくなる。
そうまるでそこに脚がないかのように。
「脚が、ない?」
強制的に、目の前に叩きつけられる事象に思わず呟く。
そんなはずはないのに。
そんなこと起こるはずないのに。
その圧倒的な、暴力的なまでの異常な光景が常識を塗りつぶし、脚の感覚が消えた。
痛みはなく。ただ、無い。
先ほどまで歩いていた自分の脚が、無い。
力を入れることも、動かすこともできない。
もう、無い。
在るのは〈黒〉だけ。
喉が詰まる。
肌がざわめき、寒くもないのにぶるりと悪寒が走り、歯がカチカチと音を立ている。
腹の奥から頭の裏までが押しつぶされるような不安な感と、急き立てるような警鐘が視界を揺らす。
説明されたわけでもなく、なぜ、と言われても分からない。
だが、確信があった。
見ることが致命傷になると。
机を掴む手が汗ばみ、滑りそうになるのを必死に掴み、上に、上に、
ただただ直感に従って〈黒〉から逃げるように全身を使って机に乗り上げようと動くが、体が思うように動かない。
ぴちょん
また。
いや、まだ、あの水音が聞こえる。
滑って机の上に逃げきれないのは、汗のせいなのかそれとも。
嫌な考えが脳裏を離れない。
ぴちょん
逃げなくては。
このまま捕まっては駄目だ。
見てはダメだ。
ぴちょん
――だめ、なのに
ぴちょん
吹き出る汗で張り付く髪の隙間から窺わずにはいられなかった。
今、自身がどうなってしまっているのか、どうしても見て―――――
―――ぴちょん。
「ねぇ知ってる?関西の学校で行方不明者が出たんだって」
「え~!怖~!」
二人の女学生が部活の終わり、人気の少なくなった校舎を歩いている。
――――ぴちょん
蝉鳴く校舎に水音が響き、一人が足を止めた。
「あれ?どこか水漏れしてる音しない?」




