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第八章 知の使徒、桂小五郎

――神の記憶が、剣となる。


この物語は、幕末の江戸を舞台にした歴史×剣戟×神話SFです。

主人公は仇討ちに敗れた浪人。

彼は「カイロス装置」と呼ばれる、異国の“神話の記憶”を宿した禁断の道具と出会います。


土方歳三、坂本龍馬、桂小五郎といった歴史上の人物も登場し、それぞれが異なる“神の記憶”を背負いながら、時代を越えた戦いに身を投じていきます。


ライトノベル風の文体で進めていきますので、お気軽にお楽しみください。

応援・感想などいただけたらとても励みになります!

――その男は、夜でも筆を止めなかった。


京・伏見、ある屋敷の奥座敷。


灯籠の淡い光に照らされながら、桂小五郎は書面に目を通し続けていた。


異国の動き。幕府の腐敗。長州藩内の権力争い。そして、裏で流通する“記憶の兵器”。


すべてを見据えながら、彼は言葉を綴る。


「……この国は、いずれ神話に飲まれる」


ふと呟いたその声は、どこか悲しげだった。



同じ頃、榊烈馬と明神巴は東海道を西へ進んでいた。


幕府からの密命――“桂小五郎との接触”を受けて。


「江戸から京までって……簡単に言うけど、めちゃくちゃ遠いよな」


「それでも、君じゃないと務まらない。桂は“神の記憶を持たぬ者”には会おうとしないから」


「……なんで俺に?」


「それを問うのは、桂に会ってからがいいわ」


巴はそれ以上語らず、馬の手綱を引いた。



伏見の屋敷。


烈馬たちは案内もなく敷地に通され、襖の前で足を止めた。


「どうぞ」


中から、落ち着いた声が響く。


開けると、そこにはひとりの男が胡坐をかいて座っていた。


髷を結わず、羽織もなく、ただ文机と筆。そして静謐。


「君が、榊烈馬か」


「……そうだが、あんたが桂小五郎?」


「ああ」


彼は笑わなかった。ただ、じっと烈馬を見つめる。


「ひとつ問う。神の記憶を得て、何を得た?」


烈馬は答えに詰まった。


アキレウスの力。剣速、直感、戦闘本能――それらは確かに強さだった。


だが、それは“自分の力”ではなかった。


「……まだ、わからない。でも、あれが“全部”じゃないってことだけは、わかってる」


桂の口元が、ほんの僅かに動いた。


「その答えを、君自身が見つけられることを祈る。君の中のアキレウスは、剣で世界を見た。君は、何で世界を見る?」


「……剣じゃない、“意思”だと思ってる」


「なら、見せてもらおう。その意思の強さを」


桂は、懐から銀の装置を取り出した。


模様は、巻物を掲げた神。


「これは、“プロメテウス型”。知識と火をもたらした神の記憶だ」


巴が目を見張った。


「それを……あなたが?」


「記憶を喰うのではなく、記憶と並び立つ。それが、私の選んだ戦い方だ」


烈馬は、桂のまなざしに圧倒されながらも、一歩踏み込んだ。


「俺に、できるだろうか。記憶に呑まれずに、戦うなんて」


「そのために必要なのは、力ではなく――言葉だ」


桂は、机の上の書を烈馬に差し出した。


「まずは、読むことから始めよう。剣士もまた、学ばねばならぬ時代だ」


烈馬は書を受け取り、黙って頁を開いた。


新たな戦いは、もう始まっていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


第8章では、ついに桂小五郎が登場しました。

彼はこれまでの登場人物と異なり、「剣」ではなく「言葉」と「思想」で時代と向き合うキャラクターです。


彼の持つカイロス装置〈プロメテウス型〉も、戦闘力ではなく“知”に特化した記憶。

火を盗んだ神・プロメテウスのように、未来を切り拓くための“知識の火”を象徴しています。


この章を通して、烈馬が“力”や“勝ち負け”だけではない価値観に触れていく様子を描きました。

今後、彼が剣士として、ひとりの人間として、どのように“記憶”と“意志”を使い分けていくのかが見どころになっていきます。


次章では、桂の導きのもと、烈馬が「神核炉(オルゴン炉)」と呼ばれる施設の存在を知り、物語はよりSF色を強めながら核心へと迫っていきます。


ご感想・レビュー・お気に入り登録、いつも本当にありがとうございます!

ぜひ、あなたの応援の“記憶”も、物語の力に変えさせてください。

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