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第三章 誠の刃、動く

――神の記憶が、剣となる。


この物語は、幕末の江戸を舞台にした歴史×剣戟×神話SFです。

主人公は仇討ちに敗れた浪人。

彼は「カイロス装置」と呼ばれる、異国の“神話の記憶”を宿した禁断の道具と出会います。


土方歳三、坂本龍馬、桂小五郎といった歴史上の人物も登場し、それぞれが異なる“神の記憶”を背負いながら、時代を越えた戦いに身を投じていきます。


ライトノベル風の文体で進めていきますので、お気軽にお楽しみください。

応援・感想などいただけたらとても励みになります!

新選組――その名は、江戸の裏社会でも恐れられていた。


浪士や攘夷派の志士たちがひそかに集うこの町で、幕府の“表の警察”では手が届かぬ者たちを、容赦なく討つ。


そしてその中でも最も剣を恐れられた男が、いま、刀の手入れをしていた。


土方歳三。

新選組副長。

“鬼の副長”の異名を持ち、その冷酷さと実行力で隊士たちを統率している。


「――江戸に、“転写者”が現れたらしいな」


薄暗い屋敷の一室。

歳三は、火鉢のそばで膝を崩し、研ぎ澄まされた日本刀の刃を眺めていた。


「例の異国の装置……カイロスとやらか。まさか、本当に動いたか」


彼の隣には、目立たぬ服を着た男がひとり。

隊士ではなく、幕府の密偵「桜影」に属する者だった。


「はい。深川で一人、浪人が転写に成功したようです」


「名は?」


「榊烈馬。仇討ちに失敗した元旗本の息子。おそらく偶然の発動です」


土方はわずかに目を細めた。


「偶然であの力を手にしたというなら、なお始末が悪い。……その“記憶”は?」


「アキレウスと名乗っていたそうです。異国の戦士で、死を恐れず戦う剣の化身とのこと」


土方は無言で立ち上がった。


「面白い。ならば、試してやろう。誠の剣に、神の記憶が通用するかどうか」


そして、静かに鞘を腰に収める。


「俺の“アレス”も、久しぶりに唸りたがってる」


カイロス装置――

土方もまた、その一つを持っていた。


戦神アレス。

怒りと冷静を兼ね備えた戦場の支配者。


彼は自らの信条を曲げることなく、その力を「剣の本懐」のみに使っていた。

いわば、記憶の支配者ではなく、“記憶を従えた剣士”である。


「深川か。……斬るなら一撃で終わらせる。誠の名にかけてな」


そして、静かにその場を後にした。


***


その頃、榊烈馬は廃寺の一室で刀を握っていた。


目を閉じて、何度も何度も振る。

先ほど使った一太刀を思い出し、自分のものにしようとしていた。


巴は、その様子を廊下の柱にもたれながら見ている。


「不思議なものだな。初めての技に、恐れも迷いもない」


「……恐いよ。でも、もう手放せない気がするんだ。これは……俺の剣じゃない。けど、俺の中にある」


「それが、“転写”というものさ。記憶の重みは、技だけじゃない」


巴はそう言って、懐からもう一つの懐中時計を取り出した。


彼女のものは、女神の像が刻まれている。

アテナ――戦と知恵の女神。


「私も、最初は混乱した。でも、この記憶は……力じゃない。意思なんだと思ってる」


烈馬は刀を納め、振り返った。


「意思……か」


「だから君も、自分の剣を探しな。アキレウスの記憶に頼るだけじゃない、君自身の戦い方を」


その瞬間、ふたりの耳に鋭い風切り音が届いた。


「っ!」


巴が素早く懐から小銃を抜き、廊下の柱の影に滑り込む。


烈馬も刀を握ったまま、目を細めた。


暗がりの中、堂内に一歩、足音が響く。


「……はじめまして。新選組副長、土方歳三だ」


灯籠の光に浮かび上がったのは、誠の羽織を翻す男の姿だった。


冷え切った空気の中で、その男の瞳だけが鋭く熱を宿していた。


「君の剣を、見せてもらおう。神の記憶に、誠の刃が勝るかどうかを――」

お読みいただきありがとうございます!


第三章では、いよいよ新選組副長・土方歳三が登場しました。

彼もまた“転写者”であり、「アレスの記憶」を従えた剣豪として、烈馬たちの前に現れます。


この物語では、「神の力を得た人間」ではなく、「神の記憶を背負ってなお、人としてどう生きるか」をテーマにしています。

土方のように“記憶に支配されず、自分の意思で剣を振るう者”は、烈馬にとってのひとつの“理想”となる存在かもしれません。


次回はいよいよ、烈馬と土方の初対峙。

“アキレウスの誇り”と“誠の剣”がぶつかる戦闘シーンを描いていきます。


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