夜香
蘭は夜香家迄来た。どうやって侵入しようかと考えていると、黒猫が現れ、こちらへ来いと呼んでいるようだ。
蘭は付いていき、使用人が出入りする勝手口のそばの荷物搬入口から黒猫に続いて侵入した。
「黒猫さん、どうもありがとう」
「にゃ!」
金色の瞳が、頑張れよと言っているようだった。
10年以上も前の記憶を頼りに、庭側から自分の部屋だった場所へ行くと、そこにいた。夜香 凛だ。だがしかし、凛は、誰かと話しているようだった。蘭はとっさに身を隠した。
「勝手なことすんじゃないよ、この阿婆擦れが!」
「だってお母様、お姉ちゃんが逃げ出したから、私がこんな目に遭っているって」
「そうだよ、あのクソガキが逃げ出したから、お前が代わりをしなきゃいけないんだよ!」
バシン!
「きゃ」
叩く音が聞こえ、凛はおとなしくなった。
「お前は、あたしの言うことだけを聞いてれば良いんだ!」
「はい。お母様」
意識が、部屋に向いていた。そのため、近づく人物に気がつかなかったのだ。
「戻ってきちゃったのかい?」
蘭が振り向くと、男が立っていた。そうだこの男、蘭を貧民街に連れていった男だ! 蘭はとっさに身構えるも、相手はなにもしてこなかった。
「ここにいたら、あれに見つかるよ」
確かにあの女に見つかった方が大事になりそうなので、男の指示に従うことにした。
離れまで歩き、中に通された。ここは幼い頃に、入ってはいけない部屋と教えられた場所だ。
「ここへ来たことはあるかい?」
「ないわ」
「そうだろうね。義姉さんは子供に引き継がせるつもりがなさそうだったからね」
「なんのこと?」
「本当になにも知らないんだね」
「何か知っているなら」
「聞かせてやるよ。義姉さんの最後」
両親の仕組まれた暗殺を語られた。
先程、凛と一緒にいた女は、蘭と凛の母、朝子の双子の妹の夜子で、朝子夫妻を殺した首謀者であること。この家には、とある力があるが、女児にしか正しく継げないこと。夜子は不本意な婚姻を結ばされ、不満であったこと。自分は、その夜子の夫であること。
事故を企てられ、朝子夫妻は瀕死になり、朝子は夫を生かそうと全ての力を使い果たしたが、夜子が、救助が来る前に、朝子の夫に止めを刺したこと。
夜子がこの家を乗っとり、ろくに勉強もせずに蘭に儀式を施そうとしたので、夜子から隠すために、家から蘭を放逐したこと。
その後、古い書物などで儀式を理解し、凛に儀式を施したが、あとから他にも制限があることを知り、蘭でなければ正しく継げないことが判明したこと。
「成り行きは分かったわ。その力はなんなの?」
「他人の生命力を奪い、他人に生命力を与える力」
「凛の状態は?」
「奪えるが、与えることはコントロールがうまくできないと言った感じだ」
「そもそも、与えられたい人はいるでしょうけど、奪われたい人はいないでしょ? どこから奪うの?」
「子供を助けたい親とか、恋人を助けたいとか、自身を犠牲にして生命力を移してほしいと言う願いはある」
「犯罪行為以外の使い方はあるのね」
「その辺りの倫理観がないから、夜子は、この家から出されたらしいよ」
「あなたは、誰の味方なの?」
「私は、夜子を止めてほしい。これでも夫なんだ」
「凛に味方はいないのね。まあ良いわ。止めるにはどうすれば良いの?」
「君が正当な後継者になれば、凛から力は失くなる」
「儀式と言うのは、何をするの?」
「それは、こちらで手配する」




