崩壊
ある日、水神の本当主の儀式の相談をしたあと、夢見の巫女から注意を受けた。
「なぜか見通せぬが、何やら世界に暗雲が立ち込めておる。充分用心してたもれ」
「夢見の巫女さん、ありがとう存じます」
お互いに、己の事は見ることが出来ないので、蘭はありがたく受け取っていた。
それからしばらくたった暖かい晴れた日、それは起こった。
「大変だ! 外で、鳳さんが襲われた!」
店の外を掃き掃除していた鳳 仙花が、何者かに襲われたと、助手が慌てて駆け込んできた。
「容態は? 大丈夫ですの!?」
「救急車は呼びましたが、犯人は取り逃がしました。出血が凄いです」
鋭い刃物で切りつけられたらしい。蘭は慌てて外に行き、傷口を押さえている助手に場所を変わって貰い、仙花の傷口からエナジードレインをし、その傷口から命を戻した。命の容積的に、回復に使った分が消費されているようで、エナジードレインをした分より戻る量がかなり多い。蘭は、己に貯めてある分を使い小さな光の玉を作って飲ませ、仙花を確実に助けた。
「休息は必要ですけど、もう大丈夫ですわ」
助手に仙花を運んで貰い、安全な場所に身柄を移した。仙花は、後ろから切りつけられていた。意識がないため、蘭は犯人を聞けなかった。
外にいる客を店内に避難させていると、また悲鳴が聞こえた。
「キャー!」
もう1人、女性の助手が襲われた。蘭は、仙花と同じ対処をし、己の中の余剰分が無くなってしまった。やはり後ろから襲われていて、意識はあるが犯人を見ていない。蘭は、患者の搬送を確認した後、急いで店に戻ろうとしたそのとき、後ろから鎌で襲われた。長い髪が一緒に切れて、バッサリ落ちた。背後を守るため、壁に寄りかかるように倒れ混む。
「あはは! 死神の癖に、鎌で襲われてやんの!」
狂ったようにそう叫んだのは、隣の店の挨拶に来たあの男だった。倒産した逆恨みだろうか。嘘を言って品物を悪質に売り込んでいたため、女子高生たちからネットワークに晒され、人が来なくなったのだ。自業自得と言える。
蘭を襲って気が済んだのか、鎌を手放したところで男性の助手たちに取り押さえられた。
皆、蘭は大丈夫だと思っていた。力が残っていないなどと、誰も思い付かなかった。瀕死であることに気がつかなかった。
「先生、大丈夫ですか?」
犯人を取り押さえた助手たちが、蘭のもとに駆けつけた時、蘭は、地面に座り込んだ体制のまま、出血多量で既に意識がなかった。
「先生?」
「先生!?」
「先生!!!」
助手たちが呼び掛ける。
「え、とーしゅ? 何があったの? 何でとーしゅが怪我してるの!?」
辺りに血の匂いが充満している。
「隣の店の逆恨みで他2人切りつけられて、」
「なんでとーしゅ、なんで力残してないの!?」
出掛けていたノアールが戻ってきて、蘭の様子を見て驚愕していた。
「僕の命を使って良いから、ブルゥ(蘭)、戻ってきてー!」
ノアールが叫ぶと、辺りが暗くなった。空が真っ暗で、物凄く冷たい風が吹いている。
「愛し子よ。我の元に」
空から聞こえてきた声が、瀕死の蘭を連れ去った。




