隣店
インテリア雑貨と聞いていたが、確かにインテリア雑貨がメインではあるが、明らかに蘭の店 [ヒヤシンス] を意識した、占いに関する小道具がたくさん置いてある。
「先生、良いんですか?」
助手たちが、開店の偵察に行ってきたらしく、不満を漏らしていた。
「別に構わないですわ。瞳が青い黒猫グッズを置くようなら、対抗いたしますわ。本物の猫が」
「え? まあ、確かに、先生は、タロットも水晶玉も使いませんものね」
「有名観光地の無許可のお土産物屋みたいですねぇ」
「観光地のおみやげ物屋さんって、無許可な物もあるんですの?」
「たまに争っている場合がありますからね」
「そうなのですね。ですが、貴族の既得権益では、相手は太刀打ちできないと思いますので、心配ございませんわ」
瞳が青い黒猫に関しては、夜香家が、全面的に権利を持っているのだ。個人的なファングッズのようなものにまでは指摘しないが、商用利用は差し止める。
少しすると、客から質問されるようになった。
「あの、お隣で売っている占いに関する物は、こちらのお墨付きとは、本当ですか?」
「いえ、全く無関係でございます」
「やっぱり。何か変だなって思って買わなかったんですが、そのまま買っちゃってる若い子がいました」
未成年者立ち入り禁止の弊害なのか、本物を知らず、騙されるらしい。
「ご報告ありがとう存じます。よろしければ、ケーキセットをお召し上がりくださいね」
蘭は、ケーキセット無料券を差し出した。
「うわ!ありがとうございます!」
客は上機嫌で部屋を出ていった。
「先生、やっぱり邪悪な目的があったみたいですね」
記録係の助手が、客が出ていったのを確認してから話していた。
「ふふふ、邪悪って。まあ、確かに騙されている若者が気の毒ですわね」
「なにか対策しますか?」
「お店の外に、タロットも水晶玉も使わない占い師とでも書いておいたらよろしいですわ」
「成る程!」
「あと、喫茶に関しては、一時的に年齢制限を変更いたしましょう。ただし、団体は要予約ですわ」
「何歳からにしますか? 何人から団体の扱いですか?」
「テーブル的に、4人までですわね。5人から団体の扱いにいたしましょう。年齢は、アルバイトが出来る年からですわね」
「すると、16歳からですかね。占いグッズを買うような年齢ですね」
まともな占いグッズは高額なものが多いので、アルバイトでもしなければ買えない場合の方が多いだろうと思われる。
変更を貼り出してすぐ、高校生から団体の席予約が入った。女生徒ばかり8人の予約で、彼女らは、占いサークルのメンバーらしい。
「いらっしゃいませ」
「あ、あなたは、夜香 蘭様! 私、大ファンです!」
配膳する助手と一緒に個室に顔を出すと、立ち上がって歓迎された。蘭の顔をきちんと把握しているようだ。
「ありがとう存じます」
「あの、料金がかかるならお支払いたしますので、質問に答えていただけませんか?」
「質問によりますが、とりあえずどうぞ」
「はい。ありがとうございます。お隣のお店は、何か関係があるのでしょうか?」
「全く関係はございません。開店の挨拶には見えましたが、何を販売しているかさえ、私は存じ上げませんわ」
「やっぱりそうだったのですね! どうもありがとうございます。SNSで拡散しておきます!」
蘭に質問している以外のメンバーが、スマートフォンを取り出し、何かを書込みし始めた。
「では、夜香先生が、実際に占いにお使いになる道具類はなんですか?」
「私は、相手の目を見るか、手を触りますわ。道具を使いませんの」
「ありがとうございます! 聞いて知ってはいたのですが、ご本人からのお言葉を頂き、はっきりしました!」
「もうよろしくて?」
「はい!ありがとうございました。あと3年たったら、占っていただきに参りますので、その時はよろしくお願いします!」
「お待ちしております」
蘭は笑顔で退室した。扉を閉めた部屋からは、凄い美人だったー!と話し声が聞こえた。
「なんや、楽しいことになっておるの」
「いらっしゃいませ」
夢見の巫女が、蘭の見たことの無い若い男性を連れ、来店していた。
「これは、妾の見張り件助手じゃ」
「みっこさん、それは酷いですよ。忠実なしもべですよ」
「戯れ言は良い、そなたの番号を申せ」
「はいはい」
夢見の巫女の助手の男性は、店の受付に、電話番号を伝えに行った。
「碧眼の黒猫殿、そちらへ顔を出しても良いか?」
女子高生が占領する個室を指差していた。
「少し確認して参りますわ」
普通なら断るのが妥当であるが、会の名前が占いサークルだったので、蘭よりも夢見の巫女の方が、彼女たちの行動に近いかもしれない。
コンコンコン。
蘭はノックをして入室し、戸を一度閉めた。
「少しよろしいかしら?」
「はい!」
「夢見の巫女様がご来店されていて、」
「えー!」
「凄い!」
「それで、こちらに顔を出して良いかと、」
「是非お願いします!」
「はい!大歓迎です!」
「では、お連れいたしますね。助手の方が、男性でしたけど、どうされますか?」
「まずはお断りください。夢見の巫女様に伺ってから、お呼びするか決めたいです」
「承知いたしました。少しお待ちくださいね」
夢見の巫女に声をかけると、助手を放置したまま部屋へ入っていった。
「妾が、夢見の巫女じゃ」
「若ーい!」
「可愛いー!」
戸を閉める瞬間に、女子高生たちの歓声が聞こえた。
「あ、みっこさん……」
置いていかれた助手が、仕方なく喫茶の方で座り、コーヒーを頼んでいた。
「碧眼の黒猫様、みっこさんに、迷惑かけられていませんか?」
「みっこさんとは、夢見の巫女さんの事ですわよね?」
「あ、道子さんだから、みっこさんなんです。でもその名前は、眠る前に登録し直した名で、もとは『みち』だったみたいです。当時最先端の『子』が付く名前に変えたそうです。あ、僕は、碧眼の黒猫様に貴族会の主催を頼んだ、夢野 守の曾孫の、夢野 敬護です」
前仮当主の曾孫らしい。
「あら、ご曾祖父様は、お元気ですの?」
「はい。おおじいちゃんは、役目から解放されて、表情が柔らかくなりました。僕は、就活に失敗したら、みっこさんに拾われました。厚待遇で雇ってくれて、感謝しています」
「先程の質問ですけど、困る事はないですわ。色々教えてくださって心強く思っておりますわ」
「そうでしたか。それなら良かったです。水神様には、いつもご迷惑をお掛けしているみたいで、お会いできたら、謝ろうと思っています」
水神は、今は準備で忙しいと思われる。そういえば確かに夢見の巫女は、水神を連れ回していた気がする。池の猫を助けたときも、夢見の巫女に会ったら、水神を呼び出し助けて貰ったと、ノアールが言っていた。
少しして、夢見の巫女が部屋から出てきた。
「ありがとうございましたー!」
女子高生の声が聞こえる。
「碧眼の黒猫殿、隣はそのうち潰れる。安心召されよ」
「あら、そうなんですの?」
「あこぎな商売は、多方面から目をつけられるのじゃ」
夢見の巫女は、情報料としてケーキセットを請求し、蘭がチケットを差し出すと、ニコニコとして受け取り、そのまま使っていた。
そしてお隣さんは、1か月後には閉店していた。女子高生のSNS拡散が効いたらしい。




